1章の壮絶な絶望から、3章で未来を模索するまでの歩みに、片時も目が離せませんでした。
言葉を失うほどの鋭い痛みを描きながらも、愛犬「りん」の温もりや、祖母が鳴らす「おりん」の響きによって、止まっていた時間が溶け出していく過程があまりに美しく尊いです。
安易に強くあろうとするのではなく、傷を抱えたまま一歩ずつ「自分」を書き換えていく主人公の姿は、読み手の心に静かな勇気を灯してくれる……そう思います。
命の質感と心の機微を、丁寧に掬い上げた筆致に、深い敬意を表します。
次の展開が楽しみでならず、いつまでも追い続けたいと思わせる……圧倒的な傑作です。
高校二年生の少女が現在進行形で語る自分の人生。たった十数年の人生にしては重たすぎる時間を送ってきた彼女が、家族や先生、友、そして大きな存在である飼い犬との日々を通して、生きるための道を一歩ずつ進もうとしている。それは彼女の通ってきた過去を思うと果てしない道のりであり、次の一歩さえ踏み外しそうな危うさもはらんでいる。
「フツウ」の常識から見れば、彼女は恐ろしく弱く不器用で、その歩みはかたつむりのように遅い。社会の中で虐げられる立場に置かれる要素しかない小さな生き物に見える。
しかし、どぶの中で宝石を見極めようとするような鋭い感性が彼女にはある。たった十数年の人生で蓄積させた心の濃度は、もしかしたら何十年「フツウ」に生きても得られないものかも知れない。
瑞々しさと鉛のような重さとが同居した少女の心理がありのままに描かれている本作。十代のさなかにいる人にも、時を経て過去を埋めてきた大人にもお勧めしたい。彼女がゆく道筋を一緒に辿り、見届けたくなることだろう。