第11話


「へ?・・・・・・・・・それは、どういう意味でしょうか?」


 セリス嬢はまだ自分がどういう立場に置かれているのか理解できていない様だ。


 だがそれを説明するのは俺の仕事ではない。


「言葉の通りだ。君がこの数年で破壊した市中の建物や屋台、その他諸々の損害賠償請求がこれだけ溜まっている。ムンハルク公爵家当主である君のお父上が既に全額支払われているが、本来は君が払うべきものだ」


 馬鹿な娘が暴れ散らかして、御当主殿は一体いくら払ったのだろう。


 積み重なっている下の紙の束が全てその請求書だと言うのだから、恐ろしい事この上ない。


「君はこれだけの迷惑をお父上に掛けただけでなく、その名誉をも傷つけたのだ。君のお父上はとっくに君を見放していた。だからこれだけの金額を払っている事さえ、愚かな娘には伝えなかったのだろう」


 伝えたところで娘の人間性が変わるとは思えなかったのだろう。


「そして金銭的な負担をお父上にかけ続け、他の貴族達からの反感も買い続けた君は・・・・・・・・・見えるかい?全200ほどの貴族家のうちのその半数、100の貴族家の当主達から嘆願書が出されている」


 そりゃすごい。


 カイン君が広げた羊皮紙にはズラーッと各貴族家の当主の名前が並んでいる。


 上は公爵、下は男爵までいた。壮観だ。


 セリス嬢が貴族社会から嫌われているのは知っていたが、まさか全体のうちの半数もの貴族に嫌われていたとは・・・・・・


 もはや褒めてみたいほどだ。


「な、なな、ななななな・・・・・・・・・」


 これはどうやらセリス嬢にもこたえたようだ。


「そんな立場にも関わらず、君は妹のソフィアの婚約相手を誑かしてその婚約を破棄させ、その上今度は自分と婚約させただと?ムンハルク公がそれを許すはずがない。言え、公文書を偽造したのだろう?」


 ほーう。


 俺はてっきり、婚約している子爵家の男以外と不埒な関係になってしまった事を、公爵家が揉み消そうとして妹と姉を取り替えたのだと思っていたが・・・・・・・・・


 よくそこまでしたな。


 いやはや本当に褒めたくなった。


「どっ、どうしてそれをっ!」


 ・・・・・・・・・言っちゃダメじゃないか?その言葉は。


 褒めたい心が一瞬で吹き飛んで呆れに変わってしまった。


「知りたいかい?ムンハルク公が僕に教えてくれたからさ。娘が妹の婚約を記した公文書を2枚とも破った上に、新たにそれを偽造したと。そしてそれを僕に伝えた彼はその後にこう言ったさ」


 カイン君はそこで言葉を止め、最後の一枚の羊皮紙を広げてセリス嬢に見せつける。


 そこにはこう書いてあった。


『私、ムンハルク公爵家が当主ガルストン・ムンハルクは娘のセリス・ムンハルクを我が公爵家から放逐する事を宣誓する。彼の者は以降、ムンハルクの姓を名乗る事を許さず。同時にムンハルク家に係る全ての特権を剥奪する。加えて、セルランズ辺境伯家が次期当主ムストル・ムンハルク殿との婚約は不正によるものであり、この婚約は破棄されるものであるとする』


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん?


 はぁぁぁぁっっっっっっっっっ!?!??!


 いかん!


 声を出すな!俺!


 気をしっかり持つんだ!





 っ!ダメだ!


 止められないっ!!!





 そして俺はやらかす。


 自らの抑止に失敗した俺は王城中に響かんばかりの声で叫んでしまったのさ。


 この言葉をね?











 



「また婚約破棄かよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!」


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