第2話 証明開始
さて、どうしたものか。俺の仮説が正しければこれは大発見どころの騒ぎではない。何せ普通の高校、普通のクラスにAIが紛れているとなれば、テレビはその報道一色となるに違いない。
しかし、ここで大きな問題点がある。どうやって仮説を真実へと昇華させるか、だ。
もし実は違いました、なんてなってみろ。教室は俺への罵倒一色となるに違いない。それは死ねる。
現在全ての授業が終わり、皆帰宅したり部活に励むために教室から出て行っている。ここに至るまでに柚月のことを横目で観察していたのだが、一向にボロを出さなかった。
数学の授業では急に当てられても平然とした態度で問題に答え、正解を勝ち取った。美術の授業では先生から絶賛されるような絵を描き、体育の授業では脅威の身体能力を見せた。
まぁ当然と言えば当然か。あちらは完璧な存在。それでこそ証明のしがいがあるというもの。
「おい、蓮。俺らも帰ろうぜ」
「ん、あぁ……」
仕方ない。今日はここまでとしようとした時だった。
「おーい、柚月。まだいるか?」
「はい、います」
担任が教室へと入ってきた。
「資料を運ぶのを手伝って欲しくてな。えーと、1人じゃあれだから……お、そうだ柏木。お前も手伝ってくれ」
「えー、俺ですか?」
「隣なんだから妥当だろう」
理不尽だな、と思ったが、瞬時にこれはチャンスだと思い直す。柚月が何かボロを出す瞬間を掴めるかも……!
「いやー、しょうがないですね。なんてったって隣ですから、仕方なく、やらしていただきましょう」
「お、おう……じゃあ頼んだぞ」
「では、宜しくお願いします」
「お、おう」
俺は柚月と資料を受け取り、資料室へと向かうのだった。
「……重いなぁ」
「そうですね」
「……学級委員長って大変だな。こんな雑用まで任されるなんて」
「そうでもないですよ」
……気まずぅい! 会話が全く続く気がしない。こちらから何回か話題をふっかけてみるものの、会話の幅が広がるわけでもなく即終了。少し泣きそうになってきた。
しかし、特に会話もなく資料室へとたどり着いた。
「これでよし、と」
「はい。ありがとうございます」
「いいって」
「あの」
「ん?」
何も進展がなかった……。と落ち込んでいるところに、柚月から声がかけられる。初めてのアクションだ。
「今日、私を凝視していたみたいですが……何か私に言いたいことでもありましたか?」
な、なにぃぃぃぃぃぃぃ!?
バレてただと……!? 細心の注意を払って観察していたはずなのに……!?
まさか……視線探知機能でも搭載しているとでもいうのか!? これがAIの力か!?
「あの」
「い、いや!? べっ、別に見てなかったけど!?」
「いえ、あそこまで大胆に見られると、流石に理由が気になります」
そこまでガッツリ見ていたのか……。仮説を実証したいがあまり少し周りが見えていなかったのかもしれない。
「……私に何か、不手際でもありましたか?」
「……?」
不手際? 不手際などあろうはずがない。寧ろその逆だと言うのに、目の前AIは何か悪いところでもあったかという。実におかしな話だ。
そこで俺は何だかムッとしてしまった。まるで自分が煽られたような気分になった。ここまで完璧にこなしておいて不手際があったか、だとぉ? こちとら日々不手際だらけなんじゃ。
そんなことを考え出したらもう止まらない。気づけば口に出していた。
「……不手際なんか、ない。寧ろ、全てが完璧だった」
「え……?」
「見た目、学力、運動神経、ビジュアル、体力、ルックス、タフネス、仕草、その全てにおいて完璧だったんだよ……!」
「……意味が幾つか被っていますが」
「あ……? ええい! とにかく!」
ビシィ! と柚月に指差す。これは宣戦布告のようなものだ。
「俺は絶対、お前を……!」
そこまで言ってようやく自分の愚かさに気づく。熱くなりすぎてしまった。このままでは本人に対して『お前、AIなんだろ?』と言ってしまいかねない。
「私、を……?」
「お……」
「お?」
「覚えてろよぉぉぉぉぉぉぉ!」
俺は資料室を飛び出し、駆け出した。
危なかった危なかった危なかった! あの場で口を滑らしていればどちらにしても俺の未来は無かっただろう。
パターン①柚月が本当にAIだった場合
「お前、AIなんだろ?」
「ふ……バレてしまいましたか。秘密を知ったからには、生かしておく理由はありませんね」
「ぐあぁぁぁぁ!」
パターン②柚月がAIじゃ無かった場合
「お前、AIなんだろ?」
「……そんな風に思われていたんですね、ぐすん」
「ぐあぁぁぁぁ!」
ダメだ! どちらも死に直結するぅ!
あの場で逃げたのは正解! 正解なんだぁぁぁぁ!
数秒後、廊下を走るんじゃないと先生に怒られたのはまた別の話である。
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