第1章: 名探偵と美少女と召使い
「…さすがだよ、召使いくん」
探偵は不敵な笑みを零していた。
そして、一拍おきながらゆっくりと手を叩いていた。
…拍手でもしているつもりなんだろうか。
「何の…つもりですか」
「・・・・・・・」
探偵は答えない。
この不可解な行動にオレは内心たじろぎながらも、たたみかけるように言葉を続けた。
「アンタ、自分が何をしているのか…本当に分かっているんですか…?」
「もちろん、分かっているつもりさ」
ー即答だった。
ほんと、なんだんだよ・・この、余裕は。
普通なら少しくらい動揺してもおかしくないはずだ。
なのに、何で…この人はその素振りすら見せないんだ?
「…とにかく、オレの言いたいことは以上です。今度こそ、真凛亜ちゃんに本当のことを話してください。」
「ああ…そういえば、そういう話だったね。」
「もちろん、真凛亜ちゃんのことだけではありませんよ。その後にはちゃんと…警察にも話してください。あなたが警察とどういう繋がりがあるのかは分かりませんが…こんな大事なことを隠していたんだ。さすがの警察もあなたのことを野放しにはしないと思います」
「警察、ね…。要するに、自首しろってことなのかな」
「当たり前でしょう。捕まるのは明白ですから。」
「明白ね。キミは、それを言えっていうんだ。真凛亜ちゃんの母親は、10年も前に亡くなっているんだよって。」
「……そ、そうです……っ」
「歯切れが悪いね。それが、真凛亜ちゃんを苦しめることになるって分かっているのに?それでもキミは、この真実を話せって言うの?」
「そ、そういう問題じゃありません!…確かに、辛い真実です。けど、このまま何も知らないままでいることの方が、よっぽど辛いと思うんです」
「ふぅん…。キミはそう、考えるんだね・・・」
探偵は半ば納得したかのように頷いていた。
…ここまで一気に捲し立ててみたけど…本当にオレの考えは正しかったんだろうか?
改めて不安になる。
探偵の様子からして、おそらく間違いはないはずなんだけど。
…なんだか、未だ何かを間違えてるような気がしてならない。
それも根本から覆す、何か…大きな間違いを。
「…それで、結局あなたはどうするつもりなんですか。」
「そうだねぇ…」
「そ、そうだねぇ…って…アンタ、そんな悠長なこと言ってる場合じゃないでしょう!?いい加減にしないとオレがーー」
「ん?やっぱり、警察に突き出すとでも言うつもりなのかな?」
「くっ・・・い、今ここであなたを警察に突き出すと、真凛亜ちゃんに真実を話す機会が永遠になくなります。」
「あくまで私の口から話すことに意味がある…とでも言いたそうだね」
「…当然ですよ。真凛亜ちゃんはあなたの依頼人なんですから。最後まで、責任を取ってください。」
「言うねぇ…そう、真凛亜ちゃんは私の大切な依頼人だ。確かに責任は取らなきゃいけない…」
「そ、そうですよ!探偵、ようやく分かってーー」
ー言いかけた言葉が止まる。
探偵がオレの言葉を遮ったからだ。
「そう、だからこそ私は真凛亜ちゃんには話さない。絶対にね」
又もや淡々と悪びれる様子も無く、そう言い切ったのだ。
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