第5話


「おや、私の事をご存知の様で」


 これは喜ぶべき事態だとは言い切れない。


 確かに、事業主としては名が売れているのは喜ばしい。


 だが俺を知っているという事は俺たちの今までの実績も知っているという事だ。


 妙な連中が寄ってくるのは必然だろう。


 それは是非とも避けたい事だった。


「当たり前じゃない!アンタを探して彷徨ってたのよ!今までどこにいたの!」


 ・・・・・・確かに俺達の事務所は一見してソレとは分からない様にしてある。


 それは助けを求めている令嬢にとっては致命的な問題だが・・・悪いが変えるつもりはない。


 あの屋敷には色々と仕掛けがあるのさ。


 外観だけが多少綺麗なボロ屋敷・・・というだけじゃないのさ。


「これは申し訳ない。ですが、遅ればせながらもこうしてお迎えに上がった訳です。どうか許していただけませんか?」

「・・・・・・・・・分かったわよ」


 お転婆で人の話を聞かないタイプではあるが、物分かりはまだ良い方の様だ。


 自分をこの状況から救ってくれそうな俺の言葉に素直に従ってくれた。


「では・・・・・・あぁ、まずはお名前をお伺いしても?」


 本人確認は大事だからね?


「分かってるでしょ?」

「まぁ、一応は。それでも確認は大事なのですよ」

「・・・・・・・・・そう。いいわ。心して聞きなさい。私はセシル・ティムレート。ティムレート魔法子爵家の長女よ」

「セシル嬢にお間違い無いようで良かったです。では、アンナ?」

「はい」


 俺の言葉を聞いたアンナは金貨の入った袋を店主に渡す。


「あぁ?何の真似だ?」

「セシル嬢の飲食代と、迷惑料。そして備品の修繕費です」

「あ、あぁ・・・・・・なんでオメェらが払うんだ?」

「秘密です」


 アンナはそう言い放ち、俺のところに戻ってくる。


「カムイさん、行きましょう。これ以上は」

「そうだな。それじゃ、君たち。セシル嬢を解放してくれねぇか?」


 警備兵は大人しく俺の言葉を聞く。


 セシル嬢は解放されたそのままに、俺の前までやってくる?


「それで?そんなご大層な名前の場所の人間なんだから、早くどうにかして私を助けなさい?」


 見上げ果てた上から目線である。


 令嬢らしいね。


「えぇ。もちろん。請求は・・・ティムレート家に回しておきます。さ、行きましょう」


 請求先の事前告示は必須さ。


 勝手に動き始めたのは俺たちだが、まぁ最悪身代金というわけにでもして脅せば良いさ。


 婚約破棄されて市中でグレていた娘は預かった。返して欲しけりゃ救出代と世話代を払いやがれ。


 ・・・・・・・・・パッと見、義賊に見えなくも無い。


 それはともかく俺たちは食堂の外に出る。


「行くって、どこによ?」

「あなたが探し求めていた我々の事務所です。そこならば、ここよりは安全ですよ。・・・それとも実家に帰りますか?もしくはカリトリム魔法侯爵家に?」

「実家もカリトリムの所も却下よ。分かったわ。早くあなた達の事務所に案内なさい」


 カリトリム魔法侯爵家はともかく、実家にも帰りたがらないとは・・・


 思った以上に面倒かもしれないぞ、これは?


「畏まりました。では行きましょう。アンナ、頼むぞ」

「えぇ」


 アンナに声を掛けたのはーーー


「居たぞ!セシル・ティムレートだ!捕らえろ!!!」


 ーーーこういう奴らの対処をしてもらう為さ。

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