第23話 絶対守護!! 迫り来るキラーキラー!!

 


 車通りの少ない道路を、軽トラがゆっくりと走る。


 綺麗に整備されてはいるが、まだ開発中の通りなので周囲の建物は非常に少ない。舞車町の中心から離れて行くにつれ、どんどん辺鄙な風景になって行く。


 そんな道を走る軽トラの荷台に、僕とユピテル君は座っている。二人で寄り添い荷物の陰に隠れる様に身を潜めていた。


 あっ、そう言えばユピテル君じゃなくて……


「ねえ、これからはユピテル……ちゃんって呼んだほうがいいかしら?」

「変な気を使うんじゃねーよ、今まで通りに呼べ。俺は……俺だ」


 まあ、急に切り替えるのは難しいよね。今まで通りが一番か。


「はあ、こうなるのが分かっていたなら色々と準備したのに……それに父さんになんて伝えようかしら」


 財布と二台のスマホ、ソウルギアくらいしか携帯していない。

 財布の中身はこれからの生活資金としてはちょっと心許ない、カードは入っているけど現金を下ろしたら居場所がバレそうだ。


「安心しろマモル。通帳と印鑑に保険証、それに現金は持ち出して来た」


 ユピテル君が懐から茶封筒を取り出して見せて来た。


「ありがとうユピテル君。最低限の準備はしていたのね」

「トウカもギリギリまで伝えないのは不本意だって言ってたよ。でも、このタイミングじゃないと色々と都合が悪いって言ってたぜ。アイツなりに精一杯やった結果なんだ。許してやってくれ」


 別にトウカさんに文句を言いたかった訳じゃ……いや、やっぱりもう少し早めに教えて欲しかった。タイミングとやらはよく分からんけど、逃亡する本人に直前まで知らせないのはどうなの? 

 うう、僕は枕が変わると安眠出来ないのに……置いて来ちゃったよ。他のお気に入りの衣装もさ。


「トウカさん、天照タイヨウ達を誤魔化せるかしら? 私の逃亡を手助けしたって知られたら不味いんじゃない?」

「……心配いらねーよ、トウカは全部考えてある。とにかく、色々と考えるのは町を抜けてからにしようぜ」


 確かにトウカさんは有能だけど……最近疲れ気味で元気がなかったから心配だな。

 あっ、この状況の事を悩んでいたのか。


「さっきから何を一人でブツブツ言っているんですか田中マモル? あっ、例のピピテルさんと話をしているんですね。見えないけど側に居るって聞いてますよ」

「ユピテルだよ!」

「どひゃあ!?」


 突如現れたユピテル君に驚くミオちゃん。この子、スパイにしてはちょっとアレじゃないか?


「マモコちゃん、お父さんにスマホで連絡を取るのは位置を特定される危険があるから止めておくでゲス。ダイチ先輩への連絡なら、アッシが人伝にメッセージを届けるルートを知っているから我慢して欲しいでゲスよ」


 ダイチ……父さんの名前を知ってるのか。それに先輩って。


「父さんと知り合いだったのね店長」

「ゲヘヘ、ダイチさんは学生時代の先輩で元チームメイトでゲスよ。舞車町で住居の用意や戸籍の改竄、ミモリ先輩の衣装をお家に運んだのもアッシでゲス」


 へえ、そうなのか。このお気に入りの黒いゴシックドレスも母さんの物だし、店長は見た目によらず有能だね。


「そう、なら私からもお礼を言っておくわ店長」

「ゲヘヘ、どういたしまして。マモコちゃんを見ると若い頃のダイチ先輩とミモリ先輩を思い出すでゲス。その格好だとなおさら昔の先輩達にそっくりでゲスね」


 先輩達? もしかしてこのドレス着ていたのは母さんだけじゃないのか? 父さん、アンタは……


「男の子なのに、女の子の格好をするなんて不潔です……」


 うっ、凄い軽蔑の眼差しで見られている。話題を変えよう。


「み、ミオちゃん? アナタは蒼星学園に潜入していたのよね? もちろん生徒として」

「はい、そうですよ。学園ではソウルシューターを履修していました。それがなにか?」


 せっかくだ。気になる事を確認しておこう。


「蒼星学園の四年生に、月読マモリって女の子が居るはずなんだけど親交はなかった? 私の妹なんだけど、学園での様子が知りたくて……」


 マモリの様子を知っているなら聞いておきたい。特に、天照タイヨウ達に嫌がらせをされていないかどうかを……


「月読マモリ? そんな名前の子は学園にいませんでしたよ? 私も4年生だから同学年は全員顔見知りです。勘違いじゃないですか?」

「え?」


 マモリが学園に居ない!?

 あっ、僕みたいに偽名を使っている可能性もあるか。月読家は秘密主義だもんな。


「じゃあ、私と似た容姿の女の子は居なかった? 田中って名字かもしれないわ」


 マモリもマモコである僕と同様に、金色の髪に青い瞳をしている。それなりに目立つ容姿のはずだ。


「うーん、そんな目立つ容姿の子は居ませんねえ。田中って名字の子は私の学年には一人しかいないし……私のクラスメイトで友達の田中さん一人です」


 え、田中がそんなに少ないの!? 

