第13話 驚愕必至!! クリスタルハーシェルの罠!!

 


 正体不明の殺気に怯えながらも、僕は転校初日の授業を無事に過ごす事が出来た。


 凍咲君に、合法的かつ自然に密着出来るヒロインムーブ“教科書見せて♡“は、全児童にハイテクタブレット支給のこの世界では通用しない技だ。

 実に残念、やってみたかったなぁ……密着されてドギマギする凍咲君を観察したかった。


 だがしかし、休み時間やお昼時間を使って凍咲君だけではなく、仲の良いチームメイト二人とも交友を結ぶ事が出来た。

 凍咲君をストーキングする過程で、外見と名前は知っていたが、人となりは実際に交流しないと分からない、凍咲君を骨抜きにするには周囲の人間関係も重要だ。


 まずは一人目、幼馴染み属性で銀髪のロングヘアーが眩しい白神ヒカリちゃん。弱気で大人しい雰囲気と物腰だが、常に凍咲君にチラチラと目線を送っている恋する乙女だ。

 実にいじらしくて可愛らしい、そんな女の子の前で凍咲君を骨抜きにするのは心が痛むが……僕の夢のためには仕方がない。事が終われば多分僕は転校している。それまで我慢してくれ、多分傷心の凍咲君を慰めれば上手く行く。

 あと、この子は白神ヒカリと言う名前からしてヒカル君の親戚だろう、家が和菓子屋だと言っていたからビンゴだ。

 その話題を振りたいが今の僕はマモコだ。カイテンスピナーズのリーダーではない、自分からバレてしまう様な話は出来ない。実に残念だ。


 さらにもう一人の幼馴染みで、金髪褐色の氷見ヒムロ君。見た目も名前もホストみたいだけど、かなりの気配り上手で盛り上げ役でムードメーカーだ……うん、そこもホストっぽいね。でも良い子だよ? 

 放課後に舞車町を3人で案内するって僕に提案してくれたナイスガイでもある。僕はもちろん了承した。凍咲君と交流を深めるまたとない機会を提案してくれたのはありがとうとしか言いようがない。


 そして転校初日の授業は終わり、いよいよ放課後がやって来た。


 結局殺気を感じたのは朝の一度きりで、それ以降は特に変わった出来事は無かった。

 割と注意深く気配を探ったけど、殺気の主は見当たらない……クラスメイトにいると思ったのは勘違いか? やっぱりEE団の幹部辺りが学校を監視していたのかな?


