王子とわたくしとヒロインと手下
一コンコンー
「ん?出てくるわ。」
「あぁ。」
「あぁ。エトワール、それからアヤカ」
「こんにちは、ヴィクトー様。今お邪魔しても大丈夫だったでしょうか?」
「やあ、エトワール嬢嬢。アヤカ嬢。また珍しいね。今日はどうしたんだい?狭いがこちらに…」
「いえ、これをお渡しするだけですので…」
私が顔だけ上げて挨拶するが、エトワール嬢はあっさりそう言った。
遠慮したようでも無く、恥ずかしがっている様子でも無く。
と、折りたたんだ小さな紙をヴィクトーに手渡す。机から立ち上がって受け取りに行こうとした私は宙ぶらりんになった形で少々気まずい…。
「…見て構わないかい?」
「あ!一枚はヴィクトー様宛のものですわ!」
ヴィクトーが持っているもの全てを私に渡そうとしたのを見て、慌てて言うエトワール。
それにヴィクトーが、
「ぼ、僕にも?」
と、ちょっと慌てたような声を出す。
………。
「用事はそれだけですの。では、お返事楽しみにお待ちしています。」
綺麗な笑みを浮かべて完璧なカーツィをしてエトワールは立ち去る。その後ろにいたアヤカ嬢もエトワール嬢を守るの騎士の様にその後あとに付いて行く。
「何だろうね?」
ヴィクトーはドアを閉めて、改めて受け取った小さな紙を私に差し出した。
私は受け取った紙をなんとなく弄ぶ。紙を開く気がないのがわかったのか、ヴィクトーがそれを開いて言った。
「ブラン家でお茶会をするんだって。友人を招いて気軽なものって書いてる。エトワールがこんな事するなんて珍しいなぁ。アヤカの入れ知恵かな?」
珍しいどころか初めてだ。母親のお茶会はよく手伝っているようだが。
…それより、いつからヴィクトーは私の婚約者を呼び捨てにするほど仲良く話をする様になったんだ?確か、前にエトワール嬢がここに来た時にはしていなかったが…
「ちょっと!なんか怖い顔で睨むなよ!」
む、顔に出ていたか。
別に臣下だろうと
しかし、私はエトワール嬢を敬称無しで呼んだ事はない。
何故だ。
ビクッとヴィクトーが肩を震わす。
「怖い声だすなよ。親しい友達をお茶会の程で家に呼ぶだけじゃないか。婚約者でも王子様を理由なく家に呼べないからじゃないの?」
声に出ていたか。
ブツブツ文句を畳み掛けるヴィクトー。
私の『何故』はそれだけでは無いんだが。
「…行くのか?」
「行かないの?」
行けなくは無い日だ。よくもまぁ、日程が詰まった中、ピンポイントでこの日を選んだもんだ。コイツが情報を横流ししたんじゃないのか?
「……行くのか?」
「行くよ?」
…行くのか…
「行かないの?」
「………行く。」
「面倒くさい奴。」
◆◆◆
「いっっってしまったわ…」
まだドキドキしています。私わたくし、サミュエル様をあんなに蔑ろにしたの、初めてですわ。
「サミュエル様、お怒りじゃないかしら?」
「怒らせる為にしてるんでしょ?」
「そうでした」
とにかく、少しずつ気分を害するようにします。そうしてストレスを蓄積させていくのです。
「私、今一番悪役令嬢みたいですわ」
アヤカにクスクスと笑って見せます。
「ずいぶんかわいい悪役令嬢ですこと」
と、アヤカに返されます。
「あら、まだ足りなかったかしら?」
「ぜんっぜん。」
「あらあら。私の新しい先生はずいぶんきびしいですこと。」
「友達よ。歳の離れた」
「…お姉さまみたいな?」
「しょうがないわね。要領の悪い妹なんだから。」
◆◆◆
「いっっってしまった…」
まだドキドキしている。僕、サミュエルをあんなに蔑ろに扱ったの初めてだよ。
「サミュエル、怒ってたよな。」
負のオーラを出していた。魔王のアレに近いヤツだ。
とにかく、これ見よがしに仲の良さをアピールしていく…との
あれ?魔王と悪魔、どっちの方が逆らっちゃいけ無いんだ?
「僕、今一番家に引き篭もりたい…」
はぁ…と大きなため息を吐く。さあ、何事も無かったように執務室に戻るか…
僕はティーセットを抱えなおしサミュエルの待つ部屋へと向かうのだった。
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