第1章:名探偵と美少女と召使い

 


「いいね、初めてにしてはなかなかの演技力だったよ」


「いや元はと言えば貴方が余計なこと言ったせいでしょうが…」


「あははっまぁいいじゃないか。これで真凛亜ちゃんから、警戒されなくなった。召使いくんにとっても都合がいいだろう?」


「・・・真凛亜ちゃんが帰った後でも、まだ召使い呼びですか」



…確かにそれはそうだけど。


全く…オレも依頼人だってこと分かってるのかな、この探偵…。

それにしても、写真のことがやっぱり気になる。

いくら見るだけとはいえ…なんだか見て見ぬフリをしてるみたいで、あまりいい気分じゃないな。



「…よっぽど気になるみたいだね」


「えっ」


「真凛亜ちゃんのコト。やけに気にしてないかい?」


「そ、それは…」



うっ…やっぱりバレてるか。

そりゃあそうだよな…って、自分でも思う。

少し、過剰になりすぎてるって…。


オレの目的はあくまでもひったくられた万年筆の行方だ。

スクールバッグと一緒に取り戻すこと。

それが最優先なんだ。


…余計な感情に振り回されてる場合じゃない。



「…いえ、なんでもないです」


「そ。まぁ深追いはしないよ。あくまでキミからの依頼はひったくられた万年筆の捜索。それにはまず私を信用してもらわないとね」


「信用って…簡単に言いますね。真凛亜ちゃんは素直で良い子だったから、なんとか誤魔化せたかもしれませんけど…普通は騙せませんよ」


「おや。それは召使いのことを言っているのかな?」


「…それもですけど。それ以外にも、あまりにも雑な対応だなと思ったので」



未だ召使い呼びに少々カチンとくるが、別に拗ねているわけじゃない。


…実際にそう思ったんだ。

いくらあんな小さな子が依頼人だからって、少しくらい真剣に話を聞いてくれてもいいだろうに。



「…ふぅん、聞き捨てならないな。私の対応が雑、だって?」


「……ッ」



この時、一瞬だけ背筋が凍った。

ピリッとした嫌な空気を肌で感じたような…


…気のせい、なんだろうか?



「な、なんですか…?」



おそるおそる尋ねてみる。

もしかしたら、わりと本気で怒らせてしまったのかも…っ



「いや何も。じゃあとりあえず今から行こうか」


「え、行くってどこに?」


「そんなの決まっているだろう?」



どうやら怒ったわけではないみたいだ。


それどころかフッと不敵な笑みを浮かべて、こう言った。



「真凛亜ちゃんの母親を、見つけに行くのさ」


「見つけにって…探しに行くっていうならまだしも…」



本当、この探偵の自信満々の態度は一体どこから来るんだ。


ただでさえ警察が手を焼いているっていうのに、こんな写真一枚で見つかるわけないじゃないか。



「ほら、モタモタしない。いくよ」


「ちょっ…ちょっと待ってくださいよ!」



呼び止める暇もなく探偵はそそくさと部屋から出て行ってしまう。



「ああもうっ!」



オレに残された手段はもう、その探偵の後を追うしか他なかった。


聞きたいことが山ほどあるっていうのにどこまでマイペースな人なんだ。


ーー写真のこと以外にも、もっと重要なことがあるっていうのに。


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