第10話 予選 新全力シリーズ本前兆


「まずいな。このままだと追い付かれはしないが上手くダメージを与え――」


 言葉を口にしていると、ふとっ思った。


「――逆だ。この展開はアレだ。ここで一撃必殺技を俺が決めたらきっと女の子から彼氏にしたい男ナンバーワンの座がもらえるやつなんじゃ‥‥‥‥ッ!?」


 だけど、と思う。

 この状況でなにかをしたら美紀に後で怒られる可能性があるかもと蓮見は思った。

 なぜなら美紀は真っ当な道で純粋な気持ちでゲームを楽しんでおり、今回も同じ時間を蓮見と共有したいとイベント前言っていた。つまり第二回イベントの時みたく思いつきによるその場の勢いとノリで開発した俺様全力シリーズを使えば最低でも小言は免れないだろう。


 そこで蓮見の脳はある妙案を思いついた。


 それは――


「そういえばエリカさんからこの間三分間上下の感覚が逆転するアイテムが試作で出たからあげる言ってもらったんだったよな‥‥‥‥俺自身だけでなくスキル操作も上下逆になるとも言ってたような気がするやつ」


 ――と不可抗力をバックに実行するという計画性にとんだ抜け道。

 簡潔に言うならば美紀に怒られたらエリカに泣きついて護ってもらおうと言う作戦である。あわよくばそのまま甘えさせてもらえるかも‥‥‥‥とまでは思っていないことにして欲しい蓮見。


 逃げ続けながらも粉が入った袋を辺り一面を覆いつくすように作業を進める。


「なにを狙っているかは知らんが逃げてばかりの弱腰男に私は倒せないぞ?」


 レベッカの挑発的な言葉に反応したら負けと思い、反応したい気持ちをグッと堪えて今は下準備に集中する。


 それから三分程経過したところで蓮見が弓を手に取りレベッカの方へと方向転換をして攻撃態勢へと入る。


「逃げる事をようやく諦めたか。手間をかけさせおって」


「へへっ、それは悪いな」


「ならばここで死ね! スキル『覚醒』!」


「って、お前も使えるのかよ!?」


「当然だ!」


 覚醒に嫌な想い出が沢山ある蓮見は苦笑い。

 このスキルのせいで何度美紀の槍に串刺しにされ、七瀬の杖にぶん殴られ、瑠香のレイピアに満面の笑みで貫かれたことやら。

 そんな苦い記憶を振り払う勢いで、大きく息を吸いこんで吐き出す。


「これがまずはスイッチ! スキル『虚像の発火』!」


「何を狙っていr――ッ!?」


 レベッカの言葉が途中で詰まった。

 突如炎に全身を襲われたからだ。

 だがダメージは入らない。

 レベッカは装備品によって炎、爆発、毒の完全耐性を可能にしている。

 神災対策は万全なのだ。

 そうだ。

 【異次元の神災者】と同じグループとわかった時点でレベッカは情報や対策がしやすいルフランではなく情報が全て曖昧かつ対策案が対策案として中々機能しないであろう蓮見対策を最優先としたのだ。当然蓮見にとってはそれは結果として不利益をもたらすことになる。

 だが、蓮見はその程度では動じない。

 まるでここは通過点と言いたげな悪い笑みを浮かべる。


「そう来たか! 面白い! なら最後までついて来いよ! 俺様全力シリーズ見せてやるぜ!」


 粉塵爆発を起こした蓮見。

 だけど、それは神災(地獄)の序章に過ぎない。


 粉塵爆発で竜の粉が真っ赤な業火となり辺り一面を埋め尽くす。

 眩しい光と爆発音の中蓮見が大きな声で叫ぶ。


「カ~モンベイビー俺様! ここからが本番! スキル『××』!」


 爆発音が大きくて大声でありながら蓮見の声が上手く聞こえない。

 それでもこれだけはわかる。

 僅かに聞こえる声や炎の隙間から見える顔から察するにテンションアゲアゲの蓮見がとても楽しそうに悪い顔をしていることが。


「いくぜ! これこそ皆が期待した俺様全力シリーズ『火災無限ループ式爆破旋風』だぁ!!!」


 アイテムを使い上下全ての感覚が逆になった。

 それを利用した蓮見。

 レベッカが開幕当初使った竜巻を模倣を使い再現。

 ただし竜巻は地上から上空ではなく上空から地上へ向かってその猛威を振るい空中に居る者を地上へ落とすように回転し形状形成した。

 そこに蓮見お得意の爆発を足すことで火柱にも似た火災旋風へと姿を変える竜巻。

 火災旋風となった竜巻はレベッカを巻き込み大気中の酸素を取り込み勢力を拡大し、地上にいるプレイヤーにも襲い掛かる。火柱は地上に激突すると地面を焦がしながら平行移動をする。蓮見たちが今戦っているフィールドは巨大な闘技場を四つに分断する破壊不能オブジェクトの障壁で区切っているに過ぎない。

 火柱は逃げ道を失うと障壁の壁沿いに進み上空へと再び舞い上がる。火はそもそも上へと向かう性質がある。だが、上には火災旋風の原点にして火元となる人物がいる。舞い上がってきた火は再び蓮見へと集まり再度降下。これを繰り返すことである意味で永久機関的な何かを発明した蓮見は高らかに笑う。


「アハハ! これが俺の新しい力だ! 酸素を奪ってしまえばどんなプレイヤーだろうが倒れる。つまり! これこそ! ビューティフルでクレイジーかつ超絶カッコ良くて絶対不可避の一撃とも呼べようぞ! 俺様ってやっぱり天才だ!」


 見事と言えよう。

 実際に爆破態勢完璧かつ毒耐性も完璧のレベッカには火災旋風のダメージは入らない。つまり火災旋風によってできた風の影響を受ける程度で実際の所蓮見と同じく少し熱いなぐらいにしか感じていない。

 ただし物凄い勢いで酸素が燃焼しているため、呼吸困難となった。

 二酸化炭素を始めとした気体が肺を浸食し酸素を求め始める。

 だが、その酸素はもう蓮見より下にいる者には限られた量しかない。

 破壊不能障壁によって区切られたフィールドにはもともと戦闘に十分な量の酸素が用意されていた。それとプラスアルファでプレイヤーが到達できない高度の高さから障壁の壁を抜けて入ってくる仕組みとなっていたわけだが、蓮見が『永久機関(笑)』を完成させてしまった為に蓮見にしか今は十分な酸素が供給されなくなってしまった。こうなってくると蓮見がかつて行った第三層のボス戦(詳細は本編見てください)が可愛いく見える。


 着火剤と呼ぶには敵からすればあまりにも理不尽な粉塵爆発を利用した蓮見。これこそが蓮見の真骨頂でもある。

 ただし蓮見はレベッカと対峙していたわけだが、なぜかレベッカを入れて二十五人全員に深刻なダメージを与える結果となっている。目に見えないHP減少に酸欠でもがき苦しみ倒れ敗北していくプレイヤーたちが死体となるのにそんなに時間はかからない。


 十分な酸素が維持出来なくなった所で火災旋風は業火とも呼べるまばゆいオレンジ色の炎を小さくし消えていく。


 その頃にはもう……。


「ふっ。ついに逝ったか、筋肉マッチョ女」


 と蓮見がドヤ顔でカメラ目線を決めることができる状況になっていた。

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