第2話 激烈発射!! ソウルシューターズBB!!



 僕は絶対にシューターバトルなんてしない!!


「俺の名前は空杜ソラ! 同じクラスになったからには仲良くしようぜ! マモルはソウルシューター持ってるか? えっ、初心者? なら俺が教えてやるよ! 一緒にシューターバトルしようぜ!」


 しゅ、シューターバトルなんてしない!!


「マモル! 最近御玉町でシューター狩りが出没するらしいぜ! 大事なソウルシューターを奪う奴等なんて許せないよな! 俺とマモルで捕まえてやろうぜ!」


 少しだけ……嗜む程度になら……


「ふん、お前がソラの言っていた田中マモルか。初心者の癖に中々やるらしいな……抜け、俺とシーサーペントが見極めてやる。お前にBB団と戦う資格があるのかをな……」


 えっ? 悪の組織? 実在するの!?


「助かったぜソラ、カイ、マモル。俺の名前は百地リク、お前達と同じでBB団と戦ってるんだ。これからは協力して奴等の野望を阻止しようぜ」


 いやいや、戦わないよ?


「マモル! カイ! リク! 今日から俺達はチームだ! チーム名はミタマシューターズ! 御玉町をBB団から守って! 目指すは全国大会優勝! その先の世界大会優勝だ! やってやろうぜ!」


 あっ、あの……僕は……


「くっ……俺達の負けだ、ミタマシューターズ。お前達のシューター魂が心に響いたぜ……もうダークシューターを使うのは止めるよ、ライジングサンズは1からやり直しだ……また俺達と戦ってくれるか?」


 あっ、あっ……シューター魂って何?


「やるわね、ミタマシューターズ。ランキング3位である私達ホーリーエンゼルスと引き分けるなんて……あなた達にならこの町を任せられる。BB団の魔の手は全国各地に広がっているわ、協力して頂戴、シューター界に巣食う奴等を一掃しましょう」


 えっ……あれ?


「くっ、BB団の奴等め……御玉町にどんどんソウルワールドを拡げてやがる。このままじゃ御玉町は奴等の思い通りに作り替えられてしまう……」


 わー、大変だー。




 おかしい、何かがおかしい。この御玉町に引っ越して来てから修行よりも危険な日々が始まってしまった。


 どれだけ逃げても追って来てシューターバトルへと僕を誘うソラ君。孤高のクールキャラ気取りの癖にやたら僕達に絡んでくるカイ君。町のトラブル案件を持ち込んで来ては解決方法を僕に求めて来るリク君。


 そして、シューター狩りに始まり、強いソウルの持ち主の誘拐、後遺症が残る違法なソウルシューターのばら撒き、公共施設への襲撃と破壊などやりたい放題のBB団。

 この悪の組織のせいで治安最悪の御玉町、生き抜く為にシューターバトルの腕前がメキメキと上達してしまった。自衛の手段がないと恐ろしくて町を出歩けない。


 さらに、いつの間にか結成され、僕もメンバーに数えられてしまったミタマシューターズ。活動目的が全国大会優勝とBB団の壊滅のせいで忙しくて堪らない、毎日毎日シューターバトルだ。

 町のシューター達も何故か僕達に期待するもんだからBB団の情報がどんどん入って来る。BB団も僕達の事を認識していて、割と頻繁に襲撃して来るからたまったものではない、最後の方は週三で襲撃して来た。


 選択を誤った……ソラ君が余りにもしつこいから根負けしてシューターバトルに手を染めてしまったのが間違いだったの?

 護身術程度に、嗜む程度になら……何て軽い気持ちがこの惨状を招いた。信念を貫くべきだった。気付いた時には抜けられないソウルシューターの沼にどっぷりと浸かっていた。BB団に僕の顔が割れており、下手にチームを離れる方が危険なので抜ける事も出来ない。ソウルシューターを始めさえしなければ……



 安全と安心とは程遠い1年間だった。小学2年生なのに町内の平和を守るために身を粉にして戦い抜いた。



 そして年が明けた元旦、せめて三ヶ日ぐらいはソウルシューターの事は忘れ、コタツに入ってゆっくりと過ごそうと決意していた僕の元へ凄まじい地響きと轟音が届いた。

 しばらくすると、庭先に飛び込んで来る3人の人影が見える。せめて玄関から来てくれ……


「大変だぜマモル! BB団が御玉町の地下に眠っていた空中要塞を浮上させた!」

「町中がソウルワールドと化している! 玉造博士は本気だ! 遂にムーンアタック計画は最終段階ヘ移行した!」

「行こうマモル! 空中要塞が成層圏へ到達する前に! 今ならまだ間に合う! 俺達でBB団の計画を阻止するんだ!」


 駅伝見てからじゃ駄目かな……






「ハハハハハ! 見よぉ! 御玉町のソウルワールドがソウルへと変換されて行くぅ! メルクリウスがこの土地のソウルを奪い尽くすぅ! そしてこのソウルの塊を月へと放つのだぁ! そうすれば月は粉々に砕かれて地球へと降り注ぐぅ! 我が野望が実現する時が来たのだぁ!」


 美的センスを疑うヘルメットを被った白衣の老人が、高笑いしながら正気を疑う発言をしている。

 狂人の戯言と切り捨てたいところだが、上空に集って行く光の塊を見せられては信じざるを得ない。物凄いソウルの波動を感じる。


「ふざけるな! そんな事はさせないぞ玉造博士! 御玉町は俺達4人が守る!」


 いいね、流石だ。主人公らしい発言だよソラ君。

 でも、4人じゃなくて3人だ。僕を頭数に入れないでくれ。


「その通りだぜ! みんなが切り開いてくれた道を無駄にはしない! あんたの野望は俺達が止めてみせる!」


 今、僕達が最終決戦っぽい雰囲気を醸し出しているこの場所は、御玉町上空に浮かぶ“空中要塞マキュリイ”だ。

 どんどんと浮上を続ける要塞に不安を覚える。どうやって地上に帰ればいいんだ?


 リク君の言うとおり、今まで倒して来たモブ達が「ここは俺達に任せて先に行け!」とか始めるから流れでここに辿り着いてしまった。

 僕もモブに混ざり、地上で迫りくる雑魚敵軍団退治に参加しようとしたのだがソラ君に腕を引っ張られてここまで来た……最終決戦になんて参加したくなかったのに……


「ミナト! いつまで操られているつもりだ! いい加減目を覚ませ! お前とメルクリウスはそんな事を望んでいないはずだ!」


 カイ君が黒いオーラを撒き散らしながら浮かぶ仮面の少年に声をかける。彼の兄弟らしい、玉造博士に洗脳されてラスボスをやらされている哀れな少年だ。

 残念だけどカイ君の声掛けは無駄だろう。今も「うぅッ……」とか言って洗脳に抗っている水星少年だが、どうせ戦う羽目になるのだ。

 

 ああいう闇落ち状態から救い出すには一度バトルで打ち破るのがお決まりの流れだ。勝ちさえすれば仮面が割れて正気に戻る。君達主人公チームのシューター魂が水星少年の正義の心を取り戻してくれるはずだ。


「無駄だぁ! コイツはもはやキサマ等の知る水星ミナトではなぁい! 私の野望を叶えるために、冷酷無比で完璧なシューターマシーンと化したのだぁ! キサマ等の声など届きはしなぁい!」


 いや、声に反応して苦しむリアクションしてるじゃん……とは突っ込まない。下手に発言してこの場で目立つの悪手だ。極力大人しくしておこう。


「そんなことはない! ミナトは今も戦っている! もう一人の自分と心の中で戦っている! バトルを通じてキズナで繋がった俺達には分かる! そうだよな!? マモル!」


「えっ!? ……あ、ああ! その通りだよソラ君!」


 びっくりした……急に話しかけないで欲しい。あの頭のおかしな博士に目を付けられちゃうだろ? 僕を目立たせないでくれ。


「ふん! 頭の悪いガキ共めぇ! これ以上キサマ等に構っている暇などないわぁ! やれぇい! シャドウ共よぉ!」


 博士の号令と共に地面に影が広がり、中から人型の黒い塊が次々と飛び出して来る。博士と水星少年は浮遊しながら要塞の上の方へと移動して行った。


 ん? これは……チャンスだ! ここでやるしかない!


【シックス・オン・ワン!】


 腰のホルダーから愛機“ピース・ムーン”を抜いて技名を叫ぶ。クソダサくて恥ずかしいけど我慢して叫ぶ。


 銃声にも似た音が1つだけ響く、音と共に倒れ伏して消えて行く6つの黒い影。

 僕が実際に放ったソウルの弾丸は6つ、必死に練習した早撃ちは6つの音が1つに重なる領域まで到達した。


 そしてこの技術は必殺技へと昇華したのだ。だからこそ技名を叫ぶ必要がある。そういう決まりなのだ。実際に技名を叫ばないと上手く発動しないのだからしょうがない、世界の法則には逆らえない。


「ここは僕に任せて先に行ってくれ! シャドウは僕が引き受ける! 君達は博士達を追え!」


 雑魚の相手をしていた方が安全だよね。一撃でビルに風穴を開ける様なラスボス(仮)の相手なんか絶対にイヤだ。

 水星少年の操るソウルシューター“メルクリウス”はもはや玩具ではなく兵器だ。僕の紙の様な防御のソウル体ではひとたまりもないだろう。


 ああいう危険な相手は君達が対応すべきだ。おそらく主人公である君達なら絶対に勝てる。ピンチになっても覚醒して勝利を掴めるだろう。今までもそうだった。


 だってこの世界は子ども向けホビーアニメのはずだ。主人公達の敗北エンドなんてあり得ないだろう?


「マモル!? いくらお前でもこの数のシャドウの相手は無理だ!」

「そうだ! 一緒にシャドウ達を片付けてから進もう!」

「勝手な事を! 力を合わせる強さを教えてくれたのはお前だろう!」


 実に素直な反応を返してくれる、上から順番に空杜ソラ君、百地リク君、水星カイ君だ。

 推定主人公であるソラ君を中心とした3人組は、小学2年生らしく実に素直で優しい心の持ち主だ。


 でも、心配はいらない。この影法師みたいなシャドウ達の動きにはパターンがある。散々戦ったから熟知している。確かに数百体はいるのは少し厄介だけど、所詮は決められた動きしか出来ない人形みたいなものだ。それさえ理解していれば無傷で勝利する事は容易い。僕はスピードには自信がある。回避行動にも定評がある。

 だから、無傷かつ、時間をたっぷりかけて勝利してあげよう。その間に君たちで操られた水星少年を倒して博士の野望を打ち砕いてくれ。


 そもそも僕が最終決戦の舞台である空中要塞にいるのがおかしい、ラストバトルは君達3人で飾るべきだろう。名前的にも陸海空で3人一組のはずだ。僕が混ざっている現状がおかしい。


「時間がないんだ! 博士を止められなければ御玉町が大変な事になる!」


 自分で言っといて何だけど、実際にどう大変なんだ? ソウルとかいう謎エネルギーが奪われた土地はどうなる? このソウルワールドとかいう謎空間が消える……あれ? 特に支障はないんじゃ……


「くっ、確かに御玉町のソウルが全て奪われたら、ここはシューターバトルが二度と出来ない土地になってしまう……」


 あ、それは割とどうでもいいな。もしかしてそこまでデメリット無い? 放置してもいいんじゃないかい?


「ああ、それに博士はメルクリウスで月を破壊するって言ってたぜ! そんな事されたら御玉町どころか世界が危ねえ!」


 そうだ! そういえばそんな事も言ってたよ! 正直月を壊すとかは眉唾だけど放置するのは不味いよな!? 月が壊れたら地球が大変だよ! ひいては僕の身が危険だよ!


「だけど、せめて誰かもう1人残って一緒に……」


 おい! そんな事されたら雑魚戦が手早く終わっちゃうだろ!


「みんな! 僕を信じてくれ!」


「マモル……だが……」


 頼む! さっさとラストバトルに行ってくれ!