 あれか、蒼星学園は一族の子弟が多いから逆にスタンダード名字が少なくなる逆転現象が起こるんだな。クラス名簿が豪華そうだ。


「ちなみに、その田中さんの下の名前はなんて言うの?」

「キラーさんです。田中キラーって名前の女の子ですよ」


 き、キラーって言うほど下の名前か?


「もしかして田中さんって天照タイヨウの側に居た仮面の子? マモコキラーって名乗っていなかった?」

「はい、今年の六月ぐらいから急に名字がマモコに変わったんです。それに様子もおかしくなって……きっとご両親が離婚したんですよ。ううっ、気の毒です……」


 そんな名字が存在するはずねーだろ! この子本当にスパイやれてたのか!?


「田中キラーさんの様子がおかしくなったって言うのは、仮面を被り出したって事かしら?」

「いえ、仮面は最初から被っていましたよ? 授業を受ける時も、給食の時も、寝る時もずぅーっと被っています。寮で隣の部屋の私でも素顔を見た事ないんです。田中さんは一体どんな顔なんですかね? 最後まで知れなかったのは心残りです……」


「そ、そう」


 そこまで仮面着用を徹底しているとは、筋金入りだな。

 だが、答えが出てしまった。

 蒼星学園の4学年には月読マモリと名乗る生徒が居ない。

 加えて、金髪で青い目をした生徒もいない。

 ただ、田中キラーと名乗る仮面着用の女の子は居た。

 そして、田中キラーは最近マモコキラーと改名した。

 つまり、あのマモコキラーと名乗っていた人物は僕の妹の月読マモリ、そうなってしまう。


 マモリはあんな痛い仮面を被り、阿呆な名を名乗る程に僕を恨んでいるのか……悲しい、悲しいけど事実を受け入れるしかない。妹が早めの病に罹患してしまったのは僕の責任でもある。兄として現実から目を逸らすのはやめよう。

 しかし、田中キラーにマモコキラー……マモリはそこまで僕の事を恨んでいるのか、そりゃあ手紙の返事が来ないはずだよ。


「ムムム!? ヤバいでゲス! 追手が急に加速を始めたみたいでゲス! 物凄く速いでゲスよ! この車の位置が分かるなんておかしいでゲスね……」

「はあ!? あっ、本当だ」


 強大なソウルの持ち主は、先程のゆっくりとした移動速度が嘘の様に急加速を始めた。追手も車に乗ったのか!?


「店長、速度を上げて! 追い付かれるわよ!」

「ゆっくり走る事で認識を歪ませ、ソウルを特定させない特殊な車なんでゲスが……こうなっては仕方ないでゲス! しっかり掴まるでゲスよ!」


 先程までのスピードが嘘みたいに速度を上げる軽トラ。

 だが、追手の方が速い。どんどん近付いて来る。


「おいマモル! なにか見えて来たぞ!」


 荷台から後方を見ると、確かに何かが見えて来た。

 あれは……犬? 二頭の犬が凄い速度でこちらに走って来る。


「あ、あれは田中さんの魂魄獣! 太陽と月を追う狼! スコルソルとハティマーニです!」


 あのオオカミ達は魂魄獣!? マモリが追手だったのか!


「ちっ、追い付かれるぞ! やるしかねえ!」

「待ってください! 実は私、スコルとハティとはとっても仲良しです! いつもオヤツをあげてる私を見れば追跡を止めてくれます! 任せてください!」

「そ、走行中にドアを開けるのは危ないでゲスよミオちゃん!?」


 店長の注意を聞き流し、車体に張り付きながら荷台の方へミオちゃんが移動して来た。

 そして、荷台を這って移動し、後方で立ち上がる。


「スコル! ハティ! 私です! ミオですよー!」


 両手を大きく振りながらスコルとハティに自分をアピールするミオちゃん。


 つーかスコルとハティ…… デケェぞ!?  

 さっきまで遠くに見えてたから分からなかったが、物凄い巨体だ。

 近づいて来てスケール感が狂ったのかと思った。スコルもハティも二階建ての民家くらいの背丈ある。


「ほらほら私です! 大人しくし――ふぎゃ!?」

「ミオちゃん!?」

「く、食われたぞアイツ!?」


 オオカミの一頭に思いっきり頭から咥えられたミオちゃん、下半身だけが口から露出して足をジタバタさせている。


「にゃ、舐めないでくださいスコル!? 放してくださいー!?」


 取りあえず……無事か? 割と余裕がありそうだ。


「そのまま青神さんと遊んであげて、スコル、ハティ」

「なっ!?」


 突如背後から声が聞こえて振り向く。

 運転席の上のルーフに、仮面を被った人物が……マモコキラーが立っていた。

 いつの間に!? どうやって車に追い付いた!?


「くっ、敵か!?」

「ユピテル君待っ――」

「吹き飛ばして、フレスヴェーグ」


 急に風を感じ、全身を浮遊感が襲う。


「なあ!?」


 う、浮いてる!? 物凄い風に煽られて軽トラごと空中に飛ばされた!


 あの目の前で飛んでるデカイ鳥か!? あれが風を起こしたのか!? あっ、それに飛んできたから気付けなかったのか?

 くっ、取り敢えずトワイライト・ムーンの糸で脱出を――


「逃しちゃだめだよ、ニーズヘッグ」

「ぐへぇ!?」


 突如黒い影が僕に目掛けて飛び込んで来た。身体を締め付けられる様な衝撃が僕を襲う。

 というか実際に締め付けられてる!? なんだこれ!? 黒い……鱗!? 蛇だ! デカイ蛇に巻き付かれた!


「マモル!? テメエ!!」

「ストリングスパイダープリズン!!」


 巨大な蛇の身体に立ったマモコキラーがソウルストリンガーを操り、ソウルの糸でユピテル君を軽トラごと空中に縛り付けた。


「ユピテル君!? 店長!?」

「ぐっ、このトリックはマモルと同じだと!?」

「うーん、このトリックの強度だと内側から破れないでゲスね。それにこのレベルの魂魄獣を四体同時召喚……あの二人の子とは言え流石におかしいでゲス」


 二人は無事ではあるけど、あそこまでガッツリ拘束されたら抜け出せない。あのトリックの強度はトウカさんのお墨付きだ。


「どうかな? 映像で見たトリックを再現したんだけど、なかなか良く出来ているだろう、田中マモコ?」


 いつの間にか側に立っていた田中キラー、静かな口調で僕に問いかけて来る。

 操るソウルストリンガーは細部こそ違うが、僕のトワイライト・ムーンそっくりだ。やっぱり、この仮面の下には……


「ええ、私のオリジナルトリックを上手く模倣しているわね。近くで見たいから離して貰っていいかしら?」

「駄目だよ……田中もマモコも殺す、僕が殺す。田中マモコ、お前は今日ここでマモコキラーと一緒に死ぬんだ」


 本当に殺すの!? なんで自分も死ぬの!?


 い、嫌だ! 絶対に死にたくない! 僕は不老不死になるんだ! こんなところで死ぬ訳にはいかない! 


「ま、マモリ!? アナタはマモリなんでしょう!? お願いだからこんな事は止めて! 私はマモルよ! 田中マモルがソウルメイクアップで変身しているのよ!」


 謝るから!? なんでも! なんでもするから殺さないでくれ!

 ………ん? なんかぷるぷる震えて黙り込んだぞ!? 僕の真摯な訴えが響いたのか!? やっぱり情に訴えるのが正解なんだな!? 


「マモリ! アナタを置いて家を出たのは悪かったと思ってる! 修行を結果的に押し付けてしまった事も謝るわ! でも私も必死だったの! ごめんなさい!」


 そこについては本当に悪かったと思ってる! まさか殺したい程憎まれているとは思っていなかった!


「そう……なの?」


 は、話を聞いてくれている! このまま押し切る!


「ええ! 手紙にも書いたけどもう少し大きくなったら会いに行くつもりだった! 私も不本意だけどソウルギアの扱いが上手くなったから、アナタの負担を少なく出来るとも思ってた! 決してマモリの事を忘れていた訳じゃない! 信じて!」


 これも嘘ではない……不老不死を手に入れてからの予定だったけどね? 

 それなら危険な役目も安全マージンをとってこなせるし、マモリが本気で嫌がっていたなら、家を出てマモリを養ってもいいと思っていた。ソウルスッポン養殖が成功すれば経済的に自立出来る予定だったし……


「不本意だった……それに手紙?」

「もしかして手紙は読んでくれなかった? 毎月届いていたでしょう?」


 うう、読まずに捨ててる感じ?


「ああ、そういう……やっぱりそうだ。間違っていない、僕の考えは間違っていない」

「ま、マモリ?」


 ブツブツと呟くマモリ、凄く不穏な気配がする。

 今の内にソウルを集中し、ユピテル君にアイコンタクトを送る。


「やっぱり……やっぱりそうだったんだね兄さん。そんな姿に変わり果てても僕の事を忘れないでくれている。兄さんの心がまだ残っているんだ!」

「は、はあ? マモリ、何を言ってるの?」


 そんなに姿……あっ!? よく考えれば今の僕ってマモコじゃん!? 

 そういう意味か! マモリから見れば数年振りにあった兄が姉になってるんだもんな! そりゃ、戸惑うか!


「痛ましい姿だよ兄さん……やはり、母さんと父さんは許せない! 兄さんを姉さんに変えてしまうなんて!」


 う、半分は自発的だけど、ここは母さんと父さんにヘイトを押し付けておこう。


「だけど! 僕達兄妹の繋がりはその程度では断ち切れない! 兄さんは仮面を付けていても僕の事が分かった! やはり僕達は深く深く繋がっている! この世で最も強い兄妹の絆だ!」

「お、おう」


 ごめん、見ても分かんなかったッス。ミオちゃんの話を聞かなきゃ気付けなかった。

 だって、マモリが僕っ娘になっているとは思わなかったし……僕がソウルの扱いに長ける前に別れたから、ソウルでの判別は出来ない。絶対に拗れるから黙っておこう。

 しかし、兄さんか、昔はお兄様って呼んでくれたんだけどな。


「ほら! 見てよ兄さん!」


 そう言ってマモリは仮面を脱ぎ去った。その下の素顔が露わになる。


「あ、あれ? 髪が黒い? それに……」


 その素顔は僕にそっくりだった。鏡でも見ている気分になってくる。

 瞳が青いので、母さんのソウルメイクアップよりもさらに僕に近い容姿、双子の様に瓜二つだ。


「た、田中さん男の子だったんですか!? 私を騙してい――ヒャう!? く、くすぐったいですハティ!?」


 くそ、下でやかましいなミオちゃん。


「マモルそっくりの姿……ソウルメイクアップか!? マモル! お前の家族は再会する時は性転換する決まりでもあんのかよ!?」


 くっ、否定しきれねえ。


「そうだ木星ユピテル! 僕はこうやって兄さんに近い可能性を映し出す事でずっと兄さんへの理解を深めていた! なのに、それなのに! 兄さんが姉さんになってしまうなんて……許せるはずがない!」


 お前も勝手に弟になってるじゃねーか!? そこはお互い様だろ!?

 だが、この言い方だとマモリは僕の事をそこまで恨んではいなそうで……


「兄さん、僕が助けてあげるからね。田中もマモコも僕が殺す。月読マモルに、優しい兄さんに僕が元に戻してみせるよ」

「ひえっ?」


 どういう意味なのそれ!? 殺すって具体的に何するつもりなの!? 言葉そのままの意味じゃないよね!?


「ま、マモリ? とりあえずこのまま一緒に町を出ましょう? 結論を急がなくてもゆっくり話し合えば誤解は解けるわ」

「駄目だよ兄さん、そこまで時間がないんだ。その姿も、その心も、そのソウルも、僕の側にいればきっと元に戻るから安心して」


 うう、一ミリも安心できねえ。とりあえずソウルメイクアップを解除して…… 


「マモリ! ほら、この姿を見て――あれ?」


 も、元に戻らない……ソウルメイクアップが解除出来ない!?

 あれ!? どうやって元に戻るんだっけ!? マズイぞ!? なんだこりゃ!?


「ああ、やっぱり。元の姿に戻れないんだよね兄さん? それほど長時間ソウルメイクアップを解除せずにいれば当然だよ。僕だって三時間ごとに解除している。そのための仮面なんだ……ほら、僕はそろそろ時間だよ」


 そう言うとマモリは光に包まれ、その姿を変えていった。


 光から出てきたのは、田中マモコそっくりの長い金髪に青い瞳の女の子。マモコより背が高い、負けた……

 しかしマジかよ……確かにここ最近は人の目を気にしてソウルメイクアップを解除してなかったけど、本当に戻れなくなるとは思わなかった。


「でも、安心してくださいお兄様。私が元の姿に戻して差し上げます。そうしたら……これからはずっと一緒にいられます」


 あっ、口調が昔に戻った? でも口調が変わるのは僕もそうか。ソウルメイクアップは役作りが大事だからな。


「私を元に戻せるのマモリ?」


 あー、でも田中マモルのままじゃ賞金首だし……いや、こうなった以上は田中マモコにだって懸賞金がつくかもしれない。


「マモリ……元に戻って、それから一緒に居るのはいいんだけれど、田中マモルは賞金首だから逃亡生活になると思う。それでも大丈夫? 学園やチームには戻れなくなるわよ」


 正直これからどうなるのかさっぱり分からない。マモリはこのままサンライズコペルニクスに居た方が良い気もする。母さんの言う通り、プラネット社の味方でいた方が明らかに安全だ。


「いえ、そんな心配は無用ですよお兄様。私とお兄様はこれからずぅーっと、永遠に一緒です。私はこのまま学園に通い続け、サンライズコペルニクスの活動も続けます」

「え? どうやって?」


 まさか体育館に戻ってゴメンなさいするのか? 田中マモルの悪行は、母さんが僕に成りすましてやったと暴露しろと? そして僕に蒼星学園に入学しろってことか?


「ほら、見てくださいこのカード。学園長であるお祖父様におねだりして貰ったブランクカードです。魂魄獣と契約する前のソウルカードですよ」


 そう言ってマモリは白紙のカードを僕に見せ付けて来る。


 えーと、それがどうかしたの? 

 それに、お祖父様が学園長って初耳なんだけど……両親と妹以外の親族を一人も知らねえぞ僕は? お年玉だって一度も貰ってないよ?


「マモリ、そのカードで何をするつもりなの?」

「何って決まっているじゃないですか、このカードにお兄様が入るんです。もちろんデッキに組みこみますから、お兄様と私はこれからは片時も離れずに一緒にいられます。フフッ、楽しみですよね?」


 ほーん、僕をカードに…………はああっ!?


