第12話 一子相伝!? 受け継がれしソウルメイクアップ!!

 


 父さんによるソウルメイクアップの修業は、舞車町に着いてすぐに始まった。


 父さんに同意を得て、新しい小学校に通うのはソウルメイクアップを習得してからとしてもらった。

 理解のある親で嬉しい、理解があり過ぎる気もするが都合が良いので気にするのはやめた。


 新しい自宅にあるソウルギア用のトレーニングルーム、そこで僕と父さんは向き合っている。これからいよいよソウルメイクアップの修業が始まるのだ。

 ユピテルくんは端の方で饅頭を食べながら僕達の修業風景を観察している……居候の癖にくつろぎ過ぎじゃない?


「マモル、ソウルメイクアップとはソウルの中に眠る自身の可能性を呼び覚ます技術だ。今、この瞬間に生きている己の姿は数多の可能性の中の一つに過ぎない。少しでも出会いや環境が違っていればこうなっていたかもしれないというIFの自分……別の可能性を選んだ己をソウルの奥底から見つけ出し、自身のソウル体へとそれを写し出す」


「可能性? ふーん」


 よう分からんな、ソウルをつかった特殊な化粧の類かと思ったけどちがうの?


「まずは手本を見せよう――ソウルメイクアップ!」


 突如叫び出し、光に包まれた父さん。


 そして、光が止むとそこには女の人が立っていた。


 腰の近くまで伸びた美しい黒髪とナイスバディを身に付けたオトナの女性だ。これが父さん?  

 衝撃的な光景だ。服まで変わってるぞ? 化粧っていうか変身だな。うーん、変身した父さんが美人なのが僕を複雑な気持ちにさせてくれる。少し母さんに似ているのもモヤモヤポイントだ。


「お、おう、凄いね父さん。ソウルメイクアップは上手くやれば自分のソウル体を好きな姿に変えられるって事なの?」


「いや、熟練すればある程度は望んだ姿を見つける事は出来るが、そう簡単に姿を選べる物では無い。人の可能性は無限とはいえ、今の自分から離れた可能性ほど写し出すのは難しい。自身から遠すぎる可能性を見つけ出すのは殆ど不可能と思った方がいい。全ての可能性を知るには人間の一生は短すぎるからな……まずは今の自分から近しい可能性を見つけ出すんだ」


 ふーん、そこまで万能では無いって事か? ある程度決まった姿にしかなれないソウルを使った変身術って所か?

 それに、僕は化粧や衣装をして女装する事を想定していたが、これなら簡単に女の子になれる。正に魔法の変身その物だからな。


 しかしこれは……ソウルギアを使わないで自分をソウル体に変化させているって事だよな? それにしては、今の父さんはソウル体には思えない。


 ソウルギアを使ってソウル体へと変わった者はかなり判りやすいソウルを発する。ソウルギアをある程度動かせる者なら、ソウル体と生身との違いは一目瞭然だ。

 だが、そのソウル体特有の波動がソウルメイクアップした父さんからは感じられない。


「気付いたかマモル? ソウルメイクアップによって作り出されるソウル体は他人からは生身との見分けが付きにくい。ソウルギアを使ってソウル体を構成する方法とは違い、純粋に己のソウルのみでソウル体を作るからだ。異なるソウル同士が混じる反発が発生しないから身体から漏れ出るソウルが微量なんだ。慣れてくれば、あえてソウルを発する事も出来る様になるがな」


 へーなるほど……いいね、傍目からはソウル体とは分からない身体、奇襲や不意打ちが捗りそうだ。私はソウル体じゃないから酷い事しないで……って油断させた所をズドンとやる。意識外からの攻撃はよく効くからね。


「ソウルメイクアップって凄いね父さん! 早速修業を始めようよ! なるべく安全なやつでね!」


「よし、まずは己の可能性を見出すためのステップその1だ。先ずはこれを見なさい」


 そう言って父さんはトレーニングルームの奥の部屋の扉を開けた。


 こ、これは? まさか……


「お前の為に用意した女の子用の衣装だ。この衣装部屋にあるのは全体の半分だな、残りは母さんが送ってくれる手筈だ。明日には届くだろう」


 父さんが誇らしげに見せ付けて来た十六畳程の衣装部屋、色とりどりで多種多様な女児用の衣服が所狭しと並んでいた……えぇ?


