第3話 期待された男の名は
予選当日。
提出板で大いに期待された蓮見。
蓮見は美紀と七瀬の言葉に負け、勝てない、恥を絶対にかく、無様に負ける、と当時参加(予選に応募)しなかった本当の理由を心の中でぶつぶつと繰り返していた。
蓮見が配置されたのはdグループ。
美紀はbグループである。
「とりあえず里見とは別になったから首の皮一枚繋がった感じかな‥‥‥‥」
少しでも前向きになろうと、頑張る蓮見。
だが観客席は違った。
「ついに来たぞ! この時が!」
「再注目はdグループだな。残りの3グループは大方誰が勝つか予想されているし大番狂わせが起こることはないだろうからな」
「あぁ。んでお前はdグループ誰が勝つと思う?」
大衆の視線の多くはグループが4つあるにも関わらずdグループへと向けられていた。
そう――【異次元の神災者】がいるからである。
今回は何を魅せてくれる?
と周りが期待している証拠だ。
「そうだな、妥当に行くならルフランじゃないか?」
「確かに。だけど俺はやっぱりアイツかな。今回も何か見せてくれるんじゃないかって思ってしまうんだよな」
そう言って男は【異次元の神災者】の異名を持つ蓮見を観客席から指さす。
観戦者たちは盛り上がりながら誰が勝つかを各々が予想し合っていた。
aグループ――綾香、ラクス
bグループ――里美、葉子
cグループ――ソフィ、リューク
dグループ――ルフラン、紅
上記八人が代表的なバトルロワイアル予選突破候補者リストである。
これは提示板で噂になっているのをそのまま抜粋してきただけに過ぎず実際はやってみないとわからない。だからこそ、特別イベントステージに多くのプレイヤーが観戦しにやって来たのだろう。
「それにしても相変わらず凄い人の数だな……」
そんなことを知らない蓮見は頭上に用意された観客席を見上げながらストレッチを行う。フィールドは大きな闘技場を四つに区切り同時進行で行われる。そのため、早く終われば参加者は他の戦いが見られるわけだが、勝負を急ぐあまり負けてしまった、なんてこともありえなくはないのでそこは注意が必要だ。
そうは言っても蓮見には関係がなさそうだが。
「まぁ、何も心配しなくても里美は勝つだろう。問題は俺が恥をかかずに済むかなんだよな……」
チラッ。
視線を向ける。
そこには(プロを除いた)最強プレイヤーと呼ばれるルフランが武器の手入れをしていた。
王者の貫禄というか、その場で座って武器を手入れしているだけなのに雰囲気が違う。
「俺……運マジでねぇー。よりにもよってルフランさんと同じグループとかどうやって勝てばいいんだよ……。あの人二十五対一でも絶対勝つだろう……」
早くも弱気になり始めた蓮見は大きなため息混じりに呟いた。
こちらは弓使い。
向こうは剣。
遠距離攻撃と近距離攻撃。
得意レンジは全く正反対。
そうなると距離感が大事になってきそうだが、蓮見が視線を周囲に飛ばすと強そうなプレイヤーばかりで余計に悩みが増える。
「勘弁してくれ……皆目がガチ過ぎて恐い」
屈強な男はともかく蓮見より小柄な女の子ですら今の蓮見には恐ろしく見える。
一瞬交差した視線は小柄な女の子なのに背筋がゾッとしたぐらいだ。
きっと彼女の狙いは――。
「モテル男は辛いねぇ~」
状況が状況だけに全く嬉しくない。
そう思いながら首を横に振る。
すると、ふとっ予選会場から最も近い観客席にエリカを見つけた。
「頑張ってね~くれない~く~ん♪」
蓮見と目があうとすぐに大きく手を振りながら大きな声で応援をしてくれたエリカ。
どこか嬉しそうなエリカを見て自然と蓮見の頬にも笑みが戻る。
恥ずかしながらコクりと頷く蓮見。
するとニコッと満面の笑みを見せてくれるエリカ。
可愛い、笑顔が素敵だな。
と年上の女子大生のお姉さんにそう思わされた蓮見の心は徐々に光を取り戻していく。さっきまで弱気だった心臓が力強く脈を打ち始める。
すなわち――蓮見が戦闘態勢に入った事を意味する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます