光のない世界で寄り添う者たちの優しく切ない人間模様

ファンタジーであると同時に細やかな心理描写の冴えるヒューマンドラマです。
舞台は「常夜」という光を失った町。一日中闇に閉ざされたその世界で生きるのは、「現実」でつらい過去を背負い、記憶を失った者たち。彼らは優しさを持ち寄るようにして助け合い、寄り添うようにこの世界で暮らしています。
突然この町へ流れ着いた主人公、零一もそのひとり。彼は自分を助けてくれた少女エリカや住人たちとの日常の中で、少しずつ自分の過去へと向き合うことになるのですが、その道は決して簡単なものではなく……。
記憶を取り戻せないもどかしさと、取り戻した先に向かい合わねばならない現実の苦しみ。そのはざまで生きる住人たちの葛藤は、何が幸せなのかを読者にも問いかけるようです。
終末世界の物語でありながら、町の様子や人の心の移ろいが美しい言葉で描写されていて、闇の世界なのに不思議な暖かさを感じます。住人たちのお互いを思う気持ちにも優しさがにじみ、だからこそ彼らの置かれた境遇がより切なさを増します。
零一やエリカたちが背負う過去とは何か、常夜とは何か、そこから抜け出すときは来るのか。
主人公の運命を追いかけながらこの謎が解き明かされるのを一緒に体験してみてはいかがでしょうか。

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