ブラン家お茶会(お片付け)

 思っていた感じではありませんでしたが、お茶会作戦は成功したと言えるのでしょうか?


 「サーラ、君の作ったお菓子はとても美味しいよ。特にダリオルが一番だね。」

 「バッカ!僕の妹はまだ8歳だからね!サーラ、コレに近づいちゃダメだから。」


 「ヴィクトーはマティアスにえらく嫌われたものだけど、まあ、日頃のあいつを見ていたら仕方がないな。」

 「サミュエル様でもそう思われますか?まぁ…でも結構お似合いかもしれません。あの軽いところは治していただかないといけませんが…。」


 わたくしとアヤカもヴィクトー様を精霊王のイケニエにしようと致しましたもの。ちょっと申し訳ない気持ちもあるのです。


 「…少し時間を貰えないか?」

 「あ………はい…。」


 断罪は免れたと思いますが、サミュエル様を騙していたのに変わりがありません。婚約破棄を目指してかれこれ9年。心の準備はいつでもできておりますわ!


 「あ、アンナ、ちょっとサミュエル様とお話があるの。お部屋を用意して貰えないかしら?」

 「はい。エトワール様。」


 ん?いつもよりなんだか高い声と満面の笑みで私に返事をしたアンナは、一転、と〜っっても怖い目でサミュエル様をめ付けます。常日頃婚約者に婚約者らしい事をしないと、サミュエル様を良く思っていないのです。

 それは私も同じなのだと何度も言っているのに、いくらお優しいサミュエル様でも不敬罪で切られてもおかしくないのですから!


 「先ほどの談話室の方にご用意しました。サミュエル様、わたくし如きにこの様な事を言われるのはご不快でしょうが!婚約者様とは言え当家の大事な大事なお嬢様、なにかあったら…許しませんよ…」


 あぅっ…こわっ…アンナは普段から私にも辛口なのですが、その実私に甘々なのです…


 「アンナ、それは…」

 「エトワール嬢、構わないよ。アンナ、肝に銘じる。」


 サミュエル様が誓うかのように胸に手を当てて見せたので、さすがのアンナもちょっと頬を赤らめています。私、胸がチクンと痛んで…どうしたのかしら?


 「入り口のドアは少し開けさせていただきます。ご容赦下さい。」

 「いや、こちらこそ、ありがとう。」


 ぺこりと頭を下げてアンナが少しドアに隙間を開けて出て行きます。

 サミュエル様はしばらく、煩悶する様に顔を歪めて黙っていましたが、意を決した様に口を開きました。


 「エトワール嬢は…私との婚約は最初から破棄になるものだと思っていたのか?」


 ああ、とうとう来ましたわ。私も気持ちを落ち着けるように、数回大きく深呼吸をしてから答えます。


 「…はい…」


 サミュエル様は顔を伏せてしばらく動きません。私はサミュエル様が口を開くのを待って黙っていました。

 長い長い沈黙の後、ため息を吐く様に、力のない小さな声でサミュエル様が言いました。


 「君は、私との未来を考えてた訳では無かったのか…」

 「…」

 「あんなに王太子妃教育にも力を入れて、礼儀作法も、ダンスも、文句の付け所がないと言われて、それでも私と共に生きるとは考えていなかったのか?俺と同じで王族には個人の意思は要らないからと…」

 「いいえ。私は物語の通り、いつかサミュエル様に婚約破棄を言い渡される役だからと常に思っていました。」


 そう。私は断罪された未来しか無いと思っていた。だって、精霊王の記憶を取り戻したサミュエル様との将来つづきなんて考えられない。ただ生きて、少しでも早く牢から出られたら、誰も知らない町に行く…そんな未来しか考えてはいなかった。


 「じゃあ、何故!あれだけ熱心に学んでいたんだ⁉︎いずれ捨てる国…俺なのに!」

 「…就職の為に学んでいました‼︎」


 将来お后様になるなんて高等教育は誰でもできる訳じゃありません。例え外国でも、仕事を探す時に大きな力になるでしょうと…

 ごめんなさい、サミュエル様!私、私は!

 ………?


 俯いたサミュエル様。両肩が少しずつ揺れて、泣いて…笑ってる?


 「ブッ…クク…ハハハ!」


 サミュエル様がおかしくなってしまった⁉︎

 呆然とサミュエル様を見ていたら、サミュエル様は涙を拭いて…勿論悲しみの涙ではありません。笑い過ぎのやつです…口元に笑いを残したまま私に、


 「じゃあ、君は后妃になる未来は考えていなかったんだね?まあ、まだ君に私よりも好きになる男がいないのなら、今後はちゃんとそれも考えて。」

 「は、え?」


 私は涙を残したまま、呆然として馬鹿みたいな返答しか出来ません。


 「君の事だからまだ好きな男なんて居ないよね?じゃ、私の婚約者でいいね?だから『オレリアン国の王太子妃教育を修了しました』なんて経歴で就職先を探さなくていいからって言ってるの。」


 そう言うとサミュエル様は私の頬にチーク・キスでないキスをチュッと音をたてて落としました!


 「な、な、な、な…」

 「私も反省してるんだ。自分がどう思ってようと相手の事も考えもせず、君が何を考えているのかを全く知ろうともせず、ただ、何事も無いからそれで良いなんて。」


 あ、あ、あ…


 「友達に取られると思ったら急に慌て出して」


 サミュエル様は私の髪を手に取りご自分の口元に!まるで髪にキスをするかの様に………

 長くありませんか⁉︎


 「あの特徴のある髪型も私と距離を置くためのものかい?」

 「?あれは悪役令嬢のコスチュームみたいなものなんです。」

 「ブハハハハ‼︎」


 もはや隠そうともしていません。初めて見るやんちゃなイタズラっ子みたいなサミュエル様に、私は真っ赤になって戸惑う事しか出来ませんでした。

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