海のシンバル

作者 久々原仁介

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★★★ Excellent!!!

この作品を読む中で自分の心に何が起こったのか、それを説明するのは難しいです。
はじめは、磯辺の語りを読みながらマリーさん曰く「こんな仕事」に集まる人たちの話なのだろうかと感じておりました。そういう場所の雰囲気は、聞いたことがありましたのでそれなりの興味を持ちましたが、Rの登場から気分がすっかり変わってしまいました。一気に引き込まれたのです。
その後の展開で、いったいこの作品はどこに向かうのだろうかと興味が高まっていき、地名が出てきた瞬間にいろいろなものが頭の中で結びつき、物語が見えた気分になりました。実際、それほど外れておりませんでした。しかし、それ故に思うことが一気に膨らみました。
読了後のこの気分を表現する言葉を持ちませんが、少なくとも静かに(そして少し重く)こころに響く作品でした。

★★★ Excellent!!!

最初は、穏やかな波にふわふわと乗っているような心地でした。ですが、Rの抱えていた思いが明らかになっていくうちに、だんだんと波が大きくなっていき、どんどん引き込まれていきました。読了後も余韻に浸っています。
読んでいて、情景が目の前に浮かんできました。
最後まで読んで、また題名を見返すと、キュッと心が切なくなります。
とても素敵で、繊細な作品にお会いすることができました。ありがとうございました。

★★★ Excellent!!!

 最初に読んだときは、カードをめくるように、少しづつ紹介されていく磯辺の性格、謎の女子高生Rの存在、エアシューターという意外な小道具を使った磯辺とRとのやりとりなど、名画座で1970~80年代のヨーロッパ映画を見ているみたいでした。

 話の流れを理解してから時間をおいて、二度読みしましたが、日常と非日常、そして突然の非日常に飲まれて、生き延びた人物は、どう折り合いをつけて、日常の中で生きていくのか?人の死は、その周りの人々に、どれほど大きな悲しみと喪失感を残すのか、様々なテーマを我々に提示する作品です。まるで自室の床が砂になって、徐々に飲み込まれていくような、なんともいえない読後感でした。

 カクヨムでは掲載されてない四話で答えが示されるのか、救いはあるのか、そのままなのか、書籍版を入手して確認したいと思います。

★★★ Excellent!!!

僕は震災のときの保育園生だったので記憶はほとんどありませんが、あの日、津波に命も、心も、思い出も、すべてを流されてしまったRのような人はたくさんいたと思います。このようなことは震災のことを知らない人間こそが知らなければいけないことだと思います。また、気送管でしか話すことができないRと主人公。だけど気送管で送られてくる手紙の一つ一つが主人公を変え、私達読者の心にも何かぐっと来るようなものでした。終盤はとても感動して涙が出てきました。これからの益々のご活躍をお祈り申し上げます。本当にありがとうございました。

★★★ Excellent!!!

転生もせずチートもざまぁも能力バトルもなく、悪い敵を倒してめでたしめでたしでもない。ジャンルとしては文芸でしょうか、フィクションとはいえ我々の生きる現実世界の日本を舞台に、繊細で美しい文章で紡がれる、静かな二人の交流のお話です。ファッションホテルを舞台にしていることもあり、大人向けの表現もそれなりにあります。

我々の記憶にも、程度の差はあれどおそらくは大きく刻まれているであろうある出来事を背景に、リアリティをもって描かれる独特の世界観に引き込まれて一気に読んでしまいました。


正直難しい題材・テーマではあると思いますが、それに正面から向き合って書き上げられたのだなと感じました。こう言っては身も蓋もないかもしれませんが、Web小説でアクセスを稼げるタイプの、バズる話とはかなり毛色が違います。それでも書ききったその覚悟に、伝えたかったであろう想いに、とても心を打たれました。

理不尽と隣合わせのこの世界で、それでもなんとか平和な生活を送れている自分にできることはなんなのか。そんなことを考えさせられます。

完結作でそこまで長すぎず、割とすぐに読めるかと思います。よくあるWeb小説とは少し違った雰囲気の作品が読みたい方はぜひ。

とても良いものを読ませていただきました、書き手としての自分にも、まだまだ頑張れることはあると、背筋が伸びる気分になりました。ありがとうございました。

★★★ Excellent!!!

