第7話


「はぁっはぁはぁはぁはぁ・・・・・・・・・・・・」

「ふぅふぅふぅふぅぅぅぅ・・・・・・・・・」


 夜の屋敷の奥部屋で、

 息を荒げる男と女・・・・・・・・・


 2人の吐息は混ざり合い、

 夜はますます深まっていく・・・・・・






 言葉にすると随分と官能的だが、実際は命からがら襲撃犯から逃げてきただけだ。


 この屋敷の奥部屋にいるのはここが2番目に安全だから。


 俺とセシル嬢の息が混ざり合ってるのは、つまりこの部屋が狭いだけ。時間も夜だからね。


 本職の吟遊詩人ならこれをもっとドロドロにどエロく書けるんだろうが、俺の語彙じゃこれで限界。


 嘘も書けないしね?


「そっ・・・それで・・・・・・ここなら、安全ですのっ・・・・・・?」


 息も絶え絶えでそんなセリフを言われたら、男の子はイケナイ妄想をしてしまいそうだ。

 言葉だけを聞いたのならね?


 だが状況は最悪とは言わないが、決して良くはない。


 渦中のセシル嬢を確保した矢先に襲撃に遭い、アンナはまだ戻ってきていない。


「えぇ、市中よりは。・・・・・・・・・あ、先程の無礼をお許しください」

「無礼?」

「セシル嬢に対して走れ!などと無礼な言葉を発してしまった件です」

「あぁ、その事ね。良いわよ別に。気にしてないから」


 そう言ってもらえると助かるね?


 襲撃犯から逃げる為とはいえ、平民があの様な口をしたらそれなりの処罰が下るのだが、本人に許してもらえたのだからこれで良いだろう。


「そう言って頂けるとありがたいですね。それはそうとセシル嬢?」

「今度は何よ?」


 そうムスッとしなさんな。


 慣れない運動をしたばかりで疲れてるのは分かるけどね?セシル嬢には聞かないといけないことが山ほどあるんだよ。


「そうですね。聞きたいことは沢山ありますが、今はまず二つだけお伺いしても?」

「・・・・・・・・・なんで私が襲われたかについてでしょ?」


 正解。だがそれは二つのうちの一つだ。


「えぇ、それが一つ目」

「もう一つは?」

「いえ、まずはそれに答えていただけないでしょうか?」


 両方気になるが、質問は一つずつだ。


 俺は大人の余裕のある男だからね。レディを急かす真似はしないのさ?


「・・・・・・・・・アレがどこの者かは知らないわ」

「なるほど?」

「でも、どうして私が狙われたのかは分かるわ」


 それは興味深い。


 魔法の才がゴミだから婚約破棄をされたのだ。


 であればセシル嬢には魔法以外の何かがあると言うのだろうか?


「・・・今あなた、失礼なこと考えてなかった?」

「おや?随分と突然な・・・?」

「白状なさい。これは女の勘よ」


 この前もアンナにそのセリフを吐かれた。


 下手に逆らうと面倒だと考えた俺は今度は従うことにした。


「・・・・・・魔法の才能が絶望的に無いセシル嬢ですから、狙われるのは魔法以外の要素かと思いましてね?」


 無理やり言わされたのだ。


 多少の毒ぐらい許してくれてもいいだろう。


 だがそんな俺の毒を喰らったはずのセシル嬢は不満な様子どころか、ニヤついていた。


「ふふふ・・・ハズレよ」

「ハズレ・・・・・・とはつまり?」

「私に聖女の聖痕スティグマが現れたのよ」


 それを聞いた俺は思わず絶句しーーー


「は・・・・・・・・・・・・?」


 ーーーかろうじてそんな間抜けな声を絞り出した。



 

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