「よし、授業お終い! さっそく田中に町を案内しようぜ! トウヤ! ヒカリ!」


 おっ? 氷見君、いい子だねえ……凍咲君と白神ちゃんははどちらかと言うと物静かな方なので、グイグイと引っ張ってくれる君の存在はありがたい。


 僕もミステリアスクールを目指しているからあんまりはしゃげない、ガツガツし過ぎるとイメージを損なってしまう。

 自分からは言い出せないシャイな乙女の僕をアシストしてくれてありがとう。


「フフッ、よろしくね凍咲君、白神さん、氷見君。舞車町には越してきたばかりだから色々と案内してくれると嬉しいわ」


 ごめん、嘘です。ソウルメイクアップをしてない田中マモルの姿で少しは町をウロチョロしていました。

 でも、ソウルメイクアップとソウルランナーの修業が忙しく、本格的には散策していないから嬉しいのは嘘じゃない。

 新しい町に着いたら、色々とオススメの場所を教えて貰うのは毎年恒例の楽しみの一つだ。


「そうだな、田中さんはソウルランナーやるだろ? 案内するならオフィシャルショップの場所とか……掘り出し物のパーツが売ってるオッチャンの店かな?」


「おっ!? 田中もやっぱりソウルランナーやるのか! 雰囲気あるもんな! でもなんで田中がソウルランナーやるのを知ってるんだ? 昨日知り合ったって言ってたよな?」


「えっ!? そ、それは……」


 慌てているなあ、凍咲君? 正直に話せば芋づる式に自分の無謀な潜入がバレちまうもんな。


「じつは昨日の夜、空き地でソウルランナーの練習をしている凍咲君を見つけたのよ。ランナー友達が欲しくて私が声をかけた……そうよね? 凍咲君?」


 凍咲君に意味深な視線を送り微笑む。


「そ、そう! そうなんだ! 昨日の夜こっそり自主練してたら田中が話しかけて来てさ、まさか転校生だと思わなかったからびっくりしたんだよ!」


 クックック……秘密の共有は人間関係には最高のスパイスだね。ほんのりと背徳的な気分にさせてくれるよ。


「なるほど、だから朝のホームルームであんなに驚いていたのか。しかしトウヤ……練習するなら俺も誘えよ。水臭いぞ?」


「いや、練習って言っても本格的な物じゃないからさ……ちょっと素振りして動きを確認する程度だよ」


 フフッ、分かるぞ凍咲君、二人に追い付きたいんだよな? コソ練していつの間にか強くなりたいんだよな?


 大丈夫、僕が君を強くしてあげるぞ♡ 


 ソウルメイクアップによって新たな力を手に入れた僕なら君の才能を引き出してあげられる。もうちょっとだけ辛抱しなさい。


「あっ、田中さんは甘いモノ好きかな? さっきも言ったけど私のお家は和菓子屋さんなの、白神庵の本店だから結構有名なんだよ? ご馳走するから遊びに来てね」


 おお、白神庵と言えばやっぱりヒカル君の家と一緒だ。親族確定だね、お饅頭でもご馳走になろうかな? 

 ユピテル君が言ってた和菓子屋もきっと白神庵の事だろう、今日はEE団のアジト探しに行ってるから……お土産でも買ってやるか。


「あら、そうなの? 私も家族も和菓子が大好物なの、ぜひお店に寄らせてもらうわ」


「よーし、決まり! じゃあまずはパーツショップに寄ってから……」


「ねえ、ちょっといい?」


 突然僕達の会話に入って来た女の子……えーと、確かクラスメイトの……何さんだっけ? 悪いけど転校初日には覚えきれない、取り敢えずAさんと呼ぼう。


「鈴木さん? どうしたの?」


 あっ、鈴木さんね。


「さっきトウカ様から伝言を預かったの。クリスタルハーシェルのメンバーは生徒会室に全員集合だって、なるべく早く来てくれって言ってたわ」


 む? 全員集合だと?


 それじゃあ今日の案内はキャンセルじゃねえか……クソが! 


 あっ! ダメダメ、汚い言葉を使っちゃだめだから……この、お排泄物が!


「全員集合? なんか緊急の案件でもあるのか?」


「なんでも昨日の夜にEE団のアジトが一つ襲撃されて壊滅したらしいの。誰がやったのかは不明だけど、アジト内の設備が徹底的に破壊されていたらしいわ。襲撃者はかなり危険な人物みたいね。その対策について話したいそうよ」


 へーそんな酷い事する奴がいるんだ? こわ~い♡


 こらこら凍咲君、僕を見つめるんじゃありません。僕が魅力的なのは分かるけど今は我慢しなさい。


「マジかよ! えーと、田中、悪いけど……」


 申し訳無さそうに僕の方を見て来る氷見君と白神ちゃん、何か言いたげな凍咲君。

 まあ仕方ないよね、謎の美少女襲撃者が悪い。君たちが気にする事ではない、僕は心が広いから許してあげよう。


「チームの用事なら仕方ないわね、案内はまた明日にでもお願い」


「悪いな田中……明日は絶対に案内するから待っててくれ!」

「ごめんね、田中さん」

「えーと、田中さん……ごめんな?」


 謝りながら教室を出ていく3人、仕方ない、仕方ないけど、がーんだな……出鼻を挫かれた。


「田中さん、町の案内は明日ヒカリ達にお願いするとして、この後よければ私が学校の案内をしようか? ランナーバトルをしてもいい場所とか知っておいた方が便利でしょう?」


「そうね、お願いしてもいいかしら?」


 優しいな鈴木Aさん、せっかくだから好意に甘えるとしよう。


「ええ、任せて。それじゃあ私に付いて来てちょうだい」




 鈴木Aさんの後を歩き、校舎の階段を登っていく。


 5階分を一気に登るのは疲れるな、しかし何処へ行くんだ? ランナーバトルが許可されている広い場所って……最上階だからもしかして屋上?


 そして、予想通りに屋上へと続く扉の前に辿り着く。小学校の屋上って開放されてんのか?