「と、父さん? 僕の為にこんなに大量の衣装を買ったの?」


「いや、買い足したのは全体の3割ぐらいだな、他のは元々持っていた父さんと母さんの衣装だ。父さんが小学生の頃、母さんやチームメイトと色々な大会で優勝した賞金で買った思い出の衣装だ。捨てずに取っておいて正解だったよ。それをマモルが着る事になるとは感慨深いな」


 レベル高いな家の両親!? 小学生の頃からこんなに大量の衣装を用意して特殊なプレイに精を出していたのか!?


 普通の服も多いけど、子供用のメイド服とかバニースーツとかサンタ衣装とかナース服とか特殊な物もかなり混じっている。こういうキワモノは最早コスプレだよね? そして僕が着るってのはやっぱり……そう簡単には女の子になれないって訳か。


「これらの衣装を試着して自分のカワイイの方向性を見つけ出すんだ。女の子としての自分の可能性を模索するならそれが一番いい、自分にピッタリの衣装を見つけ出すのがステップ1だ。大丈夫、お前自身のソウルに耳を傾ければ直ぐに見つかるさ」


 あまり大丈夫には思えないけど……やるしかねえ!


 そして始まるファッションショー、大きな姿見の前で女の子の衣装を纏った自分の姿を確認しまくった。


 くっ、何をやっているんだ僕は?


「ステップ2は女の子らしい仕草の模倣だ。何気ない動作の中にこそ女の子らしさの真髄がある。父さんの動きとポーズを見てから真似てみなさい」


 これは……きついぞ? 思ったより精神的なダメージが大きい。こんな父親を見せつけられるとは思わなかった。様になっているのが少し腹が立つ。


 たが、やってやる! 僕はソウルメイクアップを習得してみせる!


「ステップ3は女の子らしい喋り方の習得だ。喋り方や一人称、そして語尾が己のソウルに大きな影響を与えるのはもう知っているのだろう。最初は意識的でもいい、少しずつ自然に発する事が出来る様にしていこう――貴方なら出来るわマモル、私の息子ですもの」


 お、おう、凄いな父さん? 全然恥じらいが無い、むしろ誇らしげだ。


 ぼ、僕……いや私もあれくらい堂々と喋れる様にならなくちゃいけない。


 その後、ステップは21まで続き、僕はそれを三週間かけてクリアして行った。


 なるほど、これは奥が深い世界だ。僕は女の子になると言う事を甘く見ていた。憧れだけでどうにかなる世界ではない……だが成し遂げて見せる!


 そして全てレッスンが終わり、いよいよソウルメイクアップを実際に試す日がやって来た。


「フフッ、いい仕上がりよマモル。いよいよソウルメイクアップを使う時が来たわ。準備はいい?」


「フフッ、よろしくってよ お父様」


 とうとうこの日が来たわね! 今の私になら出来る! もう何も怖くない! 覚悟完了よ!


『だいぶ染まったなぁマモル。最初は面白かったけど俺は段々怖くなってきたぜ……』


 あら? 部屋の隅で背後霊がなにか囁いていますわ? こわ~い♡


「高らかに叫びなさいマモル! イメージするのは常に最強のカワイイ自分! カワイイは作れる! アナタの可能性を私に見せてちょうだい!」


「ええ! 魅せてあげる! ソウルメイクアップ!」


 僕の身体が光に包まれる。己の内側から、己のソウルの奥底からイメージが呼び起こされていく。


 見つけた……これが僕の可能性? これが僕? いや、私?


