第8話


 王城内は静かだった。

 まだ正午になったばかりなのだからそれも当然ではある。


 王城の周りにある諸々の官庁は丁度忙しくなる時間であるのに対し、王城が騒がしくなるのは夕方以降だ。

 

 貴族のパーティーはそのぐらいから始まるモノなのだから。


 とにかく、俺たちはそんな王城の中を無遠慮に進んだ。


 時々俺の姿を見て訝しげな視線を送ってくる奴らが居たが、俺の正体を知っている奴やら俺が何をしに王城に来たのかを知っているやつやらは無視をしてくれる。


 それで良い。


 分かってる奴が選ぶのは無視一択だ。頭を下げられるのを、俺は好まないという事を知っているのだ。


「か、カムイ殿は何者なのですか!?王城を案内もつけずに、それどころか周囲の物に身分を尋ねられないなんて・・・一体、カムイ殿はどの様なお立場で」

「お気になさらず。さ、それよりもそろそろ第二王子のお部屋に着きますよ。ご準備は宜しいですか?」


 俺はソフィア嬢の言葉を軽く受け流して、そう告げる。


 詮索はご法度だ。

 是非ともやめて頂きたい。

 

 だが俺はそう口にする事はせず、本題に話を戻す事にした。


「じゅ、準備って言われましても・・・何をどう準備すれば宜しいのでしょうか?」


 そりゃまぁ心の準備だったり、もしかしたら第二王子が人目も憚らずそのまま・・・・・・・・・なんて事もあるかも知れないから、身を清めるとか。


 いや、あのヘタレ・・・お優しい第二王子はそんな事はしないだろう。


 だがもし万が一があったら?


 我ら紳士淑女はそっと退室するのさ。

 それが大人の余裕というものさ。


「まぁ、心の準備ですよ。まぁ待ちませんけどね」


 だって俺たちは既に第二王子の部屋の前まで来ているのだから。


 扉の近くにいた側使いの老執事が俺の顔を見て驚いた表情を浮かべるが、すぐに微笑む。


「これはこれはカムイ様。ようこそお越しくださいました」

「あぁ、久しぶりだなグリム」

「えぇ。・・・・・・・・・なるほど。今回はでございますか」


 俺の正体を知っている老執事・グリムはそうぼかして言ってくれる。


「そうさ。殿下の願いを叶えに来た」

「・・・・・・・・・ムンハルク公爵令嬢の騒動は、既に貴族社会に詳しい者は知っております」


 グリムはソフィア嬢をチラリと見てそう言った。


「ですがこれも天のお導きなのでしょう。殿下とソフィア嬢の深い縁に敬服するばかりですな」

「全くだ。ほら、それよりもさっさと部屋に入れてくれないか?どうやら今日は良くない導きもあるようだからな」



 その言葉がまずかった。



 良くない導きをしたのは天ではあるが、決め手となったのは俺のこの余計な一言だった。




「ソフィア!?あなた、どうしてここにいるの!」


 良くない導きの主人公は、そう声を張り上げたのだった。

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