第3話 颯爽退散!! ミタマシューターズよ永遠に!!

 


 明るい……もう朝かな? あれ? 僕は何してたんだっけ?


 うっすらと見える知らない天井、腕に繋がれたチューブ、何だこれ?


 ここは……病院か? 近くに人の気配を感じる……あっ、父さんと、母さん? 僕の負傷を聞いて駆けつけて来たのか? 2人は僕が目を覚ました事に気が付いていない。


 あー? 声が出ない? 身体も動かないぞ? 何だこりゃ?


 あっ、母さんがリンゴを剥いている……相変わらず危なっかしい包丁使いだ。家事全般が下手くそなのは変わっていない、リンゴが見るも無残な姿に切り刻まれている。


「だから言ったのです、御玉町は危険だと。この町のソウルの傾向はシューターに偏り過ぎている。こういう極端な地は邪悪な企みの温床になりやすい」


 えっ、そうなの? 確かにやたら治安の悪い町だと思ってたけど……土地その物の問題だったのか。


「だが、マモルはこの町で成長した。シューターバトルを通じて友達を作り、正しいソウルで悪の企みを阻止した……僕達の息子は強くて優しい子に育ったよ」


 だが、じゃねーよ父さん。子供は危険から遠ざけてくれ、感動してる場合じゃねーぞ。


「成長している事も問題です、これ以上この土地に留まり続ければマモルは……」


 ぼ、僕は? どうなるの? 御玉町は何かヤバイのか!? 御玉ウイルスとか!? 御玉町症候群とか!?


「分かっている。でも、2年生が終わるまではこの町で過ごさせてあげたいんだ。マモルはとても楽しそうに彼等とシューターバトルをしていた……いきなりお別れは辛いだろう」


 いやいや、僕の身が危険なら引っ越そうよ! 父さんの目は節穴だよ! ソラ君達が嫌いな訳じゃないけど、自分の身の安全の方が大事だよ!


「そうですね……やはり私は母親失格です、そういった事に考えが及ばない。マモルにも、マモリにも、辛い思いばかりさせている……きっと私を恨んでいるでしょうね」


 自覚があるなら修行の強要はやめてくれ、それ以外は別に恨んではいないよ母さん。ちょっとクレイジーだとは思ってるけどさ。


「僕も同罪だよ、だけどこの子達の未来を思えば必要な事だ。耐えなくちゃいけないんだミモリ」


 そう言って、母さんの肩を抱いて慰める父さん。


 おい、いちゃつくなら別室でやってくれ。両親のそういう部分は見たくないっす。復縁するのを反対はしないけど……


 くそっ! 動け僕の体! このままだと両親の湿っぽい絡みを見せ付けられてしまう! そんな性的嗜好はない! 動いてくれぇ僕の身体よぉ!


 ピーっと機械音が部屋に響く、何だこの音は? 


「この反応は! 意識が戻ったのかマモル!」

「マモル!? 痛む所はない!?」


「い、いちぁゃ……つぅ……」


 くそ、声が上手く出ないぞ? どうなったんだ僕の身体は?