「一緒に戦うだけが力を合わせる事じゃない! 離れていてもそれぞれが全力で役割を果たす! それもチームワーク! 僕達のキズナの力だ!」


「それも……キズナの力?」


 よし! いい感じの反応だ!


「ああ! コイツ等を全滅させてから必ず君達に追いつく! だからこの場は僕に任せて先に行ってくれ!」


 不吉なセリフを2回も言っちゃったよ。まあ死亡フラグなんてホビーアニメには適用されない、むしろ生存フラグのはずだ。


「わかったぜマモル! 信じてるからな!」

「必ずだぞマモル! 待ってるからな!」

「ミナトもお前を待っている……俺もな、死ぬなよマモル」


 走り去っていく3人……よっしゃ! 説得成功じゃオラァ!


 3人を追いかけようとするシャドウ達、そうはさせない。


【シックス・オン・ワン!】

 神速の抜き打ち、6つの弾丸がシャドウを撃ち抜く。ソウルシューターをホルダーにセットした状態じゃないと使えないのが玉にキズだ。


 この場には僕しか居ない、恥ずかしい必殺技名を思いっ切り叫べる。何時もはギャラリーが多いから嫌なんだよね。


【クイックドロウ・ワルツ!】

 踊る様なステップで乱れ撃つ。華麗な足捌きで相手の攻撃を避けながら撃つ。翻弄する様に撃つ。


 鈍い、鈍すぎる。やはり雑魚の相手はいいね。自分より弱い相手とは安心して戦える。


【フラッシュ・バレット!】

 発砲時に謎の発光をする弾丸が相手を襲う。なぜ光るのかは僕にも分からない。目眩まし兼ねたナイスな技だ。


 このまま急ぎ過ぎず、彼等の決着が付いた頃にゆっくりと到着しよう。それなら約束は破った事にならない。


【ミラージュ・バレット!】

 発射した弾丸が増殖する意味不明な技だ。どういう原理だこれ? 疑問は残るが多数を相手どるのに便利だから気にしない。


 うーん、雑魚相手に無双するのは気持ちいいなあ……ストレス発散に丁度いい。人の形をしているのもナイスだ。


【ファントム・バレット!】

 発射した弾丸が幻影によって無数に分裂、さらに具現して敵を襲う。正直ミラージュ・バレットと効果が被っている。


 あぁ〜確実に勝てると分かっている勝負は楽しいねえ。やっぱりこの世で1番尊い物は安心だよ。大丈夫だと分かっている心の平穏こそが人間の1番の幸福だ。


【ムーン・バレット!】

 黄金の輝きに包まれた弾丸が相手を貫く、特殊な効果は特に無い。


 この戦いが終わればBB団は終わりだろう、もう戦わなくて済む。なんで小学生が悪の組織と戦わなきゃいけないんだ? おかしいよね? 国や警察はどうした?


【エクリプス・ゼロ!】

 何故か周囲が暗くなるのでその隙に乗じて相手を撃つ、最終奥義なのに卑劣な技だ……


 まったく、何がソウルワールドだよ。痛みを伴うホビーバトルなんて狂気の沙汰だ。これが終わったら2度とゴメンだね。オモチャは平和的に遊ぶべきだ。




 結構経ったなあ……そろそろかな?


