ケース2 ティムレート魔法子爵家の御令嬢セシル様の場合
第1話
「だーかーらーさー?もう何回も言ってるけどさぁ?うちはぁ、婚約破棄された貴族の令嬢を救う為の組織なのぉ?オッサンが言ってる事はうちの仕事じゃ無いのぉ。わかるぅ?」
ある日俺はオッサンと事務所の応接室で話していた。
「し、しかし・・・カムイ殿?これはカムイ殿にしかお願いできない話なのでありますよ」
もしもこのオッサンが哀れにも婚約を破棄された貴族の令嬢の使いだったり従者だったりしたら、俺もここまでイライラする事は無かった。
「うるさいなー。知ったこっちゃねぇんだよそんなことはさぁ」
だがこのオッサンは違う。
まるで俺たちを小間使いか便利屋だと思っているようだ。
「そ、そうは仰いましてもね?ほら、立場が違うだけで状況は同じではありませんか?」
でも見下されるのには慣れているからそれは良いのさ。
しかし1番の問題点は、
「いい加減にしろよオッサン。なんで俺が貴族の令嬢に対して婚約破棄を叩きつけた側の話を聞かなきゃいけねぇんだよボケ。テメェらが勝手に追い出したんだからそのツケは自分で払いやがれ」
このオッサンは婚約破棄をした男側の人間なのだ。
「そ、そうは言いましても」
「あー!ぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃうっせぇんだよ!帰れ!テメェらみてぇなゴミ虫どもに割いてやる時間はねぇんだよ!とっとこ失せやがれ!」
相手をするのが面倒になった俺は机を叩きつけながら立ち上がる。
精一杯の威圧を込めて、目の前の小太りのオッサンを睨みつける。
だがこのオッサンは笑って、いや、嗤っていた。
「へへ、へへへ。い、良いんですかい?そんな態度を私にとって?」
「は?」
はいはい出た出た。
こういう手のものには慣れているさ。
馬鹿貴族やら、その使いやらがよく使う手段。
要はーーー
「私はカルトリム魔法侯爵家の使いなのですぞ?そんな私を追い返せば、カムイ殿もタダではすみませんぞ?」
ーーー家名を使った脅しだ。
もちろんそれだけで済めば良い。
しかしこの手のバカどもは大抵が実力行使もしてくる。
街中で襲ってきたり、タチが悪い奴らはこの事務所まで襲ってきたりしやがる。
だが俺たちを舐めないでほしい。
こんな妙な仕事をしている分、それなりの対策はしてある。
今ここに居ない彼女だってその為にいる。
「ほう。脅しか?」
「えぇ、そうですとも」
そして馬鹿は大抵の場合、脅していると認める。
こういった脅してくるタイプの奴らは殆どが奇襲を主にしてくるのに、だ。
前提として、奇襲は相手が襲われる事を知らないからその効果が絶大なのだ。
なのに「我々はそのうちあなたを奇襲します」と宣言された俺達は対策を取るに決まっている。だから俺達に宣言したその時点で、奇襲は8割方失敗している。
時たま正面から戦おうとしてくる奴らがいるが・・・・・・・・・そういう奴らは貴族の懐刀には向いてないから転職する事を強くオススメしたい。
ともあれこのままオッサンに、俺達がビビっていると思われるのは気持ちがいいもんじゃない。
だから俺はこういうのさ。
「そうか。ならばこう返してやろう」
俺は言葉を区切って、オッサンの意識を俺に集中させる。
人は言葉を聞いている途中でこういう事をされると、無意識のうちに一層相手の言葉に集中する生き物なのさ。
オッサンが俺に集中したのを確認した俺は宣言する。
「かかってきやがれ豚貴族」
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