 それから一週間後、僕の身体は問題なく動くようになった。


 元通り……どころか前より調子が良い気がする。身体が軽くて動きもキレッキレだ。理由がわからんと不気味だな。


 恐らく父さんと母さんが話していた事と関係があるのだろう。

 でも、いくら問い詰めても教えてはくれなかった。時が来たら話すの一点張りだ。クソ親父め、勿体ぶりやがって。


 当然、僕の正月休みは入院生活で吹っ飛んでしまった。


 入院中、僕の意識が戻った事を聞き付けたソラ君達を始め、次々とシューター共がお見舞いにやって来た。

 お見舞いに来てくれるのは嬉しいけど、彼らはテンション高めで疲れる。入院してた割には気の休まらない日々だった。


 そして新学期が始まり、小学校2年生最後の数ヶ月はあっという間に過ぎていった。


 不本意ながらシューターバトル漬けの毎日だった。洗脳が解け、新しくミタマシューターズに加わったミナト君を加えて公式ランクを上げる為にバトルの日々だ。


 断る事も出来た。最終決戦はソラ君達の大勝利に終わり、BB団は壊滅したからだ。

 身の安全という観点からすれば、僕がチームに留まる理由は既にない。病み上がりを理由にすれば、ソラ君達を説得する事も出来ただろう。


 だけど、僕はミタマシューターズを離れる事はなかった。


 だって……流石に一年近くも共に過ごせばチームや町に愛着も湧く、最後ぐらいは付き合ってあげようという気分になる。


 そう、最後だ。僕は新年度には別の街へと引っ越す。御玉町を去り、別の町の別の学校で新しい生活が始まる。


 父さんにそう告げられ、僕も反対せずにそれを了承した。チームの皆や同級生、知り合いのシューターにもその旨は伝えてある。


 シューターバトルは確かに痛くて辛くて危険だ。PTAは何をしているんだと、販売中止にしてくれと何度思ったことか。


 だけど……だけどほんの少しだけ楽しくもある。仲間達と協力して競い合う日々を少しだけ楽しいとも思えた。


 この気持ちをシューター魂と言うのであれば、最後になってそれをようやく理解できたのかもしれない。ほんのちょっぴりだけどね。


 まあ、最後だから感慨深くなってそう思うだけかもしれない。終わり良ければ全て良し、そう思いたいが為に錯覚しているのかもしれん。


 それでもいい、なんたって最後だからね。


 ふふ、新生活が始まれば痛い思いも、命の危険を感じる恐怖も、悪の組織と戦う辛さも味わわなくて済む。


 それを思えば、全てを許せる気持ちになるというものだ。解放感から優しくて寛大な心が芽生えた。悟りが開けそうだ。


 そして、別れの日はやって来た。数日前にお別れ会は開いてもらったから今日の見送りはチームのメンバーだけ、ソラ君、リク君、カイ君、ミナト君の4人だ。


 僕がこの町で過ごした家の前で彼等と向かい合う。父さんには車で待ってもらい、僕は仲間達と最後の挨拶をする。


 彼等とはこれが最後かもしれない。小学校2年生の時だけ一緒に過ごした友達との記憶、今は輝いても年月と共に風化していくものだ。


 それを寂しくも思っている。嘘ではない、ソラ君達には友情を確かに感じている。命懸けで共に戦えば嫌でも芽生える感情だ。


 心の隅でひっそりと、偶に思い出す程度の記憶に変化していくはずだ。このまま一生会う事はないのかもしれない。


 でも、それでいいんだ。そういう出会いと別れを繰り返して人は少しずつ大人になっていく……なんてね。


 うん、彼等とこれ以上一緒にいたら危険だもんね。セカンドシーズンが始まって新しい悪の組織が湧いて来るかもしれない。


 僕は思い出となり、フェードアウトさせてもらおう。最終回にチラッと映るぐらいの出番なら喜んで引き受るよ。


「みんな、一年間ありがとう。君達とシューターバトルした日々を僕は忘れないよ」


 一生物の思い出っすよ、悪の組織と戦う日々なんて普通じゃないからね。

 君達は主人公っぽいからこれからも体験するかもしれないけど……まあ頑張ってくれ、引越し先から応援してる。


「マモル……俺も忘れないぜ! お前と過ごした一年間は楽しかった! 引っ越してもシューターバトルは続けるんだろ? 次に会うのが楽しみだぜ!」


 嗜む程度に続けるよソラ君。御玉町ほど危険なスポットはないはずだからね、普通のホビーバトルなら僕も安心して楽しめる。


「こっちこそありがとうだマモル! お前には本当に助けられた、向こうに行っても元気でな! 困った事があったら駆け付ける! 俺達は離れていてもチームだ!」


 君が助けざるを得ない状況に持ち込んだからだよリク君……終わった事だから許すけどね。


「フッ、お前と協力するのは悪くなかった……達者でなマモル。次に会う時には決着を付けよう、俺もお前も進化したさらなる高みでな」


 うんうん、最後までキャラがブレないねカイ君。そのまま真っすぐ健やかに育ってくれると嬉しい。


「マモル君……ありがとう。君のおかげで僕とメルクリウスはシューター魂を思い出せた。本当にありがとう」


 僕の手を取り、目を潤ませながらしつこい位にお礼を言ってくるミナト君。この子はチームに加入してからというものやたらボディタッチが激しい、小学生ならこんなものかな? 

 それに、なんか触られる度にビリビリする気がするんだよな……空中要塞での恐怖体験が原因か?


「マモル、そろそろ時間だ」


 父さんが申し訳無さそうに催促して来る。確かにそろそろ出ないと目的地ヘの到着が真夜中になってしまう。


「わかったよ父さん……みんな、またね! 僕達は離れていても繋がっている! 僕達のキズナは永遠だ!」


 それっぽい事を言って車に乗り込む、さらば仲間たちよ! さらばミタマシューターズ! さらば御玉町! フォーエバー!