「成ったか……マモル」

『おぉ!? 本当に女になっちまったな!』


 姿見に映ったのは青い瞳のプラチナブロンドの少女。これが……新しい私? 


 なんでゴシックドレス? 似合ってるけど、どういう選択をするとこうなるんだ? 女の子に生まれればこうなっていたのか?

 ふむふむ、青い瞳はそのままだが……僕は女の子に生まれると父さんと同じ黒髪から母さん譲りの金髪になるのか、妹のマモリと一緒だ。

 元気にしてるかい、マモリ? 兄さんは……新しい町で女の子になったよ……


「だがこれは不味いな、上手く行き過ぎている。初めてなのにここまでの完成度とは……」


 あっ、いつもの父さんに戻ってる。


「父さん? 上手く行き過ぎていると何か問題があるの?」


「ああ、ソウルメイクアップに魅入られすぎると元に戻れなくなる可能性がある」


 怖!? 闇の力かよ!? バリバリ副作用があるじゃねーか! 子供にホイホイ教えていい技じゃねーぞ!?

 

「も、戻れなくなる!? 使いすぎると一生女の子のままって事!?」


「いや、流石に一生ではない。例えば……父さんと母さんの場合は一年間そのままだった。あれは中学2年生の頃だな、互いを求めてソウルメイクアップにのめり込み過ぎてしまったのが原因だ。しかもその間は自身の本当の性別を忘れてしまってな……中々大変だったよ」


 中々で済むのかそれ? 父さんと母さんは随分とロックな生き方してやがるな、かなり問題児だったっぽいぞ?


「えっと、じゃあ使用時間を決めるとか? 要は四六時中メイクアップしてなければいいのでしょう?」


「ふむ、それに加えて名前を……そうだな、マモル、お前がソウルのメイクアップしている時はマモコと名乗りなさい、田中マモコだ」


「田中……ま、マモコ?」


 普通にやだなぁ……折角だからパツキン女子の姿に似合う名前が良かった。割とワクワクして名前の候補を考えていたんだぞ?


 月にこじつけて田中マヒナとか、勝手にミドルネーム入れて田中・L・セレーネとか、モネとかリューナとか……田中を辞めて旧姓を使って月読イザヨとかどうよ? ミヅキとかハヅキとか和風系で攻めるのも逆にいい感じじゃない?


 それなのにマモコってどうなの? 田中マモコって……これはないだろ。女装だからって適当過ぎない?


「違和感のある名前だろう? だからこそだ。そう名乗っている間は自分がマモルで在ることを忘れる事はない。しっくり来る名前を付けると深みに嵌る可能性がある。お前の安全のためにはそうした方がいい」


「安全の為なら仕方ありません! 私は田中マモコです!」


 ワイは今からマモコや! 美少女ソウル戦士田中マモコや! 月に代わって悪をボコボコにするで! ガハハ!


 ソウルメイクアップを約三週間で習得し、田中マモコという新しい名を手に入れた僕は、そのまま学校には行かずにソウルランナーの修業に移る事にした。

 父さんにはソウルメイクアップの完成度をもっと上げたいと言って納得してもらった。


 今回僕が舞車町で目指すべきポジションはヒロインだ。


 去年は守ってもらう系のヒロインが良いと考えていたが……よく考えるとそれじゃあ悪の組織の計画を乗っ取れない、事態のコントロールがしにくく、月のソウルに上手くたどり着けない。


 つまり! 僕が目指すべきは主人公を導く系のミステリアスヒロインだ! 


 最初は主人公より強いけど終盤で抜かれる系のアレだ。強くてもヒロイン補正で守ってもらえて、主人公の行動をある程度コントロール出来るポジションでもある。

 そして何より、ラスボスを始めとする厄介な敵の相手は主人公がしてくれる……素敵やん?


 ヒロインの役割を自覚して徹底すればソウルは必ず答えてくれるはずだ。僕の望む方向に事態を誘導してくれるだろう。

 

 主人公を導きつつも誑かし! なんやかんやの最終決戦でラスボスを押し付ける! その隙に僕がこっそり月のソウルをゲットする!


