第4話 授業中のAI = 体育

「じゃ、今日の体育はバスケットボールだ」


 体育館に体育教師の声が響き渡る。


「じゃ、まずはチーム分けを──っ!?」


 その時、体育館の扉が蹴破られた。外から覆面をした男たちがゾロゾロと入り込んできた。ゴツい銃を抱えて持っており、それを見た生徒たちから悲鳴が上がる。


「オラァ! 静かにしろお前らぁ!」


 野蛮そうな男が頭上向けて威嚇射撃を行う。


「だ、誰だお前たちは!?」

「言うことを聞け、ガキを一箇所に集めろ」

「け、警察にすぐに連絡を……!」


 バァン! と銃声が鳴り響く。先生の足元が抉れていた。


「死にたいのか? さっさとしろ」

「う……」


 先生は言うことに従うしかなかった。生徒たちは一箇所に集められ、周りをテロリスト達が囲い、逃げられなくなってしまった。


 生徒たちはブルブルと震えている。両手を組んで、神様に祈り出すヤツまで出てきた。


 そんな中、俺は冷静にこの場の状況を把握している。いずれこうなることは予測できた。


「おい蓮……これってよ」

「あぁ……多分、”ヤツら”だろうな」

「ちっ……レンレン、俺がやっちまおうか?」

「待てオジキ。お前の力はここで使うには派手すぎる。みんなが巻き添えになっちまう」


 3人はテロリストに聞こえないよう、俺とあっくんとオジキ、3人で会話をする。この状況を打破できるのは、俺たちだけだろう。


「なら、俺がやるしかないよな」

「おいおい蓮……まさかあの力を……!? あれはお前に扱えるような力じゃない……!」

「そうだレンレン! お前がやるくらいなら、みんなを犠牲にしてでも……!」


 俺は首を横に振った。


「これは、俺の仕事だ」

「蓮……!」

「レンレン……うぅ!」


「おい! うるせぇぞそこのガキ! 立てオラ!」


 マズイ。警戒されてしまった。テロリストに言われた通り、立ち上がる。

 もう俺が、やるしかないんだ。


「騒ぐなっつったよなぁ!? テメェから殺してやろうかあぁ!?」


「待ちなさい」


 1人、立ち上がる人物がいた。その透き通る声、聞き間違える訳が無い。柚月愛だ。


「あぁ……? 何だ嬢ちゃん」

「その方に手出しをすることは許容できません」

「はっ……! 何言ってやが──」


 その瞬間、柚月が人差し指を相手に向けた。そして、抵抗する間もなく相手は崩れ去った。


「な、なんだこの女!?」

「構うな! その女は打て!」


 テロリストたちが一斉に銃を構え、柚月に向けて乱射しようとするが、それを許す俺ではなかった。


「させるかっ!」

「ぐわぁ!?」


 手を振り払い、テロリストたちの持っていた銃を弾き飛ばした。


「な、なんなんだテメェ……!」

「ふっ、正義の味方、とだけ言っておこう」

「舐めやがって……!」


 ぞろぞろとテロリストどもが群がってくる。完全に囲まれてしまった。テロリストたちと距離をとっていると、自然と柚月と背中合わせになった。


「柏木さん、後ろは任せてください」

「……あぁ、今だけは手を貸してやるぜ!」


 俺と柚月愛による無双劇が、今始まる──!


 ……はい、妄想終了。


「お、なんだ柏木、余ったのか。じゃあ先生と準備運動するか! ガハハ!」


 始まってしまったよ。体育という地獄の時間が。

 あっくんとオジキが我先にとペアを組んでしまったため、余った俺は仕方なく先生と準備運動をするハメになった。初っ端から気分が悪い。


 これから体育の授業がいかに憎いか個人的な意見を述べよう。あくまで個人的な意見を述べる。


 体育の授業って……温度差激しすぎないか? 体育会系の部活に入っていない陰キャ諸君も皆もそう思っている事だろう。

 現に、俺やオジキはバスケの経験など皆無。授業でやったことがあるくらいで、暇だからバスケしに行こう、なんて考えは宇宙でビッグバンが起こっても考えないだろう。


「ほら、行こうぜ蓮」


 反対に、バスケ部に所属しているあっくんはこうして目を輝かせている。コイツみたいな輩が俺たちを苦しめるのだ。

 ……いや、まだ蓮はマシな方か。


 チーム分けを終えて、早速試合が開始される。4チーム出来上がり、オジキとあっくんがいるチームが試合を始める。俺ともう一つのチームは待機だ。

 運動部の走りがまぁ早いのなんの、あっくんはすぐさまシュートを決めてウェイウェイしている。対して不得意のやつ(オジキ)はというと……。


「あっ、あっ」


 ボールが不運にもオジキの手に。オジキはとにかくボールを運ばなきゃと焦ってあらぬ方向にパスしてしまった。結果、ボールは相手チームの手に渡り、流れるようにシュートを決められてしまった。


