第27話 本選決勝戦 開幕からの全力シリーズ


「ふ~ん」


 とても不機嫌そうな返事をする美紀に蓮見は危機感を覚える。

 このままじゃ間違いなく俺が開幕と同時に狙われると!

 脳内で慌てて美紀の意識を別の方向に向ける方法を考える。


 考えろ、考えろ、考えろ、考えろ

 考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、

 考えろ、考えろ、考えろ、考えろ、

 考えろ、考えろ、考え――見えた!


「違うんだ!」


「なにが!?」


「あれは俺が悪いんじゃなくて俺の視線を奪った金髪美女が悪いんだ! だから俺は悪くないんだ!」


「‥‥‥‥そう。まぁ、いいけど」


「だってそうだろ!? 昨日甘えてきたs――」


 不機嫌そうだった美紀がピクッと反応して声を大きくして何かを察したように誤魔化し始める。


「まって! まって! まって! タイム、タイム、タイム! 怒ってないからそれは言っちゃだめ!」


 両手で身振りを入れて慌てる美紀。

 昨日の事を思い出してか身体が熱を帯びている。

 そんな美紀を見て蓮見はよく分からないがとりあえず誤魔化せた? と心の中で安堵する。


「里見? 急に慌ててどうしたの?」


「な、なんでもないわよ!」


「ならなんで顔赤いの?」


「綾香には関係のないことよ」


 急な慌てぶりに興味を示した綾香と絶対に教えたくない美紀。


「二人は仲が良いのか?」


 そんな二人を見てソフィは蓮見の元へ行き質問。


「仲はいいですよ?」


「もしかして‥‥‥‥恋人同士だったりするのか?」


 ソフィの声が美紀の耳にも入り、


「しないわよ!」


 と全力で否定された蓮見は心に大ダメージを受けた。


 グハッ!


 数分後。

 開幕の時間が近づき司会者が空中に用意された特設ステージと一緒にパフォーマンスをしながら登場。


 全員の視線が一斉にそちらに集まる。


『お待たせしました。もう間もなく試合開始のお時間となります! 選手の皆様は所定の開始位置に移動をお願いします!』


 四人が円状の闘技場を歩き位置に移動する。

 場所はおバカさんでもわかるように「■グループ代表はココです」と書かれた文字が空中に矢印と一緒に浮かんでいるので蓮見でも迷うことはない。

 こんな些細なことではあるが、気遣いができる時点で運営は早くも蓮見のバカさに気付き始めているのかもしれない。


『そう言えば痛い子ちゃん頑張って勝ち残ったのですね。ちまたでは女性の方から注目されてるらしいですよ?』


 この言葉をきっかけに蓮見の気持ちが切り変わる。


「ふっ」


 小さくガッツポーズをする蓮見を見た司会者が「はぁ~、やっぱり単純なんですね」と小さく呟く。


『それでは第一回最強決定戦を開催していきましょう! 会場の皆様盛り上がっていますか!?』


「「「「「おぉ!!!!」」」」」


『準備もいいですか!?』


「「「「「おぉ!!!!」」」」」


『会場の皆様と選手の皆様の準備も出来たと言う事でカウントダウンに入ります! それでは大きな声で皆さんも一緒に――』


 ―― 三。


 四人が距離をおいて戦闘態勢に入る。


 ―― 二。


 綾香、美紀、ソフィの順で武器を手に取り構える。


 ―― 一。


 全員がお互いの位置を再確認して開始の合図を待つ。


『勝負、始め!』


 ――ドカーンッ!!!


 開幕と同時――神災が起こった。

 誰もが予期していなかった。

 開催のゴングが神災発動のゴングになるとは。

 それは観客席にいたプレイヤーはもちろん司会進行役のNPCさらには予選を勝ち抜いた女の子三人も。


 大きな爆発音が鳴り響くとほぼ同時に起きた爆発。

 オレンジ色の光が会場全体を包み全員の視界を奪った。

 光が徐々に晴れていく。

 観客席にいたプレイヤーたちの視線は四人がいる闘技場へと向けられた。


「へへっ、やっぱりこの程度じゃ誰もビビってもくれないか」


 全力シリーズが効かなかった事実に落ち込むのではなく、とりあえず試し打ち的な感覚で爆発を起こした蓮見はヘラヘラとしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る