 このヒロインムーブは、僕を必ずや安心と安全の不老不死へと導いてくれるだろう。

 ふへへ、楽しみだねぇ……おっといけねぇ、よだれが垂れちまったぜ。


 そして当たり前だが、この作戦に必要なのは主人公と悪の組織だ。


 幸運と言うべきか、不幸と言うべきか、やはりと言うべきか、この舞車町では悪の組織EE団が活動しているのは確認済みだ。本当僕の行く先々でウロチョロする奴等だ。


 そして主人公候補は、これからじっくりと探そうと思う。現時点ではあんまり強くないけど才能があり、戦闘狂気質ではない人材をこの町で見つけ出すのだ。


 探索には、お菓子をエサにユピテル君を町に放って頑張ってもらう。ユピテル君は本人の意思で人には見えない様に姿を薄くする事も出来る。誰にも知られずに町の至る所をウロチョロ出来るはずだ。

 すご腕のソウルギア使いには見破られる可能性もあるが……ユピテル君なら大丈夫だろう。ユピテル君は言動は粗野だが、割と理屈で行動する。引き際を見誤ったりはしない。良さげな人物を見繕ってもらうとしよう。


 そして、その間に僕はソウルランナーの腕を磨く事にする。主人公導き系のヒロインならある程度の強さは必須、今までの様に初心者状態で主人公(仮)に出会う訳にはいかない。


 父さんから貰ったソウルランナーの“プラチナ・ムーン“を使って自宅のトレーニングルームで学校にも行かずにシコシコと練習する。

 全ての基本である素振り、ソウルランナーへのソウルチャージ、プラチナ・ムーンを思うがままに操作出来る様にひたすら修練を重ねる。


 そして大事なのが実戦だ。ユピテル君に主人公探しと並行して探して貰ったEE団のアジトに軽く襲撃を重ね、ソウルランナーを使った実戦の経験を得る。

 アジトを6つ潰した頃には、僕は自身の望む水準までランナーとしての腕前を引き上げた。


 我ながら成長が早い。他の3つのソウルギアを先に修めていたので、ソウルその物の扱いが上手くなったのが理由だと思う。

 そして、父さんが言っていた女の子の格好をする事によるソウルの理解が深まるとかいうアレは真実だった。

 なんと、今までどんなに頑張っても習得出来なかったソウルギアによる治癒を習得出来たのだ。これは嬉しい、ケガを負っても自分で治せるのは素晴らしい。まさに安心と安全をもたらす能力と言える。


 そしてもう少しで5月が終わる頃に、ユピテル君から良さげな人物を見つけたとの報告があった。


 さっそく行動に移った。お目当ての人物をユピテル君と共に電柱の上から見守る。

 青い髪のそこそこ顔の整った少年が、悩ましげな表情で歩いていた。

 時刻は夕方で薄暗く、僕も気配を抑えるソウル術を身に着けているので誰にも見つからないだろう。


「凍咲トウヤ、この町のランナー達を牛耳る天王トウカを守護するウラヌスガーディアンズの一員だな。だが、肩書の割にパッとしねえ戦績の奴だ。コイツの所属するソウルランナーのチーム“クリスタルハーシェル“はAランクでトップのチームだが、凍咲トウヤは明らかに実力不足だな、コイツ個人の実力は甘くせいぜいBランクの下位だろうな」