「うおおォォ!! ブルースカイ・シュゥートオォォ!!」

「あああァァ!! メルクリウス・シンドロームゥゥ!!」


 おっ、聞こえる聞こえる、ソラ君と水星少年の必殺技同士の激突だ。衝撃がここまで響いてくる。

 しかし、声の大きい奴らだ。小学生らしく元気があって大変よろしい、必殺技は大きい声で叫ぶ程強くなるからね。


 さーて、ぼちぼち要塞の屋上まで向かいますか。


【マキシマム・バレット】

 僕の手が自分でも引くほど高速で動き無数の弾丸を乱れ撃つ、雑魚殲滅用の必殺技だ。


 残った数十体のシャドウ達に必殺技で止めを刺す。時間稼ぎは終わりだ。つまらぬものを撃ってしまったぜ。


 おっ、忘れる所だった。苦戦した様に見せる為に地面に転がって服を汚して……顔も少し汚しておくか、綺麗なままじゃ不自然だもんね。




 わざとらしい位に息を切らせて走る。無駄に凝った構造の空中要塞内部の階段を駆け上がって行く。

 精一杯たどり着いた事をアピールするためにハァハァと肩で息をしながら空中要塞の屋上へと到達する。思ったよりも階段が長くて普通に疲れた。もはや演技ではない。


 さーて、そろそろ博士をふん縛ってる所かなぁ……あれ!? ソラ君達が倒れてる!? えっ!? 負けたの!? 嘘だぁ!? なんでぇ!? 冗談だろぉ!?


「ほぅ……ネズミが残っていたか……あれ程の数のシャドウ達を倒すのは大したものだが……くくっ、満身創痍のようだなぁ! ダメージは負ったが私のミナトとメルクリウスは健在だァ! やれぇ! 残った邪魔者を始末しろぉ!」


「……了解」


 了解じゃねーよ! こっち来んな!


 ん? ソラ君達との戦いでダメージは受けてるな……弱ってる今なら僕でも勝てるか? ラストアタック貰っちゃう? 美味しい所だけ頂いちゃうか?


【シックス・オン・ワン!!】


 あっ、ダメだ……僕の放ったソウルの弾丸は、水星少年が纏う闇っぽいオーラに容易く阻まれて、豆鉄砲の様に蹴散らされる。


 ……いや、分かっていたよ? だってソラ君達の機体はパワーアップイベントが2回ずつあってソウルシューターが進化したのに比べて、僕の“ピース・ムーン”は初期のままだったからね。

 僕の愛機には彼らと違って精霊っぽい謎生命体も宿っていない、ソラ君達が必殺技を放つと鳥とか虎とか蛇が出てくる。不公平だよな……


 根本的に攻撃力が違うんだよ、こうなるのが分かっていたから雑魚だけを相手したかった。


「あぁ……マモル君……うあぁぁ!! メルクリウスゥゥ!!」


 水星少年が狂った様に僕へとソウルの弾丸を放ってくる。全神経を集中させて何とか全て回避する……危ねぇ!? 


 僕が回避した弾丸が地上へとビルを貫通しながらに降り注ぐ……うわぁ……玩具に持たせていい威力じゃない。

 ソウルワールド内の町並みは破壊されても現実には影響を及ぼさないし時間が経てば再生する。だけど肝の冷える光景だ。


 こんな殺人シュートに一発でも被弾したらたまったものではない、想像を絶する痛みが僕を襲うはずだ。ソウルワールド内でのダメージは生身の肉体へ痛覚を伴いフィードバックされる。この威力じゃ痛みだけでは済まないかもしれん。


 くそ、どうする……僕はどうすれば……そうか! 分かったぞ!


「目を覚ませミナト君! 心の中で君もメルクリウスも泣いている! 僕には分かる! 君達の望みは他にあるはずだ! シューター魂を思い出せ!」


 まずは水星少年の攻撃を回避しながら言葉で揺さぶる。ちなみにシューター魂が何なのかは僕もよく分からない。それでもいい、とにかくそれっぽい言葉を投げかけるのだ。少しでも水星少年が正気を取り戻してくれる事に期待する。


「ソラ君! リク君! カイ君! 立ち上がってくれ! 僕は……御玉町のみんなは! 君達を信じている! だから立ち上がってくれ!」


 頼むよ……本当に頼むよ……一度負けそうになってから仲間の声援によって復活! そして逆転大勝利! そうだろ!? そういう展開だろ!? 僕の為に立ち上がってくれ!


「見苦しく足掻きおって! 無駄だぁ! もはやそいつらには欠片程のソウルも残ってはいなぁい! 立ち上がる事などあり得ん!」


 おっ? 今の発言はフラグじゃないか? これなら行ける! そろそろ格好いいOPアレンジが流れてもおかしくないぞ!


