第15話 完全理解!! 未来に託せばアフターカーニバル!!

 


 生徒会室での秘密の女子会は終わり、僕は当初の予定通りに白神ちゃんと一緒に下校する事になった。

 天王トウカはまだ仕事があるそうで生徒会室に残るらしい、働き者な椅子だ。


 そして、すっかり夕焼けに染まった帰宅路で、僕はトリップ気味の白神ちゃんに理想のウエディングプランを延々と聞かされ続けている。


「やっぱり私はウエディングドレスが素敵だと思うけど……トウヤ君はもしかして白無垢の方が喜んでくれるかなあ? どう思うマモコちゃん?」


 いや、白無垢を好む小学5年生は相当レアだと思うが、ここは白神ちゃんの望む答えを返そう。


「希望すればどっちも着られるプランもあるから両方でいいんじゃない? 白神さんならどっちも似合うと思うわよ?」


 まさかソウルメイクアップの為に学んだ女の子知識がここで役に立つとは、ゼク○ィを読んでおいて助かったぜ! 


「両方!? す、凄いよ! 欲張りで素敵なプランだよ! マモコちゃん凄いなあ、発想が大胆だね?」


「そ、そうかしら白神さん?」


「ヒカリって呼んでよマモコちゃん! 私達はもう友達でしょう?」


 なんか凄い好感度稼いじゃったぞ? チョロ過ぎない?


「分かったわ、えっと……ヒカリ?」


「そうそう! それでいいよマモコちゃん!」


 うーん、めちゃくちゃ無垢な笑顔。トウヤ君が絡まなければ良い子なんだろうな……名前を呼ばれてはしゃぐ姿は年相応だ。


 そして、話題はウエディングプランから結婚後の家族構成にまで発展し、僕の帰宅路の途中にある白神家に到着するまで途切れる事なく続いた。


 トウヤ君の理想の子供の数なんて僕は知らんよ? たまご○ラブとひよこ○ラブも読んどいた方がいいかな……お小遣いで定期購読するか。


「マモコちゃん、これを持ち帰ってお家の人と食べて? 白神庵本店名物のどら焼きだよ」


「ありがとうヒカリ、家にはどら焼き大好きな居候が居るからきっと喜ぶと思う。ありがたく頂くわね」


 別れ際に和菓子屋の娘らしいお土産を貰った。おお、8個入りのやつだ。こりゃあ今度お礼しなくちゃいかんね。


「ああ、ヒカリ。一つだけ聞きたいのだけれど……さっき生徒会室で言っていた田中マモルがどのクラスなのか知っているかしら?」


「え、田中マモル君? あの子は確か……4年4組だったはずだよ? あまり学校に来ないから数える程しか見た事ないけどね」


 4年4組? ひとつ下の学年……なんか妙な予感がする。マイファミリーが絡んでる気配がビンビンだ。


「じゃあまた明日ね! 明日こそみんなで町を案内するから楽しみにしてて!」


「ええ、また明日。楽しみにしてるわ」


 ふぅ、転校初日は、成功と失敗が半々かな? クリアした課題もあるが、懸念事項も増えた、

 でも、ヒカリちゃんという友達が出来た。ちょっと利害関係が絡んではいるが……まあきっかけはなんでもいい、友情ってのはゆっくりと育まれるものだ。とりあえずは良しとしよう。




