第9話

「いやー素晴らしいね」


 満足気な紫苑の顔を見た。


「すぐにここまで弾けるのは才能だね」


 才能?その言葉にどきりとした。私は彼の曲をただ弾いただけだ。それだけが私の才能――思わず涙が出た。なんの涙だろう。


「あれ、どうかした?」


 紫苑が驚きの表情を見せる。何かが変わると期待してきた――そんな私はやっぱり馬鹿だった。


「いえ、気にしないでください。とっても素敵な曲でした。これはお世辞ではなく、貴方だけの音楽――本当に羨ましい」


「羨ましい?」


「ええ、私には自分がないんです。誰かが作った曲を、誰かの演奏と同じようにただ弾くだけ。別に私がピアノを弾かなくたっていいんです――」


 ライブの話はお断りしようと思った。


「それだと僕が困る」


 ――え。


 紫苑は照れくさそうに目を伏せていた。


「この曲は君が弾くピアノをイメージして作った。君のピアノと僕のベースが重なって、ぶつかって、また重なる――それは素敵な音になる――そんな予感があった」


 彼の目がまっすぐ私を捉えた。


「君がピアノを弾いてくれないとこの曲は完成しない。これからも君のために曲を作るよ。そして二人で演奏しよう――どうだい?二人合わせてのオリジナルだ」


 こくん、とうなずいた。涙は止まっていた。


「よし。じゃあ練習しよう。この前送った楽譜は見てくれた?オリジナルだけじゃなく、スタンダードも演らなきゃ」


「え、今から――ですか?」


 壁にかかった時計は12時をまわっていた。


[PlayList No.09 Round Midnight](https://www.youtube.com/watch?v=KAoObtCiZ5U&list=PLf_zekypDG5rmEze1PbqCh3dDwop0KTCo&index=9)

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