 ウェーイ! と盛り上がる相手チーム。オジキのチームは……。


「ちっ……! んだよ今のパス……俺だったらぜってぇドリブルしてシュート決めてたわ」

「勝てないよなーこのチーム。まぁチームのメンツ決まった時点分かってたけど笑」

「それな」


 出たよ……運動部特有のイキリが。やめてくれ……オジキが涙目になってるじゃねーか。


 見ていられない俺は視線を明後日の方向へと向ける。すると、隣のコートでも女子がバスケをしていた。


「柚月さん!」


 ちょうど柚月の手にボールが渡る。柚月はその場で高くとび、ボールを投げた。

 シュパッ、という綺麗な音と共にゴールが決まる。見事な3ポイントシュートだった。


「やりぃ! ナイス柚月さん!」

「いえ、相田さんのパスが的確でした。ありがとうございます」

「いやー照れるなぁ」


 柚月の周りに人だかりができている。こんなところでも完璧ぶりを見せられてしまうとは。やはり運動においても彼女がAIである証拠を見つけられそうにない。


 ジロジロと見ていたせいか柚月と目が合ってしまった。


(……っ)


 反射的に目を逸らしてしまう。少しして、そーっと柚月の方を見る。


(まだ見てんじゃねーかっ!)


 今度は目を逸らさない。負けた気がするから。柚月から目を逸らさない。すると、柚月は──


「……」

「……!?」


 小さく、本当に小さな動きだったが、こちらに手を振った。振ってくれた気がした。


(な……なんだ今のは……っ!)


 不覚にも、可愛いと思ってしまった。柚月は少し小走りでコートから出ていった。


(AIがあんな動きをするか……? いや、こちらを油断させる動きなのかも……)


 そんな答えの出ない妄想をしていると、あっくんチーム対オジキチームの試合が終了。結果は言うまでもない。


「……」

「お、オジキ……大丈夫か?」

「……っせ。なんでもねーし。まじ体育ごときで熱くなんなし」


 あぁ……オジキから発せられるドス黒いオーラが恐ろしい。


「いやー疲れたわ、蓮、次だろ?」

「あ、あぁ」


 あっくんたちと入れ替わるようにして試合が始まる。できるだけボールが回ってこないような立ち回りを心がけるが……。


「げっ……」


 ボール到来。すぐにパスするかと思ったが、先程のオジキの光景が浮かび上がる。

 どうするか迷っていると、野次が飛んできた。


「おい! 何してんだ!」

「こっち! こっち回せって! ボール取られちまうだろ!」


 はぁ……うるせー。なんかすげぇイライラしてきた。


「ちっ」


 こんな時、柚月なら、AIなら完璧に決められるんだろうな。しかし、俺は人間だ。人間らしく、苛立ちを抱えたまま投げやりにボールを投げた。


 適当に、ゴールに向けて投げた。フォームもクソもない。ドッジボールみたいに投げてやった。


(はぁ、これで俺もオジキと一緒か)


 ブーイングだろうな、そう思い自チームのゴール付近へと戻ろうとする。


 シュパッ。


「え?」


 振り返ると、皆呆然としていた。ボールはゴールの近くでバウンドしている。少しの沈黙の後、一斉に歓声が上がった。


「うおおおおおおおお! 入った! 入ったじゃん!」

「スッゲ! 柏木すげーわ!」


「え、えぇ……?」


 偶然ながら、入ってしまったらしい。何これ、陽キャから褒められてちょっと嬉しい気分になっている。

 奇しくも、柚月と同じ3ポイントシュートを決めた。


「ねぇ、今のみた?」

「見た見た、めっちゃ神がかってたくね?」


 恥ずかしい。女子にも見られていたらしい。柚月は? この状況、普通なら柚月も盛り上がっているのでは……。


「……」


 ダメだ。体育館に迷い込んだ鳥に夢中になっていやがった。これっぽっちも見ていなかったようだ。なんだか悔しい気分のまま試合は終了した。


「おー、蓮のヤツやるやん。なぁオジキ。……オジキ?」

「こんの……裏切りモンがぁ……!」


 悪くない気分で体育の授業を終えることができた。ちなみに体育の授業の後、オジキはしばらく口を聞いてくれなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る