第2話
「な、なるほど。ソフィアお嬢様がどういったご事情なのか、大まかには理解できました」
姉に婚約者を寝取られた。なるほど悲劇である。
だがここで、そもそもの疑問が浮かぶ。
「しかし何故、お姉様であるセリス様はソフィアお嬢様の婚約者に対してその様な行動を?」
自分で言うのならまだしも、まさか俺が公爵令嬢に対して「寝取った」なんて言葉を言えるわけがない。
それはそうと、この疑問だ。
何故、姉は妹の婚約者に手を出したのか。
公爵家の長女ならば、かなり上のランクの相手と結婚するはずだ。例えそれが政略結婚であっても、相手の身分が高ければそれなりの生活が保障される。
にも関わらず何故、姉はわざわざ妹の婚約者などという自分が結婚するだろう相手よりも下のランクの男を奪ったのか。
まぁ正直に言えば、大方の予想はつく。
俺だってプロだからね。婚約者の略奪の多くはこれが原因なのさ。
それはつまりーーー
「姉は、私の事を憎んでおりました」
ーーー姉妹仲が悪い。
俺の予想通りの答えを口にしたソフィア嬢は言葉を続ける。
「私は昔から姉の目の敵にされていました。姉はその特権意識からか、常に周囲を見下す高飛車な性格をしています」
貴族の子女に良くいるタイプ、というか普通はほぼ全員がそうだ。
貴族は特権階級。そんなのは赤子でも知っている。だが赤子でも知っているが故に、貴族の子供は幼い頃から周囲を下に見る癖が付く。
格上の貴族に対してその様な態度を取る事はあり得ないが、公爵家は貴族社会のトップ。そんな立場の家の長女となればもはや止める相手はいない。
「しかし、私はその特権意識を良いものだとは思いません。私達が何かをした訳ではなく、あくまで当主である父上の御威光。その娘でしか無い私達が、どうしてそれを盾に威張る事ができましょうか」
珍しすぎるタイプだ。
まさかこんな考えをしている人が貴族社会に残されていたとは。
思わず感涙しそうになったが、今はいわば商談中だ。
感動の涙は後にとっておこう。
「ですが姉上はそうは考えておりません。公爵令嬢である自分達は崇められるべき存在。そんな考え方をしている姉が、人から好かれるはずがありません」
そりゃそうだ。貴族の相手をするのはあくまで貴族。
であれば相手も相応のプライドを持っているだろうから、馬鹿にされるのは気分が悪い。
「そんな姉上を嫌った方が私との交流を深める様になって以降、姉上は私への嫌悪感を隠さなくなりました」
結果、
「それが始まってから今年でそろそろ10年。結婚適齢期になった私への当て付けをする様に、姉は私の婚約を破棄させたのです」
いやはや姉妹仲が悪いというのは恐ろしい。
・・・いや、女同士の争いか?
まぁどちらにせよ、随分と行動力のある姉である。
いくら妹が嫌いとは言え、結婚という人生が掛かっているイベントを使ってまで妹に嫌がらせをするとは。
そこまで嫌われるとは。
もしかして、この妹であるソフィア嬢も相当な腹黒なのか?
・・・・・・・・・いや、それは無いはずだ。
少なくともあの方の話を聞く限り、素晴らしい御令嬢である。
何はともあれ、次はこちらの番だ。
そう判断した俺は口を開いた。
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