第1章: 名探偵と美少女と召使い
「!?話さないって…ど、どうしてそこまでしてーー!!」
「悪いけど、私は真凛亜ちゃんに話すつもりもないし、自首もしない。たとえキミが真実を知ろうともそれは変わらないし、変えるつもりもないんだよ。」
「ど、どこまで強情なんですか…ッ!!!」
「強情もなにも私は最初から言っているだろ?話すつもりなんて、始めからないんだ。もちろん約束なんてしたつもりもない」
くっ…開き直りもいいところだ。
あまりにも無茶苦茶だ。
今度こそ、探偵を追い詰めたと思ったのにーー
「…正直、キミには心底驚かせられたよ。たったの一日でここまでのことに気付いたのだから。」
「ここまでのこと…?まだ、何かあるっていうんですか…?」
「・・・それ以上は詮索しない方がいい。キミまで傷付くことはないんだよ。」
「!?それはどういう…」
やっぱり…まだ何かあるのか。
オレの知らない何かが…!!
「さて、話はこれで終わり。もうキミも私に依頼する気なんてないだろ?」
「えっ…」
「えって…なにその顔。元々キミは私に依頼しに来たんだろ?」
「それはそうです…けど」
いつの間にか、真凛亜ちゃんのことで頭がいっぱいになっていた。
確かに探偵の言う通りだ。
元々、オレには関係ないこと。
…だけど、だからって…このまま、何も知らないままでいいのか?
「ほら、私もそろそろ出掛けなきゃいけないんだ。悪いけど、キミの推理ごっこに付き合ってる暇はないんだよ」
「ごっこ…ですか」
「まぁ…なかなか興味深い推理だったのは確かだよ。だから私も最後までキミの話に付き合ったわけだけど…まだまだ甘かったようだね」
「………違うっていうんですか」
「さあ?それはキミが気にすることじゃない。言っただろ。これ以上、キミが傷付く必要はないって」
「そ、そんな…だからって…っ!」
…納得、出来ない。
このままじゃ真凛亜ちゃんは…母親の真実を知らないままになってしまう。
ーずっと、探偵に騙されたまま…。
「…じゃあね、召使いくん。たった一日だったけど、キミと出会えて良かったよ。」
探偵はそう言って、背を向けた。
ー駄目だ。何か、何か言わないとーー探偵は行ってしまう。
このまま納得出来ないまま…さよならなんて、いやだッ!!
「ま、待ってくださいッ!!」
探偵を無我夢中で追いかけた。
ドアから出て行こうとする探偵を引き止めるためにーーオレは背後から抱き着いた。
「オレは…オレは納得出来ませんッ!!真凛亜ちゃんに、ちゃんと話すって約束してくれるまで…オレは離しませんから!!」
さすがの探偵もオレの思いがけない行動にあたふたしていた。
振り解こうと必死になってもがいている。
「何故キミは…そこまでして…っ」
「ーオレも、同じだったんです。ずっと…父が、死んだこと知らなかった…ッ」
「…なんだって?」
ここで、探偵は抗うごとをやめた。
「?あの…?」
「いいから、続けて。知らなかった…って、どういう意味?キミは確か…祖父から聞いたって言っていたよね?」
「・・・聞いたのは確かです。でもそれは…祖父が亡くなった後に知ったんです。祖父が遺した遺品の中にビデオテープがあって…そこに音声として残っていました」
「聞いたっていうのは、そういう意味で……」
「はい…オレにとって祖父は育ての親みたいものだったんです。オレのことをすごく大事にしてくれて…優しくて、本当に大好きでした。でも、一つだけ許せなかったことがあるんです」
「…許せなかったこと?」
「祖父は以前からオレにこう言ってたんです。お前の親父は居なくなった母親を探すため息子を私に預けたんだ。いつか、必ず迎えに来るからそれまでは私と二人で頑張っていこうって。オレはこの言葉をずっと信じていました。父と母が、二人一緒に迎えに来てくれるのをずっとずっと…10年間、待っていました」
「10年って…」
