第4話


 行方をくらましたセシル嬢の捜索を始めてから二日。

 一向に何の手がかりも掴めていない俺たちは事務所で作戦会議をしていた。


「そうだな、悪くない案だ。だがその作戦はセシル嬢がまだ王都にいるという前提が必要だ。もしも近隣の都市やら街やらに逃げられていたら、俺たちは王都を馬車で暴れ回るだけになるぞ?」


 恥ずかしいから嫌だ。


 そう言えればどれだけ良かったか。


 だがこの作戦はなかなかに有効だ。それ故にこの提案を正面から否定する事はできない。


「ですがこれしかもう策はありません。カルムス将軍から門番の方には既に手を回してもらっているじゃないですか。彼らからの連絡が無い以上、やはりまだ王都にいる可能性が高いと思われます」


 カルムスのおやっさんは俺の正体を知っている人間であり、王国軍の幹部だ。

 

 そんなカムルスのおやっさんに俺達は声をかけて、門番達に追加で命令を出してもらったのだ。


 その命令とはとどのつまり、貴族の令嬢っぽい赤髪の超絶美人が通りかかったら詰所に留めて欲しいというものだ。


「まぁな。・・・仕方ない。その策でーーー


 俺がアンナの案を飲もうとした時、


「カムイ殿っ!カムイ殿はいらっしゃるか!!」


 事務所に男の声が響いたのだった。





「分かったすぐ行く。できればそのまま捕まえといてくれ」

「はっ!」


 男は市中の警備兵だった。


 俺の言葉を聞いた彼は綺麗な敬礼をしてそのまますぐに外へ出て行った。


「カムイさん!見つかったんですかっ!」


 アンナが俺に声をかけてくる。


 彼女は警備兵がこの事務所にやってきた直後から出発の準備をしていた。


「あぁ。食堂にいたところをとっ捕まえたらしい。・・・・・・逃げ出してから数日間、何も食っていなかったらしかったそうだ」

「それで遂に食堂に駆け込んで無銭飲食で捕まったと?」

「いや、身体で払えと言われてキレて暴れまわったらしい」


 うーむ。なかなかのおてんば娘の様だ。


「そ、それは・・・令嬢にしては随分と元気な方ですね・・・」

「まぁな。彼女の身柄は俺たちが引き受ける。食堂に払う用の金を準備してくれ」

「大丈夫です。そのぐらいならいつも持ってますから」


 準備の良い優秀な助手だ。


「それは重畳。じゃ、さっさと行くか」


 そう言った俺は、アンナと共に件の食堂へと駆け出すのだった。





「ちょっと!離しなさいよ!何で私が捕まえられてるのよ!!」


 いやぁ・・・・・・・・・


 声でわかるね。


 この令嬢はとんでもないほどに活きがいい。


 実際、警備兵達が数人がかりでセシル嬢を押さえている。


「よう。お疲れさん」

「っ!かっ!カムイさん!」


 俺は近くにいた警備兵の1人に声をかけた。


 俺と顔見知りな彼はすぐに事情を理解した。


「早く彼女を連れてってもらえませんか?・・・ほら、さっきからあの調子で我々も困ってまして」

「だろうな」


 そう呟く俺の前ではセシル嬢が元気に床で跳ねている。


「いいっかげんにっ!離しなさいよっ!」

「ぐぶぅっ!?」

「かっ!?」


 ・・・え?男の子の急所にそんな鋭い蹴りしちゃう?


 ・・・・・・・・・労災、降りると良いね。


「ちょっ!アンタ!ボケっとしてないで助けなさいよっ!」


 ヒュンッ。


 声をかけられた事で、ムスコの危険を感じた俺は思わず内股になる。


「・・・・・・・・・何してんのよ」


 おっと。


「いや、これは失礼。身の危険を感じたもので」

「それでどうして内股になるのよ」


 うーん。


 これは男の子にしか分からないモノだから、純情な乙女には理解してもらえないのだろう。


「そういうものです。お気になさらず。それよりもーーー」

「あなた、カリトリムの人間でしょう。私を簡単に連れ戻せると思わない事よ」


 なるほどそう思うだろうな。


 まぁ違うのだが。


「いいえ、私はそこの人間ではありませんよ」

「嘘ね」


 お転婆な上に人の話を聞かないタイプと来たか。


 ・・・・・・・・・面倒くさ。


「はぁ・・・私は婚約破棄令嬢救済所のカムイと申します。そうだよな?」


 俺はさっきの警備兵にそう話しかける。


「えぇ。彼は間違い無くカムイです」

「う、うそ・・・」


 お?その反応は・・・・・・


「あなたが、あのカムイなのね!?」


 俺を知ってる反応だな?

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