第6話 全面許可!! カイテンスピナーズ躍進せよ!!

「全てを引き寄せろ! シルバー・ムーン!」

「ぐっ!? 吹きとばせヴィーナス!」


 僕のシルバー・ムーンでヴィーナスを釘付けにする! ソウル全開で最大出力だ! 風を使っても遅いぞ金星少年! これで君を守る物は無くなった!


「エクリプス・ゼロ!!」


 ピース・ムーンで必殺技を放つ。周囲が暗闇に包まれる、この技は初見の相手には絶大な効果を発揮する。


「なっ!? 何だこの暗闇は!」


「ムーン・バレット!!」


 黄金の弾丸が背後から金星少年を貫く、後遺症は残らないけど戦闘の継続は不可能な絶妙な力加減のシュートだ。

 最近分かって来たけどこの技は相手を殺さない必殺技だった……ちょっぴり哲学的だね。


「がはっ!? 馬鹿な……風が止んだ? 僕のヴィーナスが止まる……美しきこの僕が負けるだと?」


 よしよし、ヴィーナスは回転を止めて力場も消えた。金星少年のソウル体が破壊された訳ではないが勝敗は決したも同然だ。

 あのダメージでまともな戦闘の継続は不可能、僕の完全勝利だ。


 仰向けに倒れる金星少年に近付く、色々と聞きたい事があるからな。月のソウルの力とか、不老不死とか不老不死の事についてだ。


「なぜだ? 僕とヴィーナスが敗北するなんて……何故なんだ姉さん……」


 なんかブツブツ言っているけど気にしちゃ駄目だ。自己愛が強そうだから敗北がショックなのだろう。


「君の負けだよ金星君。君は確かに強いけど視野が狭い、様々な視点で自分とは違う美しさを見つけようとしなかった事が敗因だ」


 僕はちゃーんと多様性を認める。ミカゲちゃんのソウル爆弾だってこうやって作戦に組み込む程に寛容だ。それぞれの個性を尊重する。


 ふふ、何時でも爆発させられるという精神的な優位が安定したスピナーバトルを可能にした。

 位置取りが微妙で結局使わなかったけど、ソウル爆弾は確かにいい仕事をしたよ。ニンニン。


「自分とは違う……美しさ? それが君の力の秘密?」


 おっ? なんか効いてるぞ? このまま説得すれば月のソウルを僕にくれるんじゃないか?


「ああ、そうだよ金星君。君もこれから……」


「私のヴィヌスを好き勝手にしおってぇ! 許さんぞ金星アイジ! 田中マモル!」


 あっ? 博士がいつの間にか復活している!? 僕は無実だぞ!?


「独楽造博士? 僕の魅了が解けたのか……」


「潰し合ってくれたのは好都合だ! 廻転町からソウルを集め終わっているのは素晴らしい! お前らを始末してこのままムーンアトラクト計画を完遂する! 奴等から地球を取り戻す為に! 偉大なるグランドカイザーの為に!」


 博士が叫びながら手元のコンソールをいじる。屋上が揺れ始め、周囲からシャドウが次々と湧いてきた。


 くそ! 僕のムーンアトラクト計画を奪うつもりか!? そうはさせないぞ!


 金星少年には後で月のソウルを手に入れる方法を教えて貰う必要がある。面倒だが守りつつシャドウ共を蹴散らす。


「白銀の輝きで彼を包め! シルバー・ムーン!」


 力場を展開して横たわる金星少年を守る。白銀に輝く結界が彼を包む。


 戦闘の余波でやられたら困るからね、ソウル体とはいえソウルワールドで傷を負うのは危険だ。聞きたいことも残っているし、死なれたら寝覚めが悪い。


「マキシマム・バレット!!」


 無数のソウルの弾丸をシャドウ共に浴びせる。数が多いからどんどんと撃ち込んでやる! オラオラ雑魚どもめェ! ひれ伏せェ! ヒャハァ! 皆殺しだァ!


