第10話 心機一転!! ヨリイトストリンガーズよ突き進め!!

 


 ストリンガーバトルには繊細なソウルコントロールが求められる。


 怒りや憎しみなどの激しい感情がソウルを強くする事は間違いではない。

 だが、激情をそのままプレイに反映させるのは悪手だ。心の中がどれほど荒れ狂っていても、頭と糸捌きはクールでなくてはいけない……ユキテル君の敗因はそこにある。


 その点でいえば、僕は終始冷静どころか穏やかな気持ちでバトルを進める事が出来た。

 苦しい時こそ楽しい事を考えるのがベストだ。僕はいずれ得る事が決まっている不老不死についてバトル中ずっと考えていた。

 だからこそ穏やかで冷静な気持ちのまま戦う事が出来た。僕は常に冷静でクールな男……私メンタル強者、強いネ……


 バトル中の僕は、思わず顔がにやついてしまう程の穏やかさだった。結果的にそれが煽りみたいになってしまったかな? ユキテル君は僕の表情を見て明らかに動揺していた。


 ちょっと悪い事をしたとも思うが、全力の僕の煽りはこんなものではない。流石に友達相手にメンタル攻撃やマウントを取る様な言葉は投げかけない。だから表情は勘弁して欲しい。


 父さんの治療を受けつつ目元を腕で覆ったままのユキテル君、泣かせてしまったのは心苦しい、フォローしなくては……


「ユキテル君」


「マモル君……ごめんね……ワガママだって事は分かっていたんだ。だけど、抑えられなかった……自分の気持ちが……ごめん」


 ユキテル君の声が震えている。そこまで自分を卑下しなくても……気持ちそのものは嬉しい。


「いい勝負だったよ、ユキテル君。またいつか……お互いに成長したら、ストリンガーバトルをしよう」


「マモル君……」


「僕達の実力は殆ど互角だった。多分勝敗を別けたのは……経験の差だよ。バトルの経験じゃない、ソウルバトルを通じて出会った友達との日々が僕の心に……ソウルに力をくれる。僕はユキテル君より多くの出会いと別れを繰り返して来たからね……」


 僕の心に様々なストレスをかけてくれたミタマシューターズのみんな……カイテンスピナーズのみんな……キャラの濃い様々なソウルギア使い共……耐えて来たからこそ僕の心は強くなった。僕のメンタルはちょっとやそっとじゃ動じない。


「友達……でも僕は……マモル君がいなくなったら……」


「別れは永遠じゃない、それに成長したらもう一度戦おうって言っただろう? 再会を約束して別れるんだ。それを忘れない限り僕らは繋がっている、ソウルのキズナでね」


「……お互いに成長したらもう一度?」


「うん、別れは寂しいけど、乗り越えた時には新しい力になる。新しい出会いの始まりでもある。僕は新しい町でたくさん友達を作って強くなるよ、ユキテル君も僕に負けないぐらいに新しい友達をたくさん作って強くなって欲しい! ユキテル君になら出来る! ユキテル君は僕の親友だからね!」


「っ! マモル君……僕は……」


「親友には、お別れの時に笑顔でいて欲しいんだ……ユキテル君には笑っていて欲しい」


 ユキテル君に右手を差し出す。

 少しだけ黙り込んだ後、ユキテル君は目元を覆っていた腕をどけ、僕の差し出した手を取って立ち上がった。


「約束するよマモル君。僕はもっと強くなる……だから……また会えるよね?」


 涙に濡れてはいたが、ユキテル君は確かに笑っていた。よしよし、強い子だ。


「ああ、当然だろう? 必ずまた会えるよ、僕達のキズナは永遠さ」


 僕達がもう少し大きくなって、自由に動ける様になったら幾らでも会いには行けるだろう。

 だけどその頃には……ユキテル君も新しい友達が出来て、僕への執着は薄らいでいるだろう。今は絶対に思える気持ちも、時と共に変化していく物だ。

 でも、嘘ではない。今この瞬間では僕もユキテル君も確かにその永遠を信じて、キズナを信じて約束を誓っている。いつか変わってしまうとしてもそれを偽りと言うのは無粋だ。


「ユキテル! マモル!」

「派手にやったなお前達!」

『二人ともズリーよな、俺も思いっきり暴れたかったぜ』


 おっ?


「ユキテル君! マモル君! 大丈夫でやんすか!?」


 みんなが駆け寄って来る。うーん、青春っぽいねえ……


「ユキテル君……僕も君も一人じゃない、どこに居てもね」


「うん……そうだね。マモル君のおかげだ」


 うんうん、ユキテル君も納得出来たみたいだ。これにて一件落着だね!







 撚糸町での最後の時間、僕達ヨリイトストリンガーズはギリギリまでランク戦に明け暮れた。


 僕が抜ける穴を補充するまで、しばらく順調にはポイントを稼げなくなるかもしれない。せめてもの罪滅ぼしだ。


 そして、別れの日がやって来た。僕の旅立ちを祝福するかのような実に素晴らしい天気だった。


「マモル君、元気でね。僕達は君がいなくなっても強くなる。来年の夏に行われるスペシャルカップを目標に新しい仲間を作って成長してみせる! だから心配しなくても大丈夫だよ」


 笑顔で僕にそう告げるユキテル君……よかったよかった。前向きに納得してくれて僕もひと安心だ。やっぱり後味の悪いお別れは嫌だもんね。


「ふん! アンタの席は残しておいてあげるけど、新しい町でぬくぬくとして成長しなかったら補欠扱いだからね! だから……だから向こうでも頑張りなさいマモル。またね……」


 ははっ、なかなか可愛い事言うじゃないかイズナちゃん。でもぬくぬくしたいなぁ……無理そうだけどね。


「マモル、お前には本当に世話になった。感謝してるよ……ありがとな……へっ、こんなのは俺の柄じゃねーか? オイ! 新しい町でナメられるんじゃねーぞ! ガツンとかましてやれよな!」


 ああ、大丈夫さガミタ君。新しい町での事はちゃーんと考えてある。ガツンとまでは行かないかもしれないけど元気でやるさ、君も元気でいてくれ。


「マモル君、君にはヤンスの適正は無かったみたいでやんすが、君は他に素晴らしい才能を色々と持っているでやんす。寂しくなるけど……新しい町でも元気でやって欲しいでやんす……」


 ビリオ君は……ちょっと元気ないよな? 表面上は取り繕っているけどなんか後ろめたさがあるというか……

 そうか! 僕にヤンスについて色々と教えてくれたけど、上手く行かなかったから責任を感じているのか! 本当にいい子だよ君は……そのままの君でいてくれでヤンス!


「マモル、そろそろ時間だ」


 父さんの声が車の中から聞こえて来る。確かに名残惜しいがそろそろ出発の時間だ。


「わかったよ父さん……みんな、またね! 次に会うときは互いの成長を見せ合おう! 僕達のキズナは永遠だ!」


 それっぽい事を言って車に乗り込む、さらば仲間たちよ! さらばヨリイトストリンガーズ! さらば撚糸町! アリーヴェデルチ!


 助手席のミラー越しに手を振っているみんなが見えた。僕も窓から体を乗り出して彼等に手を振る、みんなが見えなくなるまで。


 さようならみんな、さようなら撚糸町……一部を除いて。




 窓越しに外の風景を眺める。おっ、海が見えてきたぞ? 新しい町には海があるのか? 嬉しいなー、素敵だなー。


『なあなあ親父さん! 舞車町でソウルストリンガーは流行ってんのか!?』


「いや、舞車町はソウルランナーに特化したソウル傾向の土地だ。残念だけどストリンガーバトルは殆ど行われていないよユピテル君」


『ええーマジかよ!? まあでも、マモルに相手してもらえば問題ねえか! だよなぁマモル!?』


「えっ、ああ、うん……」


『おいおい、いまさらになってユキテル達が寂しくなったのか? 元気ねーぞ?』


「いや……うん、そうだね、ちょっとね……」


 くそ!? どういう事だ!? なんでユピテル君が付いてくるんだよ!? 背後霊の癖に宿主を乗り換えるんじゃねえよ! 尻軽幽霊野郎め! 背後霊の癖にシートベルトしやがって! 偉いぞ!


「すまないなマモル……だが、ユピテル君が一緒なら寂しくないだろう? それにいい物も用意してある、鞄の中のケースを開けてみなさい」


 普通さぁ? 僕に一言あって然るべきじゃないの? なんで僕だけが引っ越し当日にその事を知るの? おかしくない? 君もユキテル君から離れていいのかユピテル君? 父さんも当然の様に背後霊かどうかも分からない謎生命体を引き取るんじゃねーよ。


『おっ、これかい親父さん? これがマモル用のソウルランナーか……いい作りだな、かなり純度の高いソウルストーンをコアに使ってるぜ』


 何故かケースを勝手に開けてるユピテル君、その手には黄金の縁取りがされた白いボディの車を模したオモチャが乗っていた。


 うん、知ってるよ。ソウルランナーはミ○四駆……と言いたい所だけど、レースを目的とした平和的な遊び方はしない。

 ソウルスピナーと同様に、機体同士を衝突させて戦う。もちろんソウル体にダメージがフィードバックする野蛮な競技だ。

 ミニ○駆と言うよりもクラッ○ュギアとかカブ○ボーグの方が近い、バトル脳を拗らせすぎているぜこの世界は……


 新しい町、舞車町。どうせそこでも僕は戦いに巻き込まれるだろう。


 フッ、だが僕もバカではない。今まで3つの町の経験からある答えを導き出した。


 ソウルランナーの腕を磨く事自体に文句は無い。


 問題は、自身が危険な目に遭うのは最小限に抑えつつ、主人公っぽい人物達との距離感を適切に保ち、悪の組織の計画をいかにして乗っ取るかだ。


 今回の撚糸町での1年を振り返れば……割と上手く行っていたのではないのかと思う。確かに僕にはヤンス適正はなかったが、まったく無意味だった訳ではない。


 現にCC団の活動は他の2つと比べても明らかに勢いが無かった。正月の風物詩たる月へのアプローチも行わない始末だ。


 恐らく原因は、僕がヤンスを使う事によってユキテル君を強くしすぎたせいだろう。加えて僕の舎弟的なサポートが見事過ぎてCC団にとって重要な基地を襲撃しすぎてしまったのだ。そうとしか考えられない。


 口調や格好が自身のソウルを変化させる……それならば超絶天才少年の僕ならば、それによって町のソウル傾向を変化させてもおかしくないのではないか? 


 僕がヤンス舎弟ムーブによって、ユキテル君に強くなって悪の組織をメッタメタにして守って欲しいと願ったから、町のソウル傾向が悪の組織を間接的に弱体化させてしまったのではないか?


 正直荒唐無稽とも思える推測だが……割とこの世界のソウルという謎パワーは何でもありだ。

 必殺技やトリックだってこういう風にしたいなぁ……って思うと割とそれっぽいものが発現する。ソウルには人の意思に感応する力が確実にある。これは断言できる。


 僕にはヤンス適正はなかったが、悪の組織による危険な目に遭いたくないという願いだけは組織の弱体化という形で叶ったとも言える。適正のないヤンス案でもたしかに効果はあったのだ。


 よって、次の町で僕が取るべき行動は……目指すべき立ち位置は決まった。去年に思いついたのとは少しアレンジを加えなくてはならないが、根本的な所は同じだ。


 ただ、この案を採用するには父さんの協力がいる。学校側への説明等で力を貸して貰わないと実現不可能だ。


 ……かなり勇気のいるカミングアウトだ。父さんが戸惑うのは間違いないだろう。

 だけど、父さんは僕にかなり負い目がある。本気でお願いすれば最終的には受け入れてくれるはずだ。


 別に僕だって本意ではない……苦渋の決断でもある。

 だが、安心と安全の為に、不老不死を手に入れるためなら僕はなんだってやってやる。


「父さん……実はお願いがあるんだ」


「……どんなお願いだいマモル? お前がそんな事を言うのは珍しいな」


 ふぅ……僕の築いてきたイメージが崩れるが……仕方がない! 言うしかねえ! 言ってやるぜ!


「実は……次の町で、舞車町で僕は女の子の格好がしたいんだ……僕は女の子の格好をすべきだと思うんだ……うん」


『ま、マモル? 何いってんだお前?』


「マモル、お前は……」


 うっ、リアクションが痛い……だが! 吐いたツバは飲み込めねえ! イモ引く訳には行かねぇんだ!


「えっと、その……何かさ……そうするのが自然な気がすると言うか……僕のソウルが叫んでいると言うか……」


「そうか……なるほどな、分かったよマモル」


「えっ!?」

『ええ!?』


 分かっちゃったの!? 早くない!? 理解が早すぎない!?


「流石父さんと母さんの子だ、誇らしいよ」


「そ、そうかな?」


 ほ、誇らしいか? その喜び方は僕も複雑だぞ? いや、勇気を出してカミングアウトした部分がって言う意味か?


「懐かしいな……父さんと母さんが始めて会った時を思い出すよ。あの頃は父さんは女の子の格好をしていたし、母さんは男の子の格好をしていた……それでも父さんと母さんは惹かれ合った」


「ほわっ!?」

『えぇ……』


 ま、マジか……そんな両親の馴れ初めは聞きたくなかった……


「ソウルは……いや、あえて魂魄と呼ぶ。魂魄は陰と陽の性質を持つ、陰の中にも陽はあり、陽の中にも陰がある。それを真の意味で理解する為に自分とは違う性別の格好をするのは理に適っている……その答えに自力で辿り着くとは……お前は本当に凄い子だよマモル」


 んえ!? そんな意味があるの!? 父さんと母さんの特殊な嗜好じゃないの!? 本当に理に適っているかコレ!?


