人は無力で懸命で

それぞれの人は上手くいかないことがあります。忘れがちですが必ずあります。取り返す努力も上手くいかなくて、無力さにほぞを噛みます。

人がそれを忘れる理由の一つは、他人に見せないからです。黙って胸の奥にしまいます。他人は気づきません。

もし他人の苦しむ姿を見たら。他人は無力さと同時に、応えられない自分の無力さを知ります。

でも、人は何もしていないのではありません。懸命なんです。足掻くんです。たとえ無力でも、不器用でも。

読むと多くの人が知らない事実が語られ圧倒されます。しかし本作の見所は、珍しい事件ではなく、普通の人が苦しむときの深さを描いたことです。それがありふれたものであっても。

主題が人の無力さですから、作中人物に達成感はありません。

しかし。作中人物が不全だとしても、私達の現実世界に本作が完成した形で残りました。それは一つの達成で、評者は不謹慎ながら嬉しく思うのです。

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