第30話 本選決勝戦 気持ちは三者鼎立


「逃げてばかりじゃ勝てねぇ! なら『虚像の発火』だ!」


「残念当たらないよ?」


「その余裕の笑みを今に崩してやる! こうなったら『猛毒の捌き』!」


 紫色の魔法陣の展開に合わせて蓮見が急旋回する。

 紫色の魔法陣から出現する三十本の毒矢と一緒に蓮見突撃。

 弓を一旦しまい鏡面の短剣を複製し手にする。

 正攻法で叶わぬならと一か八か接近戦で戦うことにした。


 毒矢の隙間を縫うようにして美紀が飛んでくる。

 蓮見鏡面の短剣を構え突撃。


 キーンッ!


 すれ違いざまに蓮見と美紀の武器が接触した。


 ――グハッ!?


 ダメージを受けた蓮見はそのまま身体を反転させて鏡面の短剣を投げつける。

 素早く弓を構え矢を放つ。


「スキル『虚像の発火』!」


「残念。それじゃ効かないよ?」


「だな」


 ニコッと微笑み再度接近を始めた美紀。

 蓮見が投げた鏡面の短剣は一直線に飛んで行くも躱されてしまう。

 同じく虚像の発火も。

 美紀が両方を躱した。


「後方には注意しろよ」


 鏡面の短剣に虚像の発火が接触。

 お互いに触れたことで鏡面の短剣が爆発する。

 会場内の温度が上昇していく。

 美紀の注意が後方に向く。

 蓮見は今しかないと思い、閃光弾と音響爆弾を急いで二つ美紀に向かって投げつける。

 美紀の注意が再び前方に向くと同時、眩しい光と耳を塞ぎたくなるような音が会場内を覆った。


「チャンスは今しかない!」


 蓮見は両手を使い視界保護を優先した美紀を狙い矢を放つ。


「なるほどね。だけど甘いよ。スキル『破滅のボルグ』!」


 視界不良の中、美紀が口にした言葉。

 白の世界に黒身を帯びたエフェクトが美紀の持っている槍に纏わりつく。

 美紀は瞳を閉じたまま、槍を全力で投擲する。

 槍は自動追尾性能を持っており美紀自身がハッキリと見えていなくても対象が認識できていれば問題はない。


「ま、マズイ!?」


 僅か数秒で風を切り裂く音を携えて美紀の槍が飛んでくる。

 逃げつつも迎撃を試みる。心の中が予期せぬ反撃にパニックとなった蓮見は冷静に槍を撃ち落とすことができない。放った矢は全て槍に触れることなくして空を切る。


 こうなったら、と毒矢全てに攻撃命令を出すも、


「この気配……間違いない、くる!」


 短刀を腰から抜き、


「目と耳の機能が制限されてもこれくらい」


 そんな言葉を体現するように美紀が空中でありながら全ての毒矢に対処を始める。

 気付けば闘技場内は熱気でかなり熱い。

 全身から汗が流れるぐらいに。

 そんな過酷な状況を感じている暇はない。

 蓮見は美紀が己の技量で対処しているのかスキルを使って対処しているのかを確認する事はできない。

 なぜなら今はもうそんな余裕はなく。

 迫りくる槍から全神経を研ぎ澄まして逃げ回っていたからだ。


 急降下をして逃げ切りを試みるも意味をなさない。

 地面スレスレで水平移動に切り替えるも蓮見と同じルートを飛行してくる槍。

 蓮見は逃げながら聖水瓶を地面にばら撒いていく。

 この場合、適当に投げ捨ててると言った方がいいのかもしれない。


「おまけは適当にばら撒いたけど、後数秒もしたら……」


 最初は十メートル以上あった距離が今ではもう二メートルもない。

 全プレイヤー中最大のAGI値を持つ蓮見でも逃げ切れないとなると美紀のスキルは本当に厄介だと思う。それも過去の必殺のスキルで。もしこれがデスボルグならと思うと……。