「ま、マモリ!? 冗談よね!? 冗談を言っているのよね!?」

「冗談じゃないです。そんなに嫌がるなんて……お労しやお兄様。やはり洗脳されている。お母様とお父様、それに――」


 マモリは中空で拘束しているユピテル君を睨む。ユピテル君もマモリを睨んでいる。


「そこの木星ユピテル! そして天王トウカ! さらに水星ミナト! 極め付けは悪名高き冥王ミカゲ! 全員がソウルマスター候補です! あの卑しい女達がお兄様を誑かしたのでしょう!? 優しいお兄様の心につけ込みバトルを強要していた! レジスタンスの神輿に担ぐ為に! 私には全て分かっています!」

「れ、レジスタンス?」


 んなわけねーだろ!? レジスタンスってなんだよ!?

 ……多分ないよね? そんな訳がないよね、みんな? 特にミカゲちゃん? 


「お母様だってそう! あんなに嫌がるお兄様に修行を強要しようとした! 才能はあっても心優しいお兄様は争いなんて好まないというのに!」


 あ、それは正しい。


「お父様は言葉巧みにお兄様を操って! 私とお兄様を引き離した! そして各地を転々とさせ! 自分の都合の言い様にお兄様を洗脳した! お兄様がソウルバトルせざるを得ない状況に追い込んだんです!」


 う、うーん? 半分くらい当たってる気もするけど、洗脳は言い過ぎじゃない? 

 父さんは全然家にいないからね、多分年に一ヶ月も僕と一緒に暮らしていない。改めて考えると酷い父親だな……


「挙げ句の果てに無謀なソウルメイクアップ! それがお兄様をお姉様に貶めた! 自分達に都合の悪い事は教えずに! 目的の為にお兄様を操っているんです! あれだけ役目を説いておいて自分達はプラネット社も月読家も裏切っている!」


 そ、そうかな? 確かに母さんはPTAだけど。父さんは?


「田中マモルも! 田中マモコも! そんなのはお兄様じゃない! 私のお兄様は月読マモルです! だから田中を殺す! マモコも殺す! 私のお兄様を取り戻して見せます!」


 くっ、マモリは本気だ。完全に自分の考えに囚われている。

 思い込みを正すには、じっくりと話をして少しずつ誤解を解かないと駄目そうだな。

 とりあえず、僕のカード化なんて馬鹿な考えを改めさせよう。妹のデッキに組み込まれてたまるもんか、闇のゲームじゃあるまいし。


「マモリ、アナタが私の事を思ってくれているのは分かった。でも、私をソウルカードにするのは辞めましょう? 恐らく公式戦では使えないわよ?」

「そうですよ田中さん! 田中マモルがカードにされたら任務が完了しません! それに魂魄獣以外のソウルはカードと反発するって授業でやった――うぶぅ!? うぇぇ、ヨダレが……」


 そうなの!? じゃあ僕のカード化なんて無理じゃん! 中止だ中止!


「フフッ、心配はいりませんよお兄様。ほら、これを見てください。新型ソウルラミネートの溶剤です。これでカードをコーティングすればなんの問題もありません」


 マモリが取出したアンプルがキラキラと光っている。

 うう、対策済み……それって母さんがファクトリーから盗んだ例のブツと同じ奴かな?


 そんな物をどうやって手に入れて……決まっているか、天照タイヨウのチームメイトなら伝手があるよな。

 天照タイヨウめ、もしかしてマモリがおかしくなったのはアイツのせいか? マモリの方こそ洗脳されているんじゃないのか?


「マモリ、落ち着きなさい。きっとアナタは天照タイヨウに色々と吹き込まれたのよね? それで少し混乱しているのよ」

「私がタイヨウ兄さんに? フフッ、やっぱりお兄様はなにも知らない、教えられていない。証拠がまた一つ増えました」


 は? タイヨウ兄さん?


「タイヨウ兄さんは私達の従兄弟ですよ? アオイ姉さんもそうです。二人とも学園では私を心配して気に掛けてくれています……お母様とお父様なんかよりもずっと親身になってくれた!」

「そ、そうなの!?」


 い、従兄弟だったのか天照タイヨウ……母さんの方の親族か? 髪の色が金髪だし。

 それに、アオイ姉さんってのは多分蒼星アオイだよな、あっちも従姉弟かよ。それならなんであんなに好感度低いんだ? めちゃめちゃ僕にガン飛ばして来たぞ?


「ただ、青神さんはともかくとして……こうしているのは半分は私の独断。多分二人はお兄様の正体には気付いていません。このソウルラミネートをラボから盗んだのがバレるのも不味いので、早めに終わらせましょう?」


「独断? それにラボから盗んだって……」


 もしかして……


「お母様がコソコソとラボとファクトリーに忍び込んだ日に手に入れたんですよ。思ったよりも警備が厚かったから派手な騒ぎになりましたが、結果的には正解でしたね。田中マモルに懸賞金が掛かったから結果オーライですね」

「もしかして男の子の格好で盗んだの!? 私にそっくりの姿で!?」


 懸賞金の原因は母さんじゃなくてマモリかよ!? 結果オーライじゃねえよ!?


「はい! 田中マモルの顔も名前もしっかり宣伝しておきました!」


 宣伝しちゃったの!?


「な、なんでそんな事を……」

「田中マモルが世間に追い詰められれば、お兄様の洗脳は解ける。真実を直視するはずです。そうでしょう?」


 解けないよ!? そもそも洗脳されてないよ!! 真実って何!? 僕を追い詰めたら本末転倒じゃん!? 


「じゃあ、一族の有力者が行方不明なのは……」

「それはお母様ですね、ママ友をPTAに誘っていました。タイミングを合わせてウロチョロはしましたけど」


 ママ友!?


「ぷ、プラネット社の社長を襲撃したのは?」

「ああ、それは私です。お母様と社長がこっそり会ってた所を襲撃して、脛にローキックを叩き込んでやりました! フフッ、痛がってましたよ?」


 なんで得意気なんだよ!? それで懸賞金が2億も上がるのか!? うつわ小せえな社長!?

 というか、なんでそんなピンポイントに母さんの行動とタイミングを合わせられるんだろう?


「お母様は泣けば許してくれるし、聞いた事にも素直に答えてくれますからね。行動を把握して場を乱すのは容易でした」


 母さん、娘にまんまと騙されているよ?

 もしかして、母さんは有能っぽい雰囲気の癖に割と無能なのかな……


「馬一族に目を付けられたのはよく分かりませんが……好都合でした。だって、お兄様は私と一緒に居るのが一番安心できて、最も安全なんですから。そうですよね?」


 うっ、確かに小さい頃にそういう話をした気がする。

 マモリと遊んでいれば、母さんの修行の強要が若干弱めになったからそう言ったんだけど……これは言ったらアカン奴だ。


「優しいお兄様は、本当はソウルバトルなんて望んでいない。一族の役目だってあんなに嫌がっていましたもんね」


 うーん、役目は嫌だけど、絶対に勝てると分かるソウルバトルは嫌いじゃないかも。

 勝ち誇るのは気持ちいいよね……勝利後に偉そうに講釈垂れるのは正直快感です……あれ? 僕ってソウルバトル好きなのかな?


「安心してくださいお兄様! 降りかかる火の粉! お兄様を利用しようとする悪意! くだらない一族の役目! そのすべてからお兄様をお守りします! 私はその為の力を得ました!」


 ま、守ってくれるのは嬉しいでヤンス。出来れば生身のままでお願いしたいっス……


「さあ、カードの中に入りましょう? タイヨウ兄さんがプラネット社の実権を握る様になれば、危険な輩は一掃されます。それまで待てば外に出ても安全です。全ての戦いが終わったら、安全で静かな場所で二人で暮らすんです。ああ、素敵……」


 天照タイヨウが実権を握れば安全って本当かな? 僕の懸賞金も消えて狙われなくなる? マモリもカードからも出してくれそうだし……

 もしかして、一時的にカードの中って一考の余地ありか? 確かに安全ではありそうだけど、絶対に見つからなそうではある。


 うーん、実際カードの中ってどんな感じ? みんな知ってる? え、僕の場合は長く居ると危険かもしれない? なにそれ怖い……


「マモリ、全ての戦いが終わるってどれくらい先なの?」

「私やアオイ姉さん達が協力して、さらに仲間を増やし、力を蓄えてから大人共を追い出すので……うーん、早くても十年くらいですかね?」


 十年!? そんな長くカードの中に封印されてたまるか!? その頃には僕達も大人じゃねーか!?

 駄目だ。マモリは明らかに正気を失っている。このままでは本当にカードにされてしまう。下手すれば十年もレアカード生活だ。封印されし田中マモルになってしまう。


 マモリ相手に実力行使はしたくなかったけど、そうも言っていられない状況になった。

 まずは、この場を切り抜ける。その後にマモリを無力化、時間をかけてゆっくりと説得しよう。


「マモリ、考え直してくれない? 私はカードにされたくない」

「やっぱり田中マモコの心が強いんですね……私がここまで丁寧にお話したのに聞き入れてくれないなんて……今のお兄様は本当のお兄様じゃない! 田中とマモコに心を侵されているんです!」


 ああ、悲しいけど……仕方がない!


