わたくしとヒロインと婚約者
「ちょっと待ってね。サンドイッチでも頼んでくるから」
ヴィクトー様がにっこりそうおっしゃった辺りで私わたくしはハッと意識を取り戻しました。いつもはお互いに知らん顔をしているのに、何故今日はあのように…な、馴れ馴れしい…
!そういえばアヤカ様と砕けてお話しされていたようですから、私、牽制されたのかもしれませんわ!
何分ヴィクトー様はライトノベルに殆ど記載が無かったので情報が少ない方なのです。思いもしないほどライトな方でしたのね!今後は油断しません。
そう誓ってハッとアヤカ様を見ると、何故だかアヤカ様はニコニコしてらっしゃいます。『花愛』の年齢設定より少々上になってなっているから余裕を持って対処できるのかもしれませんが…
「アヤカ様、油断なさらないで下さいね。」
サミュエル様にアヤカ様を無事にお渡しする前に出てきた新たな伏兵に私は身を引き締めるのです。
◆◆◆
「こちらです」
食堂でバスケットに軽食を詰めてもらったものを手にして戻って来られたヴィクトー様ですが、戻って来られてからは私の警戒をよそにごく普通に対応して下さいました。
学校と言っても高学年はお行儀見習いの授業が主となっていますので、お昼休みの時間など結構長めに時間が取ってあります。なので、お願いすればこの様に食堂外で食べる事も出来るのです。
高位の貴族にとっては今しかできない楽しみですので学校内だけの自由な時間を楽しむ方も少なくはありません。
まぁ、学園内でサミュエル様の様な使い方をされる方はいらっしゃらないと思いますが。
「サミュエル様、お待たせしました」
「ああ。」
中からの短い返事を待ってヴィクトー様が扉を開けると、思ったよりも狭いお部屋にサミュエル様が座って書類仕事をされているのが見えました。
「麗しの婚約者様がいらっしゃってますよ」
「……珍しいね。そんな所に立ってないで、中に入ったら?二人とも。」
サミュエル様に招かれたものの、私、アヤカ様とサミュエル様を引き合わせるだけのつもりでしたの!
今更ながらにノープランな事に気付いたのですがどうすれば…アワアワ。
そこで初めて私、アヤカ様と手を繋いだままだった事に気付きました!は…恥ずかしい…
「どうしたの?私に何か用事があったんじゃ無いのかい?」
「ア、アヤカ様がサミュエル様をお探しでしたので…」
口の中でモゴモゴ言ってしまいました。こ、これでは悪女じゃなくてただの親切な同級生ですわ(涙)
「アヤカ嬢久しぶりだね。それで何の用かな?」
「そ、それじゃあアヤカ様、ごめん遊ばせww」
私は前世と今世の自分史上一番のダッシュを更新してその場を立ち去るのでした。
それにしても、サミュエル様はアヤカ様と面識がありましたのね?それはこの世界に呼ばれた時なのでしょうか?それなのに、サミュエル様はご興味がある様な様子にも見えなかったような…
私がアヤカ様を虐める所を見せつけないとサミュエル様の記憶は戻らないのでしょうか………?
そんな事を考えていたら息を切らせたアヤカ様が私の腕を掴んで、
「なんで丸投げにして置いていくのよ‼︎」
と怒られました(ぴえん)
◆◆◆
「だから好みじゃ無いって言ったじゃない」
私達は中庭に来ていました。学園の中庭には立木で周りから見えづらくしたスペースがいくらか作られていまて、不埒な行いができない様に多少の目隠し程度ですが、お友達とお話しするには程よい広さの空間です。
「アヤカ様はサミュエル様と面識があったのですね」
「ここに来たときね。豪華な部屋に連れて行かれたら王様と王子さま、それからルフェーブル様?」
ルフェーブル様とは現在アヤカ様の後見人をしている宰相様のお名前です。
「…そのとき、サミュエル様はアヤカ様に何かおっしゃっていませんでしたか?」
確か小説では目を奪われて…
「特に無いわよ。王様に学園に行かせるから学園内の事はそれとなく頼んだぞ、みたいな事言われてたくらい?」
そんな記述もあったような。
「!いいお年ですので婚約者のいる私が直接関わるのはとか言ってたわ!無表情で、淡々と‼︎」
あ…だから怒ってらっしゃったのね…私の知っているノベルとは年単位での時差があるのでそれによるバグの様なものが出来てしまったのかもしれません。
そのバグの所為でお互いの…若しくはどちらかの想いが通じない事態になったら…出会っても気付かない精霊王はやがて狂って……
そう気がつくと背中にゾクゾクするものが走るのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます