第12話


 しまった。


 完全にやらかした。


 この場の全員の視線が俺に刺さっている。


 やめろ。


 そんな目で見ないでくれ。


 恥ずかしい。



 悶々とする俺を救ったのは、意外にもカイン君だった。


「・・・・・・・・・彼は疲れているのでしょう。じいや、あとでカムイに休息を」

「畏まりましたおぼっちゃま」


 助かった。


 君の事は忘れないさ。


 君が星となってもーーー


 いや、まだ早いか。


「だ、誰ですの!?その不潔な男は!」


 セリスは俺を罵る。


 うるさい。


 誰が不潔じゃ、ばーかばーか。


「黙れ。誰が平民に口を開く許可を出した」


 老執事のグリムがそう冷たくセリスに言い放つ。


 そう、セリスは既に平民に堕とされた。先程のカイン君の宣言により、セリスの父であるムンハルク公の宣誓書はその効力を完全に発揮した。


 既にセリスは平民であり、ムンハルクの姓を名乗る事は禁じられ、貴族の特権の全てを失った。


 ついでに・・・・・・・・・婚約破棄もされた。


 まただ。またじゃないか。


 まーた婚約破棄だよ。


 以前にも言ったように、セリスの婚約は破棄されるだろうという予感はしていたが、幸い彼女は俺たちのクライエントにはなり得ない。


 だって彼女はもう令嬢じゃ無いもんね。


 俺たちはあくまで婚約破棄された令嬢を救う組織だから。


「わ、私が平民ですって!?ありえない!ありえないですわっ!」

「黙れ!兵どもよ!」


 グリムさんは怒鳴りつける。


 その直後、


 ダダダダダダダッ!!


 グリムさんの声に応えて、兵達がやってくる。


 彼らはすぐにセリスを取り押さえ、その身を拘束する。


「はっ、離しなさい!私はムンハーーー」

「それ以上は、許されぬぞ」


 グリムさんの言う通りだ。


 セリスは既に放逐された身。

 

 平民が貴族の名を騙るのは許されない。


 兵達がセリスを連れて行こうとした時、俺は口を開いた。


「まぁまぁ、せめて俺が誰かぐらい教えてやりましょうよ」


 彼女が拘束されたのは王族の前で無断で口を開いたのだが、そうさせたのは俺だ。


 せめて手向けに俺が誰なのかぐらい教えてやらねば。


「カムイ様がそうおっしゃるのなら」


 グリムさんはそう言って兵達を止める。


「どうも、グリムさん」

「お気になさらず」


 うーん良い人だ。


 それよりも自己紹介といこうじゃないか。


 もちろん、俺の正体を告げるつもりはないがね?


 ちなみに助手のアンナ君は王城の外でソフィア嬢の警備兵達と待機している。


「私はカムイ。ソフィアお嬢様とカイン第二王子殿下の恋のキューピッドにございます」


 かわいい挨拶ができたな。


「そっ!それはどういう!?」


 まぁそういう反応だろうな。


 セリスの反応はもっともだし、ソフィア嬢にもまだ詳しく説明していないから彼女も目を見開いている。


 さて、お仕事といこうか。


 だがコレがうまくいくかはキミ次第だぞ?


 カイン第二王子君?


「カイン第二王子殿下、並びにムンハルク公爵家が長女ソフィア・ムンハルク嬢。この度は私、カムイの名をもって、両者に婚約を結んで頂きたく馳せ参じました。・・・・・・・・・カイン殿下?」


 カイン第二王子は俺をしっかりと見ていた。


 彼は俺の呼びかけに対してゆっくりとではあるが同時に力強く頷き、ソフィア嬢に向き合う。


 覚悟を決めた男の顔だった。


 ソフィア嬢はそんなカイン第二王子の意思を感じたのだろう。


 その端正な顔をしっかりとカイン第二王子に向ける。


 そしてカイン第二王子は彼女に跪き、彼女に手を差し伸べ、


 ソフィア嬢はそれに右手を出す事で応える。


 カイン第二王子はその右手を取って、口を開く。


「美しきご令嬢よ。私の名はカイン・ドラケニア・アステラン。この王城で開かれたパーティーで、貴女のその美しい姿を見た時から、私の心は囚われてしまいました」


 カイン第二王子はそこで一度言葉を区切る。


「あぁ、深窓の令嬢よ。その名を聞かせてはくれないだろうか?」


 当然カイン第二王子は彼女がソフィア嬢である事を知っているが、聞くのが礼儀だ。


「私はソフィア・ムンハルク。ムンハルク家が長女にございます」


 ソフィアはハッキリと告げーーー


「あぁ美しきソフィアよ。どうか我が妻となってくれないだろうか。君を我が名の下に、幸せにする事を誓おう」


 カイン第二王子の言葉を聞いて、ソフィアは涙を流しながら応える。


「喜んで。カイン様」


























「ちょっ!ちょっと待ちなさいよっ!!」


 そんな無粋な声が突然周囲に響くのだった。


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