「逆巻け!! シルバー・ムーン!!」


 ホルダーに収めたまま、シルバー・ムーンを全力で逆回転。僕を中心とした吹き飛ばす力場を発生させる。

 力場は大蛇の締付けに反発し、自由な空間が出来る。これで両腕が使える様になった。


「瞬け! プラチナ・ムーン!」


 瞬時にソウルチャージを済ませ、左手でプラチナ・ムーンを放つ。

 そのまま光の矢となったプラチナ・ムーンがユピテル君達を拘束しているソウルの糸を崩す。

 あのトリックには外部から突かれるとすぐ崩壊する弱点がある。誰にも教えてないけどね。


「ユピテル君は店長をお願い!」

「任せろ!」


 拘束が解かれ、落下する軽トラからユピテル君と店長が抜け出した。

 それを確認したと同時に、右手でピース・ムーンを構える。


「エクリプス・ゼロ!!」


 僕の必殺技で周囲を暗闇で包む。初見ではマモリも咄嗟の対応出来ないだろう。今の内にみんなでこの場を離脱しよう。

 続けてトワイライト・ムーンを起動、未だに騒がしいミオちゃん目掛けてソウルの糸を伸ばして巻き付け、僕の方に引き寄せて抱え込む。


「ぎにゃあぁ! なに!? なんなんですか!?」

「舌を噛むから黙ってて! 飛ばすわよ!」


 そのまま街灯に糸を伸ばし、伸縮させた反動で大きくその場を飛び出す。


「マモル! ここでやらねえのか!?」


 店長を抱え、僕の横へと飛んで来たユピテル君が尋ねてくる。


「とりあえず距離を取るのよ! 建物が密集している場所まで一時退却! 開けた場所や空中戦じゃ分が悪い!」


 狼二頭に蛇が一匹、おまけに空を飛べる鳥、そのどれもが巨体だ。あの魂魄獣達は見かけ倒しではない。感じるソウルの強さからしても、正面から相手をするのは愚策だろう。

 建物の密集した所で市街戦に持ち込み、あの巨体を活かせないフィールドで建物を利用した奇襲を繰り返して一体ずつ狩る。そうすれば勝機が……


「引き寄せろ!! シルバー・ムーン・クレッセントSS!!」

「ぐぇっ!?」

「ぐおっ!?」

「ぎにゃ!?」

「ムムム?」


 引き寄せられる!? これはマモリのソウルスピナーの力場か!?


「ぐっ、シルバー・ムーン!!」


 僕も反対に吹き飛ばす力場を展開するが……駄目だ!! 力負けしている!? 徐々に引き寄せられる!


「無駄ですよお兄様! リミッターの付いたムーンシリーズじゃ私には勝てません! 未だに初期形態ですもんね! そこだけはお父様に感謝します」


 マモリのは上位互換の機体なのか!? ずるくない父さん!? リミッターってなんだよ!?


「ストリングスパイダープリズン!!」

「す、ストリングプレイスパイダーベイビー!!」


 マモリのトリックを防ぐ為に僕もトリックで迎え撃つ。

 だ、駄目だ。マモリのソウルの糸が多すぎて迎撃の爆発が追いつかない! ソウル量がヤバすぎるぞ!? こんなに糸が出せる物なのか!?


 必死の抵抗空しく、マモリが作り出す蜘蛛の巣に僕達四人は捕らわれてしまった。


「フフッ、私はソウルギアを全て修めています。加えて全ての機体が進化済みです。お兄様に勝ち目はありませんよ? 無駄な抵抗は止めてください」


 マモリは糸に捕らわれた僕の近くまで歩み寄り、僕の頬を優しく撫でる。言い聞かせる様な口調が逆に恐ろしい。

 そして、マモリの背後には巨大な魂魄獣が四体。どいつもこいつも僕を鋭く睨んでいる。

 こ、怖え。食われそう……


「マモリちゃん……君のソウル量は幾らなんでもおかしいでゲス。神話をモチーフにした魂魄獣を四体同時召喚、加えて他のソウルギアまで同時使用なんて本来は不可能でゲス。一体どんな手品を使ったんでゲスか?」


 店長? 今はそんな事よりも僕が助かる為の命乞いを……


「フフッ、いい質問ですね智天さん。ソウルファクトリーで手に入れたんですよ! お兄様を守る為の力を!」


 マモリが掲げる様に両手を広げる。

 すると、先程までも強力だったマモリのソウルの圧がますます強まった。凄まじいソウルの奔流が巻き起こる。


 こ、これは強すぎないか? 大気が震えている。今まで感じたどんなソウルよりも強いプレッシャーだ。


「おいおい、マジかよ!?」

「ぎゃぴっ!? な、何なんですか田中さん!? その恐ろしいソウルは!?」

「ムム、これは流石にやり過ぎでゲスね……」


 ソウルを誇示するマモリの胸から、光る球体が三つ飛び出す。

 なんだあれ? 綺麗だけど……少し恐ろしい感じがする。小さ過ぎてよく聞こえないけど、なにか語りかけて来る様な……


「一番炉に二番炉! そして九番炉のコアソウルです! つまり水星と金星と冥王星のソウル! この子達が私に無敵の力をもたらす! 私の願いを叶えてくれるんです!」


 水星に金星に冥王星のソウル? 月のソウルじゃなくて? あっ、ファクトリーを襲撃した時に盗んだのか!?

 もしかして……それでも不老不死が手に入ったりする!? 三個あるなら一個だけくれないかな……駄目?


「フフッ、これで良く分かったでしょうお兄様? 三つのソウルを手に入れた私は無敵です。タイヨウ兄さんにも、どんな大人にだって負けません。それ程の力を手に入れたんです」

「そ、そうなのね」


 やべえな。このソウル量は不意打ちとか奇襲でどうにか出来るレベルを超えている……あれ? もしかして詰んだ?


