AIの気持ち③

「ごちそうさまでした」

「はい、お粗末様でした」


 お母さんが作ってくれた夕飯を食べて、食器をまとめてシンクに運ぶ。そして、汚れた食器をスポンジで洗っている最中のことだった。


「ねぇ、愛。何かいいことでもあった?」


「何か、とは?」


「そうね……例えば、この前会った柏木くんのこととか?」


 ガチャン。手に持っていた食器を落としてしまった。


「あら、割れてない?」

「大丈夫。それより、なぜ柏木くんの名前が?」

「うーん、何となくかな」


 何となく。曖昧な表現に少しイラッとする。もちろん、簡単に見抜かれてしまったこと込みでイラッとした。


 はぁ、と一息ついて気持ちを落ち着かせる。お母さんの勘は正しかった。これは認めざるを得ない事実だ。


「お母さんはすごいです。私の考えていることが分かるんですか?」

「もちろん。だって愛のお母さんなんだから」

「……」

「どうしたの?」


 少し迷った後、お母さんに相談することにした。私のことが分かるというのなら、これならどうだと挑戦するように聞いた。


「最近、柏木くんをもっと知りたいと思うようになりました。以前までは、席が隣なだけの男の子、としか思っていませんでした。でも、彼と話していくうちに、彼が気になって、自分が自分じゃないような気がしてくるんです。どうしてでしょう」


「いやいや……それは間違いなく──いいえ、私が答えたらダメね」

「……?」


 珍しくお母さんが真面目な口調になる。


「ねぇ愛。分からない時は仮説を立ててみたらどうかしら?」

「仮説、ですか?」

「なぜ自分はそう思うのか。その答えは〇〇だからじゃないのか、みたいにね。真偽はともかくとして、まず自分が思う正解を先に提示して、その正解に辿り着くために色々と検証や実験を繰り返していく、ってところかな。もし正解なら万々歳。失敗だったらやり直しね」

「……なるほど」


 お母さんに言われて少し考える。彼が気になったのはどうしてか、彼を知りたいと思うのはなぜか、どんな答えなら自分は納得するのだろうか。


 脳裏に浮かぶのは彼との思い出。また、心拍数が早くなる。


「水、出しっぱだよ?」

「──はっ」


 言われて水を止める。既に食器は洗い終えていた。


「それじゃ、頑張ってね。私は明日の講義の準備をしなきゃだから、先にお風呂いただくねー」

「……はい」


 大学の教授というのは家にいても忙しいみたいだ。



 自室に戻り、母に言われた通り仮説を立ててみた。


「……」


 思わず顔が赤くなる。私の立てた仮説は、甘酸っぱくて飲み込めるようなものでは無かった。

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