病床に臥せる主人公の元に一人の行商人が訪ねてきます。
行商人の名は「しきみ」。
勝手に家に上がり込むと、「薬を売りに来た」と言い出し、天秤棒の両端に下げた行李から人魚の片腕を取り出します。
その腕を置くと、彼はさっさとその場を立ち去ろうとするのですが、最後に奇妙な忠告をするのです。
その肉を食ったなら、金輪際海には近づくな、と。
余命が残り少ないことを知っている主人公は、その人魚の腕を食べてしまいます。
翌日には病状が回復し、仕事にも就き、やがて結婚もするのですが――。
淡々とした語り口と静かに進む物語が、じわじわと恐怖の中に読者を引き込んでいきます。
ぜひ、ご一読を。
人魚の肉を喰らうと不老不死になる。
古来から言われておりますが、人としての生き様を捨てても主人公は人魚を喰い長らえますが、人魚を譲った旅の薬売りとの忠告を守れず……。
人魚も、恐ろしいが私はこの薬を提供した行商人が恐ろしい。
正体不明でいかにも怪しいのに巧みに懐に入り込み決して押し付けるわけではなく「お試しくださいな」と囁くように誘導する。
気まぐれに人間を試し観察する神か、弄ぶ妖か……
不気味なのに多分夜道で
「もしもし、そうですよ貴方にお声がけしました」
と言われたらうっかり足を止めてしまうような魅力がまた、恐ろし。
ぜひ、御一読いただきたい。
そして、私と同じく「彼?」の魅力に取り込まれましょう?ね?ね?
病床に耽っていた男が主人公にございます。
おそらく助かる見込みもなく、ろくに動けもせず、死を待つばかりの状態だったのでしょう。
そこに現れるは、謎の行商人。
彼が置いて行ったのは「人魚の肉」なる、人間の腐った腕ににたそれにございました。
「海にだけは入らぬよう」と警告を添えて。
断りはしましたが行商人はそれを置いていき、去っていきます。
サテ、いくら動けなくても腹は減る。そこで男は、この腕を食うと……
たちまちのうちに病はさり、動けるようになりました。その代わり……
死なぬ、年も取らぬ……いわゆる不老不死の体を手に入れて……。
最後は、笑うせえるすまんのような「ああ、やっぱり」なオチが控えております。
ご一読を。
以前、この作者先生のホラー小説『蔵の中』を読んで大衝撃を受けた人間の一人です。
既に、「カクヨム」でも、文字付レビューは300編を軽く超えた私です。
かっての「小説家になろう」でも、文字付レビューは300編を超えていました。
計、600編以上の、レビュー専の、この私なのです。
で、フト、ホラー物を書きたいと思い、アイデアが全く浮かばないので、かって衝撃受けた、この作者先生の作品を読みに、来ましたが、やはりもの凄い筆力ですね。
一気に、ホラーを書く気力が萎えた程です。
やはり、この私には、「変態エロ小説」が、似合いですよね。トホホ……。
「カクヨム」でも数少ない「天才」作家さんなの一人です。
この研ぎ澄まされた文体と、絶妙の恐怖感を、是非、味わって下さい。
ともかく、この、起承転結のうまさと言い、もはや文句なく、プロですよ。
人魚の肉を食べると不老不死を得るという伝説は広く知られています。類似作品が多い題材を如何に「調理」するか。
冒頭の語りは醜悪そのもの。見せつけているのですから、まさしく、露悪。読者に禍々しさが突きつけられます。これは変だ。そう思わない人は居ないでしょう。
しかし途中から禍々しさが消えます。まるで枯れた境地に至ります。そこから先は、本レビューでは語りません。
暗と明の強烈なコントラスト。暗闇の中では周囲が克明に見え、日向では全てが朧気に見えるという逆理。その中で浮かび上がる、執念という情の暗翳。
短い作品ですが深く沈みましょう。そのときの息は? 貴方は人間? それとも人魚?
雰囲気抜群。そして思わぬ形で壮大に展開していく物語に惚れ惚れとさせられました。
主人公は病に伏せる一人の男。その男のもとに行商人が現れる。
半ば腐ったような腕を示し、それが人魚の肉なのだと語る。それを食べれば死なない体になれるが、「人魚は執念深い」ために海には近づいてはいけなくなると告げてくる。
酔狂だと思って人魚の肉を口にする男。そして伝承は本当だとわかり、彼は決して死ぬことも老いることもない体に。
それから先の、悠久とも言える彼の物語が、ひたすら強く心に響いてきました。不老不死であるために帰属する社会を持てない苦悩。長い年月を生きることでめまぐるしく変わりゆく社会。
そんな数百年にも及ぶ物語を一挙に味わうことが出来、胸がいっぱいになりました。
この苦悩と孤独の果てに彼がどのような結末を迎えるのか、是非とも本編を紐解いてみてください。
不治の病に伏せる男の許に、
得体の知れない行商人が訪う。市女笠に
虫の垂れ衣。濃緑色に白い小花を散らした
道中合羽。それが天秤棒を担いでいる。
両の行李からは厭な臭いが漂う。
中身は 人魚の肉 だという。
不治の病も立ち所に治し、古来よりその
肉を食せば不老不死の身となる。
行李の中身は、腐った人の腕。
これが人魚か定かではなく、又、今まさに
この目の前にある異形の男が何者なのか。
警戒もするが。
空腹には耐えかねず、いつの間にかその
腐った腕を貪り喰らう。
異形の行商人から、お題の代わりにと
伝えられた事が、ふと頭を擡げる。
この肉を食べたなら決して海には
近づいてはならない、と。
人魚は執念深いものですからねえ。
恐ろしさと、何故か相反する美しさ。
そして甘美な悍ましさに昏々する。
作者の怪異譚の一画を成す、この物語は
因果応報。されど、怪異の顕現は決して
何ら 理由 などなく。
心底ゾッとする甘美な怪異譚である。