第29話 本選決勝戦 諦めの悪い男


 アイテムを使い簡易障壁を出現させ天井を蓋した蓮見。性能は七瀬がたまに使う障壁と変わらない。

 今はスキルが使えなくてもアイテムで大抵の汎用性の高いスキルは扱う事ができるようになっている。当然アイテムを買うお金がない蓮見は全てエリカからの支給品――無料品と言う名の特注の高火力かつ持続的な性能を持つアイテムを使っている場合が多い。殆どのプレイヤーはコスト面の関係でスキルを頑張って修得した方がお得だと言って使わないが蓮見はスキルを取るのがそもそも難しいのでアイテムでその点をカバーしているのだ。厳密にはエリカがカバーをしている。


「おいおい! マジかよ!?」


「【異次元の神災者】が三人相手に優位に戦っているぞ!?」


「どうなってんだ? なんかめっちゃ調子良さそうだが……」


「このまま最後まで行くのか?」


 蓮見の狙いがわからない。

 そう思い困惑する三人に休息する時間はない。


「俺のむぅ~ねに落ちてくるぅ~熱い心鎖でつないでも今は無駄だよ~邪魔する強敵(とも)は俺の矢一本でダウンさぁ~♪」


 蓮見が熱唱をしながら、自由自在に大空を羽ばたき攻撃を無造作にしてくるからだ。

 毒矢に意識を飛ばしながら蓮見の攻撃にも意識を回さなくてはならない。

 かといって不用意に動けばすぐに神災がその行く手を阻む。


「ついにノリノリで歌い始めたぞ‥‥‥‥」


「アイツが歌うと大抵本前兆が近い事を意味するからな‥‥‥‥」


「今度はなにが起こるんだ?」


「戦いながら歌う余裕を見せるとはビューティフルデース!」


「嫌な予感しかしないのは私だけかしら」


 観客席が期待と不安に煽られる。

 次はなにをする?

 そんな好奇心と一緒に生まれる、また巻き込まれるんじゃないか? という不安。

 なにより会場全体に響く歌声が皆の意識を引き寄せる。


「ゆ~あ~しょっくー女子の応援で鼓動早くなるぅ~♪」


「天井を蓋して逃げ道をふさいだのか……だがあれでは殆ど意味がないはず。やはり少し抜けているのは変わらずか」


 ソフィは毒矢の追尾を振り切ると同時に冷静に状況を判断した。少なくとも蓮見より修羅場を乗り越えて来たと自覚しているソフィは思った。詰めが甘いと。


 横は特殊障壁――破壊不可能オブジェクト、上空は蓮見がアイテムで発動した簡易的な障壁。壊そうと思えば女三人誰でも簡単に壊せるが殆ど飛行限界位置のため壊す意味すらないと判断され素通りされてしまう。


 天井が蓋され密室となったフィールドは蓮見が爆発で起こした熱気で満たされ熱くなっていく。


「なるほど。息苦しくし私たちの判断力を奪いにきたのか。だがそれはお前も同じ。忍耐力勝負という面で見ればこちらが有利に思えるが……」


「紅の狙いはなに?」


 周辺を飛んでいた毒矢全てを切り落とした美紀が短刀を腰に戻してスキルで槍を回収する。


「毒矢は殆ど対処して後は八本と三人が足場に使ってる分だけ。さて次は何を見せてくれるの?」


「綾香さんのご期待には答えれると思いますよ」


「へぇ~、なら簡単には死なないってことだね!」


 突撃してきたのは綾香だけじゃない。

 美紀とソフィも正面から突撃してきた。

 対して蓮見たちはそれぞれ別の方向に舵を切ると同時距離を取りながら反撃に転じる。


「スキル『連続射撃3』!」


「残念当たらないよ」


「チッ。今度は里見が相手かよ‥‥‥‥」


 神災戦隊の原点にして本体であるレッド蓮見の相手は美紀。ブルー蓮見の相手は綾香でイエロー蓮見の相手はソフィ。バトル・ロワイアルでありながら一人その身を狙われた男は全く持って運が良いのか悪いのかわからない。ただ開幕と同時に大きな爆発を起こしただけでこの仕打ちは少し割りに合わないと思い始めた蓮見。


 だからと言って試合を諦めるわけではない。アドレナリンを分泌し活性化した脳はこの状況を楽しみ始める。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る