第23話

「素敵な名前に決まったようね。これからもバンド活動を続けるの?」


前川さんからの質問に、三人で顔を見合わせながら、大きくうなずく。


「じゃあさ。よかったら、今度、ここで演奏会をしてみない?」


「いいんですか!でも、ジャズですよ?」びっくりして答える。


「いいわよ。ただ、あんまりうるさいのは止めてね。ほら、主人はクラシックが好きだから――あまり先進的なのはね」


 この席からだと、厨房が見える。コーヒーメーカーを気難しいで見つめていマスターが、ギロリとこちらを見た。


「じゃあ、クラシックのアレンジでいくか。バッハとか」


「バッハ……ですか?」イメージが沸かない。


「ジャック・ルーシェみたいな?」と渡辺さん。


「そうそう。モードっぽくするのもいいかも……ちょっとピアノ借りますね」


――ピアノを弾くの?

 

 困惑する私を気にすることなく、紫苑がスタスタとピアノに向かった


 紫苑の両手がピアノを奏でる。アレンジされたイタリア組曲だった。拙いながらも、紫苑の感性が光る。――あのとき音棟で『誰が弾いているのだろう』と不思議に思ったピアノだ。聴くものを魅了する音楽がカフェに響き渡った。


[PlayList No.23 イタリア組曲](https://www.youtube.com/watch?v=Uu4-MhyNz7w&list=PLf_zekypDG5rmEze1PbqCh3dDwop0KTCo&index=23)

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