 あっ! 反対からも1匹金星君に向って行くシャドウがいる! 始末しなくちゃ……


「くっ、僕も足掻かせて貰う……ヴィーナス!」


 金星少年が風で瓦礫を吹き飛ばして迎撃する。偉い偉い、ちゃんと自分で身を守るなんて……


 瓦礫が床ごとシャドウを潰し、爆発と衝撃が金星少年を襲う。


「ぐぎゃあぁぁ!?」


 痛えぇ!? 僕が痛えぇ!? 僕のソウル体が吹っ飛んだぞ!? 僕の下半身が吹っ飛んだぞ!? 何だこれ!? 何だこれ!? グロすぎるぞ!? ……あっ!? 


「マモル君!? まさか僕を庇って……君は……」


 シルバー・ムーンだ!? 能力で金星少年を守っていたから爆発のダメージを肩代わりしてしまった!


 うぅ……痛いよぉ……くそぉ……何で爆発したの? 何で床が爆発するのぉ? 意味がわからんよぉ?


 ……あっ、床に仕込んでいたソウル爆弾か! くそ! ミカゲちゃんめ! あの爆弾魔め! だから僕は爆弾なんて使うなって言ったんだ! 


「な、何故爆発した!? 誘爆する様な物があるはずが……まあ良い! よく分からんが好都合だ! そのまま彼奴等を始末しろシャドウ共よ!」


 まずいよぉ……シャドウなんて雑魚にやられてしまう……そんなぁ……あんまりだぁ……


 僕が何をしたっていうんだ? 謙虚に善行を積んで生きて来たのに……こんなはずじゃないのにぃ……僕は永遠の命を……うごご……


「マモル!? そんな!? 金星アイジと相打ちしたのか!?」

「ホムラ君! まだ独楽造博士が残っている! 止めないと不味いよ!」

「マモル殿……そのお姿は……このゴミ共がァ! ふざけた真似をォ!」

「マモルゥ!? 意識はあるかァ!? 無事だと言ってくれェ!? お前の許可がないと暴れられねェよォ……」


 痛みで薄れ行く意識の中、みんなの声が聞こえた。ヒカル君の癒やしの光が僕を包んでくれるがダメージが大きすぎる。回復が間に合わない。


「アイジ様!? 我等ヴィーナスガーディアンがお守りします!」

「……ありがとう。共に独楽造博士を止めよう、僕も足掻く」


 四天王まで来ているのか? 視界が真っ暗で様子が分からない、暗くて冷たい暗闇が僕の意識を徐々に飲み込んで行く。


 だけど……やっぱりあの時程は怖くない、冷たさと孤独を感じない。冷たいはずなのにどこか温かい。


 何でかな? 騒がしいみんなの声のおかげか? ホムラ君達ならこの後何とかしてくれるって思えるからかな?


 分からない……分からないけど悪くないかもしれない。






 明るい……もう昼かな? 正月だからって寝すぎたか? あれ? 僕は何してたんだっけ?


 ……あっ、僕の不老不死! どうなった!? 月の力は!? 最終決戦はどうなった!?


 ここは病院か? 近くに人の気配を感じる。


 このソウルの感覚……父さんと母さんか? 母さんはまた遠くから駆け付けて来てくれたのか。妹は……マモリはやっぱり来てないか。

 

 自業自得だが、妹には手紙を送っても返信してくれない程に嫌われてしまった。仕方ないけど寂しくはある。

 だが、母さんには週一程度の頻度で電話している。母さんは口数が少ないから、ほとんど僕の生活を報告するだけになってるけどね。


「マモルはこれでソウルの5大要素の内、放出と回転の2つを修めました。ソウルギアはどれも5大要素を少なからず孕んでいますが、それぞれの要素に特化している。だからこそソウル傾向が特化した地で経験を積ませる……理屈は分かります、分かっています。でも、この地でこれ以上ソウルを育てるのは危険ではないですか? マモルがこんなに傷付いて……私は……」


 まーた懲りずにリンゴ剥いてんな母さん、僕が小さい頃にリンゴ好きって一度だけ言ってからそればっかりだ。

 気持ちは嬉しいけど相変わらず上達しないな、皮剥きが下手なのにウサギさんにカットしたがる所も頑固だ……そして何か凄い重要な事を話している様な気がする。


「ごめんミモリ、マモルがここまで傷付いたのは僕の責任だ。廻転町での暮らしは3年生が終わるまでは続けるよ、新年度からは撚糸町へ引っ越す予定だ。このまま友達とお別れさせるのは流石に忍びない。分かってくれ……」


 えっ、もしかして僕は修行させられているのか? 間抜けな僕は修行から逃げられたと勘違いして修行を継続しているのか? でも主導権は父さんの方にありそうだぞ?


「でも私は……もうこれ以上は……」


 目元を潤ませた母さん、父さんが慰める様に肩を抱く。またしっとりとした絡みをしている……もう好きにしてくれ。


 あれ? 僕はどうやって父さんと母さんを見ているんだ? 


 だって僕は目の前でベットで目を瞑っているし……んん!? 僕が居る!? 僕は僕を見ている!? えっ、幽体離脱か!?


 何じゃこりゃ!? 何じゃこりゃ!? どうやって戻るの!? 僕ってもしかして死にかけてるの!? えっ、ええ!?


 ピーっと機械音が部屋に響く、何だこの音は? 


「この反応は! 意識が戻ったのかマモル!」

「マモル!? 私の事が分かる!?」


「ゆ、ゆぅたぃ……りだぁつぅ……?」


 あれ? 視界が戻っている? だけど声が上手く出ないぞ? どうなったんだ僕の身体は?




 それから二週間後、僕の身体は問題なく動くようになった。


 元通り……どころか前よりかなり調子が良い気がする。身体が軽くて動きもキレッキレだ。理由がわからんと不気味だ……去年もそうだったな。


 恐らく父さんと母さんが話していた事と関係があるのだろう。絶対に修行と関係があるはずだ。微妙に記憶があいまいだけど、5大要素がどうとか言ってた奴だ。


 でも、いくら問い詰めても教えてはくれなかった。時が来たら話すの一点張りだ。クソ親父め……勿体ぶりやがって。


 当然、僕の正月休みは入院生活で吹っ飛んでしまった。きな粉モチ食いそびれたな……あれは正月に食わなくちゃ意味がないのだ。


 入院中、僕の意識が戻った事を聞き付けたホムラ君達がやって来た。ホムラ君達はローテーションで、ミカゲちゃんは毎日やって来た。町のスピナー達も少し怯えながらもお見舞にきてくれた。


 最終決戦はカイテンスピナーズの大勝利で終わったらしい。


 独楽造博士が取り出した小型のヴィヌスとの決戦になったが、ヒカル君が回復させたアイジ君と四天王達と協力して見事に打ち破ったそうだ。独楽造博士は捕まり、SS団も壊滅した。


 そして、驚いた事に金星君と四天王もお見舞いにやって来た。彼等がカイテンスピナーズに加入させて欲しいと言ってきたのにはさらに驚いた。


 僕はそれを了承した。僕はこの廻転町を出て行く、戦力の補充は必要だと考えたからだ。

 カイテンスピナーズのみんなも反対はしなかった。ホムラ君が燃やし尽くすとか言い出したらどうしようかと思ったが割と仲良くやっている。バトルの後は仲間になれる……かつての敵は味方に。いいね、健全だし王道だね。


 そして新学期が始まり、小学校3年生最後の数ヶ月はあっという間に過ぎて行った。

 金星君と四天王を加えたカイテンスピナーズはランク戦をバリバリとこなし、チーム平均が史上最年少でのAランクチームを実現した。


 チームをいまさら抜ける事はしない、廻転町にはもはや僕を脅かす者達はいない。普通にスピナーバトルする分には特に問題などない……友達とスピナーバトルするのはこれで最後だろうからね、リーダーらしく最後まで役目を全うする。