顔を見せるわけでもなく、声を交わすわけでもなく、ただ気送管で言葉を送り合うRと受付さん。
そんな特異な関係の上で、Rの計り知れない苦しみと興味を注がれていく受付さんが一体どんな気持ちで受付の椅子に座っていたのか。
そのひとつひとつが美しく書かれていて、
読みごたえのある、美しいくて苦しい純文学でした。

★★★ Excellent!!!

彼女ほどの凄惨な過去があるわけではないけれど、自傷行為として男性と関係を持っていた私はRのほうに感情移入してしまいました。
それを否定せず、ただ聞いてくれる。なんとも言えない距離感が心をふわふわさせてくれます。
過去のシーンには胸が痛くなり、涙が止まりませんでした。

少しの匙加減で下品にもなり不謹慎にもなる繊細で難しいテーマを敢えて扱い、見事に書き上げた作者さんには脱帽です。 
素晴らしい作品、ありがとうございました。

★★★ Excellent!!!

言葉では言い表せないほど、胸を打たれました。

青年磯辺とRの心の機微が、ふとした仕草や何気ない描写から伝わってきて、どうしようもなく心が震えます。

テーマは決して易しいものではないですが、あの日を知っている方にも知らない方にも、ぜひ読んでいただきたいです。

シュルシュル〜
(↑ 何だこれ、と気になった方もぜひ!)

★★★ Excellent!!!

ファッションホテル『ピシナム』。それが、主人公の職場だった。
今では閉店し、見る影もない。
しかしある日、主人公を取材したいという女性が現れた。

彼女との会話をきっかけに、彼の心はあの頃へと戻っていく。

『R』と勝手に呼んでいた、名も知らない少女との声を使わない交流の日々に。

何処か寂しげな一人ぼっちの少女と、ホテルの受付である主人公。
二人を繋ぐものは、客とホテルマンという間柄だけ。

描かれるのは、自分に自信が無く浮遊する青年と、心をある場所に残してきた少女の交流。その切なさに、胸が締め付けられる思いです。

本当に理解することは不可能で、それでも知りもしないではいられない。
『海のシンバル』。そのタイトルの理由がわかる時、あなたは何を思うのでしょうか。

★★★ Excellent!!!

ご縁があり、この物語に出会いました。読み終えましたので、レビューさせていただきます。

本作は海沿いの街にひっそりと佇んでいたファッションホテル『ピシナム』で働いていた青年が、かつて働いていた時に出会った少女との出来事を思い返すところから始まります。その後に繰り広げられるのは、顔も合わせないままに行われる手紙のやり取り。二人はその中で、恐る恐る互いへと踏み込んでいきます。

青年の彼に内包された苦悩や不器用さ。少女の秘密と、ある出来事によってその内側に宿ってしまった、強烈な孤独。それらが圧倒的な表現力によって書き表されており、気がつくと読み終えておりました。没頭してしまったこの感じは、まるで海に引き摺り込まれてしまったかのような気分です。
ラストの展開は怒涛ながらも、「何か」があったという余韻に浸れるような。もちろん言葉にすることもできるのでしょうが、それは是非、読んでみて、そして感じていただきたいものです。

他の皆さまも是非読んでみてください。

★★★ Excellent!!!

第一話の饒舌な、現実味のない、ふわふわした美しい文章に引き込まれて読み始めました。
ストーリーには触れません。でもこれは大なり小なり、誰もが抱きしめている物語なのかなと思いました。
第一話と最終話の主人公の描写の対比がみごとで、技巧深い作品でした。

★★★ Excellent!!!

本当に素晴らしい作品だと思います。
「これが、小説か。」は感嘆の意味で付けさせていただきました。
舞台がラブホテルというセンシティブな場所なのにもかかわらず、繊細な文章力で、非常に透明感のある世界観を醸し出しています。
そして、深い。非常に奥深いです。
登場人物のキャラクターがしっかりと定着していて
特に主人公とヒロインの掛け合いが、意味深すぎる。
思わず鳥肌が立ちました。
これからも読ませていただきます。宜しくお願いします。