 助手席のミラー越しに手を振っているみんなが見えた。僕も窓から体を乗り出して彼等に手を振る、みんなが見えなくなるまで。


 さようならみんな、さようなら御玉町。






 窓越しに外の風景を眺める。見慣れた御玉町の風景はもう見当たらない。ほんのちょっぴりセンチな気分。


「マモル……すまない、ソラ君達と別れるのは辛いだろう」


 父さんがポツリと呟く、確かに寂しくはあるけどそこまで沈痛な面持ちをされる方が辛い。


「うん、ちょっと寂しいかな……でも、新しい町では新しい友達が出来るよ。そう思えば寂しくないから大丈夫だよ父さん」


「そうだな……お前は強いなマモル」


 うんうん、僕は良い子だなぁー偉いなぁー神様はご褒美を僕に授けるべきだね。宝くじで三億円ぐらい当たらないかな?


「そうだ、お前に渡した鞄の中にケースが入っている。開けてみなさい」


 ん? ケースだと? これか、両手に収まる程の大きさのケースだ。


 やたら凝った装飾のなされた金属製のケース……あれ、デジャブ? 取り敢えず開けてみるか。


「父さん……これは?」


 中に入っていたのはオモチャだ。複数のパーツで構成された金属製の独楽……おい、これって……


「そのソウルスピナーの名前は“シルバー・ムーン”、お前専用に作られた機体だ。大事に使ってあげなさい」


 ベ○ブレードだよコレ、完全にベイ○レードだよこのオモチャ。


「ありがとう父さん、大事にするよ」


 いや、知っていたけどねソウルスピナー。この世界で大人気のソウルギアは全部で5種類、老若男女誰もが知る一般常識だ。

 普通に生活していれば嫌でも耳に入って来る。御玉町での生活は普通とは程遠かったけどね……


 そして、ソウルギアはかなりお高い。1番安い量産品でも十万円近くはするし、こういうオーダメイドの一品物は下手すりゃ高級外車が買えるぐらいのお値段がする。それを知っていると雑には扱えない。


 母さんの実家もそうだけど、父さんも割と金持ってんな……土地のソウル傾向を調査する仕事をしているらしいけど、そんなに高給取りなのかな?


「引っ越し先の廻転町ではソウルスピナーが盛んだ。町のソウルがスピナーバトルに特化しているからな、それで同級生とスピナーバトルをすれば新しい友達もすぐに出来るだろう、お前なら大丈夫だ」


 なんだろうこの胸騒ぎは……凄く嫌な予感がする。新しい町への警戒心がビンビンだ。


「へ、へえー楽しみだなぁ……」


 いや、御玉町みたいに治安の悪い町が他にあるはずがない。僕の不安は杞憂に終わるだろう。


 大丈夫、大丈夫だ………大丈夫だよね? 問題ないよね?











 マモル君の乗った車が見えなくなる。次に会うのは何時になるだろう。


「行っちまったな……マモルが居ないと寂しくなるぜ」


 ソラ君が普段の明るさを潜めて呟く、それほどに彼の存在は大きかったのだろう。


「らしくねーなソラ、しけた顔してたらマモルに笑われちまうぜ! リーダーのお前がそれじゃあチームの調子も狂っちまうよ」


「そうだな、何時もやかましいのがお前らしさだ。アイツの抜けた穴は大きい、腑抜けている暇はないぞ」


 リク君と兄さんが憎まれ口を叩く、これが2人なりの励ましなのだろう、自分に言い聞かせているようにも感じる。


「……その通りだぜ! 俺達とマモルは離れていても繋がっている! 力を合わせること! 諦めないこと! 信じること! 全部アイツが教えてくれた! 相棒の俺が忘れちゃ駄目だよな!」


 ソラ君の顔に笑顔が戻る、その口振りには僕の知らない彼との付き合いの長さが感じられた……ちょっと妬ましい、ソラ君は僕の知らないマモル君を知っている。


「そうそう、俺達ミタマシューターズはもう少しでAランクに昇格だからな! これからが正念場だぜ! 今年中に昇格すればジュニア部門で最年少のAランクチームだからな!」


「そうだな……だが、Aランクからは個人戦だけでなく集団戦がランクバトルに加わる。チームメイトの増員は不可欠だ。最低でも後2人は欲しい」


 1つのチームの最大所属人数は10人、シューターバトルにおける集団戦では最大6人同時に出場する事が出来る。

 だからこそ最低でも2人、交代人員も考慮すれば5人は必要だ。


 6人目は必要ない、マモル君の枠はそのままにする。ソラ君達も当然そのつもりだ。マモル君と僕達は繋がっている、彼がチームメイトだという事実は僕達を鼓舞してくれる。1つの枠を潰すくらいデメリットになどならない。


