第6話
「あー、ソフィア嬢と一緒に馬車に乗ったほうが腰へのダメージが少なかったなぁ」
俺たち一行は王城に向かっていた。
その中でも俺と助手のアンナは馬に跨ってソフィア嬢達の馬車を先導する様に進んでいる。
「まぁカムイさんは乗せてくれないでしょうけど、私はそうした方が良かったですね」
確かにアンナの言う通り俺は乗れないだろう。
未婚の公爵家のご令嬢と一緒に同じ馬車に乗る事になるとか、下手をすれば公爵家から暗殺部隊を送られそうですらある。
「え?なんでアンナは乗る方が良かったんだ?俺と一緒に馬で王城に向かうのも乙じゃん?」
「乙も何もいつも通りの光景じゃないですか。慣れましたよもう」
俺たちは定期的に訳あって登城している。
まぁそれは別のお仕事の話だからね、今は良いとしよう。
それよりも何故アンナは、自分が馬車に同伴するべきだったと言ったのかが気になる。
「女の勘ですよ。ソフィア嬢の姉上のセリス嬢・・・・・・・・・次のクライエントになりそうじゃないですか?」
「・・・・・・・有り得るな」
「だから情報収集をしようかと」
その事ついては俺も予感していた。
・・・ん?これってつまり俺も女の勘を持ってる?
いやいやいや、俺はついてるぞ。
まだ男のはずだ。
それより、セリス嬢だ。
傲慢で高飛車な人間が、それとは正反対の性格をしている妹の婚約者を寝取ったのだ。
慎ましい性格をした妹の方と結婚する直前に、まるで人間性が違う人間がやってきてそのまま関係を持ってしまった。
俺だったら返品願いたいね。
真珠を注文して生ゴミが送られてきたら、きっと皆そうするね。
しかし今回は問題がある。
「だがしかしな。辺境伯家から言い出すのは難しいだろう。この短期間で2度も公爵家との婚約を無碍にする事は無いだろうな」
辺境伯がいくら爵位以上の権力を持っていても、公爵家には劣ってしまう。
もし再び婚姻を破棄すれば、つまり姉のセリス嬢との婚約をも破棄すればどうなるか。
公爵家としては許せたものではないだろう。
ソフィア嬢との婚約を破棄した時は、いわば取替えだったからまだ許されたのだろう。
だが、許されたとはいえそれはそれで事情があるはずだ。
婚姻の取り替えが許されたのは・・・・・・・
「公爵家が婚姻の取り替えを許したのは、娘が結婚するより先に男と、それも妹の婚約者と関係を持ったのを握り潰すためだろうな。その手段として、婚姻を取り替えて最初から2人は相思相愛だった事にした、ってトコじゃないか?」
これはあくまで予想だったが、ほぼ間違い無いだろうと俺は思っていた。
貴族はメンツが何よりも、それも公爵家となればそれはより一層重要になる。
そんな家が、まさか娘の不貞を隠さない訳がない。
故に、格下の貴族である辺境伯家からの申し出を、婚姻の取り替えを許可したのだろう。
なるほど貴族らしいやり口だ。
「だが婚姻を掻き乱された娘側としてはたまったもんじゃないだろう。だからソフィア嬢は最初にウチに来た時に姉と相手の男への報復をしてくれって言いに来たんだろ」
「なるほど。私の女の勘を実にそれっぽい話に昇華してくれますね」
褒められちまった。
女の勘より冴えてる俺。
うーん評価し難い気持ちになる。
「まぁな。でもまぁこういうゴタつきには仕事柄慣れるもんじゃないか?」
「そうですね。しかしカムイさん?」
「ん?」
アンナが前を真っ直ぐ見たまま俺に話しかける。
何かをじっと見ている様だが・・・・・・・・・なるほど。
これはマズイかもしれないな。
「・・・見えましたか?」
「あぁ。・・・・・・・・・チッ、最悪だな」
思わずそう口にしてしまう。
これは実にマズイ、というより面倒だ。
何をそんなマズイマズイ言ってるかって?
そりゃお前ーーー
「どうして王城の前に、俺達の後ろを走っている馬車と同じ紋の馬車があるんだろうな」
ーーー王城の前にセリス嬢の実家であるムンハルク公爵家の馬車が止まっていたからさ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます