第30話 堂々宣言!! それが僕らのソウルギア!!
突然体育館に現れ、好き勝手言い出した阿呆のせいで場は静寂に包まれた。ドン引きだよね……ハハッ、なんか悪いねみんな。
場の空気はヒエヒエ、僕の心はシナシナ、肝心のクソ親父はニコニコ。
「うーん、やっぱり息子に嫌われるのは辛いな。反抗期を先取りした気分だよ。マモル、お前の怒りはもっともだ。平穏を好むお前が悪の組織を許し難いのはよく分かる。だけど、話だけでも聞いてくれないか?」
「ぐ、ぐぬぬ……」
傷付いたと言う割にはヘラヘラしてるのがムカつく。オリジナル必殺技メドレーを顔面に叩き込んでやりたい。
僕の気持ちを裏切りやがって!! 迎えに来てくれるのを信じていたけどこんな形はゴメンだよ!! オメーの話なんて誰が聞くか!!
そう怒鳴り付けてやりたいのが本音だが、喋りたいのなら喋らせてやった方が都合は良い。確認したいこともある。腹は立つけど話に乗るしかない。
「一応聞いてあげるよ父さん。でも、その前に教えて欲しい事が幾つかあるんだ」
「なんだいマモル? 僕の知っている事なら何でも答えよう」
今となっては信用出来ない言葉だよ……
「星野町でグランドカイザーと田中マモルがソウルバトルしてたらしいけど……それは父さんと母さんだったの? 母さんは無事?」
「ああ、そうだよマモル。残念だけど母さんと意見が食い違ってしまってね。ミモリとは昔から意見が衝突したらソウルバトルで決着を着ける事にしてるんだ。夫婦円満の秘訣だよ」
「なにが夫婦円満だコラ!! 子どもの頃からアンタばかり勝ってるじゃない!! ミモリは優しいからアンタ相手に本気になれないの知ってる癖に!! ソウルバトルハラスメントよ!!」
おぅ……嫌な情報が飛び込んで来る。
「そうだとしても、ソウルバトルで手は抜けないよイノリ。私は己のソウルを偽る事はしない。ミモリが私への攻撃を躊躇する。それもまた、ミモリが己の心に、己のソウルに従った結果さ。互いが心に従ってソウルバトルの勝敗に判断を委ねた。ハラスメントではないさ」
「だから私はアンタ達の結婚に反対だったのよ!! このソウルバトルバカ!! 陰険ど腐れ女装癖男!!」
イノリ叔母さんに罵倒されても父さんは涼しい顔だ。せめてもう少し悪びれろや。
「安心してくれマモル。母さんはブルーアースの秘密基地にいる。怪我一つないから心配はいらない。ソウルバトルの結果に従って大人しくしているよ。マモルとマモリの事が心配で元気が無いけどね……早くお前の顔を見せてあげて欲しい」
はぁ……父さんの母さんに対する愛情自体は今でも疑っていない。だけど、確認はしておきたかった。そしてもう一つ。
「マモリはどうなの? 地杜さんにお願いしたんだけど……」
そもそも地杜さんが言っていたのだ。父さんがここに向かっているって。
「ああ、マモリの事も心配はいらない。例の危ない持ち物を私が回収した後、ウルルに基地まで連れて行ってもらった。気絶していたけど体調に問題は無かったよ」
マモリも無事か、容態も父さんがそう判断したのなら心配はいらないだろう。
でも、やっぱり父さん側だよね……地杜さん……
「だが、すまないマモル。お前の右腕はマモリ本人の同意がなければ元に戻せそうにない。ソウルカードへ込められた想いが強すぎてね、私が無理矢理契約解除すると危険なんだ」
「ああそう、別にそこは期待はしていないよ父さん」
父さんへの信頼は地に落ちた。二度と期待してやらねえ。
「そんな顔をしないでくれマモル。マモリが目覚めたら父さんと一緒に説得しよう。そうすれば安全に右腕を元に戻せる。ほら、これを見てくれ。私はソウルカードに関しては専門家だよ?」
そう言って父さんは三枚のソウルカードを取り出し、表面の絵柄をこちらへと見せ付けて来る。カードに描かれてるのは……腕と足と……目玉?
んん!? カード名が天照アサヒの右腕に左足に左目だと!?
「ま、まさか社長とソウルバトルしたのは……」
「私だよマモル。ミモリが一族から決別する事を告げる為にアサヒを呼び出した。そこにマモリが乱入して一撃を加えて離脱。その後に私がソウルバトルを挑んだ。いやあ、久し振りのバトルだったけどアサヒはやっぱり強いね、足を負傷して私が有利な状況だったのにも関わらずに左腕を奪われてしまった。実質私の負けだね」
何やってんの!? 家族の連携プレーで社長を追い詰めんなや!? 僕抜きではっちゃけ過ぎだろ!!
『フッ、心にもない事を……言い訳はせん、今回は私の負けだダイチ。次はそうはいかんがな』
モニターの先で社長も一枚のソウルカードを取り出した。カード名は“田中ダイチの左腕“……このオッサン達は何で闇のソウルバトルしてんの?
互いの身体のパーツを奪い合うなよ!! カード化して人体の一部を所持すんな!! 自慢気に見せびらかすな!! 何で二人共ちょっと嬉しそうなんだよ!?
「いい年して気持ち悪いわね!! 見なさい子ども達!! ソウルバトルばっかりしてるとああいう頭のおかしな大人になるのよ!! ソウルギアは健全な成長を阻害するわ!!」
くっ、ソウルギアを庇ってあげたいが反論が思いつかない。ほんのりPTAの主張に同意しそうになる。
「聞きたい事はそれだけかなマモル?」
まだあるよ!! 一番のツッコミ所が残ってるよ!!
「あのさ、なんでソウルメイクアップしたままなの?」
「学園の生徒や同僚達に正体を明かしたかったんだ。実物を見せた方が理解が早いからね」
そう言って、光に包まれていく父さん。ソウルメイクアップの光だ。
光が止むと、そこには見慣れた……いや、年に数度しか帰って来ないから見慣れてはいないな。
見慣れない実の父親がそこには居た。左腕はギプスで包まれたままだ。
左腕がカード化しているならば、あの包帯とギプスの中身は空っぽか?
「家に帰って来ないで、博士やら女教師やら悪の親玉やらを楽しんでいたみたいだね父さん。架空の人物を演じるのは楽しかった?」
「その答えはマモルなら分かるんじゃないか? マモコとしての生活はどうだった?」
う、うるせえ。
「マモコはカワイイからセーフだ!!」
カワイイは正義!! カワイイなら許される!!
「セーフ……セーフか?」
「私は……男の子でちょっと安心したかな」
「落ち着いたら審議が必要だな、トウカ様の意見も聞こう」
「いや、性別なんて些細な問題よ。大事なのは心。そして攻守と関係性よ」
ううっ、後ろから聞こえるクリスタルハーシェルのヒソヒソ声が僕の罪悪感を刺激する。僕を支えてくれているトウヤ君のなんとも言えない表情が胸を締め付ける。
「ハハッ、それを言うなら札造博士だって、ナミネだってカワイイさ。自慢の妹だからね」
何言ってんだこのオッサン……ん、妹?
「妹って……どういう意味なの?」
「札造博士は実在するんだよマモル。私が生みだした架空の人物ではない。私にとって実の妹、マモルにとっては叔母に当たる蒼星ナミネは私とは別に存在している。私はソウルメイクアップで妹に成り済ましていたに過ぎない」
「な!? 札造博士は実在する……」
蒼星アオイに支えられていたタイヨウが反応を示した。
「とは言っても、学園での札造博士は九割方私だけどね。ナミネは研究以外に興味が薄いから基本的には秘密基地のラボに籠もりっぱなしさ。学園長である親父の目は節穴だから全く気付かれない。それどころか私をナミネだと信じて便宜を図ってくれる。蒼星学園の中は実に動きやすかったよ」
「き、九割? ならばあの時も……」
父さんの発言に再びふらつくタイヨウ。随分と札造博士に思い入れがあったようだ。
上げて落とすのは残酷過ぎる。最後まで優しい嘘を貫いてやれよ。
「聞きたい事は終わりかなマモル? 父さんが話をしてもいいかい?」
「どうぞお好きに、存分に語ればいいんじゃない?」
僕の聞きたい事は終わりだ。悪の組織だからどうせ世界征服の話をするんだろ?
野望をローカル放送で存分に発信するがいい、田中家の世間からの評判はお終いだよ。ご近所さんに白い目で見られる事確定だ。地杜さんがメイド服で出入りするから元々怪しまれてたけど……
「ありがとう。アサヒとイノリはどうかな?」
「どうせアンタは無理矢理にでも話すでしょ!! 勝手にしなさいよ!! 頭のおかしさを子ども達に存分にアピールするといいわ!!」
『子ども達にも知る権利がある。許可しようダイチ』
なんか社長って父さんに甘くない?
「ありがとう二人共。道造博士、あれをお願いします」
「くくっ、バッチリ編集して仕上げてあるぞぉ!! 愚かなガキ共を教育してやれぇい!!」
ジジイの一人が謎の球体を取り出して、空中に放り投げた。
そして、体育館全体が暗闇に包まれる……と、思ったらそこら中でキラキラとしたものが瞬き出す。どこか幻想的で美しい光景が周囲に拡がった。
「星空……宇宙? えっ、プラネタリウム?」
「ああ、その通りだよ。これはいつか授業で使おうと思っていた立体投影型ソウルプラネタリウムだ。話をするのならわかり易い方がいいからね。ほら、これが僕達の住んでいる星さ」
体育館の中空ど真ん中に地球が出現する。雲の動きや立体感まで忠実に再現された巨大な地球、本当にそこにあるかと錯覚してしまうくらいにリアルだ。
クッ、ちょっと感動してしまった自分が悔しい。コイツラは無駄に技術力があり過ぎるんだよ。こういう平和的な方向に力を注げばいいのに……
「そしてこれが私達に力を貸してくれる惑星達、そして偉大な光で地球を照らしてくれる太陽だ」
上空どころか足元の先にまで拡がる宇宙と星々、次々と出現する惑星、圧倒的なスケールで出現する太陽。
自分が体育館館にいた事を忘れそうになる没入感、本当に宇宙空間にいるみたいだ。
「縮尺はビジュアル重視でいじってあるけど、位置関係は忠実に再現しているよ。さあ、授業を始めるよ」
いつの間にか父さんが女教師の札造博士モードに戻っている。やっぱり愉しんでるだろ父さん……ウキウキじゃねーか。
「まず、前提として言っておこう。私達ブルーアースは世界の平和を目指して活動している」
それはもしかしてギャグで言っているのか?
「信じられないと思う人も多いだろう。確かに私達は違法な活動も行って来た。多くの人達に迷惑をかけた。でも、それは全て私達が信じる平和にたどり着く為に必要な活動だった」
目的で手段を正当化すんな。バーカ。
「ブルーアースでグランドカイザーを継いだ私。プラネット社と一族を率いるアサヒ。子供たちを想ってPTAとして活動するイノリ。私達は今でこそ道を違えてはいるが、元は同じチームに所属する仲間だった。いや、私は今でも仲間だと思っている。三つの組織は方法は違っていも共通して地球の平和を、人類の未来を憂いて活動している」
ひっそりと憂いていればいいものを……無駄にアクティブで困る。
どいつもこいつも血縁だから僕まで変な目で見られるじゃないか、厄介な親類達だよ。
「アサヒとイノリが語ったから、二人の目的は大体理解出来ただろう? 両者に共通しているのは方法は違えど闇を打ち払いたいって所だね。ソウルギア社会を維持したままに、闇を緩やかに消滅させたいプラネット社。あらゆるソウルギアを星へと還し、魂魄術を使って闇を討伐したいPTA。残念な事に目的は共通していても協力が出来ない」
そりゃそうだ。ソウルギア普及させたいマンとソウルギア無くしたいウーマンは争う運命にある。
「両者が協力出来ない理由。それはもちろんソウルギアに関する互いの主義主張が相容れないからだけど、もう一つの根本的な原因……地球上に存在するソウルの量に問題がある。ソウルというエネルギーの絶対量が足りていない、ソウルギアと魂魄術の両方の力を十全に発揮するには地球のリソースが不足しているんだよ」
はあ? つーか、そもそも魂魄術って何? よく知らないんだけど?
僕の疑問に満ちた表情を見て、父さんは少し考えてから言葉を発した。
「マモル、お前のように自身が保有するソウル量が潤沢な者には理解し辛いだろうが、今の地球で魂魄術はそう簡単に扱えるものじゃないんだ。ソウルギアが大気中のソウルを多量に取り込んでしまっているからね。普通の人はソウルメイクアップを始めとする魂魄術が気軽に使えないって事だよ、五百年前と比べると一割の力も出せない程に大気中のソウルは減少している」
あっ、ソウルメイクアップって魂魄術だったのか。
言われてみればそうか、ソウルギア使わない不思議変身術だもんね。
「さて、それらを踏まえた上で私達ブルーアースの目的について話そう。私達はソウルギアの存続を願っている。ソウルギアは無限の可能性を秘めているからね、人類を模倣して無数の個となった星達が人と共に進化する。本当に素晴らしい事だ」
あー、ジジイ共は有名なソウルギアマイスター、40億のレアジジイ。父さんもよく分からんがソウルカード刷るのが上手いんだろ? そりゃあソウルギア推進派だよね。
「だが、同時に魂魄術全盛期の再来も望んでいる。再び地球にソウルが満ちれば人々の中から新たな魂魄術を生み出す人物が現れるだろう。そんな新しい可能性を取り込んでソウルギアが更に進化する。進化したソウルギアに触れた人々が触発されてまた新たな魂魄術を生み出す。そんな素晴らしい進化と可能性に満ちた新世界を私達は望んでいる」
おいおい、どっちも欲しいってか? 欲張りだな……悪の組織らしいけど。
「だが、先程言った通りソウルギアと魂魄術を両立させるには地球のソウルが足りない。ならばどうするか? この星のソウルの絶対量を増やせばいい」
はいはい、ウィッシュスターにお願いするのね。ソウルを増やしてくれーって。
「その為に、ウィッシュスターで星に願う必要があるんだけど……ただソウルを増やしてくれと願ってもそれは叶わない。今の地球のソウルの量は我々の先祖が願いの結果として減少したものだからね。既に確定した願いの否定は出来ないんだ」
「ソウルを意図的に減らした?」
意味が分からん。ソウルの量が多いとなにか不都合があったのか?
「少し歴史について話そうか。まず、惑星がなぜ惑星と呼ばれているのか、なぜ惑う星と呼ばれるのか、ここにいる皆は一族の関係者だから当然知っているよね?」
い、いきなり授業に付いていけない……トウヤ君も、後ろの皆もそんなの当然だろって表情をしている。
仲間を求めて不安そうにキョロキョロする僕、それに気付いたトウヤ君が慌ててスマホの画面を弄りだした。すまぬ……
「おや? マモル……もしかして知らないのかい?」
こ、この野郎……
「宇宙トリビアに疎くてすみませんねぇ!! 父親が天体観測に連れて行ってくれた事もなくてさぁ!! これが田中家の教育の限界ですよ!!」
「天体観測……いいね、今度家族皆で行こうか。星野町の自然公園は星空が綺麗に見えるよ」
ぶ、ブチギレそう……もしかして僕は父親にケンカ売られてるのか? 仮に家族でお出かけが決定してもお前は留守番だよ!!
「それならまずは惑星についてだね。惑星、プラネットの語源はギリシア語のプラネテス、放浪者やさまよう者って意味なんだ。観測する度に天球上で位置を変える星々を人はそう呼んだ。夜空を見上げる観測者を惑わす星、それがプラネット。この国では惑星と翻訳された」
へぇー凄い凄い、勉強になるなー。
「天動説が主流だった時代。大地は不動で天こそが動いているとされていた当時、逆行する惑星達が天文学者達を悩ませた。だが、地動説が証明され、地球が自転しており、大地は平らではなく球体、地球は宇宙の中心ではなく太陽の周囲を回っていると判明した今となっては、地球が惑星を追い越す事で観測出来る現象が惑星の逆行だと答えが出ている」
父さんの解説に合わせて、周囲に映し出された立体映像の天体達が回る。
チッ、立体映像付きの解説なのでわかり易い……それが逆にムカつく。
「でも、それは表向きの真実だ。地球は本来は球体ではなく平らな大地、実は天動説は正しかった。元々惑星は惑わない星だった。惑わせたのは他ならぬ人類自身だ」
「は?」
何言ってんだコイツ?
「大地は動かず、天の方が動いていた。太陽の周りを回ってもいない、地球こそが宇宙の中心。それが地球の我々の生きる大地の真の姿、始まりの世界は平らな大地だった」
「と、父さん……頭大丈夫?」
そこまで狂っていたとは……ガリレオもコペルニクスも草葉の陰で泣いてるよ。それでも地球は動いているって……
「ハハッ、私は正気だよマモル。さっきアサヒが話してくれただろ? 人類は三度の惑星直列と二度のグランドクロスを経て魂魄獣達を追放したって。我々の先祖は星に何を願ったと思う?」
「え……だって、そんな事をしてなんの意味が……」
まさか、昔の人類が願いで大地を丸くしたって言いたいのか? 意味不明過ぎるだろ。
「魂魄獣を追放する為だよ。一度目の惑星直列で人類は願った。宇宙の中心に位置する不動で平らな大地。そんな世界を丸い球形にしてくれと。そして出来上がったのが地球。球体の大地をソウルの弾丸に見立てて放出する事でその場から移動したんだ。大地を土台として支えていた巨大な亀の魂魄獣アクパーラ、世界を撹拌してソウルと魂魄獣を活性化させる存在から逃げ出す為にね」
父さんの話に合わせて、立体映像に映し出される巨大な亀に支えられた大地。
それがみるみる内に変化して行き見慣れた地球の姿に変化した――と、思ったら亀を置き去りにして勢いよくぶっ飛んで行く。亀が飛び去って行く地球に手を振ってる……絶対に嘘だろ!? ありえねぇよ!!
「そして人類は二度目の惑星直列で地球をソウルごと回転させた。それが地球の自転の始まり。回転の力で地球のソウルの一部と共にティアマトやアジ・ダハーカなどの邪悪な竜を始めとする強力な魂魄獣達を宇宙空間へと吹き飛ばし、追放する事に成功したんだ」
ゆっくりと周る地球から、アホみたいな大きさのドラゴン達が次々と吹き飛んで行く。
傍から見るとマヌケでシュールな光景……嘘やん、そんなの絶対に嘘やん。
「三度目の惑星直列で、人類は地球からソウルの糸を夜空へと放った。その糸を太陽や惑星達と接続させて引っ張る事で人々は天の星々を地球へと近付けた。最初の願いでズレてしまった地球の位置を基準に太陽と惑星の位置を調整したんだ。配置を変える事によって、次からは惑星の配置は十字を描くようになる。より強力な願いが叶えられるグランドクロスと呼ばれる惑星の配置が実現可能になった。地球が太陽系の第三惑星、太陽から三番目に近い惑星になったのはこの時からだね」
地球から放たれた糸が惑星やその衛星、太陽を引き寄せ惑星の配置が見慣れたポジションへと収まる。
そんな気軽に惑星の配置替え出来るのかよ、席替えじゃねえんだからさ……
「そして待望のグランドクロス。人々は巨大な方舟を作り出しソウルの操作をする事で魂魄獣達を地下へと移動させた。地球の内部に存在する大空洞へと封じ込めたんだ。地上に残っていた魂魄獣の全てをね」
地球の地下に大空洞だと? 立体映像の地球が透けて内部が映し出される。
太古の時代を思わせる巨大な生物、巨大な植物で彩られた自然溢れる光景……んなアホな……
「地上から全ての魂魄獣が消え、人類はようやく平和を手に入れたと思われたが……時折地下から強力な魂魄が封印を破って地上までやって来る。気に入った土地に住み着いて現地の人々を苦しめた。各地の突出したソウルを持った英雄と呼ばれる人物が、なんとか退治をしたり封印したり追い返したりもしたが、根本的な解決にはならない。そして人類は決断する。次のグランドクロスで全てを解決する事を」
最後の願い……さっき社長は人類が勝利したって言っていた。一体何をしたんだ?
「今までの四つの願いはそれぞれ、ソウルの五大要素に基づいて選ばれた。ソウルの放出、回転、接続、操作……ならば五つ目の願い、二度目のグランドクロスに託すのはもちろん“創造“。人々が創造したのはもう一つの地球“ソウルワールド“。ソウルで構成されたもう一つの地球を創り出し、魂魄獣達をそちらへ転移させた。そうする事で人類はようやく魂魄獣の驚異から完全に解放されたんだ。二つの地球は今でも重なり合うように存在している」
目の前に映し出され地球の映像に、重なる様に半透明の地球が姿を現す。
ソウルワールドがもう一つの地球? いやいや、割と何度も来てるけど野生の魂魄獣なんて見た事ねーぞ? デマだよそれ。
「長くなったけど、これで歴史の授業はお終いだ。みんな、聞いてくれてありがとう」
「……妄想の歴史の授業はお終いかな父さん?」
聞いてる僕の方が恥ずかしくなった。父親が大勢の前で電波を垂れ流すのはキツイ光景だよ。
「マモル、信じられない気持ちも分かる。だけど今語った歴史は妄想なんかじゃないさ」
「へぇー、証拠でもあるの?」
「ああ、地球に直接聞いたからね。彼女は当事者だから全てを記憶している。体験談を嬉しそうに語ってくれたよ」
地球に聞いたとかいう無敵の返しはやめろ。社長といい気軽にファザーアースしやがって。
じんわりと温かい熱を感じる。相棒達から声が伝わって来る。
えっ……地球の奴は割と暇してるから呼べば大抵来る? 連絡先知ってるから自分達がこの場に呼ぼうかって? や、ややこしくなりそうだから今はいいや……
「現代で地球のソウル量が少ないのは主にソウルワールドの創造が原因だね。ソウル体で出来た地球であるソウルワールドの創造に九割以上のソウルのリソースを割いてしまった。惑星の保有できるソウル量は定められている。星には限界が決まっているんだ。他の惑星の力で無理矢理増やせば地球が自身をコントロール出来ず、天変地異が巻き起こり、地球は人類にとって生存不可能な星になってしまう」
それも地球に聞いたのか? お喋り過ぎだよ地球……
「そしてアサヒも語っていたけど、惑星達は元に戻せって願いは聞き入れてくれない。既に確定した願いの取り消しは、事象の巻き戻しは出来ない。つまり、新しい願いで更に地球の変化を促し、望む結果を導くしかない。そこで、私達ブルーアースはプロジェクト・オリジンブルーを立ち上げた」
ポンポン計画を立ち上げんな。四年に一度位にしろよ。
「私達がウィッシュスターで願うのは、現世とソウルワールドの融合だ。創造により生まれたソウルの地球、我々の住む現世の地球、二つが融合する事で進化する。新世界が誕生する。これによりソウル量の問題は解決、ソウルギア社会と魂魄術社会の両立が実現可能になるんだ」
世界の融合って……絶対にヤバい奴じゃん。
「博士達と進化した世界をシミュレートしたら面白い結果が出たんだ。なんと、二つの地球が交わって出来た世界は球体ではなく、平らな大地へと変化する。面白いよね、地球が進化を重ねた先に、新世界には始まりの大地と同じ姿が待っているなんて。地球は蒼きソウルに満ちた原初の大地を取り戻す、オリジンブルーに再び辿り着くんだ」
ち、地球が平らに……地球環境壊れちゃうよぉ!? しかもソウルワールドには……
「そんな都合の良い話は無いわよ!! 騙されちゃ駄目!! ソウルワールドと現世を融合すれば当然世界中に魂魄獣が溢れかえる!! ソウルを増やしたって敵も増やしたら元も子もないでしょ!! コイツラの計画はイカれてんのよ!!」
だよね、ご先祖様が苦労して追放したのにそうなるよね。
「確かに世界が融合すれば、人類は再び魂魄獣達と向かい合う事になる。だが、追放するしか術が無かった時代とは違う!! 我々の手にはソウルギアがある!! 特にソウルカードがね!! 魂魄獣と契約可能なソウルカードを持つ人類は!! かつての逃げ惑うだけの存在ではない!! いや、むしろ強力な魂魄獣達を味方に出来るんだ!! 人類と魂魄獣は融合した世界で共存共栄するのさ!!」
急に叫び出す父さん、いつの間にかプラネタリウムの立体映像が消えている。
「ソウルカードは無限の可能性を秘めている!! 創造性が試されるソウルカードこそ最も優れたソウルギアだ!!蒼星学園でしかテイマーを輩出出来ない現状じゃ可能性を活かしきれていない!! 他のソウルギアと比べて競技人口が少ないのは人類の損失だよ!! だがしかし!! ソウルと魂魄獣に溢れる融合した新世界ならソウルカードの大量生産が可能だ!! 世界中の人々がソウルカードを気軽に使える世界が待っている!! それを見越して新型のソウルラミネートを開発した!! 魂魄術をパッケージングした新しい種類のソウルカードの試作品も出来ている!! 5枚入り1パックを3百円で売りたいんだがどうかなアサヒ!?」
『それは流石に採算が取れんぞダイチ……』
なんかソウルカードの話題だと早口になるな父さん……
もしかして、ソウルカードの競技人口増して流行らせるのが目的なのか? まさかその為の悪の組織?
僕の父親は悪に落ちたソウルカード大好きおじさん……こみ上げて来るものがあるな。
「間違っておるぞぉ!? 最高のソウルギアはソウルシューター!! ソウルの弾丸を放出する快感!! アレに勝る物など無い!! ブッ放すのは最高だぁ!!」
「馬鹿を言えぇ!! 至高のソウルギアはソウルスピナーじゃ!! 回転こそ世の真理!! 美しき回転による黄金比はソウルの真髄!!」
「愚か者ぉ!! 究極のソウルギアはソウルストリンガーに決まっておるわ!! あらゆる物と接続するソウルの糸!! トリックこそ人類が生み出した最も美しい芸術!!」
「痴れ者がぁ!! ソウルランナーこそソウルギアの極み!! ソウルの操作によって人と機体は一つになる!! なんて尊い星との対話!! そしてなにより速さがある!!」
ジジイ共が父さんの発言に食い付き喧嘩を始めた。意思統一してから来いよ。意見割れてんじゃん。
「マモル、お前だってソウルギアの進化と発展が見たいだろう?」
「いや、それは……」
どちらかと言われれば見たいけど、世界中に迷惑かけてまで望む事じゃない。
「闇には、シャドウにはどう対処するつもりなの父さん?」
「ソウルカードを大勢の人が使える様になれば、闇との戦いだって有利になる。シャドウをある程度操る技術は確立してあるからね、準備の為の時間稼ぎは十分に可能だよ」
確かに操っていたけど人型の雑魚だけだよね? もっと強いタイプの闇が出たら大丈夫なのか?
「大丈夫、進化した世界で我々人類は負けたりしない。今の時代は過去に類を見ない程に突出したソウルを持つ者が揃っている。僕達の世代ならアサヒだね、アサヒのソウルライトパワーは凄いよ。ソウルギア使いの力を数倍に引き上げてくれる」
それは凄いバフだけど、社長一人じゃ流石に無理でしょ。
「そして何より、タイヨウとミカゲちゃんがいる。伝道者が予言した光と闇の運命の子、ソウルに均衡をもたらす選ばれし者達だ。タイヨウがソウルの光に生きる者達を照らして導く、ミカゲちゃんはソウルの闇に生きる者達を取り纏め君臨する。そうすれば世界は安泰だよ」
急にジェダイみたいな事を言い出した。タイヨウとミカゲちゃんが?
タイヨウは……本人を見てみると明らかに困惑している。初耳ですって顔だ。
そして、確かにミカゲちゃんはどっちかに分類するなら闇だ。急に町中の物陰とかコタツの中とかベットの下とか暗闇から這い出てくる。影に潜み影を操る闇属性の忍者なのは間違い無い。
でも、僕の友人に勝手に変な属性を足さないで欲しい。これ以上パワーアップされると僕は御しきれない。
「勝手な期待を人の息子に背負わせんな!! 予言なんてアテにならないわよ!! 結局姉さんの件は戯言だったじゃない!!」
『今がその時とは限らない。彼の人の言葉を過信するのは危険だぞダイチ』
ほら、親御さんもそう言ってるし……人の家のお子さんまで妄想に巻き込むのはよくないって。
「そうだね、その懸念はある。だから、今が予言の時では無かった場合に備えて、予言の時が来るまで人類を導く者が必要だ。マモル、次の年明けに道造博士がムーンロード計画の実行を予定している。今年こそ初代ソウルマスター月読イザヨを地球に帰還させたい、彼女に人類を導いて貰うんだ。計画にはマモルも必要なんでね、力を貸して欲しい」
去年は休みだと思ったら……懲りずに正月を狙って悪巧みしてたのか。月読イザヨを復活させるだ?
「そうじゃそうじゃ!! ムーンアタック計画をブチ壊した責任を取れぇ!! メルクリウスも返せぇ!!」
「ムーンアトラクト計画もじゃ!! グランドカイザーの顔に免じて手加減してやれば調子に乗りおって!!」
「ムーンコネクト計画もお前のせいで狂った!! 好き勝手やりおって!!」
知らない計画まで人のせいにすんなジジイ!! 好き勝手やってんのはお前らだろ!?
それに、月のソウルは僕の物になる予定なんだからガタガタ抜かすな。月に関する計画は僕の物だ。
「聞いたでしょうマモル!! ダイチもそこのジジイ共もアナタの力を利用する事しか考えていない!! PTAと共に来なさい!! それが正しい選択よ!!」
『田中マモル、話を聞いた後なら理解出来るだろう。PTAとブルーアースの計画は危険過ぎる。プラネット社に来なさい。一族と共に役目を果たすのだ』
僕への勧誘をしたと思えば、大人達はわちゃわちゃと言い争いを始めた。
これで僕達へ伝える話はお終いらしい。僕は答えを出さなきゃいけないようだ。
しかし、好き勝手言うよ……本当に好き勝手言ってくれる。三人がそれぞれの身勝手な勧誘、知りたくもない厄介で衝撃的な話を話してくれた。
僕は闇の脅威なんて目の当たりにしていない。
プラネット社と五百年前から争っている一族なんて知らない。
地球の声なんて聞いた事もない。
ソウルカードを持っていないから魂魄獣の事はよく知らない。
だから、どの計画にも賛同出来るはずがない。僕は平和と平穏を愛する善良な小学生、望みは不老不死と楽して暮らせる不労所得。ただ、それだけなんだ……
いや、もう一つ望みがあった。
最近ようやく気付いたけど……僕はソウルギアでソウルバトルするのが好きみたいだ。
組織との戦いだとか、命や身体の一部を奪う様な戦いではない。
ルールに則った普通のソウルバトルを友人と楽しみたいんだ。もちろん勝つのが好きで、チヤホヤされるのが好きで、自分の力を見せびらかすのが大好きだ。
だけど、対戦相手を不幸にしたい訳じゃない。
勝者と敗者が存在する以上、悔しい思いをする人は存在する。
それでも、バトルが終わった後には握手が出来るような。もう一度やろうとお互いに言える様なソウルバトル……僕が望んでいるのはそういうものだ。
ソウルギア自身だってそれを望んでいるはずだ。少なくとも僕の相棒達はそういうソウルバトルこそを楽しんでいる。
ソウルギア誕生の経緯は知った。想像以上に世界にとって重要な意味を持っていた事にも驚いた。
でも、僕にとってソウルギアは――
「マモル君、嘘をついちゃ駄目。今私に伝わってくる望みを偽ったら駄目だよ」
「ヒカリちゃん……」
静かに眠るトウカさんを胸に抱いたまま、ヒカリちゃんが僕に声をかける。
「男になってもわかり易いよな。不本意だって顔に書いてあるぜ」
「俺達に気を遣って我慢したら許さねえぞ。望みを偽るなってトウヤを焚き付けてチームを変えたのはお前じゃねえか」
ヒムロ君とレイキ君の声に反応して振り向く。そこには強い眼差しを向けるチームの皆が居た。
クリスタルハーシェルの笑みが雄弁に語っている。自分の気持ちを偽るなと、己の衝動と望みを偽るなと僕に伝えてくる。
「マモル君、君が選択したのならプラネット社にだってPTAにだって組織にだって付いて行ってもいい。君がそれを望むならね。姉さんを助けてくれた君の力になりたい、その気持ちは俺も皆も同じだ」
僕を支えるトウヤ君から心強い言葉が届く。迷いの無い真っ直ぐな気持ちが伝わってくる。
「トウヤ君、僕は……」
「でも、違うんだよね? それなら自分の気持ちに正直になればいい。それを俺に教えてくれたのはマモコさんで……君だよマモル君。だから君の望みを、君の覚悟を僕達に見せてくれ」
光だ。トウヤ君の力強い言葉に、決意に満ちた表情に光をみた。
ああ、トウヤ君……その通りだ。フフッ、初めて会った時とは別人の様に頼もしい。
いや、トウヤ君は最初から怯えては居てもEE団に屈したりはしなかった。自分の根っこを曲げたりはしない奴なんだ。彼は元々心の奥底に、ソウルの中に光を秘めていた。
そんな彼に偉そうに覚悟を語ったのは誰だ? 人に言っておいて自分が忘れていたら世話ないよな。
そうだ、僕の返事は決まっている。勝手な大人達に、この場にいる全員に、この放送を見ている奴等にも聞かせてやろう。僕の答えを。
ふと、自分の足元を見ると影が揺れた。
懐かしい合図……もう何も心配はいらない。我ながら現金だな。
身体は痛むが大丈夫だ。トウヤ君の支えから抜け自力で歩む。力を振り絞って自分の気持ちを伝えよう。
深く深く息を吸う。僕の感じている気持ちに負けない位大きな声を出す為だ。
「決めた!! 返事をするからここにいる全員よーく聞け!!」
僕の宣言に、大人達が言い争いを止めてこちらを向いた。フィールドや観客席の子ども達の視線が集まるのも感じる。
「闇とか魂魄術とか魂魄獣とか地球の声とか!! 初めて聞く話ばかりだけど参考になったよ!! おかげで僕の選ぶべき道は決まった!! 僕は答えを出した!!」
もう決めた。恐らく今日からスペシャルカップが終わるまでの一年は死ぬ程忙しく大変な物になるだろう。恐らく僕の人生で一番困難な時期のはずだ。
つまり、それさえ乗り越えてしまえば後は悠々自適の不老不死ライフだ。これは若い内の苦労って奴だ。僕の人生における最大の試練なんだ。
だが、乗り越えて見せる。僕には心強い仲間がいる。
「僕は平穏を望んでいる!! 秩序が乱れるのを望んでいない!!」
『ああ、誰もがそれを望んでいる』
プラネット社と一族は平和と秩序を守りたいんだろう。それには僕も同意する。
「僕は安全を望んでいる!! 危ない思いなんてしたくない!!」
「大丈夫!! 私達が守ってあげるわ!!」
PTAは子ども達を守りたいんだろう。その気持ち自体はありがたい。
「僕は家族と友人を愛している!! ソウルギアを愛している!!」
「私もだよマモル……分かってくれたかな?」
父さんはソウルギアと人の可能性が見たいのだろう。ほんの少しだけ、ちょっぴり理解出来る。
「それぞれの組織が!! 目指すべき世界の為に色々考えてるのが分かった!! 遥か昔から一族が戦って来たのも知った!!」
一族がしつこいぐらいに役目という言葉に拘っているのは、それが使命であり誇りなんだ。
長い時を掛けて受け継がれて来た大切な想いで――呪いだ。
「だけど!! そんなもの僕には関係ないね!!」
そうだ。僕の知った事ではない。
「なにが役目だ!! なにが闇だ!! なにが魂魄術だ!! なにが地球の声だ!! 人にそんな物を押し付けるな!! 僕はアンタ達の馬鹿馬鹿しい計画に手を貸すつもりは無い!!」
「クッ、やはり貴様は……」
僕の答えが不満そうだなタイヨウ。
でも、これが僕の嘘偽りの無い気持ちだ。
『ならばどうする田中マモル? 君はどんな道を選ぶつもりだ?』
「スペシャルカップに出場して優勝する!! ウィッシュスターは五つ全て僕が頂く!!」
一つたりとも渡さない!! ウィッシュスターは全て僕の物だ!!
「一つ目の願いで!! プラネット社と関連子会社の株式を百パーセントを頂く!! 更に田中カンパニーを設立!! プラネット社を完全子会社化してコキ使ってやる!! そして二度とコアソウルに子ども達を捧げる事はさせない!!」
『ウィッシュスターの力で敵対買収? それは……』
桃鉄で鍛えた僕の経営テクニックで企業改革してやる!! ソウルギアの製造を牛耳る悪の会社からは決別だ!!
「二つ目の願いで!! PTAはママさんバレー集団に生まれ変わる!! 奪ったソウルギアは全部返却して迷惑をかけた人に謝罪してからだ!! 二度と子ども達からソウルギアを奪わせない!!」
「何言ってんのよ!! 私はチームでやる球技は嫌いよ!!」
我がままを言うな!! 理不尽にソウルギアを取り上げられた子どもの気持ちを思い知れ!!
「三つ目の願いで!! 悪の組織ブルーアースはボランティア団体へ方針を変更!! ジジイ四人とバカ親父の技術力を平和利用する!! お前らは無給で奉仕活動だ!! 交通費も自己負担だから覚悟しろ!! 社会貢献して罪を償え!!」
「ハハッ、今も平和利用してるんだけどなぁ」
ヘラヘラすんな!! 願いとは別に一度ボコボコにしてやるから覚悟しろよバカ親父が!!
「そして四つ目の願いで!! 全てのコアソウルの正常化を願う!! コアソウルの中へ消えた子ども達を全て救出する!!」
僕の発言に、周囲が少し騒がしくなった。
『私の話を忘れたのか? コアソウルの正常化を願えば闇が現世に――』
「闇なんて僕が倒してやるよ!! 懲らしめて二度と悪さ出来ない様に言い聞かせてやる!! それで問題無いだろう!!」
コアソウルに入って分かった。闇には……彼等にも意思がある。それならば不可能では無いはずだ。
「そして五つ目のウィッシュスターは僕が個人的に使う!! プライベートな願いを叶えさせて貰う!!」
それぐらいのご褒美は許されるはずだ!! 不老不死は僕の物だ!! 文句は受け付けない!!
「馬鹿馬鹿しい!! そんな無駄な願いでウィッシュスターを使い切るですって!? そんな事をしたら他のソウルギアを使う勢力に隙を――」
「僕の交渉術で円満に解決だ!! 歴史的和解を実現させてやる!! 五百年もソウルギアが原因で争うなんてそれこそ馬鹿馬鹿しい!!」
異種ソウルギア戦争なんてまっぴらだ!! そんな事は僕が許さない!! 平和的に解決してやる!!
「ふむ……マモル。お前が今言った様に願いを叶え、闇を払って他の勢力と和解出来たとして、その先にどんな未来を、どんなビジョン抱いている? 世界をどういう方向に変えるつもりかな?」
未来だぁ? ビジョンだぁ?
「そんな物は知った事か!! なんで僕がそんな物を決めなきゃいけないんだ!!」
僕はただウィッシュスターで願いを叶え、不老不死になり、平穏を乱す原因を取り除くだけだ。
その後で、友人達と心置きなくソウルバトルを楽しむ。だって僕にとってソウルギアは――
「いい加減にしろ田中マモル!! 無責任な戯言を抜かすな!!」
「タイヨウ……?」
激高した様子のタイヨウが僕に向かって吠える。殺意すら感じる程に鋭く僕を睨み付けている。
「話を聞いた後で何故そんなにも無責任になれる!? 来年のグランドクロスの重要性が理解出来んのか!? ウィッシュスターに託す願いで世界の在り方が決まるのだぞ!? なのに未来を見据えていない!? 無責任にも限度があるぞ!!」
無責任? それは違う、間違っている。
「無責任じゃないさタイヨウ。僕に言わせれば父さんや社長や叔母さんの方がふざけている。ウィッシュスターを、ソウルギアを使って世界の有り様を変えようなんて傲慢だよ。そんなの世界征服と一緒だ。願い事っていうのは自分の為に叶える物だ」
僕は大人達に腹が立つから組織の有り様を変える。気に食わないからコアソウルは元に戻す。死にたくないから不老不死を願う。
ただ、それだけだ。僕は自分の願いを叶えるだけだ。
「自分の為に……だと? 馬鹿を言うな!! 一族の役目の重さを知っただろう!! ソウルギアが何の為に作られたかを知っただろう!! お前はソウルギアの力を振るう事を!! ソウルギアをなんだと思っている!!」
ソウルギアをどう思っているだと? そんなの物は決まっている。
「教えてやるよタイヨウ。ソウルギアは僕にとって……」
父さんにピース・ムーンを渡された時、初めてスタジアムでソラ君とカイ君の試合を見た時は馬鹿馬鹿しく思った。絶対にソウルギアなんかやらないって思ったのが懐かしい。そんな僕が、今やソウルギア大好き少年、罪深い相棒達だ。
だが、それでも僕のソウルギアに対する認識は変わっていない。
僕の相棒達は、ピース・ムーンもシルバー・ムーンもトワイライト・ムーンもプラチナ・ムーンも僕にとって大事な相棒で――
「僕にとってソウルギアは…………オモチャだ!!」
僕の答えが体育館に響く、周囲は呆気に取られた様子で静まり返った。
父さんと博士達も、社長も叔母さん達も、タイヨウもフィールドや観客席のソウルギア使い達も、トウヤ君やクリスタルハーシェルの皆ですらポカンとした顔をしていた。
「き、貴様……ソウルギアがオモチャ? が、玩具だと!? 馬鹿にするのもいい加減にしろ!! ソウルギアの役目を知って何故そんな戯言を――」
「戯言じゃない!! 何度だって言ってやるよ!! 僕にとってソウルギアはオモチャでホビーだ!! 闇と戦う為の道具でも誰かと戦争する為の道具でもない!! 友達を作り!! 友達と遊ぶ為のオモチャだ!!」
なんでソウルギアが作られたのかは分かったよ。どういう役目を背負っていたのかも。
だけど、役目なんてどうでもいい。大事なのは本人の気持ちだ。
「父さん!! 引っ越す為に家を出た車の中で!! 同級生と一緒に遊べってピース・ムーンを渡してくれたよね!! それで友達が出来るって教えてくれた!! あの言葉は正しかったよ!! 父さんの考えには付いて行けないけどそれだけは感謝している!!」
「マモル……」
強引で厄介事を持ち込むけど、友達は大勢出来た。僕の味方してくれる心強い仲間達はソウルギアがあったからこそ出会えた。
「ソウルギアは確かに凄い力を持っている!! でも、僕の相棒達は!! 友達とソウルバトルしている時が一番嬉しそうだ!! それが一番だと言っている!! 人間もソウルギアも役目に縛られる必要なんてない!! 自分の生き方は自分で決める!! だから僕にとって相棒達はオモチャだ!! 彼等がそれを望んでいるなら僕もそれを望む!! 相棒達を、ソウルギアをオモチャと呼ぶ!!」
「クッ、そうだとしても……」
言い淀むタイヨウ、お前だってそう思うだろう? あれ程の腕前のお前にソウルギアの声が聞こえない筈が無い。
「お前の機体はどうなんだタイヨウ!? お前の相棒達はどんな時が一番喜んでいる!? 役目の為に望まない戦いをしている時か!? そんな筈はないだろう!!」
タイヨウが僕から視線を逸らす、その目線は腰のホルダーにセットされたソウルシューターを捉えていた。
「そしてソウルギアで!! スペシャルカップでウィッシュスターを巡ってソウルバトルするのは僕達自身だ!! 好き勝手言っている大人達じゃない!! スペシャルカップはここに居る子ども達の!! これを見ている全ての子ども達の!! 僕達がソウルバトルする為の舞台だ!! 僕達が主役の大会!! 大人なんて裏方で脇役!! ならば願いを決めるのは僕達子どもだ!! 大人の言いなりになる必要は無い!!」
計画なんて知った事では無い。そんな物は僕達のソウルバトルに関係無い。
「いいか!? プラネット社もPTAもブルーアースもよーく聞け!! ソウルギアを使って自分勝手な世界を望むお前達に教えてやる!! そんなものは世界征服と一緒だ!! 僕にとってのオモチャで!! ソウルギアでそんな野望は叶わない!! そんな計画が成就する事は無い!!」
ああ、そうだ。ソウルギアで世界を好き勝手しようなんて許さない。ソウルギアで世界征服なんて出来る訳がない。
「オモチャで世界征服? そんな事は不可能だ!!」
何故なら――
「この僕が!! 田中マモルがそれを阻む!! ソウルギアを悪用する奴らは僕が倒す!! 健全なソウルバトルの為に世界を守る!!」
それが自分自身で決めた役目だ!! この衝動に嘘は無い!!
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