「安心しなさいマモル、学校側にはちゃんと父さんが話を通しておく。お前には私が秘伝のソウルメイクアップを伝授する、大丈夫だ、問題無い」


「そ、ソウルメイクアップ?」


「ああ、父さんも母さんも今でもこっそり会うときにはお互いにソウルメイクアップをしている。第三者にばれた事は一度もない、腕は錆びついていないから安心しなさい」


「そ、そっか……」


 やめてくれ……両親の特殊な性的嗜好を聞かせないでくれ……次に母さんに会うときどんな顔すればいいんだよ……


『す、凄えなマモルの家は……いや、別に否定はしねえよ? そういうのは人それぞれだからな……うん』


 ユピテル君の優しさが逆にツライ……明らかに僕から距離を取り始めた。


 くっ、何なのだこれは? 僕は一体何を聞かされたんだ? 僕にどうしろと言うのだ……








 ここは撚糸町で唯一残ったCC団のアジト。


 私達PTAはこの場所に襲撃を仕掛け、主要な戦闘員は全て無力化した。


「えへへ、やりましたねムーンリバースさん! 諜報員達から報告がありました! 任務完了です! CC団は撚糸町からの撤収を選択! 私達PTAの完全勝利です!」


 目の前でマーズリバース……いや、撚糸町中央小学校4年4組担任である赤神アカネが無邪気に喜んでいる。

 互いに仮面とソウルスーツで姿を偽っているが、私は彼女の素性を把握している。逆に彼女は私の素性を把握していない、私の場合は仮面とスーツの下も偽りだ。


 確かに計画を乗っ取り月のソウルを一部手に入れたが……一番重要な糸造博士の身柄は確保出来ていない。完全勝利と言うには片手落ちだろう。


 原因は金星アイカ……いや、今はダークヴィーナスか、彼女の妨害のせいで糸造博士の身柄確保は失敗した。 

 だが、それを恨む気持ちにはなれない。あの子の事は昔から知っている。弟と仲の良い優しい子だった。


 そんな彼女を、優しい彼女をあんな目に遭わせ、復讐者へと追い込んだのは惑星の加護を持つ一族の上層部、第2のソウルマスターを作り出そうと非人道的な儀式を続ける腐った大人達だ。

 

 そして、私も同類。少し特殊な立ち位置であるが腐った一族の大人の一人である事は間違い無い。


 あの計画には……やはり賛同出来ない。


 だから、こうしてソウルメイクアップで姿を偽りPTAの活動に参加した。廃嫡された月の一族の男を騙り、ムーンリバースのコードネームを得た。


 やはり、ソウルギアはこの地球上からなくなるべきだ。こんな物があるから子供達は傷付き、大人達は醜い欲望を抱いてしまう。


 ……知っている、ソウルギアを通じてソウルを重ねる事自体は素晴らしい事だ。私とあの人だってそれがきっかけでお互いを深く知ることが出来た。


 だが、それでも……子供達の為に、争いの無い未来の為に私はソウルギアの撲滅を実現させてみせる。 


「ムーンリバースさん? どうしたんですか? 気分でも悪いんですか? もしかして昨晩にお酒を飲み過ぎました? 私みたいに?」


 マーズリバースが私の顔を覗き込んで尋ねて来る……仮面越しだが悩んでいる雰囲気を気取られてしまったか?


「そうだ! ムーンリバースさんに素敵な月のソウルの使い方を教えてあげます! こうやって飲む前に肝臓を意識すれば……ビールが飲み放題です! これで二日酔いともオサラバです! 私はこれで次の日学校で学年主任に怒られる事がなくなりました!」


 ……この女に月のソウルの一部を預けたのは失敗だったか?   

だが、月のソウルは私が持っていては目立ち過ぎる。他に都合の良い人材はPTAにはいない。


「私は月のソウルを既に手放した。それに月のソウルをそんな事には使わない」


「ええー!? 勿体ないですよぉ!? 月のソウルを使えば夜ふかししてもお肌スベスベのつるつるですよ!? お化粧のノリも段違いです……って言っても男の人には興味ないですかね? 残念です……」


 ……興味が無い訳ではないが、私はこの女の認識では男だ。余計な事を喋るのは止めよう。


「私の興味は……プラネット社の崩壊、そしてソウルギアの撲滅だけだ」


「あっ! もちろん私もですよ! 私の実家なんて酷いんですよ!? 勝手に出来損ない扱いして追放した癖に、最近になって丁度いいから結婚しろなんて言ってくるんです! 私の倍以上も年の離れたおじさん相手にですよ!? 酷いと思いませんか!?」


 ああ、この女も一族の被害者だ。


 元は火星の姓だったが、能力不足を理由に追放されて姓も母方の赤神に変わっている。

 そして、追放された後もふざけた要求を投げかけて来るのだ。今の時代に結婚相手を強制するなんてふざけている。


 しかし、最近になって何故か急にソウルを成長させたこの女の現状を一族はどうやって知り得たのだろうか? 


 この女は力を見せびらかしている訳ではない、かなりこの女に近い位置にいなければ変化には気付かないだろう……まさか中央小学校の関係者に一族のスパイが? だとしたら……あの子の情報も……


「私は小さい男の子が好みなんです! ストライクゾーンは9歳から13歳です! 脂ぎったおじさんなんて絶対にごめん……痛い!? なんで蹴るんですかぁ!? 酷いですよぉ!?」


 この女は一族とは別の意味で危険だ。


「お前は教師を辞めるべきだマーズリバース、悲劇が起こる前にな」


「え、ええ!? 嫌ですよ!? 私にとって小学校は最高の職場なんです! 最近になって自信も付きました! 死んでも辞めませんからね!」


 最初の頃に比べ、無駄に歯向かう様になって来た。元は火星の一族の割には戦闘能力も低く、PTAでも連絡員だったのに……去年の中頃から急に成長して頭角を表した。何か心境が変わる出来事でもあったのか?


「自信? それがお前がソウルを成長させた理由か?」


「えっ……ああ、はい! 去年にですね! 私が受け持っているクラスに転校生が来たんですよ! その子がとても可愛くて私の好みで良い子でして……教師失格の私を励ましてくれてたんです! 先生は良くやっているって! ガンバレガンバレって! 個人的には好みだとも言ってくれました……えへへ」


 そうか、あの子が……


「でもぉ……マモル君また引っ越しちゃうんですよぉ……悲しいです。心配だから寄せ書きを持たせたぬいぐるみに隠しカメラと盗聴器を付けたんですけど……新しい町でいじめられないか不安で不安で……痛い!? だからなんで蹴るんですかぁ!?」


 この女は事が終わったら通報しておこう……あの子にとって有害だ。それが世界の為にもなるだろう。


「あの子は強い、心配せずにカメラと盗聴器は使わずに放っておけ」


「えぇ!? ソウル動力の高い奴なのに……あれ? ムーンリバースさんもマモル君の事を知っているんですか? なんで………はっ!? 駄目ですよ! 同性でしかも十歳の男の子相手は犯罪です! 私が許しませ……痛い!? 蹴らないでくださいよぉ!?」


「はぁ……」


 マモル……貴方は新しい町でも成長するのでしょうね。それはとても喜ばしい事です。


 でも……それは同時に貴方に選択を迫る事にもなります。


 マモリはあの学園に入学しました。あそこに居る限りは一族のゴタゴタに巻き込まれる心配は無い、ソウルカード使いを育成する為の学園はプラネット社ですら手出しが出来ない。過酷ではありますが、外部からの脅威には世界一安全な場所です。


 来年の夏の惑星直列……地球を中心にしたグランドクロスに合わせてプラネット社はスペシャルカップを開催し、全世界の注目をあの地に引き寄せるでしょう。

 PTAも勿論あの日に事を動かす、上手く行けば全世界のソウルギアを全て無力化出来る。

 そして、組織も……グランドカイザーも動く。地球を500年前から続く惑星の一族の支配から取り戻す為に、彼の信じる地球のあるべき姿を取り戻す為に。


 マモル、その時に貴方は何を選択するのでしょうか………


 田中マモルとしてスペシャルカップに参加する? 組織と手を取ってプラネット社と敵対する? それともPTAに賛同して世界からソウルギアを無くそうとする?


 それとも……月読マモルとして、一族の役目を果たす為にプラネット社に与するのでしょうか?


 どの道を選ぼうとも……私は母親として貴方を愛しています。貴方の無事を祈っています……だから……


「あっ!? 聞こえる聞こえる! 流石はお給料二ヶ月分の盗聴器です! マモル君は車で移動中みたいですねぇ……はえぇ!? 女の子の格好ぉ!? そ、そんな素敵な発想が……痛い!? つま先が食い込んで痛いですぅ!?」


 だから私は母親としてPTAとなりました。ソウルギアを撲滅することが、私の愛する家族を守る事に繋がると信じて……

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