第22話 夜の頼み事は重要?
しばらくして――。
女子四人のどたばた会議と蓮見の妄想がほぼ同時に終わった。
「なら、蓮見君明日も頑張ってね。お姉さん応援してるから」
「はい!」
「ちょっと私の応援は?」
「ならバイバイ~」
蓮見に手を振り、美紀には小首を傾け部屋を出て行くエリカ。
「こら~! 私の存在を無視するな~」
部屋を出て行くエリカに背中越しに語りかける美紀。
「明日頑張ったら蓮見君にご褒美用意しておくから頑張ってね~」
階段を降りる音と共に聞こえてきた声に蓮見は苦笑い。
後に神災竜専用武装兵器なのだが、隣に美紀がいるため素直に喜べないのだ。
最後まで蓮見だけの味方でいるエリカに「ったくもお! あのバカ!」とご不満な美紀は蓮見の隣に来て「蓮見からもなんか言ってよね!」とエリカがいなくなった矛先が蓮見に向けられた。
「すみません……」
特に悪いことをしていないが条件反射で謝る蓮見。
そんな蓮見を見て、クスッと笑う姉妹。
「相変わらず美紀には頭が上がんないのね」
「は、はい……まぁ……」
「なら私達も帰るね。急に来てゴメンね」
「いえ」
「でも優勝したらさっきのは冗談じゃないから明日は頑張ってね。用事が早く終わって間に合いそうなら直接応援席で蓮見の活躍見るから」
「わかりました」
「だから私は!?」
「ふふっ、ならばいばい蓮見」
床に座っていた七瀬が立ち上がる。
「私も明日お姉ちゃんと見に行けたら一緒に応援しに行きますので頑張ってください! 将来の……お、お、ぉにぃちゃん……えへへ~」
恥ずかしいのか顔を赤くして頭を掻きながら照れ顔を見せてくれた瑠香に蓮見の心臓がドキッとしてしまう。これは……その……なんというか……反則だ! そう心臓が思った。
「もしかしたら……その……旦那さんかもしれないですけどね……てへっ」
そこにさらなる不意討ちに蓮見は言葉を失った。
脳が処理限界を超えたのだ。
確かに胸は小さいが幼さが残る笑顔と時折見せる色気と――脳が変な方向で状況の解釈を始めた頃。
「ちょ、瑠香! わ、私は!?」
「あっ、美紀さんもそう言えば明日出るんでしたね! 頑張ってください!」
瑠香が両手に拳を作って身振りを入れて応援する。
「絶対に忘れてたでしょ!」
「……てへっ」
「笑って誤魔化さないでよ!」
「ほら、瑠香~帰るわよ~」
「は~い! そういうわけで蓮見さん明日は頑張ってください! それと美紀さんも!」
そのままニコニコしながら姉である七瀬と一緒に部屋を出て行く。
「だから皆して私を忘れないでよ~!」
言いたい事が沢山あるわけだが、ここで引き止めても時間が時間だけに迷惑になるかもしれないと時計の針を見ながら美紀は大きなため息をついて受け入れることにした。時刻は気付けば十九時と中々に良い時間である。
そうだ――。
この時間と言えば――。
蓮見のお腹が――。
ぐるるぅ~
と鳴きだす時間なのだ。
二人きりになった部屋で蓮見がお腹を擦る。
「なぁ、美紀」
「なに?」
「お腹空いた」
「って、ちょっとふざけないでよ! なんで私がご飯作る前提で話しが始まってるのよ!」
さっきのやり取りでまだ不満が解消できていない美紀が強気に出る。
だが蓮見だって男として言う時は言う。
「頼む! こっちは
母親が仕事で帰りが遅い以上美紀がいるなら縋るしかないとカップラーメンを食べる事を嫌い、より良い物を食べようと蓮見が真剣な眼差しを美紀に向ける。
「私別に蓮見の通い妻じゃないんだけど?」
少し前のことを思い出しては、嫉妬心を向ける美紀。
「……でもずっと一緒にいる」
「……ぅぅぅ。わ、わ、わたしには……こ、こころあたりが……な、にゃいけど?」
「最近寝苦しいと思って起きた時大抵美紀がなぜか俺のベッドの中にいるぐらいにはいるはずだ! そんでもって朝にはいないぐらいには!」
「はわわわ、、、あぁぁぁぁぁ」
全身を駆け巡る血が熱を帯びていく美紀に蓮見が追い打ちをかける。
「んで、起きたらいつもいない! なんならいてくれてもいいのでないだろうか! 俺はポカポカ湯たんぽたんぽぽポカポカ男じゃない! そもそもそんなに太ってない……と思う! なんならモテない俺に救いの一つや二つをくれてもいいのではないかと最近は思っている! 特にかn……じゃなくて今はご飯を作ってくれてもいいと思う!」
話しが二転三転するも、結局の所、蓮見の言いたい事は今はご飯を作ってくれという一点。
「し、知らないわよ! そんなこと。私だって好きな人に中々振り向いてくれなくて寂しいんだからそこはお互い様でしょ!」
グハッ!?
心臓が狂しい。
「…………」
沈黙した蓮見。
返す言葉が見つからないのだ。
その気になればどうせ告白して彼氏をいつでも作れる可能性が極めて高いと思われる美紀と玉砕覚悟で告白しても振られる可能性が99%オーバーの自覚がある蓮見ではこの手の話しでは分が悪すぎるのだ。
「……はぁ。もぉ~わかったから涙目でこっちを見ないで。それと今日の事は皆に内緒よ?」
「はい! やったー! 美味しいご飯確保成功だぜー!」
「全く調子がいいんだから。ならお礼してよね?」
「お礼? 自慢じゃないが金ならない!」
「要らないわよお金。そもそも私の貯金残高知ってるの? 少なくとも蓮見が社会人になっても数年分の金額と思うけど。ゲームの賞金金額過去の調べたらすぐにわかると思うけど、もしかしてそれ全部調べたの?」
「…………」
「ごめん、言い過ぎた……」
「……いえ」
「今夜は一緒に寝て明日のイベントは全力でする! いいわね?」
「はい」
蓮見は自称頭が良いので美紀の言葉をこう解釈した。
ご飯は作る。
その代わり一緒に寝る。
ベッドが一つしかないから。
その真意はいつも寝坊する俺の監視目的だと。
変な所だけは頭が回る蓮見は寝坊はいつものことだがそこまでゲームに熱心にならなくてもと内心思いつつゲームが大好き美紀からしたら寝坊などあってはたまったものではないのだろうと解釈することでその条件を受け入れた。
少なくとも過去の経歴は、
中学時代テスト三日連続大遅刻――テストが怖く、お布団が恋しくて。
高校受験当日寝坊――テストが怖く、お布団が恋しくて。
高校入学式遅刻――科目別クラス振り分けテストが怖く、お布団が恋しくて。
高校一年目最初の中間テストの日遅刻――テストが怖く、お布団が恋しくて。
高校一年目最初の期末テストの日遅刻――テストが怖く、お布団が恋しくて。
と、これは一例だが皆が真似をしようとも思わないある意味素晴らしい経歴を少なくとも所持している。
当然幼馴染の美紀は全部知っているので、心配する気持ちも分かる蓮見。
なぜならそのたびに母親よりも美紀に怒られているから。
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