「なるほど、いいね、実に素晴らしい逸材を見つけてくれたよユピテル君」


「だろう? 強くはねーけど潜在ソウルの高い小学生……面倒くさい注文だった。見つけ出すのは苦労したぜ。約束は守れよな?」


 パーフェクトだよ、まさに僕の求めていた主人公の器だ。素晴らしい潜在ソウル……ユキテル君といい勝負だ。それなのに大して強くないのも素晴らしい。


「もちろんだよユピテル君、約束通り毎日好きなお菓子を買ってあげるさ、六百円以内ならね」


 父さんは金銭感覚がガバイので、僕の毎月のお小遣いは驚愕の5万円だ。

 僕はそれ程浪費するタイプではないのでお小遣いは貯まる一方、この程度の出費ならまったく問題無い。

 さらには今までの公式戦で手に入れたポイントがある。プラネット社のオフィシャルショップで好きな物を買える素晴らしいポイントだ。ソウルギア用のパーツや消耗品はこれで買うからお金は殆ど使わない、ポイントは全てのソウルギアで共通だからソウルランナーのパーツも問題なく手に入る。


「へへ、やりぃ! 実は良さげな和菓子屋を見つけてよ、まずはどら焼きにするかな? いや、俵最中も捨てがたいな……」


 和菓子好きとは渋い好みの背後霊だ。好きなだけ悩みたまえ、安上がりでコスパの良い子だ。


 それから数日間、僕とユピテル君は凍咲君の事を観察し続けた。時には人混みに紛れ、時には物陰に隠れて、時には電柱や屋根の上を飛び移って凍咲君をストーキングし続けた。


 そして分かったのが、彼が力を欲しているという事だ。チームメイト達と比べて実力の劣る自分の現状に焦燥感を抱いている。


 素晴らし過ぎる。凍咲君には、僕が求めていた要素が完璧に揃っている……運命感じちゃうぞ♡


 彼の人となりや、置かれている現状をそこそこ把握し、後はどうやって最初の出会いを演出しようか悩んでいた時に彼は動き出した。


 なんと彼は、EE団のアジトへ情報を求めて潜入する事を決意した様だ。2日後にそれを実行しようとしているのを、姿を消して彼の自宅に潜り込んだユピテル君が教えてくれた。


 EE団と敵対しているチームの役に立ちたいと考えたらしい、功を焦るなんて……君はなんて素敵なんだ! 理想的過ぎる無謀な行動だ!


 これはまさにチャンス! 運命の出会いを演出する大チャーンス! 


 ユピテル君に不良役をお願いして絡んでもらう等の作戦を考えていたが、まさか自分から危険な場所へと足を踏み入れてくれるとは思わなかった。

 急いで父さんにお願いして、転校する日を潜入の翌日としてもらう。出会った次の日に転校生としてやって来る美少女のインパクトを凍咲君にプレゼントしよう。


 まず、アジトで凍咲君がいい感じにピンチになってから、ソウルメイクアップした僕が彼を窮地から助ける。そして意味ありげな言動で彼を惑わせてお別れする。


 まさに第一印象バッチリの運命の出会い! 神秘的な演出で凍咲君のハートを鷲掴みにしてやるぜ!


 そして遂に、凍咲君のドキドキEE団へのアジト潜入作戦が始まった。


 何事も無く潜入が成功したらどうしようかと心配したが……凍咲君は無事にEE団に発見され、丁度良いピンチに陥ってくれた。

 ユピテル君と協力し、彼を追跡している戦闘員だけを残して他の戦闘員を無力化する。幸い幹部級が居なかったので容易かった。


 そして僕は予定通りにバッチリファーストコンタクトを成功させた。月をバックに舞い降りて一瞬で戦闘員共を蹴散らす、完璧な出来映えだった。

 ただ、戦闘員に取り囲まれ、傷付く彼を眺めているのは結構心が痛んだ。

 でも、傷を治してあげたから許して? そもそも僕が付け回していなかったら君は割と洒落にならないピンチだったぞ? 変な仮面を付けられて洗脳されていたかもしれないぞ?


 そして、アジトへの潜入の次の日、僕は凍咲君と同じ5年5組へ転校生としてやって来た。


 凍咲君と別のクラスになる可能性も考慮していたが……父さんにお願いしたら同じクラスにしてくれた。

 ちょっと学校関係者に要望が通り過ぎて怖い、父さんは学校側に僕をなんて説明したんだ? それとも父さん自身が学校に影響力があるのか?

