第19話 美紀からのご褒美!?


 大きな声と一緒に窓からやって来たのは美紀。

 なぜかわからないが声には怒りが含まれているような気がすると蓮見は直感で察する。

 急いで起き上がり身の安全を確保しようとするも窓から勢いよくロケットのように飛んで来た美紀が蓮見のお腹の上に着地したため、逃げることすらままならず捕まった。


 グハッ!?


 お腹の上で股がってきた美紀は真剣な眼差しで蓮見を見つめている。


「はすみぃ!」


 珍しく気合いが入った声に蓮見は息を飲み込む。この時、蓮見の目には理由はよくわからないがなぜか美紀が怒っているようにしか見えなかった。


「は、はい‥‥‥‥」


「正直に話して!」


「は、はい‥‥‥‥」


「いつからいたの?」


 なぜか強気だった美紀の目がだんだんうるうるとし始める。

 だけど蓮見はそれに気付かない。

 なぜならそこに気を回す余裕がないからだ。

 両肩を抑えるようして置かれた美紀の手に力がどんどん入ってきており、目を合わせることができないでいたからだ。

 それがさらに美紀の疑心を煽る結果となる。


「……はい?」


 突然の質問に蓮見目を大きく広げる。


「だ・か・ら・か・の・じ・ょ!」


 美紀は強がっているが唇を少し噛んで今にも泣き出しそうな表情を見せる。

 蓮見は蓮見で状況を呑み込めず視線がキョロキョロと泳ぎだす。


「…………」


 二人の間に気まずい雰囲気が流れ、部屋の空気が重たくなる。


「……私の知ってる人?」


 不安そうに声を震わせながら美紀が口を開く。


 美紀の勘違いに当然ついていけてない蓮見は脳内がパンクし真っ白になった。

 一体何が美紀をこんな状況にしたのだと。

 心当たりは一切ない。

 そう思い切って美紀の顔を見てみると、泣くのを我慢しているようにしか見えない。

 これは色々とマズいと思うも、蓮見の頭は正解を導きだせない。

 なぜなら――唐突過ぎて思考回路がフリーズして考える事をしてくれないからだ。


「ちょっと美紀どうしたんだよ? 急に泣きそうになって」


「う、うるさい!」


「…………」


「それで彼女いるんでしょ? 誰? 私の知ってる人? もしかしてエリカ?」


 流石の蓮見でもここまで来ればわかる。

 美紀はきっと――。


「逆に聞くが、俺に彼女がいると思うか?」


 ――明日のために心理戦を持ちかけてきているのだと。

 そして、これは迫真の演技なのではないかと!

 だからこそドヤ顔で言い切った。

 こちらも盛大に勘違いした結果がこれ。

 幼馴染同士ある意味これはこれでありなのかもしれない。

 だが誤算が一つ。


 ――グッ、ハッ、、、


「…………うん」


 美紀がすすり泣きをしながら首を縦に振る。


「仮に俺に彼女ができたら真っ先に気付くのは誰だと思う?」


 鼻をグズグズさせながら、


「……多分私」


 質問に答える。


「だろ? だから美紀」


「なに?」


「明日の本選前に迫真の演技で俺の心のヒットポイントゼロにしないでくれませんか? 確かに俺は将来彼女ができたらイチャイチャしたいと言う願望はある! だけどな、今すぐにそれが叶うとは思っていない! なぜなら――」


 最後はカッコ良く決めようとする蓮見だったが、あまりにも自身にダメージを与える言葉だと自覚しているため口が重たくなる。


「――彼女いない歴=年齢が俺のステータスだから!」


 今度は……蓮見の涙腺が崩壊した。

 そもそも心に大ダメージを受ける自覚があるならそれをドヤ顔でカッコ良く言おうなどと思わなければいいのにと思うも、それを見た美紀はふとっ我に返った。

 さっきの言葉から自分が勘違いしているのだと気付いたからだ。

 蓮見は確かに言った。

 彼女とイチャイチャしたいと。

 だけどそれは今の話しではなく。

 将来できた彼女とイチャイチャしたいという意味だったと認識したからだ。

 そしてこの手の類の話しはなぜか蓮見に効果が抜群なのを知っている。

 なので、本当は恥ずかしいのだが。

 全ての原因は自分だと反省し、お詫びとしてかなりの勇気をもって言葉を紡ぐ。


「ご、ゴメン……。言い過ぎた」

(良かった彼女いないんだ……勘違いで本当に良かった)


「…………」


「だから、その……なんていうか……おいで?」


 そう言って美紀は蓮見の上半身を起き上がらせて抱きしめる。

 美紀の柔らかい果実に蓮見の頭部を持っていき、子供を甘やかすような仕草を見せる美紀。


「美紀?」


「いいよ。私言い過ぎた。だから甘えていいよ」


「……うん」


 頭を優しく撫でてあげる。

 可愛いな、と美紀が思ってしばらく続けていると、


「柔らかくていい匂い。ちなみに触ってもいい?」


 といつの間にか泣き止んだ蓮見がとても恥ずかしい事を言ってきたので、頭を持ち上げて両手で頬っぺたを軽く抓る。


「どさくさに紛れてえっちな方向に持っていかないの。それとなにニヤニヤしてるのよ、このばか」


「だって柔らかくて気持ちy――」


「ばぁーか。ったく、エリカの時と同じで本当に単純ばかぁなんだから」


「――いてっ」


 美紀のデコピンをオデコに受け蓮見の言葉が途中で詰まった。


「それと途中からさり気なく腕を腰に回してなに全力で甘えに来てるのよ? そう言うのは好きな人にしかしたらダメ。いい? わかった?」

(そういう素直な所で女の子が勘違いして好きになるのよ……)


「はい……」


「ほれ、今日は予選勝ったご褒美込みで後五分だけ甘えていいから」


 顔を真っ赤にして今までで最大の勇気を振り絞って美紀。


「ただしお触りは禁止。したら学校で言いふらすのと一生口聞いてあげないから」


 建前も一応付け加えておく。

 まだ心の準備まではできてないから。

 恥ずかしさでいっぱいの美紀は蓮見が返事をするよりも早く行動に移すことで精一杯の好意を見せる。

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