 特に、僕とマモル君の繋がりは特別だ。空中要塞で彼が僕を解放してくれた時に僕は運命に気付いた。マモル君と僕は結ばれる運命にある、メルクリウスもそう考えている。


「それにプラネット社の開催するスペシャルカップが3年後に開催されるだろ? あれのエントリー条件は国内でAランクの上位6チーム、今からガンガンポイントを稼いでもギリギリだぜ? 立ち止まってる暇はねえよな」


 僕達とマモル君は必ず再会する。強いソウルのキズナで結ばれた僕達は必ずまた巡り合う。僕達がシューター魂を失わない限り、それは約束されている。


 その時に、マモル君にガッカリされないように高みを目指さなくてはいけない。

 各国の猛者も集うスペシャルカップは僕達の再会に相応しい舞台だ。ちゃんと場を整えておこう。


「うん、そうだね。僕もメルクリウスも頑張るよ! みんなで一緒に強くなろう! 次にマモル君と会うときにガッカリされないようにしなくちゃ!」


 マモル君の抜けた穴は大きい。精神的にも、戦力的にも両方だ。


 2つ持っていれば、シューターとして1流と言われる必殺技を10個以上も使いこなすマモル君。

 機体に妙な制限がなされており、ソウルシュートの威力こそ低いが彼は天才的なシューターだ。


 特に多彩な技の数々による対応力は凄まじい、敵として戦っていた僕にはよく分かる。

 追い詰めたと思っても何時の間にか窮地を脱され、逆転のチャンスを作り出す彼は相対するシューターにとっては非常に厄介だ。


 だからこそ、戦場でソラ君達も彼を頼りにしていた。味方にすればこれ程頼りになるシューターはいないだろう、彼が味方を活かす為に動けば勝利ヘの道筋が導き出される。


 他人を信じる事がなかった兄さんですらマモル君に魅了された。他人と力を合わせるという行為の偉大さを学んだ。協力と言う武器の強大さを理解した。 


「ふっ、やる気だなミナト。マモルが居なくなって消沈するかと思ったが無用な心配だったな」


「うんうん、やっぱりカイはミナトには優しいよな? 普段はツンツンしてる癖に……やっぱり妹は特別か?」


「カイみたいのはブラコンって呼ぶらしいぞ! マモルがそう言ってたぜ!」


「違う! シスコンだ! ん、いや違う!? シスコンでもない! マモルの奴め、妙な勘違いを……」


「ふふ、しょうがないよ兄さん。男の子の格好しかマモル君には見せてないからね、マモル君は悪くないよ」


 父親に強要された煩わしいこの格好、兄さんの双子の弟として振る舞う様に父に厳命されている。僕の本意ではない。

 でも、マモル君と過ごすのには丁度良かった。同性の方が彼と触れ合ってもおかしく思われない、触れる度にビリビリと運命を感じる素敵な時間を過ごせた。


「はぁ……何が一族の役目から逃れる為だ。父さんもミナトにおかしな事をさせる」


 うん、本当に窮屈だった。常に自分を偽らなくてはいけない毎日、息苦しくてしょうがなかった。


 だからこそ、あの仮面を受け入れて悪のソウルに心を委ねた。抗う事は容易かったけどあえて抵抗はしなかった。


 欲望のままに、囁かれるままに、促されるままに、窮屈で息苦しいこの世界を壊したかった。全てをメチャクチャにして終わりにしたかった。


 今でもそう思っている、僕の破壊衝動は消え去った訳じゃない。破壊衝動よりも大きな衝動を、私が本当に望むべき物を見つけたから気にならなくなっただけだ。


 それはもちろんマモル君だ。


 仮面を被らずに出逢った初めての時、敵として何度も戦った時、空中要塞で私に触れてくれた時、私の中のちっぽけな世界がまとめて吹き飛ぶ様な衝動がぶつかる度に膨らんでいった。


 これは運命だ、そして宿命だ、さらに必然だ、なので当然だ。


 僕はこの衝動を感じる為に生まれてきた。僕はこの痺れを感じる為に生まれてきた。僕はマモル君に巡り合う為に生まれてきた。


 僕とマモル君はソウルに導かれて惹かれ合った。間違いない、メルクリウスもそう言っている。


 マモル君と別れるのは寂しくて堪らない、悲しくて堪らない。


 だけど大丈夫、僕とマモル君は必ず再会できる。僕達は再び巡り合う。


 メルクリウスが教えてくれる。水星の意思が僕を導いてくれる。


 僕はそれを信じている。待っていてねマモル君。

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