それぞれの人は上手くいかないことがあります。忘れがちですが必ずあります。取り返す努力も上手くいかなくて、無力さにほぞを噛みます。
人がそれを忘れる理由の一つは、他人に見せないからです。黙って胸の奥にしまいます。他人は気づきません。
もし他人の苦しむ姿を見たら。他人は無力さと同時に、応えられない自分の無力さを知ります。
でも、人は何もしていないのではありません。懸命なんです。足掻くんです。たとえ無力でも、不器用でも。
読むと多くの人が知らない事実が語られ圧倒されます。しかし本作の見所は、珍しい事件ではなく、普通の人が苦しむときの深さを描いたことです。それがありふれたものであっても。
主題が人の無力さですから、作中人物に達成感はありません。
しかし。作中人物が不全だとしても、私達の現実世界に本作が完成した形で残りました。それは一つの達成で、評者は不謹慎ながら嬉しく思うのです。
読みました。
中編の単発作品としての完成度の高さに驚かされました。
ストーリーについては他の方もレビューで書いており、僕が感想を書くのはもはや野暮なので書きません。
なので文章についてのみ言及させていただきます。
この作品登場人物の何気ない所作がかなり緻密に文章で表現されています。
こう言った描写は読者の目が滑ったり、読み飛ばされたりすることが多い部分ですが、この作品はそこに目を惹くような魅力がありました。そしてそれは登場人物の心情表現と移り変わり、登場人物の人間性に奥行きを持たせるのに何役も買っていました。
本当はもっと読んだ感想を感情的に伝えたかったのですが一周回って淡々としてしまいましたので最後に感情的に言わせていただきます。
とにかく良い作品ですので読むのがおすすめです。