第2話


「なるほど。それでカムイさんはそういう無茶をしたんですね?」

「はい・・・・・・メタボな中年オヤジだったので、最悪俺でもなんとかなると思いました・・・」


 イカれたオッサンが帰った1時間後、俺は事務所の2階で正座していた。


 いや、正直に言おう。


 俺は優秀な助手であるアンナ君に怒られ、正座させられていた。


「そうですか。でも私、前も言いましたよね?私が居ない時にイカれたのが来たら、どうにかして穏やかな気持ちで帰すようにしてくださいって」

「おっしゃる通りでございます・・・」


 彼女は俺の心配をしてくれているのだ。


 俺の直接的な戦闘力は皆無だ。冒険者の持っている鉄製の剣だって持てやしない。本当にただの非力な人間なのである。


 それでも多少の護身ぐらいはできるが・・・本職には到底及ばない。

 所詮俺ができるのはドン引きしてしまうぐらいに汚くズルい事だ。


 さっきのオッサンがあの場で襲いかかって来たら間違いなく勝てるが、それが屋外、もっと言えばこの屋敷の外だったら俺の勝率は5割だろう。


 そんな訳で、本職の彼女に怒られている訳だ。


「大体ですね、カムイさんはいつもーーーーー





 ーーーーーなんですよ?分かりましたか?」

「よく、わかりました」


 既に怒られ始めてから30分が経っていた。


 俺の脚部は悲鳴どころか辞世の句でも読んでいる気がした。


「・・・・・・・・・よろしい。脚を楽にすることを許しましょう」


 バタッ


 その言葉を聞いた俺はそのまま上半身を床に倒した。


 足がジーンとする。こりゃ10分は治らないだろう。


「助かった・・・・・・・・・」

「これに懲りたら次は無茶をしないでください。・・・・・・・・・それで?そのオッサンはなんて言ってたんですか?」


 アンナは本題に入る。


「簡単だが複雑なようだ」


 矛盾する概念ではあるが、実際そうなのだ。

 

「というと?」

「簡単なのは依頼の内容。要は追い出した令嬢を連れ戻せと」


 自分から追い出しておいて、それを連れ戻したいのは自分勝手すぎる。

 だが今回最もダサいのはそれを自分達で出来ずに俺たちに頼みに来たという点だ。


「なるほど私たちの仕事ではないですね」

「全くだ。それで、複雑なのは・・・ヤツらが追い出した令嬢が特別だったようだ」

「令嬢のお名前は?」

「セシル・ティムレート嬢だ」


 ティムレート魔法子爵家の長女。それがセシル嬢だ。


 このアステラン王国の貴族というものは文官貴族と魔法貴族というものに分かれている。


 文官貴族は一般的にただ「貴族」と呼ばれ、主に領地管理やらを行う貴族である。


 一方、魔法貴族を呼ぶ際は「魔法」+「爵位」で呼ばれる。例を挙げれば「魔法子爵」やら「魔法公爵家」などがある。そして彼らはその魔法の才が認められて貴族になった故に、魔法の研究や戦争での活躍の義務を負う。


 これが2種類の貴族の違いだ。


 そしてセシル嬢は魔法貴族であるティムレート魔法子爵家の長女。


 もちろん俺は彼女をよく調べてある。


 だって「次の#お客様__クライエント__#候補リスト」に載ってたからね。

 このリストを作ってるのは誰かって?


 秘密さ。


 そんな事よりもセシル嬢が何故そんな不幸なリストに名を並べていたのか。


 それは、


「あぁ、確かあの絶望的なまでに魔法が使えないと噂の」


 彼女が魔法貴族の一員であるにも関わらず魔法の才が殆どなかったからだ。


 そして我らの不幸リストは彼女の運命を予言していた。


「そうだ。だがそれでも魔法侯爵家相手に婚約を結べたのは滅茶苦茶に顔が良いかららしいな」

「でも、いざ迎える直前に噂の魔法能力を見させてもらったら」

「予想以上に酷かった。だから婚約を破棄して追い出した。ここまではまぁリストの予言通りになったわけだ」


 そもそも魔法の才能はほぼ遺伝する。だから魔法貴族などというモノが存在し得るのだ。


 だがどうやらセシル嬢は話が違ったようだ。


 ここまでは想定の範囲内である。




 そして問題はその後である。


「そうですね。となると問題は、何故今更彼女を取り戻す気になったのか、ということですね」


 それが分からないのだ。

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