わたくしの王子様とヒロインになったわたくし
楽しげに笑っていたサミュエル様は真剣な顔をして、
ーコンコンー
「お茶を入れ替えに…⁉︎」
凄い勢いでサミュエル様と私の間に割り入るアンナ。その身のこなし、まるで忍者のようです!
じゃなくて、涙目で真っ赤になって、いつのまにか壁際に逃げ場なく迫られている私を見たからに違いありません。
「…約束が違います…」
「違うんです!あの、謝罪をして…サミュエル様にも謝られて、あれ?」
あたふたと答える私を見てしばらく黙って何か悟った様にニッコリ笑ったアンナ。そう、私の侍女は落ち着いていれば優秀なの…で?
「大変失礼致しました。わたくし、お呼びいただくまで席をはずしておりますので、どうぞごゆっくり…」
すぅ……っとドアから消えるアンナ。ご丁寧に少し開けていた隙間ももう無いのです!
「誤解です!アンナ!誤解なんで…」
「誤解なの?そんなに私が嫌いなの?」
「あぅ、い、いえ、そんなコトなくて、ううぅ…」
再びジリジリ迫られています!あぁ、もう逃げ場がない…
「大丈夫。まだ追い詰めたりしないから。少しずつ…ね?」
はうぅ…優しく、じわじわと追い詰められて行く予感しかしません…
「皆の元に戻ろうか!」
「は、はいぃっ‼︎」
よ、良かった!たしゅかった!
思考まで噛み噛みで逃げる様にドアまで行くと、いつの間にか私より早くドアに付いていたサミュエル様がニッコリ笑ってドアを開けてくれようとしていました。私も釣られてニッコリ笑うと………
‼︎⁉︎
「ああ、ごめん。我慢できなかった。まあ、婚約者だし、これくらい許されるよね?エトワール?」
と言ってもう一度サミュエル様の唇が私の唇に……
あぁ…もう限界…
「あ…」
◆◆◆
私の腕にくったりと倒れ込むエトワール。その方が無防備だって分かってる?
まぁ、もうこれ以上は何もしないよ。だって怖がられては元も子もないからね。
全く、オレリアン国の王太子妃教育を引っ提げて一体どこに就職するつもりなんだか。隣国の王妃になんて収まられたら溜まったもんじゃない!子猫みたいな私の婚約者様は自分の価値を知らなすぎる。
…まぁ、凝り固まっていた私もそうなのだけど…
真面目な彼女が気付かないうちに、私以外の男はいらない様にしてあげるから…ね?
◆◆◆
お茶会に戻るとエリオット様とアヤカが、
「私の姫!どうか結婚を前提に婚約を!」
「結婚一択じゃないの!年下は嫌なのよ!」
…精霊王と泉の乙女はどうなるのでしょうか?なんとなくエリオット様に押し切られる未来しか見えない様な…
「私と結婚したら泉の乙女と姉妹になるかも知れないね?」
そう耳元で囁かれて、私思わずマティアスの後ろに隠れます!
「うわっ!ちょ?姉上何してんの⁉︎」
「良いんです。ちょっとくっつかせて下さい…」
「わ、何?その余裕ない態度。サミュエル、弟くらい許してあげたら?」
「ヴィクトー兄さま?どうしてめかくしするの?」
「おま、ヴィクトー!僕の妹に触るな!ってか、なんでお前が兄さまなんだ⁉︎」
「マ、マティアス!いくらなんでもヴィクトー様に失礼でしょ⁉︎」
「ヴィクトー、そういえば私のエトワールに気安くしていたな…」
「僕とサーラが結婚したらマティアスは僕のお兄様ですからね。サミュエルもね!」
「こんな弟嫌だー‼︎」
「やめろ。」
「ヴィクトー兄さま、今度はどうしてお耳をふさぐの?何も聞こえないんだけど…」
賑やかなままにお茶会は終了しました。
来た時と同じようにアヤカを送ろうとしたヴィクトー様をエリオット様が止めます。
「私の番に触るな、この色魔男!さぁ、私の乙女、私がお送りしましょう。」
「ずええぇぇええったい嫌‼︎」
「…エリオットは私の事を忘れてるな…」
そうですわ!エリオット様はサミュエル様と一緒の馬車で来られたのですから。
「私がアヤカをお送りしますから…」
ーチュッ…ー
「それはそれで妬けるな…アヤカ嬢とは近すぎるから」
「ハイハイ、仲良しですよー。」
これ幸いとエリオット様から逃げてきたアヤカが、横から私に抱きついて来ます。私も思わずアヤカに抱きつきます。
…だ、だって、サミュエル様、急に甘々なんですもの…
「「クウゥ…」」
「お前たち、よく似てるよ…」
と、サミュエル様とエリオット様を見てヴィクトー様が苦笑いしています。
「サミュエル様…サミュエル兄様、またのお越しをお待ちしています。姉上を宜しくお願いします。」
マティアスがぺこりと頭を下げて言った。なんて良い子なの⁉︎
「ヴィクトーは来なくて良いです。僕の妹はまだ小さいので。」
「マティアスには僕の妹を紹介しよう。君のお姉様には遠く及ばないが、頭のいい子だよ。そして綺麗な金髪だ。」
「なっ…そんな身内でコッテコテに固まりたくない……で、何歳なの?」
「2歳。」
「ぜってー紹介する気ねーだろ⁉︎」
新たな弟の姿を見た日でした。
◆◆◆
「エトワール、良かった…って言ってもいいのよね?」
アヤカを寮に送る馬車の中で、アヤカが突然言いました。チラチラ私を見ていたのでずっと言いたかったのだと思います。
「…まだフワフワしていて良く分かりませんの…私、断罪されて国外追放になる未来しか考えて来なかったですから…」
「…あなたも被害者よね…変な記憶を持ったままで生まれて来たから…」
アヤカが苦い顔をしていますが、私はそんな彼女に笑いかけます。
「でも、この記憶がなければアヤカに出会って、こんなに仲良くなる事は出来なかったと思います!それに、王太子妃教育も、そんなに一生懸命出来なかったかも…」
「就職の為に王太子妃教育を完璧にするってどうなのよ!」
アヤカにも笑われます。もう!どうしてかしら?
「その口をとんがらかした可愛らしい顔も、王子に見せてやんな?大事にして貰うんだよ?」
「…はい。」
私は俯いて返事をします。まだ、本当に王太子妃になっていいのかと、不安はあるのですが…
「アヤカは、エリオット様の事、嫌い?」
「き、嫌いとか好きとか…まぁ会ったばっかりだし、なんて言うか、年下すぎるし…(なんか、無自覚な上目遣い半端無いな…サミュエル王子め…)」
頬を染めてしどろもどろするアヤカ。なんか、すごく可愛いですわ!
「私、アヤカが姉妹になってくれるのなら凄く頑張れる気がします。私がアヤカのお姉様になってしまいますが…」
「ま、まぁ…ゆっくり考えてミマス…」
「ふふふ、私、前世でもアヤカとお友達だったのかもしれませんね。だって今すごく幸せです!」
赤くなって窓の外を見るアヤカを見て、私は近い未来、四人で王宮でお茶を飲む未来もあるのかも知れないと思うのでした。
断罪を待っているのですが、ヒロインが(私の)婚約者を相手にしてくれないので物語が始まりません あひる隊長 @ahizou
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