彼女はAI
Ryu
第1話 きっと彼女は
人は誰しも、得意不得意というものがある。
運動は得意だが、勉強はできない。その逆もまた有り得る。神様というのはバランス調整の技能も神がかっているらしい。天は二物を与えずとはよく言ったものだ。
俺、
そう、授業中に教師にバレず魔法陣を上手く描けることぐらいだ。自分で言ってて悲しくなってきた。
話を戻そう。天は二物を与えない。もし二物を与えられているとすれば、それは神の理から外れた、人間以外の何かだろう。
「……できました、先生」
「おぉ……正解だ。すごいぞ
「ありがとうございます。昨日たまたま予習してたところですから」
パチパチパチ、と生徒から拍手が上がる。拍手を貰っている生徒は
「すごいよね……柚月さん、全国模試1位っていう噂だよ」
「まじ? スッゲェな……。しかも、この間の体力測定もかなり上位の方って聞いたぞ」
「凄すぎ……苦手なものとかあるのかな」
生徒たちからヒソヒソと声が上がる。その声を気にもせず、柚月は教壇から降りて自分の席へと戻る。
俺の席は窓際の最後尾。そして、柚月はその右隣である。
「……」
俺は柚月の様子をじっくりと見る。背中まで届きそうなサラサラとした髪。長いまつ毛に整った顔立ち。まるで作り物のようだ。歩き方に不自然はない。それどころか歩いている姿から気品さすら感じてしまう。
「……どうかしたのですか?」
「へぁ!? べ、別に何も!?」
「……? そうですか」
しまった。凝視していることがバレてしまっていたらしい。おかげで情けない声を出してしまったではないか。
柚月愛。奴は全てが完璧。そう、完璧すぎるのだ。普通なら何か苦手なものがあったり、コンプレックスを持っていたりするだろう。そういった類のものを微塵も感じさせない。
その時、柏木に電流が走る。
これは閃きか、それとも天啓か。頭に思い浮かんだある一つの仮説。この仮説が正しければ……いや、正しいに決まっている。
(柚月愛……。お前は、人間じゃないのか……!?)
彼女は実は人間ではない、それが俺の出した仮説だった。
さて……この仮説をどうしたものか。俺は昼食の菓子パンを食べながら考える。
「おーい、蓮。そっちの菓子パンとホウレン草のおひたし交換しようぜ」
「アホか。等価交換という言葉を辞書で調べろ」
「んだよー。好きだろホウレン草」
このアホみたいなレートで食料を交換しようとしてきたのは
「おいお前らぁ! 今セイちゃんのライブ配信中だぞ! 静かにしろぉ!」
目の前に座っている男がスマホから顔をあげて怒鳴る。そのせいで教室が一瞬静かになってしまった。
「あー。セイちゃんね。俺はレイちゃん?の方が好きなんだよなぁ。セイちゃんより良くね?」
「は? エアプか? どっちも推すに決まってるだろうが」
この見るからにカタギじゃない図体と顔つきの男は
「おー、今日のセイちゃんえっちな衣装着てんなぁ」
「ばっ……! おめっ……! お、推しのことそういう目で見てんじゃねぇよ……」
「あー、お前ぜってぇやらしい目で見てただろ〜?」
「ちっ……! ちげぇって……!」
呑気なものである。教室内には人外がいるのかもしれないというのに。
「なぁ、レンも思うだろ? えちちな衣装だよな?」
「お、おい! レンレンは違うよな? センシティブには気を遣うよな?」
くそっ……。我関せずの態度を取っていたというのに火の粉が降りかかってきた。
「興味ない」
「ほれ見たことか! レンレンは性欲に振り回されるような軟弱者じゃないんだよ」
「ふっ、よせやい。それとレンレンはやめよう」
「でも、ほら、この衣装胸元ガバガバだぞ」
「え、まじ? うぉ……確かにこれは……」
「レンレン……? 嘘だよな……?」
すまないオジキ。俺も男子高校生なんだ。
「ほらな〜。さっきも柚月さんガン見してたしな」
「ぶっ……!? げほっ、げほっ……!」
急に柚月の名前を言われてびっくりしてしまった。おかげでむせてしまった。
「べっ、別に見てないんだが」
「嘘つけい。柚月本人にも感づかれてただろ」
「ぐっ……」
反論できないのが悔しい。
「なんだ? 柚月に惚れたのか?」
「違うわい。そんな薄っぺらい理由じゃなくてだな……」
「じゃあなんだよ」
どうする。コイツらに相談してもいいが、まだ仮説の段階だ。仮説を話したところで妄想と言われ蔑まれるだけだろう。
「おい、柚月のどこが気に入ったんだよ? 足か? 胸か?」
「げ、下品なやつ……」
オジキはさっと顔を背けた。その図体でウブなのはどうかと思うが……。
このままでは妙な誤解を生みそうだ。仕方ない、話してみるか。
「実はな……柚月のことなんだが……」
「私がどうかしましたか?」
「ひょおっ!?」
背後を見ると柚月がこちらを見て立っていた。無表情で、何を考えているのか全く読めない。
「い、いやぁ!? 何も!?」
「……? そうですか」
それだけ言って柚月は席に戻って行った。
あ、危ない……! もう少しで口走るところだった……!
「いやぁ、危なかったな」
「お前……気づいてたなら言ってくれよ」
「いやぁすまんすまん。というかいつの間にか立ってたもんだから、気づかなかった」
あっくんめ……。コイツのせいで危うく俺が恥をかくところだったではないか。もう手遅れかもしれないけれども。
「で、結局なんなんだよ」
「だから、俺が言いたかったのは……」
ここで、再び電流が走る。
先ほど俺に話しかけてきたのは偶然通りかかったからか? いや、偶然にしては出来すぎている。
ま、まさか……俺が柚月の事を話そうとしたからか……!?
だとするならば、容易に周りに話すことはできない……!
「……何でもないから、ホントに」
「ちぇ〜、なんだよ〜」
アホのあっくんをそっちのけで一人思考を巡らす。
人間でないとすれば、彼女の正体は一体なんだ。見た目は完璧に普通の人間だ。ただ、とてつもなく顔が良い。それに欠点すらない。そんな存在は……。
ふと、あっくんが読んでいた雑誌が目に入る。今流行りのグッズが特集されており、その中で一つの単語が目に入った。
AI……はっ!
「そ、そうか!」
「ど、どうした?」
「い、いや、何でもないぞ、うん」
「そ、そうか。バカになるのも大概にしたほうがいいぞ?」
あっくんに言われるとは非常に屈辱的だが、そんなことは些細なことだ。
AI、つまり自立人型ロボットと言われれば全てに説明がつく。勉強や運動はできて当たり前。先ほどの行動も俺の行動パターンを予想しての防衛行動なのかもしれない。
俺はとんでもない事実に気づいてしまったのかもしれない。しかし、証拠がまだ足りていない。まだ妄想の域を出ないでいる。
であるならば、証拠をかき集めればいいだけのことだ……!
「ふふふ……やるぞ、俺はやるぞ……!」
「なぁ、レンレンどうしちまったんだ?」
「こいつアホだからなぁ。どうせヤバいことでも考えてるんだぜきっと」
友人2人に冷ややかな視線を向けられながらも、俺の仮説を実証する決意をした瞬間だった。
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