第11話 一緒にいるAI = インプット

「はぁ……なんであんなこと言っちゃったんだ……」


 学校へ行く足取りが重い。理由はもちろん、昨日柚月に対して言ったことだ。


(あれじゃあお前を監視してるって堂々と言ったようなもんだよなぁ)


 これからより一層警戒されるかもしれない。ということは、以前より柚月がAIだという証拠を掴みにくくなるということだ。


 そんな悩みを抱えつつも、教室に着いた。自分の席に座ろうとした時、いつもと違うことに気がついた。


「おはようございます」

「お、おはよう。今日は早いんだな」


 それは先に柚月が投稿していたことだった。いつもであれば俺の方が先に来て、柚月の方が後に来るのだが、今日は逆だった。


「なるほど、柏木さんはホームルームの20分前に登校しているのですね」


 そう言うと柚月は何やら手帳らしきものにメモを取っていた。


「ゆ、柚月さ〜ん。何をしてらっしゃるんですかねぇ?」

「昨日言った通りです。私はあなたの事が知りたい。ですから、こうして柏木さんの行動を見ていけば何か分かるかと思いまして」


 こ、コイツ……! 俺を観察してやがる……!


 しかし、強くは言えない。


 なぜなら俺も、似たようなことをしているからである。


「俺なんか見てたって特に変わったことしてないだろ」

「いえ。早速疑問点があります。柏木さんの性格から推測するに、ホームルームの20分前に来るのは意外でした。何か理由でもあるのでしょうか」


 ぐ……鋭い。確かに、俺は不本意ながら20分前登校という真面目ぶりを見せているが、それには理由があった。


「……若菜が朝起きるの早いんだよ。それと同時に俺も起こされるから、仕方なく起きてるだけだ」

「なるほど」

「それもメモするのか……」


 何やら面倒くさいことになってきたような、と思ったが瞬時に考えを切り替える。


(ふっ、いいだろう。そっちがその気ならこっちだって遠慮なく観察させてもらおうじゃないか)


「その気持ち悪いにやけ顔も何か理由があるのですか?」

「気持ち悪い言うな」



 しかし、柚月は行動を見るとは言っていたが、特にいつもと変わりあるようには見えなかった。授業中も視線を感じることはない。人間観察まで完璧なのかもしれない。


 対して俺はというと、チラッと柚月の方を見ると──。


「……?」


 サッと顔を元の位置に戻す。まただ。また目があってしまった。ほぼ毎回と言っていいほど俺が柚月の方を見てると柚月も俺の方を見ている。こちらの行動が全て把握されているかのようだ。


(くそう……掌で踊らされてる気分だ……)


 結局その日はいつもより観察ができなかった。

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