 母さん曰く、育ち過ぎるとヤバいらしいので、僕は程々にスピナーバトルをした。具体的に何がヤバいのか未だに分からない。

 戦力は充実しているから僕が出張らなくてもそこまで苦戦しない、金星君……いや、アイジ君とヴィーナスは僕が抜けても防御面でチームを支えてくれるだろう。


 アイジ君には月のソウルについて色々と聞いたが、知らない方が良いと渋られた。

 食い下がると四天王が後ろから睨んできて怖いからしつこくは聞けない……くそ、僕はリーダーなのに……


 そして、別れの時はやって来た。今日僕は廻転町を出て行く、新たな町へと旅立つ。


 ミカゲちゃんとアイジ君が町中のスピナーをほぼ強制的に招集したお別れ会は数日前に開いてもらった。

 一部のスピナーからは、手綱を握り続けてくれと懇願されたが、彼らはミカゲちゃんが何処かへ引きずって行った。強く生きて欲しい。


「次のリーダーはホムラ君に頼むよ、僕がいなくなっても高みを目指してくれ。君たちなら出来る」


「任せてくれマモル! お前から受け継いだスピナー魂でカイテンスピナーズは頂点を目指す! 俺達の正義を信じてくれ!」


 正義とは……まあ人それぞれだよね。ホムラ君にはそのまま正義を貫いて真っすぐと育って欲しい。


「マモル君、君と過ごした一年間は本当に楽しかった。またいつか共にスピナーバトルをしよう。君に提案する様々な作戦を用意しておくよ」


 うん、せめて法は遵守した作戦でよろしく頼むよ……まあ、ナガレ君はそこら辺は上手くやるんだろうけどね。


「うゥ……許可をくれェマモルゥ……俺に別れの涙を流す許可をォ……泣き足りねえんだァ……お前と一緒に暴れたりねぇんだァ……」


 ヒカル君……君には優しい心を忘れないで欲しい。君がこのチーム唯一の良心だ。 

 君が優しさを失ったら対戦相手に死人が出る。癒やしの力を平和的に使ってくれ。


「マモル君、僕もカイテンスピナーズの一員として新たな美しさを探し続ける。君の教えてくれた事を胸にさらなる高みへと向かうよ……また会おう友よ……」


「我等ヴィーナスガーディアンズもアイジ様と共に励む、世話になったな田中マモル。お前に受けた恩はスピナーバトルで返そう」


 アイジ君と四天王達はすっかりチームに馴染んだ。廻転町のスピナー達はもはやカイテンスピナーズには逆らえないだろう、一つのチームに町の戦力が集中し過ぎている。


 あれ? 何時もは騒がしいミカゲちゃんが黙ったままだぞ? もしかして悲しくてお別れが辛いとか? 可愛げがあるじゃないか。


 「……マモル殿、ミカゲのソウルは何時も貴方のお側にあります。それを忘れないでいてくれますか?」


 ミカゲちゃんが静かに呟く。


 なんかちょっと怖いな……でもミカゲちゃんには色々とお世話になった。僕も後始末とかで凄くお世話した気もするけど、彼女には本当に感謝している。


「忘れないよ、僕達は離れていてもソウルのキズナで繋がっている。スピナー魂に距離は関係無い、僕達カイテンスピナーズは永遠だ。そうだろう?」


 うん、これぐらい言っておけば大丈夫だろう。


 綺麗事でも、心に響けばそれでいいんだ。それを誤魔化しと言う人もいるだろう。偽りと言う人もいるだろう。

 だけど、心に響いたなら、言葉はソウルに影響を及ぼす。僕達の友情の思い出がいつまでも美しいままでいられる様に、思い出がいつまでも美しくある様に、最後は綺麗な言葉で飾ろう。


 再会が叶わなくても、胸に希望を感じられれば僕達は少しずつ大人になれる……なんてね。


 いやー、これでもうリーダーをしなくて良いと思うと肩の荷が降りるねえ。

 ほんのり寂しさを覚えるけどこればっかりは偽れない、戦いの日々が終わると思うと開放感で満たされる!


「あぁ!! その通りですマモル殿!! 私達は一つです!! 私はこの町でカイテンスピナーズを高みへと導きます!! 必ず貴方のお役に立ってみせます!!」


 よしよし、元気になって良かった。


 別れの時には笑顔でいて欲しい、友達との思い出は笑顔が一番だ。終わり良ければ全て良しってね。


「みんな……またね! 僕達の心は一つだ! 僕達のソウルは離れていても繋がっている!」


 それっぽい事を言って父さんの待つ車に乗り込む! さらば仲間たちよ! さらばカイテンスピナーズ! さらば廻転町! アディオス!


 助手席のミラー越しに手を振っているみんなが見えた。僕も窓から体を乗り出して彼等に手を振る、みんなが見えなくなるまで手を振り続ける。


 さようならみんな、さようなら廻転町。




 父さんの運転する車に揺られて新たな町へと向かう、寂しさと新生活への期待が入り混じった不思議な感覚。3度目だけど変わらずにソワソワした気分になる。


「すまないマモル……友達と別れるのは辛いよな、本当にすまない」


 相変わらず謝罪の言葉を口にする父さん。思う所はあるけどそこまで申し訳無さそうにされるとこっちも落ち着かない。


「大丈夫だよ父さん、友達とは離れていても繋がっている……うんうん。それはそれとして、父さんは僕に何か渡す物があるんじゃないの?」


「ああ、お前にはお見通しだなマモル。渡した鞄の中にケースが入っているから開けてみなさい」


 3回目ともなれば予想は付く、予感というか確信ですらあった。新しい町には嫌な予感しかしない。


 取り出したケースはやはり金属製で凝った装飾がなされている。相変わらずいい仕事してますねぇ……さてさて中身を拝見。


 うんうん、黄金の縁取りが美しい円盤型のオモチャ。中央のマークは実家のシンボルだっけ? スタイリッシュで格好良いよね! 見事なハイ○ーヨーヨーだね! いくらするのかなぁ? ステル○レイダー数千個分ぐらいかな?


「それは、お前専用に作られたソウルストリンガーだ。名前は“トワイライト・ムーン“、大事に使ってあげてくれ。引越し先の撚糸町ではストリンガーバトルが盛んだからな、それで一緒に遊べば友達がすぐに出来るだろう」


 ふふ、予想はしていたよ父さん、どうせ撚糸町も治安は最悪なんだろう? 悪の組織が暗躍しているんだろう?

 でも、三度目の正直って言葉がある。ストリンガーバトルからは逃げられなくとも僕には策があるのさ……平和にホビーバトルを続ける策がね。


 友達は作る! ストリンガーバトルはこなす! 主人公とは絡む! だけど悪の組織とは戦わない! あくまで平和なホビーバトルのみを楽しむ! 


 それらを同時に実現させるたった一つの冴えたやり方を見せてやろう!






 主のいなくなった家の一室、そこで私はベッドに横たわる。この家は私が買い取った。引越し時に処分された私物は出来るだけ回収して元に戻してある。


 うつ伏せになって残り香を感じる。全身でソウルの残滓を感じ取る。まるで抱きしめられているような素敵な感覚だ。

 私の喪失感を一時的に慰めてくれる魅惑的な香りと温もりがそこにはあった。全身が痺れる様な幸福感に包まれる。


「お嬢様、ご報告が……っぐぅ!?」


 私の至福の時間を邪魔した部下の首を影で締める。体勢はそのままに、私から影が伸びて愚かな女を宙吊りにする。


 この女は能力はそこそこだが、気が利かないし空気が読めない所がある。私がマモル殿と一つになっている所を邪魔するなんて無粋にも程がある。


「ぁっ……お、お止めっ……くださ……っい」


 そのまま五分間ほど至福の時間を続けた。


 名残惜しさを断ち切って身体を起こす、ついでに影を解除する。宙吊りになっていた女がドサリと音を立てて床に転がる。


「報告を聞かせなさい」


 喉を押さえて息を乱す女に催促をする。視線を床に向けたまま女は喋り出した。


「み、水星ミナトから返事がありました。協力要請を受け入れ、同盟を結ぶ事を了承するそうです。これが契約のソウルストーンです……」


 青く輝くソウルストーンを受け取る。これは惑星の加護を受けた者同士が絶対遵守の契約を結ぶ為の儀式。


 私達にとって、言葉や書面による契約など意味を成さない。


 全てはソウルによって交わされる。ソウルストーンから水星ミナトのソウルが、彼女の意思が伝わって来る。


 ……なるほど? 少しだけ勘違いをしているようだが目的は共有出来る。あの女はマモル殿が優しいから思い違いをしているようだ。


 私達の望みは同じだ。一つの目標へと向って力を合わせよう。


「ミカゲ様、お父上とお兄様にはどのように報告されるおつもりですか?」


「何度も同じ事を言わせないで、この前と同様に事を進めると伝えなさい」


 うっとうしい……報告が済んだのなら早く出て行けばいいのに、しつこい女だ。


「で、ですが、偉大なる冥王家の悲願をあの田中マモルに託すというのはやはり……がぁ!?」


 影で再び女の首を絞めて宙吊りにする。空っぽの頭にも良く響く様に私の近くまで顔を持ってくる。


「よく聞け……私のマモル殿を、お前如きが呼び捨てにするなど許されない。身の程をわきまえろ……理解できたか?」


「わかっ、わかりぃ……ましぃ……たぁ……」


 理解した様なので女を放り出す、ヨロヨロと部屋を出て行ったのを確認して再びベッドにうつ伏せになる。


「マモル殿……私が貴方の望む物をご用意して差し上げます。ミカゲは貴方のお役に立ってみせます……」


 金星は私と同じチームにあり意思は確認している。水星とも同盟が結ばれた。

 惑星の加護を持つ者が着々と集まっている。これは運命であり宿命なのだろう。

 撚糸町には火星と木星の加護を持つ者が居る。奴等もマモル殿のソウルの輝きの前にひれ伏すだろう。


 二年先の惑星直列の日には十分に間に合う。その日にマモル殿が望みを叶えられる様に、影でお手伝いするのが私の真の役目であり望みなのだ。


 私がそう決めた。一族の役目など下らない、あの日にマモル殿と初めて出逢った時、輝くソウルを目の当たりにした時、私は運命を確信した。


 スペシャルカップを利用して計画を進めているプラネット社の野望もどうでもいい。


 地球を取り戻す為に月の封印を狙う組織の長グランドカイザーの悲願もどうでもいい。


 ソウルギアの撲滅を目指す過激派地球環境保護団体PTAの勢力拡大もどうでもいい。


 プラネット社に追放された私が生まれた一族である冥王家の復讐なんて一番どうでもいい。


 マモル殿が望んでいるのだ。


 この星の真の王たる器が、全ての惑星を従えるに足る未来のソウルマスターが、私の運命の人に必要な物があの日に全て揃う。

 

 ならば、私はそれを差し出せる様に準備するだけだ。


 私の横で“ネオ・ブラック・シャドウρ“が震える。この子も喜んでいる。私と同じでこの子もマモル殿が大好きだ。


「マモル殿の望みを叶えれば、きっとたくさん褒めてくれます。楽しみだね“プルート“、貴女もそう思うでしょう?」


 オーバーパーツの中に隠されたもう一つの名前で問いかける。同意の意を示すソウルが私に伝わって来る。


 ホムラ君も、ナガレ君も、ヒカル君も、そう考えているだろう。我等のリーダーの、我等の主の望みを叶えたい。そう思うに決まっている。


「はぁ……待ちきれません……マモル殿……私は……拙者は必ずお役に立ちます……早く褒めてほしいです……ニンニン」


 初めて会った時、私の一族の黒い装束を貴方は忍者みたいだと言いましたね。


 だから私は拙者になりました。私は貴方の忍者となりました。貴方の影となりお助けする事を決めました。


「ふふっ……ニンニン」


 私は貴方の望みを叶えます、私は貴方の望む者になります。


 だから褒めてください。私の名前を呼んでください。常にソウルが共にある事をお許しください。


 胸いっぱいに空気を吸い込む、私を満たす香りと温もりでソウルが満たされる。心の中でマモル殿から答えが返って来る。


 やはり私達はソウルで繋がっている。マモル殿は許可をくれた。


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