「……ん?」


 蓮見は逃げながら、パニック状態に入った頭で疑問に思った。

 なんで美紀はデスボルグを使わなかったのかと。


 ――。


 ――――。


「わかった。里美が破滅のボルグにした理由が」


 美紀の意図を汲み取った蓮見はHPポーションを飲み逃げる事を止めるとすぐに槍が心臓を貫通する。


「いてぇ! だけどこれで」


 そうだ。

 HPゲージを失ったことで神災モードが発動する。

 美紀はどのみち一撃では蓮見を倒す事ができないと考えていた。

 その考えを逆に読み取り逆算して生き残る道を見つけた者は美紀の元に戻っていく槍を今度は追う。


 まるで逃げる方と追いかける方が入れ替わったような構図。


 だが、槍は美紀の元に。

 そして、蓮見は槍を追い抜き飛行限界位置まで高度を上げる。


「俺様たち秘蔵コレクション『紅蓮の矢』だ!」


 蓮見は大声で言った。

 それを聞いたブルー蓮見とイエロー蓮見が綾香とソフィの間隙を利用してスキルを発動する。虚像の発火の上位スキル。使用後はMPゲージを全部を使うので基本的に秘蔵と言うかは今までは好んで使う事すらしなかったスキル。これは七瀬やリュークのように高火力な火属性スキルを誰も使ってくれなかった時用の予備のスキル的な存在。そんな予備のスキルでの狙いは、もう一つしかない。


 三分間上下の感覚が逆転するアイテムを使い上下全ての感覚が逆になった。

 それを利用した蓮見。


 ブルー蓮見とイエロー蓮見が弓を構えると赤色の魔法陣が出現する。

 矢は放たれるとすぐに魔法陣を通り抜け力を得る。

 虚像の発火とは比べものにならない熱気を放ち、荒々しく燃える炎を纏った矢は二本とも本体であるレッド蓮見へ向かって飛んでいく。


「綾香さん最初に使ったスキルを覚えていますか?」


 大きな声で語りかけるレッド蓮見。


「……それが?」


「その時点で俺は超全力シリーズ『爆災無限ループ式爆破旋風』が使えるんですよ!」


 全力シリーズ火災無限ループ式爆破旋風ではなく爆災無限ループ式爆破旋風。

 名前は違えど根本は同じ。

 ただ媒体となるスキルの火力が違う事から蓮見が名前を変えているだけ。

 もう言わなくても予選の時と今。

 どちらが強力なのかはわかる。


「――しまっ!?」


 綾香は質問の意図を正しく理解した。


「――まさかっ!?」


 スキルを使い背中を見せたイエロー蓮見をKillヒットしたソフィは倒す順番を間違えたと気付く。


「――やばっ!?」


 第二回イベントで蓮見と同じ眼を持つ小百合が使ったスキルに似たスキル『紅蓮の矢』。

 威力は単体でも折り紙付きだとその身で知っている美紀。

 そんなスキルと他のスキルが組み合わせて作られる蓮見だけの技。

 それはただ組み合わさるだけでなくアイテム補助を受け更なる進化をする。


「させない! スキ――ッ!?」


「悪いがレッドの邪魔はさせねぇ!」


 レッド蓮見を護るため、ブルー蓮見が綾香の攻撃をその身で受け止める盾となる。


「どいてーーー!!!」


 綾香の猛攻に一瞬にして四割のHPゲージを削られたブルー蓮見はレッド蓮見に力を託して粒子となって消えてく。


「へへっ。後は任せたレッド……」


 突撃してくる綾香。

 だがもう遅かった。

 蓮見を中心に出現した竜巻は二本の矢を風の流れに乗せて地上へと運ぶ。

 地上には聖水瓶が沢山ある。

 それも容器が熱せられた状態で。

 蓮見が天井を作ったことで密閉空間となった闘技場は蓮見が爆発や火属性スキルを使う度に熱くなっていた。


 蓮見の狙いに気付いた三人の額に冷や汗が滴る。


「いくぜ! これが『爆災無限ループ式爆破旋風』を囮にした超新星爆発の亜種! 新作俺様超全力シリーズ『超特大新星大喝采爆発』だ!!!」






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