星架ランナー
一初ゆずこ
第1章 常夜の侵略者
1-1 零一とエリカ
年季が入ったラジオから、甘いボーカルの声が聞こえる。力強いシンセサイザーと
ラジオ局にこの曲がリクエストされるときは、街に危機が迫ったときだ。
「モンスター?」
冷静な小声が聞こえて振り向くと、
「たぶんな」
雑居ビルが林立する街並みは、あちこちが酸性雨に打たれたかのように腐食が進み、荒野のごとく廃れている。
記憶喪失のくせに、こんな感情は鮮明に残っている。
「喰われた人はいないみたいだ」
「そう、よかった」
奇抜な髪色をした同居人は、ローテーブルにカップラーメンを二つ置いた。安心した様子で鼻歌を歌いながら、
「エリカは、モンスターを怖がらないな」
「まあね。もっと怖いことを知ってるから」
ソファに座ったエリカは、童顔によく似合う屈託のない笑みを浮かべた。
「見送りに備えて、元気を出さなきゃ。今日は〝星〟を探しに行く時間もないくらいに忙しくなりそうだし。食事しながら歌でも聞いていれば、怖いものなんて何もないよ」
そう言って歌を口ずさんだ声の甘さが、ラジオの歌声と重なった。
零一が〝常夜〟の世界に流れ着いてから、一か月が経とうとしている。
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