創作への思いと生身の感情がせめぎ合う、内省的で緻密な物語

この作品を読み始めたとき、spineとはどういう意味だろうと考えました。英語では背骨や脊髄、棘、あるいは勇気といった意味合いもあるようです。
プロの画家である長男の浩詩、愛人の子という負い目から逃れられない次男の弘人、病弱な妹の桐子が暮らす丸沢家の兄妹と、弘人の同級生で、事故の影響で絵が描けなくなった累。
絵に関わる三人の男たちが、創作に対するそれぞれの思いを抱き、またお互いへの複雑な感情によって葛藤するさまが、心をじっくりと抽出するような緻密な文章で描かれています。絵画への情熱とは裏腹に、己の境遇に対する鬱屈や、自分の才能への疑念、嫉妬や嫌悪、そして相手への秘めた想いといった生身の感情が、内省的で美しい文章の中にひしめき合っています。
絵画を軸にした縦糸と、それぞれの気持ちの揺れ動きが横糸となり、分厚いタピストリーを織っていくような物語。
彼らの関係性が変わっていくにつれ、このspineというタイトルの本当の意味が分かってくるのかも知れません。一読者としてそのときを楽しみにしています。