第7話


 別に公爵家の馬車の中の人物が御当主殿だったりその夫人の誰かだったら何も問題は無いさ。


 俺たちはしれーっと丁稚の様に振る舞うだけで良いのだから。

 


 だがもしも、馬車の主がソフィア嬢の姉のセリス嬢だったら・・・


 妹に10年も嫌がらせをし続けて、挙句婚約者を寝取った様な相手だ。

 間違いなくウチの大事なクライエントソフィア嬢に絡むだろう。

 それだけならまだしも、ソフィア嬢を連れ回している俺たちにまで飛び火してきたら・・・高飛車お嬢様の相手なんてごめん被る。


 貴族相手の商売をやっている以上そう言う手の者の扱いには慣れてはいるが、公爵家の長女と来ると恐ろしい程にイヤミな相手かもしれない。


 勘弁してくれ。


 いや、不吉な事を考えるのはやめとこう。


 それよりも直近の厄災を振り解かねば。


「アンナ、時間差で入るぞ。このままでは王城内でバッタリかもしれない。ソフィア嬢が第二王子と一緒にいるところを見られたら至極面倒な事になりそうだ」

「えぇ、わかります。嫉妬に駆られた女は恐ろしいですからね」


 ・・・・・・唐突な自己紹介をありがとう。


「・・・・・・・なんですかその目は。ぶち殺しますよ?」

「えぇ!?こっわ!アンナ君ってそういうキャラだったっけ!?」


 いや違うはずだ。

 アンナ君はもっとお淑やかで貴族の扱いが上手な麗しの君のはずだ。


 もちろんこれは私情を挟んであるどころか、純度100%の私情さ。


 言い換えると俺の願望。

 アンナ君にはそうあって欲しい。


 そしてそうあるはずのアンナ君は熊をも射殺せる様な視線を俺に向けている。


 何故俺の考えがバレたっーーー!?


「はぁ・・・バレてますよ。・・・・・・・・・ほら、それは後で話し合う事にして」


 うーん。

 俺をまず骨にしてからの話し合いになりそうだ。


 常世と黄泉の2人による、世界を超えた話し合いお説教


 それはそれで面白いな。

 悪くない気がしてきた。


「それよりも、公爵家の馬車、行きましたよ?」

「そうだな。俺たちはもう少しペースを落としながら行こう」


 そう言って俺とアンナは馬の足を緩める。


 後ろの馬車もそれに続く。

 ちなみに警備兵達は歩きだ。

 それに合わせて馬車も大してスピードは出していなかったが、それをもっと遅くする。


 さすがにここまで遅いと御者も不思議に思ったのだろう。


「カムイ様、アンナ様?どうしてこれほどゆっくりと進むので?」

「ソフィアお嬢様に伝えてくれ。姉上がいると」

「なぁ!?か、畏まりました!」


 驚いた顔をした御者は興奮そのままに馬車の中へ声をかける。


 そのまま2、3言葉を交わして、今度は俺たちに話しかける。


「お嬢様は構わないと仰っております。このまま進みましょう」

「分かった」


 そんな会話をしている間に、俺たちは遂に王城の前まで辿り着いた。





「止まれ!ムンハルク公爵家御一行とお見受けする!」


 門番の男にそう声をかけられる。


「そうだ!」


 相手をするのは勿論俺さ。

 理由は簡単。


 先頭だからってだけさ。


「何用である!つい先程、ムンハルク公爵家のご息女セシル・ムンハルク嬢がお通りなったばかりだが、その一行に係る者か!」


 いいや、まさか。

 それを避ける為にわざわざ距離を置いたのに。


「違う!我々はセシル・ムンハルク嬢とは別の要件にて登城願う者である!」

「だがその様な通達は来ていない!事前の通達が無い場合は、ここに留め置き登城管理課への確認が必要になる!」


 実にマニュアル通りの対応だ。


 だが・・・そろそろ来てくれよおやっさん。

 見てんだろ?


「・・・・・・・・・」


 俺は黙った。

 それが合図だ。


 直後、鉄の門の後ろから現れた大男が声を張り上げる。


「構わん!その者達を通せ!」

「カルムス将軍!?」


 ちょーっと遅いぞ?

 少し責める目線を投げ掛けるが、カルムスのおやっさんは完全に俺を無視する。


「構わんと言っている!事後処理は私がやる!今はさっさとその一行を通せ!」

「は、はい!どうぞお通りください!」


 門番達が慣れた手つきで門を押し開き、俺たちはその門から入場する。




 そしてそのままおやっさんの隣を通り過ぎようとした時、


「うまくやれ。だが気を付けろ」


 俺はそう声を掛けられた。


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