「じゃあ行きますねお兄様」

「は?」


 いつの間にか、僕の胸に白紙のカードが刺さっていた。


「あ、あばばばば!?」

「ま、マモル!?」

「ひぃ!? 凄い光ってます!?」

「不味いでゲス!? 本当にソウルカードに……」


 吸われる!? なんか吸われてるよ!? 僕のソウルが吸われていくよ!?


 ヤバいヤバいヤバい!? 本当にカードにされちゃう!? 封印されちゃう!? 中で食事とかトイレとかどうすんの!? スマホは繋がるのか!? 電波届くの!? マイ枕が無いと僕は安眠出来ないぞ!?


 パンッと甲高く弾ける様な音が響いた。

 ……あれ? 止まった? ソウルが吸われるのが止まった。


「これは……なるほど。お兄様のソウルは一枚のカードには収まりきらないようですね」


 いつの間にか、僕の胸から手元に戻ったカードを眺めてマモリが呟く。

 た、助かった……中までソウルたっぷりに産んでくれた母さんに今は感謝しよう。


「フフッ、どうやら私をカードにするのは不可能な様ね」

「ま、マモル!? 手! 右腕を見ろ!」


 は? なんだよユピテル君? 手がどうした――どえぇ!? 右手が!? 僕の右腕がなくなってるよぉ!? も、持ってかれたぁ!?

 

 急いで癒やしの力を右手に施す。

 だが、まったく反応が無い。ソウル体は欠損しても癒やしさえすれば瞬時に元に戻るはずだが、そんな気配が全く感じられない。

 まるで、最初から腕なんて無かったかの様な感覚の消失……こ、これ元に戻るよね? ソウルメイクアップを解除して生身に戻れば……


「フフッ、お兄様の右腕……」


 ぼ、僕の腕を抱きしめて頬ずりしている……


「この感覚だと、あと四枚もあれば全身が収まりますね。お兄様が五枚もデッキに入るなんて……フフッ、素敵です」


 そう言ってマモリは新しいブランクカードを取り出す。

 一枚じゃないの!? そんなに沢山持ってんのかよ!? 十枚ぐらい手に持ってんじゃん!? 甘やかし過ぎだろお祖父ちゃん!?


「次は左腕にしますね? その次は右足と左足、どちらからにしますか?」


 どっちも嫌だよ!? せめて、せめて一纏めにしてくれ! バラバラに封印しないでくれ!


「あら? これは……」


 周囲のソウルの感覚が変わって行く。小学校の方を中心に、既存のソウルが塗り潰されて行く気配がする。

 これは……ソウルワールドだ。舞車町全体がソウルワールドに塗り替わっていく。


「始まったみたいですね……そうだお兄様! 決起集会の様子をご覧になりますか? そうすればお兄様も納得出来るはずです!」


 絶対に納得出来ねえよ!?

 でも、時間稼ぎにはなりそうだ。時間が経てばワンチャン誰かが助けに来てくれるかもしれない。


「お、お願いするわマモリ、決起集会の様子を見せて」

「はい、お兄様」


 マモリが懐からスマホに似た板状の機械を取り出し、地面に放る。機体の中央に付いたガラス状の部分から光が照射され、空中に大きなモニターが出現した。

 うわっ、これプラネット社製のめちゃめちゃ高級な携帯モニターじゃん。よくこんなの持ってるな?


「フフッ、この携帯モニターもお祖父様がくれたんです」


 そう言って、僕の右腕を抱きかかえて微笑むマモリ。

 甘やかし過ぎだよ……マモリをちゃんと叱ってる? だいぶ危険な方向に育ってるぞ?


 モニターの映像が鮮明になり、スタジアムの様な体育館の様子が映し出された。


 ううっ、トウカさん、トウヤ君、クリスタルハーシェルのみんな僕を助けに来て――あれ!?

 モニターには、スタジアムの中央で氷に下半身を包まれたクリスタルハーシェルのみんなが映っていた。


 何やってんの!? なんで捕まってんの!? あっ、トウカさんだけ捕まってない? 天照タイヨウと向かい会っている。


 疑問の答えを求めてマモリを見る。マモリは変わらずに右腕を抱きしめて微笑んでいる。


「見ていてくださいお兄様、タイヨウ兄さんが今から説明してくれますよ」


 うう、クリスタルハーシェルのみんながあの状態。絶対にスタジアムがポジティブな状況でない事は分かる。


 誰か、誰か僕を助けてくれる人は居ないのか!? ランデブーポイントとやらに来るはずのみんなは……分からん、そもそも合流は今日か!? 時間は何時なんだ!?


 そうだ! 唯一拘束されていないトウカさん! トウカさんがどうにかあの場を切り抜けてここまで助けに来てくれる事を祈るしかない!


 頼むトウカさん! 僕を、僕を助けてくれぇ! カードにされちゃうよぉ! 助けてトウカさーん!! 助けてくれー!!






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