「んん!? 何だこの光は……馬鹿な!? 奪い尽くしたはずの御玉町からソウルが流れてくるだと!? あり得ん! あり得んぞぉ!?」


 おお! 地上から光の玉状のソウルがこっちへやって来る! 地上のみんなの信じる気持ちとかその他諸々が奇跡を起こした! 


 やったぜ! 正義は勝つ! これはソラ君達が光に包まれて復活するパターンだ! しゃあ! オラァ!


「…………」


「…………」


「…………」


 長いな……空中要塞の高度が高すぎて、光がソラ君達へ集まるのが遅い。もうちょっと速く飛べないのかな……


「はっ!? 何をしているミナト! 今の内にそいつ等を始末しろ! その忌々しい光を奴等に到達させるな!」


「うっ、うぅ……り、了解」


 おい! 空気読めよ博士! 大人しく光を見てろよ!


「駄目だミナト君! 止めてくれ!」


 メルクリウスから放たれる弾丸を必死に逸らす、真正面からぶつかっても防げない。角度を付けた弾丸を複数当てて軌道を逸らす。


「くっ、邪魔をしおってぇ! そいつから先に始末しろぉ!」


 メルクリウスからドンドンとソウルの弾丸が放たれる。それを必死に防ぐ、自分にもソラ君達にも当たらないように全力で逸らす。


 うぅ、不味いぞ。このままじゃジリ貧だ……根本的なパワーに差があり過ぎる。何か方法は……


「何をもたついているミナト! 洗脳が解けかけているのか!? くそ、仮面の制御にソウルの出力を回して……」


 博士が手元のコンソールをカタカタと操作し出した。


 おっ? 猛攻が止んだ……黒いバリアーも消えてるぞ? これはチャンスだ! 今の内にあの仮面を剥ぎ取ってやる!


【ファントム・ステップ!!】

 幻影と残像を発生させつつ相手の後ろに回り込む移動専用の必殺技だ。相手の背後をとって舐めプするのは凄く気持ち良いぞ。


「なっ! 後ろだミナト! 吹きとばせぇ!」


 遅い! 背後から水星少年の仮面を鷲掴みにする。


「おっ!? おおおおぉぉ!? えっ!? えぇ!? なにこれぇ!?」


 ビリビリするよ!? すっごいビリビリする!? 何だコレ!? 何だコレ!? 手が離れねえぞコレ!? どうすんだコレ!?


「あぁっ!? だめ……マモル君……手を離さないと、取り返しのつかない事に……うぅっ!?」


 えぇ!? 何だよ取り返しのつかない事って!? 離れないんだよ手が!? ビリビリして手が硬直して離れないんだよ!?


「ミナト君! 頼む! 負けないでくれ! 目を覚ましてくれぇ!!」


 早くしてくれぇ! 取り返しの付く内に僕を助けてくれよ!? お願いだよぉ!?


「ま、マモル君……僕は、僕は……うわぁぁぁ!!」

「うぎゃぁぁ!?」


 痛い!? すっごく痛いよ!? 何だこりゃ!? 何だこりゃ!? めちゃくちゃ痛えぞ!? 大丈夫な痛みかコレ!? 後遺症とか残る痛みじゃないの!?


 痺れと痛みで意識が朦朧もする。だけど手は仮面から離せない、離したくても手放せない。手がピクリとも動かない。


 痺れは足にまで回り、姿勢を維持出来なくなる。ミナト君にもたれかかる様に身体が倒れて行く。意識も薄らいで行く。


 霞む視界の端に見えた。光に包まれたソラ君達が立ち上がる姿が。遅いよ……復活まで長すぎるよ……Aパート丸々使ってない?


 意識が闇に沈んで行く、記憶の中の前世の最後と似ている。死を想起させる恐ろしい感覚……そのはずだ。

 

 だけどあの時程怖くない、何故だろう? 暗闇に沈んで行くのに不安と孤独が薄い。寒さと冷たさがそれほどでもない。


 ミナト君の体から伝わる温かさのおかげ? ソラ君達が側にいるのを知っているから?


 分からない……だけど不思議と悪い気分はしなかった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る