第1章: 名探偵と美少女と召使い
真凛亜は既に一般病棟に移されていた。
意識が回復したこともあり、ひとまずは安心出来るとのことだった。
「真凛亜…」
俺は近くにあった来院用のパイプ椅子に座り、ベッドの脇から出ていた真凛亜の小さな手をそっと握りしめた。
穏やかな表情でベッドに眠る真凛亜を見ていると張り詰めていた緊張の糸が次第に和らぐのを感じた。
ああ…なんだか瞼が重い。それに猛烈に眠い…。
よほど疲れていたんだろうか…急激な睡魔が俺を襲った。
もはや抗う気力もなくーー俺はそのまま眠りについた。
*
「ん…」
ふと目を覚ます。
あれからどれくらいの時間が経ったのだろう。
時間を確認しようにも真凛亜の病室には時計はない。
スマホの充電も切れていて使い物にならなかった。
「…待合室、行ってみるか」
確かあそこには壁掛けの時計があったはずだ。
…せっかくだし、飲み物もついでに買っておこう。
「微糖の缶コーヒー、また飲んでみるか…」
そんなことを考えながら、俺は病室を出る。
すると、廊下の奥の方から何やら話し声が聞こえた。
「…?」
思わず聞き耳を立てる。
が、声のする場所はそれなりに遠いのか上手く聞き取れない。
この方向は…待合室の近くだろうか?
だが何故待合室の付近で話すなら、中に入って話さないんだ?
扉を閉めて話をすれば、こうして声が漏れることもないはずなのに…そんな余裕もないくらい急を要する話なんだろか。
・・・真凛亜と真衣子のこともあるせいか、至らぬ考えばかりが脳裏に浮かんでしまう。
もし、仮にそうだとしたらこの話は俺に関する話をしているんじゃないかってーーそう思えてならない
ついさっきまで刑事が来ていたからこそ、余計に勘繰ってしまう。
いずれにせよ、確かめないわけにはいかない。
俺は早足で声がする待合室の方へ向かった。
「!あれは…」
待合室に着くと、見覚えのある人物がいた。
俺の想像通り待合室の中には入ってはおらず、廊下側に立って何やら話をしている。
人数で言うと3人。
2人の若い女性の看護師が1人の男性の医師に対して、一方的に何かを話している。
そうーーそのもう1人の医師こそが、見覚えのある人物でもあり真凛亜と真衣子の担当医でもある、その人だったんだ。
俺はその光景を見た瞬間、慌てて廊下の壁側に身を寄せた。
死角とまではならないだろうが、一応見えにくい位置にはいるはずだ。
ここなら、否が応でも聞こえてくるだろう。
・・・あの3人が何を話しているのか。
もちろん俺に関係ない話だったらそれはそれでいい。
当初の目的通りただ普通に待合室に入って、時計を確認して、自販機の微糖の缶コーヒーを買って真凛亜のいる病室に戻るだけだ。
「……」
俺は息を潜めた。
会話の内容も最初は飛び飛びであったが、徐々に理解が追いついて来た。
「先生、本当にいいんですか!?刑事さんをあんな風に追い払うなんて…」
「そうですよ!いくらなんでも…あの人を庇うなんて…状況的に信じられません。一歩間違えたら先生の身だって危ないかもしれないのに…」
会話の流れからして、2人の看護師は医師の身を案じているようだった。
どうもこの辺に関しても俺の想像は当たっていたようだ。
…ああ、やっぱり迷惑をかけてしまったんだと俺は心底申し訳なく思った。
でもある意味ではこれで良かったのかもしれない。
これといって、気になるような会話は何もなかった。
ただのなんてことない当たり障りのない会話だ。
ただ医師の優しさや人望の厚さを再度確認しただけで終わった。
結局のところ単なる行き過ぎた考えだったんだ。
最後の最後で俺の感も外れた。それも良い面で外れた。
ーー医師は本当に、俺を信じてくれている。
そう思った矢先のことだった。
背を向けて、その場を立ち去ろうとした瞬間ーー思わず耳を疑うような言葉が、背後から聞こえて来た。
「大丈夫ですよ。あの人は明日にでも逮捕されますからご心配には及びません」
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