 ヒカリちゃんと別れて帰宅路を行き、自宅へと到着する。


 今日はイベントが多くて疲れたな、玄関のドアを開けて自宅へと入り、ソウルメイクアップを解除する。

 やれやれ、家の中でしかマモルに戻れないのは辛いよ、女の子は大変だね。


「ただいまー」

『おかえりマモル! おお! その包みはもしかして白神庵か!? お土産か!?』


 僕の帰宅の音を聞きつけ、出迎えてくれるユピテル君。


 家に出迎えてくれる誰かがいるのは嬉しい。それが彷徨う背後霊だとしても変わらない。

 そして早速お土産に食い付いて僕に纏わり付くユピテル君、まったく食い意地の張った幽霊だ。オ○Qかお前は? お土産はどら焼きだけどね。

 でも、その純粋さには癒やされる。ここまで嬉しそうにされるとこっちもいい気分だ。


「そうだよ、白神ヒカリちゃんに頂いたんだ。夕ご飯の後に一緒に食べよう」


 今日は父さん帰って来るかな? ニセマモルについて聞きたいんだけどなあ。


『やった! そうそう、今日の夕飯はトマトカレーだぜ! 早く温めて食べよう! あっ、地杜さんがマモルに人参サラダも残さず食えって言ってたぞ?』


 くっ、嫌らしい献立だな。加熱したトマトなら食べれるという、僕のギリギリのラインを攻めてくる。


「うーん、人参サラダか……」


 僕が父さんと二人暮らしになってから、毎日の様に夕飯を用意してくれているのが地杜さんだ。

 家の家政婦を通いで務めてくれる彼女は、引越し先にまで毎年付いてくる。

 そして、僕に執拗にトマトとニンジンをあの手この手で食わせようとして来る恐ろしい女性だ。


 たぶん地杜さんも月読家の息がかかった人間なんだと思う。感じるソウルが只者じゃないとは思っていたが今日の女子会で確信した。事情を知らない人間に家の家事全般をやらせる訳ないもんな。


「ユピテル君? 僕の分の人参サラダも食べてくれない?」


『えーバレたら俺も地杜さんに怒られちゃうだろ? あっ、それじゃあその……またアレをやってくれたら食べてやってもいいぞ?』


「アレ? アレってどれの事?」


 急にモジモジしてどうした? 珍しい反応だな?


『アレだよ……ほら、ソウルメイクアップ……』


「ああ、アレね。他の可能性も引き出してほしいの? ユピテル君は強さに貪欲だね」


 この前はくすぐったいだとか、変な感じがするとかブツブツ文句言ってた癖に自分から言い出すとは……他のソウルギアも使える様になりたいのか?


「分かったよ、今度はどんな可能性がいいの?」


『つ、強くなれる奴ならなんでも構わねえよ』


 なんでもいいが一番困るんだよね、献立を考える主婦になった気分だ。


「じゃあ寝る前でいい? アレって結構疲れるからさ」


『お、おう。じゃあ今夜な』


 ユピテル君と二人で夕飯を食べた後、父さんから今日は帰宅出来ないとメッセージが届いた。


 父さんは仕事中はあまり携帯を確認しない、なのですぐに答えが返ってくるとは思えないが一応返信をしておく。

 了解の意と、僕と同じ小学校に通う田中マモルについてなにか心当りがないかとの文面でメッセージを送った。


 そしてもう一つ、冥王計画とか言うふざけた話をミカゲちゃんに確かめなくてはいけない。


 ミカゲちゃん、ミカゲちゃんは……父さんとは違って、電話すればどんな時間だろうと絶対に出る。


 恐る恐る電話帳のアプリでミカゲちゃんの名前ををタップすると――


『はいもしもし! 御用ですかマモル殿!? 貴方のミカゲです! ニンニン!』


 着信に出るのが早すぎる。心臓に悪いからせめて3コールぐらい待ってくれ。なんで秒で応えられるの? どうやったら察知出来るんだ?


「ああ、ミカゲちゃん。ちょっと確認したいことがあってね、あのさあ、冥王け――」

『マモル殿!! お待ちください!!』


「ふあっ!?」


 な、なんだよ!? びっくりするだろ?


『マモル殿の携帯端末は、確かに御父上の手によって特別な回線を使用しておりますが……やはり傍受されるリスクは0ではありません。あの方達の保険が無意味になる可能性があるので、ここからは明言を避けた会話をしましょう。ニンニン』


「えぇ……?」


 僕の携帯そんな特別な物なの? そして何故それをミカゲちゃんが知ってるんだい? しかも直接口に出したらヤバイって……勘弁してくれよ?


『ご安心くださいマモル殿! 恐らく例のアレがマモル殿のお耳に入ったのですね! 拙者に進行状況の確認ですね!心配には及びません! 計画の進捗に滞りはございません! 安心安全第一で迅速に進めております! ニンニン!』


 いや、1ミリも安心できねえよ。


「あのさ、ミカゲちゃん? 僕は……」


『全てこのミカゲめにお任せを! マモル殿のお望みを全て叶えてみせます! 彼奴らのアレは所詮一時的な物です! 勘違いした馬鹿共が少し愚かな行動にでる可能性はありますが、あの方達が対策済みです! 絶対安全です! そして支配者気取りの身の程知らず共は恐らく夏頃に動き出すと思われます! それまでに拙者は協力者と連携して準備を万端にしておきます! マモル殿は悠然とお待ち頂いているだけで結構です! 万事抜かりはありません! ニンニン!』


「ふむ、なるほどね」


 うん、1ミリも理解できん。


 流石はミカゲちゃんだね、事態は既に取り返しの付かない所まで進んでる気がする。


『本来なら今すぐにでもマモル殿のお側に馳せ参じたいのですが……申し訳ありません。どうしても拙者本人ではないと片付けられない案件が幾つかありまして……歯がゆいです……未熟なミカゲをどうかお許しください、ニンニン……』


「うんうん、許す許す、ミカゲちゃん? だからさ?」


 手紙でもなんでもいいから詳しい説明を――


『ああ! ありがとうございますマモル殿! やはりマモル殿はお優しい方です! ミカゲにとって唯一無二の主です! 夏になればそちらへと向えます! それまでどうかお待ち下さい! マモル殿にご報告したい事がいっぱいあります! その時は……ミカゲを、ミカゲをたくさん褒めてくれますか?』


 ――出来ないよね、こうなったミカゲちゃんを止める事は不可能だ。一年間付き合ってた僕にはよく分かる。


「うん、もちろんだよ。待ってるねミカゲちゃん。僕の為に色々とありがとう、ミカゲちゃんは本当に働き者だね」


 もはやこう言うしかない、ミカゲちゃんは絶対に爆発はさせるなと言っても爆発させる子だ。有能だけど基本的には暴走してる子なので、電話口での説得不可能だろう。

 まあ、夏にはこっちに来るみたいだから、その時に直接言い聞かせよう、直接話せば割と素直に言う事を聞いてくれる……事もある。


 その頃には、取り返しの付かない事態になっている気もするが……やめよう、今解決出来ない問題に心を揉んでも仕方がない。


 きっと未来の僕が素晴らしい解決方法を思いついてくれる。今解決出来ないの問題は取り敢えず先送りにして忘れるのが僕流の処世術だ。

 辛くて苦しくて面倒くさい事は後回しにするのが一番だよね。頼むぜ未来の僕。


『は、はい! ありがとうございます! ミカゲは……ミカゲは幸せ者です! マモル殿がミカゲを労ってくれるなんて……えへへ』


 相変わらず大げさだなあ、忍者ムーブに全力出し過ぎだよね。ロールプレイが全力過ぎる子だ。


『マモル殿、名残惜しいですがこの後ソウル爆弾を設置しに行かなくてはいけない施設が何箇所かありますので……これにて失礼致します。ニンニン』


 なにも言うまい、他の町の面倒まで見切れませんね。


「うん、元気でねミカゲちゃん。それじゃあまたね」


『はい! マモル殿もどうかご自愛ください! あっ、着飾ったお姿もとても素敵ですよ! 早く直接お目にかかりたいです! それでは! ニンニン』


「えっ?」


 なんで僕がマモコになってるの知ってんだよ!? 友達には誰にも教えてないのに……えっ、もしかして盗撮でもされてる?


 その後、何者かに見られている様な妙な気配に怯え、落ち着かないお風呂タイムを過ごした。

 そして夜、寝る前にユピテル君にソウルメイクアップを施す。前より妙にクネクネするのでやり難くてしょうがなかった。

 そんなにくすぐったいのかコレ? 凍咲君にやる時は気をつけなくちゃいかんな。




 次の日、この僕には退屈な……と言うにはやたら高度でレベルの高いこの世界の初等教育要領に基づいた授業をなんとかこなして放課後となった。ようやく凍咲君達に舞車町を案内してもらえる。


「よし、授業終わり。昨日はごめんな田中、今日こそバッチリ案内してやれるぜ。今日はチームの用事がないのは確認してあるから安心してくれ」

「そうだねヒムロ君。マモコちゃんに舞車町を案内してあげようね」

「マモコちゃん? ヒカリ、いつの間に田中さんと?」


 おっと危ねえ、凍咲君は目ざといなあ。


「昨日帰り道で一緒になったのよね? ヒカリ」


「うん、昨日一緒に帰ってマモコちゃんと仲良くなったんだよトウヤ君」


「そうなんだ? ヒカリがそんなに早く新しい人と仲良くなるなんて……」


 なるほど、トウヤ君はヒカリちゃんのちょっと排他的っぽい気質を察してはいるんだな。そりゃそうか、幼馴染みだもんね。




 町の案内は実に平和的で楽しい物だった。案内先で四天王が待ち受けている事もなく、普通に町のスポットを案内してくれた。


「ここが舞車町で一番大きなオフィシャルショップだ。バトルドームも併設されているから常にランナーが大勢いる。今日は特に賑わっているけどな、なにせあの有名なブライトエンゼルスの試合があるんだ」


 あそこのやたら白くて偉そうな人達か、似たような人達を何回か見た事がある。

 確か“アークエンゼルス“とかいう同盟を組んでいて、五種類のソウルギアそれぞれのチームが集まって偉そうな顔してるエリート集団だ。

 シューターのチームも、スピナーのチームも、ストリンガーのチームとも戦った事がある。大体Aクラスで2位か3位のチームで、そこそこ苦戦はしたけどボコボコにしてやったのを覚えている。

 強いんだけど、惑星の一族の同盟“プラネットソウルズ“よりは明らかに格下、高水準だが決定力や絶対的なエースが足りない噛ませ犬感の強い集団だ。



「ここがオッチャンのパーツショップだよ田中さん、たまにライセンス外のパーツも混じってるけど、掘り出し物もあるから覗いてみると面白いと思うよ」


「おや? トウヤ君新しいお友達でゲスか? これはこれは、可愛らしいお嬢さんでゲスね。サービスするからご贔屓に……ゲヘヘ」


 妙に古臭いパーツショップの店長は、ボサボサの髪に伸び放題のヒゲ、そして厚底の眼鏡をかけた小太りのオッサンだった。

 話し方もアウトだ。流石にゲス使いは引くよ、大丈夫かこの店長? 

 でも、確かにパーツは珍しいのが揃っているし相場より安い、そういう罠かな、それを餌に小学生を騙してるのかも……とりあえず通報しておいた方がいいかな? カワイイ僕は身の危険を感じる。



 その後も、学区内のソウルバトル可能なフィールドなどを中心に舞車町の案内をしてもらった。



 ストーキング中やマモルボディで町を散策した時も思ったけど……舞車町はランナーの多い町だ。

 そして、何処もかしこもソウルランナー関係の施設だらけだが、これは他の町も似たような物だ。

 ソウルの潤沢な土地は大体こんなもので、この世界は基本的にはそれがスタンダードだ。ソウルギアが物事の中心に居座っている。

 家を出て外の世界に触れ始めた当初は面食らったが………正直もう慣れた。僕もだいぶこの世界に馴染んできたもんだと、しみじみ感じる。


 少し日が沈んで来た住宅街をみんなで歩く、トウヤ君たちは案内にこなれた感じだった。今回が初めてじゃないのか?


「これでソウルギア関係の施設は大体案内できたかな?」

「そうだな、他の所も――と思ったけどもう夕方だな、明日にするか?」

「うん、焦らずゆっくり案内しようよ。マモコちゃん、明日も放課後に時間は取れる?」


 確かにそろそろいい時間だ。ユピテル君は夕飯を一緒に食べないと拗ねるしな、今日はこれくらいでお開きだね。


「ええ、もちろんよ。でも、みんなの方こそ大丈夫なの? チームの用事があったりはしない?」


「それなら問題ないぜ! トウカ様にはちゃんと許可をもらってる! 新しく舞車町に来たランナーが町に馴染める様に面倒見るのもクリスタルハーシェルの立派な務めだってよ! 心配はいらねえ!」


 へえー、町のランナー達の纏め役のチームそんな事までやるの? 

 そうか、だからこの子達は町の案内に慣れてるのか。


 偉いな、ただバトルが強くてふんぞり返ってるだけじゃ駄目なんて、無茶苦茶面倒臭そうなチームだ。

 でも、そんな一人一人気にかけてたら大変じゃないか? 本当に小学生のやる仕事かそれは? ストレス溜まらない?

 あっ、だから天王さんは椅子になったのか、激務過ぎてストレスの発散方法がおかしくなってしまったんだ。哀れな小6女児だ。次会う時はもっと生温かい目で見守ってやる事にしよう。


「そう、天王さんは立派ね。舞車町にランナーが多いのはそれが理由かしら? それに活き活きとしたランナーが多かった。舞車町は良い町ね」


 やっぱりトップがしっかりしてる所は違うなあ……うんうん、天王さんは偉大だね。

 それに比べて、風の噂に聞く廻転町ってところのスピナー達は、町のトップチームに怯えて暮らしているらしい。

 なんでもカイテンスピナーズって奴等がめちゃくちゃ凶暴らしいぞ? 逆らうと爆破されるともっぱらの噂だ。怖い怖い。


「うん、トウカ様は大勢のランナーに尊敬されて慕われてるよ。私にとっても目標で守るべき人なんだ」


 本気で言ってるっぽいねヒカリちゃん、尊敬すべき目標に座るのってどういう心理状態なの?


「ああ! それに俺達のリーダートウカ様は国内No.1のジュニアランナーだからな! 強さと優しさを兼ね備えた立派な人だぜ!」


「うん、トウカ様は凄いよ、だから俺も少しでも強くなって役に立ちたいんだ」


 慕われてるな天王さん。確かに表向きはキリッとした美人だし、こういった気遣いも出来て強いならそれも当然か。知らないって事は幸せだね。


「おいおい? それはなんの冗談だトウヤ」


 突如聞こえてきた僕達ではない声、振り向くとそこに居たのは不良ルックの少年だった。

 なんだ冷泉君か、ヒカリちゃんが呼んだのか? なんか剣呑な雰囲気だぞ?


 そう思ってヒカリちゃんの方を向く、ヒカリちゃんも僕の方を向いて小さく首を横に振った。あれ、仕込みじゃないのか? 冷泉君は普通にチームメイトに会いに来ただけか。


「レイキ……冗談って、どういう意味だよ?」


「はっ、そのまんまの意味だよ。なにが少しでも強くなりたいだ。そう思うなら新参者の案内なんかにうつつを抜かしてないで、少しでも訓練しやがれってんだ。チームのお荷物トウヤさんよ」


 おいおい、トウヤ君に対する当たりが強いな? 凍咲君が現時点ではクソ雑魚ナメクジなのは確かな事実だけど、もう少しオブラートに包んであげなさいって。

 もしかして二人は幼馴染みの癖に仲が悪い感じ? わざわざケンカを売りに来たのか?


「くっ……それは」

「おいレイキ! それは言い過ぎだろ!」

「そうだよレイキ君? ちょっと口が過ぎるんじゃないかな?」


「ヒカリ、ヒムロ、お前らが甘やかすからソイツは必死にならねえ、居心地のいいぬるま湯に浸って出し惜しみしやがる」


「レイキ、僕は――」


 なんだろう、冷泉君……羨ましがっている? ソウルを通じてそんな雰囲気を感じる。

 

 あっ、もしかしてコイツ凍咲君に嫉妬してるのか!? 多分原因は――そうか! ヒカリちゃんだな! 


 つまり、冷泉君はヒカリちゃんが好きだけど、ヒカリちゃんは凍咲君にゾッコンLOVE。そして凍咲君は正直チーム内で実力が見劣りしている。なんでヒカリは弱いトウヤなんかを……ってな感じだな!?


 天王さんが言ってた見て見ぬ振り云々はこのことだな、コイツら小学生の癖に随分と青春してるやがる。風紀の乱れを感じますね。


「ふん、雑魚の言葉なんてどうでもいい。おい、ヒカリ、ヒムロ、PTA案件だ。今あの組織で一番危険なモンスター級ペアレント、“灼熱のマーズリバース“がEE団と交戦しているとの目撃情報が入った。トウカ様の命令だ。確認に向かうぞ」 


 うわ、PTAの二つ名持ちかよ。確実に強い奴じゃん、しかも明らかに火属性だね。

 そして今一番危険って……絶対に近付きたくない。


 PTAは確かに悪の組織とも敵対しているが、決して正義の味方ではない。

 最終目標としてソウルギアの根絶を掲げており、人のソウルギアを奪ったり、破壊したりもする。実際の所は悪の組織と大差ない危険な集団だ。


「あのマーズリバースが!? 男子小学生を執拗に追いかけ回し、ソウルバトルに持ち込むと噂の赤き怪人が舞車町に!?」


「マーズリバース、たしか対戦相手が男児の場合、相手のソウル体を無理矢理に半ズボンへと変えてしまうPTAの実力者だよね……ビンゴブックで詳細を読んだよ」


「うん、ソウル体に干渉出来る程の実力、そして機体の能力で灼熱の炎を自在に操り、相手に発汗を促して精神的に追い詰める……危険な相手だね」


「そうだ。そして打ち破った相手をソウルの糸で縛り上げ、半ズボンで汗だくになった姿を地を這うような角度から撮影しては辱める……ちっ、趣味の悪い奴だぜ、敗者を精神的に痛めつけるなんてよ」


 なんか僕が思っていた危険と違う……でも、べらぼうに危険なのに変わりはない、近寄りたくないのは一緒だ。


「それに、奴はストリンガーだったはずだが……目撃情報ではソウルランナーを使用しているらしい。とにかく現場に向かうぞ、場合によっては交戦もあり得る」


「くっ、分かった! 悪いな田中! 俺達は急いで現場に向かう!」

「うん、マモコちゃんは危険だからこのままお家に帰って?」

「そうだね、田中さんは――」


「お前もだトウヤ、お前も家に帰れ。トウカ様から待機命令が出ている」


「なっ!? で、でも! 俺もウラヌスガーディアンズの一員として――」

「お前じゃ実力不足なんだよ。相手はPTAだ。万が一お前の機体が破壊されたらどう責任を取る? 貴重なサテライトシリーズをお前の判断で失っても良いと思ってんのか?」


 ええ? 昨日君は四天王の機体を壊そうとしてたよね? そこの所はどうなの冷泉君?


「ぐっ……分かったよ。俺は……待機している」


 悲しげに呟き、そのまま駆け出した凍咲君。目元には涙が滲んでいた。


 うーん、確かに凍咲君の実力じゃマーズ・リバースとやらには勝てないだろう、下手すりゃ餌食になって半ズボン姿で汗だくにされてしまう、凍咲君は線の細い美少年系の顔立ちだからな……真っ先に狙われそうだ。

 でも、あの扱いは傷付くよな……男の子にはプライドって物があるもんな。

 まあ、僕は待機命令が出されたら喜んでお家に帰るけどね! 今は女の子だもんねー♡ 早くお家に帰るぞい♡ 頑張らないゾイ♡


「トウヤ!?」

「トウヤ君!?」

「ちっ……放っておけ! 早く現場へ向かうぞ!」


 いや、よく考えたらこれはチャンスか? 傷心の凍咲君に上手く付け込めば、自然に彼を鍛える流れに持ってけるんじゃないか?


「ヒカリ、氷見君、凍咲君の事は私に任せて。アナタ達は安心して現場に向かってちょうだい?」


「マモコちゃん……うん、お願い出来るかな?」

「ひ、ヒカリ? 気持ちは分かるけど、今町をうろつくのは田中さんが危険なんじゃ……」

「ふん、その女の心配はいらねえぞヒムロ。PTAの雑兵程度にヤラれる玉じゃねえ」


「フフッ、その通りよ。心配ありがとう氷見君、アナタ達も気を付けてね」


 さーて、走り出した凍咲君を追いかけるとしますか。追いついて彼に、『力が欲しいか――』って感じでソウルメイクアップをオススメしよう。


 凍咲君も不安よな、田中マモコ動きます♡

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