「…そうですッ!オレは、ずっと騙されていたんです!本当は、父が母を探して出て行ったすぐに事故にあって…ッ!!うっ…ううっ…」
終わったと思っていた。
ずっとずっと、終わったことだと自分にそう言い聞かせて来た。
だけど、こうして言葉として吐き出すとどうしても気持ちが溢れて止まらなくなる。
…悔しかったんだ。
何も知らないまま過ごして来た自分が、何よりも悔しくて許せなくて、情けなかった。
「ーようやく本音を話してくれたね。」
「え、どういう意味ですか…?」
「どうもこうもないさ。全く、大の男が子どもみたいに泣いて…恥ずかしいとは思わないのかい?」
「ほ、ほっといてくださいッ!大体アンタが真凛亜ちゃんに話してくれないから…っ!!」
「…真凛亜ちゃんに、話せば良いんだよね?」
「ッ!!話してくれるんですかッ!?」
「でも、その前に…召使いくん?キミはいつまで私に抱きついてるつもりなんだい?」
「…え、あっ…す、すみませんっ!!」
慌てて探偵から離れる。
ここでようやくオレは自分がやってしまった事の重大さに気付く。
「全く…キミには参ったよ。」
「うっ…すみません…」
探偵は半ば呆れ気味に言った。
こればかりはオレも何も言えなくなってしまう。
いくら探偵を止めるためとはいえ、抱きついて、しかもあんな泣きじゃくる必要までなかったはずなのに。
ううっ…なんか一気に恥ずかしくなってきた。
穴があったら入りたい。
「落ち込んでるところ悪いけど、話を進めてもいいかい?」
「あ、はい…真凛亜ちゃんのことですよね」
「ああ、キミのお望み通り、真凛亜ちゃんに話してやってもいい。ただし、キミにも強力してもらうからね」
「えっ協力…ですか?」
「そう、そもそもキミが言い出したことなんだから、付き合うのは当然だよね?」
「そ、それはそうかもしれませんけど…」
「かもじゃない。いいね?ちゃんと責任はとってもらうよ」
どうやらオレに拒否権はないみたいだ。
だけど、責任と言われるとオレも引くに引けない。
「・・・分かりました。あなたの見張りついでにオレも付き合います」
「あはは、まるで信用ないなぁ」
「むしろ、今まで信用されてるとでも思っていたんですか?」
「言うねぇ…でも、キミにはまず私のことを信じてもらわないといけないことがあるんだよ」
「?どういう意味ですか?」
「……まだ、キミの知らない事実があるってことだよ。何度も言うようだけど真凛亜ちゃんには話す。けど、その前に先ずは私の話を聞いてもらわなきゃいけないんだ」
「・・・要はその話を、信じろってことですか」
「もちろん。じゃなきゃ話は進まないからね。どうする?キミはここまでの事を得て、私のことを信じてくれる気になってくれたかい?」
「そ、それは…」
・・・正直、難しい話だ。
探偵がここまで念を押すってことは…よっぽどの話なんだろう。
きっとオレの想像を超える何かがあるんだ。
「…いいですよ、その話ってのを聞かせてください」
「おや、意外にも早かったね。」
「ええまぁ…ここで悩んでても仕方ないんで。だから、とりあえずは信じてあげますよ。」
「とりあえずって…やれやれ。キミもなかなか強情だねぇ…」
「…あなたには負けますよ。それに、それを言うなら10年間も騙し続けるあなたな方がよっぽど強情なんじゃないですか?」
オレがそう言うと、探偵は優しく微笑んだ。
今までは不敵な笑みを浮かべるか、人を小馬鹿にしたような笑い方ばかりだった。
けど今はむしろ誇らしげにも見えて、オレはただただ驚いた。
探偵がどうしてこんな風に笑ったのか、その理由は分からない。
けど、ただ一つだけ言えることはまだ探偵の全部は信用出来ないけど、せめてこの微笑みは信じてみようってオレは素直にそう思ったんだ。
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