ドッペルゲンガーと仲良くなりたい
葛
「自分が普段できないことを分身にやってもらおう」という主旨の企画――ドッペルゲンガー製造計画。
ドッペルゲンガーは、見た目は全く同じ。しかし、性格は正反対に設定されている。
大学生活を開始してまもなく、カズマはドッペルゲンガー製造計画のお試し販売を注文した。
現れたドッペルゲンガーは、カズマと瓜二つの見た目。しかし、生真面目で器用貧乏なカズマに対して、騒がしく、鬱陶しく、目まぐるしい。
カズマは自身のドッペルゲンガーを、何の捻りもなく「ドッペル」と名付けた。
カズマがドッペルゲンガーを注文したのは、八歳年上の恋人のため。彼女との関係は周囲に秘密にしていなくてはならなかった。
それでも少しでも長く彼女と過ごしたい。デートしたい。旅行にも行きたい。
その望みを叶えるための、ドッペル――自分の身代わりに日常生活を送ってくれる存在だった。
カズマは、徐々にドッペルとの生活を日常として受け入れ始めていた。ただ自分の代わりになってくれる存在ではなく、一人の人間として。
「いつもドッペルには振り回されてばかりだが、弟みたいに思えて放っておけない。家族にも隠さなくてはならないのは結構大変だし、それがこの先ずっと続くのだと考えると……でも、それも悪くない」
ドッペルに振り回される日常が続いたある時、ドッペルに『廃棄処分期間延長通知』と記された封筒が届いたことが発覚した。
『廃棄処分』とは何なのか。ドッペルは何者なのか。過去に何があったのか。
疑問をぶつけるカズマに、ドッペルは彼の知る限りの過去を語った……。
【物語全体を通して参考にさせていただいた文献】
著者 箱田・都築・川畑・萩原,「認知心理学」,株式会社 有斐閣,江草貞治(2010年初版第1版発行,2019年初版第8版発行)
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もし自分の分身が手に入ったらどうしますか?
身代わりに学校や職場に行ってもらう? 宿題をしてもらう? 面倒な人付き合いを引き受けてもらう? もしくは、犯罪のアリバイ作りに協力してもらう?
では、もし自分の知能・感情・性格を自由に操作できると言われたらどうしますか?
もっと賢くなりたい? 些細な事で動じない人になりたい? みんなから好かれる人格者になりたい? 優しくなりたい? バレない嘘がつけるようになりたい?
記憶を操作できたらどうしますか?
過去を幸せな思い出で埋め尽くす? 嫌な失敗談を消し去る? 誰かの記憶を共有する?
――結局のところ、人間のこころは、何で構成されているのでしょう?
人間の価値観はいつ作られるものなのでしょう?
問いは尽きませんし、おそらく明確な答えは出ませんし、答えが出たと思っても変化してしまうかもしれません。しかし、きっと問いかけ続けることには意味があるのではないかと思っています。これは、そんな物語です。…続きを読む