 まあ、何にせよ好都合な事に違いはない、深く考えるのは止めておこう。






 そして転校初日のホームルーム、転校生の登場にざわつく5年5組のみんなの前で僕は自分の名前を告げた。


 田中マモコと名乗るとちょっとだけ戸惑った感じの空気が流れた。やっぱり違和感あるよね? 安全の為とはいえ僕も未だに慣れない。

 だが、掴みは悪くないだろう? 衝撃的なセカンドコンタクトだろう? 


 フフッ……見ているな? 僕を見ているな? 凍咲トウヤ君?


 当然だよなあ? 気になっちゃうよなあ? 劇的な出会い方だったもんなあ? 運命感じちゃうよなあ? 


「よし、じゃあ田中の席は一番前の……」


 おっと、ここで攻撃の手を緩めてはいけない、畳み掛けるぞ!


「先生、私は凍咲トウヤ君の隣の席がいいです」


「えぇ!?」


 僕の模範的ヒロイン発言に驚く凍咲君、騒がしくなるクラスメイト達。

 フフッ、いい感じだ。ここまでは一部を除いて完璧なムーブだ。


「あー何でかな田中? 校長先生から聞いてはいるが、あまり特別扱いは……」


「実は昨日、凍咲君と一足先にお知り合いになりまして、少しでも知っている方の近くだと心強いです。まだ越して来て日の浅い私は友達が居ないので…」


「うーん……まあ、左隣は空いてるからいいか。じゃあ、田中の席は凍咲の隣ってことで」


 オッシャア! やったぜ! マモコちゃん大勝利や! 勝ったな! グハハ!


「先生、ありがとうございます」


 教室の中央をゆっくりと歩き、一番後ろの列にある凍咲君の隣の席へと向かう。


 うーん、視線をビンビンに感じる……いいね、転校初日の特権だね。今回はソウルメイクアップのおかげで何時もより視線を強く感じちゃうぞ♡ 照れるぞ♡


 目当ての席へと辿り着く、凍咲君は驚きを隠せないまま惚けた表情で僕を見ていた。


「よろしくね凍咲君」


「う、うん」


 照れてやがる。フヒヒ、カワイイねぇ、ういやつよのぅ……入念な準備と下調べのかいがあったと言う物だ。


 ああ、完璧過ぎる。自分の才能が怖い、全てが順調だよ。


 そして次の瞬間、僕は命の危機を感じた。心臓を掴まれた様な濃密な死の気配が一瞬だけ僕を包み込んだ。


「ひゃっ!?」


「た、田中さんどうしたの!?」


 何だ!? 今僕の危機察知センサーが途轍もない殺気を感じたぞ!? 一体誰だ!? まさかEE団が学校にやって来たのか!?


 急いで周囲を見渡す、ソウルを研ぎ澄まして殺気の主を探すが見つからない? 気のせい? いや、そんなはずが……


「田中さん? 具合でもわるいの? 保健室に行った方が……」

「おいおい大丈夫か田中? 転校初日から体調不良か?」


「い、いえ……何でもありません、体調に問題は無いのでお気になさらずに……」


 もう殺気は感じ取れない、本当に一瞬の出来事だったぞ? 一体誰だ? 

 もしかして、この教室に殺気の主がいるのか? クラスメイトの中に犯人がいる? 僕の察知能力すら欺くなら相当の手練だぞ? この僕が敵意を気取れないとは……


 くそっ!? 上手く行き過ぎたと思ったらこれだ! このクラスには何が潜んでいる!? 


 なんで僕に殺気を向けた!? 凍咲君以外は初対面だぞ!? 殺気を向けられる筋合いはないだろ!?


 フヒッ、だが僕は負けない! 悪意から己の身を守り抜いて生き延びてやる! そしてヒロインを遂行する! 全ては夢の為に! 不老不死の為に!


 わ、私は! 田中マモコは殺気などには屈しない! 殺気なんかに絶対に負けたりしない!

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