「屋上の使用許可は貰っているから……先に入ってちょうだい」


 なんか不穏な気配……これは、やってくれましたねえ。


 でも、この鈴木Aさんが今朝の殺気の主とは思えない。見立てではこの子は恐らくBランク中位程度のランナー、僕の目を欺ける程の実力じゃない。

 

 扉の先にそこそこ強いソウルの持ち主が4人程いるな。僕はまんまと罠に誘き出されたようだ。

 でも、理由が分からないぞ? EE団への襲撃では基本的にはステルスアタックで戦闘員の意識を奪って念入りに映像データは潰し、警察への通報も匿名だから僕がやったとバレる要素はないはずだけどな?


 まあいいか、強いとは言っても平戦闘員などと比べればの話だ。

 ソウルの扱いが未熟な格下なら気配で大体の強さは分かる。新たなる力に目覚め、4つのソウルギアを使いこなす超絶天才の僕の敵ではない。


 フヒッ、僕は格下には強いぞ! 唯一の弱点は火力不足だが……それはラスボス級の防御力を想定した場合だ。一般ランナーのソウル体などプラチナ・ムーンで紙切れの様に貫いてくれるわ! 


 なんならピース・ムーンで撃ち抜いてやってもいいし、シルバー・ムーンで跪かせてやるのも楽しい、トワイライト・ムーンの糸で切り刻むのも悪くない、

 4つのソウルギアは常に装備してある。フフッ、頼りになる僕の愛機達よ……最近暴れたりねぇかい? 許可しちゃおっかな?


 屋上への扉を開けて歩みを進める。ソウルバトル場となっていた屋上には4人の女の子が立っていた。


 この子達は凍咲君をストーキングしていた時に見たことがある。凍咲君達と同じクリスタルハーシェルのメンバーでウラヌスガーディアンズだ。

 言わば天王トウカ四天王と言った所かな? 確か4人とも6年生だったはずだ。


 ふむふむ、メンバーは全員集合と言っていたから天王トウカの差し金か、もしくはこの四天王達の独断……どっちだ? 目的はなんだ?


 後ろでガチャリと鍵のかかる音がした。鈴木Aさんが扉の前に立っている。逃しはしないってか?


「よくやった鈴木、上手く連れて来たようだな」


「は、はい……」


 4人の中の一人、水色の髪をした女の子が一歩前に出る。この子が四天王の代表かな?


「フフッ、それで? 私に何か用かしら? もしかして貴女達が学校の案内をしてくれるの?」


「ふん、気味の悪い女め……おい! 貴様はなぜトウヤに近付いた!」


 うっ、もしかして僕の狙いがバレてる?


「なぜ? それはもちろん凍咲君が魅力的だからよ? 彼の中にとても力強いソウルが眠っている。私はそれが花咲く所が見たいの」


 フワッとした返事で誤魔化す。まさか月のソウルが狙いって事まではバレようがないよな? 誰にも言ってないし……傍目からでは知りようがないしな。


「やはりそうか! だが諦めろ!」


 くっ、だが凍咲君のチームメイトに睨まれたら今後の計画が……


「トウヤにはヒカリがいる! ちょっかいを出すな!」

「そうよ! ヒカリが可哀想だと思わないの!?」

「あの子達の間にアンタが入る隙間なんてないのよ!」

「アナタ自分が可愛いと勘違いしてるでしょ! このブス!」


「はぇ?」


 ぼ、僕がブスだと!? いや違う! これは、この呼び出しはもしかして……


「トウヤが優しいからって勘違いするなよ!」

「そうよ! 空気読めないわね! トウヤが可哀想よ!」

「本当にサイテー、性格悪すぎ、気持ちわるー」

「何よその格好、可愛いと思って着てるの? ダッサ!」


「ぐっ、ぐぬぬ……」


 これ悪の組織とか関係ないやつだ! 女子が目立っている女を集団で〆る奴だ! 転校初日からコレかよ!?


 く、くそガキ共が……だ、ダサい? 嘘だろ? ゴシックドレスは似合ってる……よな?


「トウヤは迷惑しているぞ! 申し訳無いと思わないのか!?」

「そうよ! 謝りなさいよ! ヒカリとトウヤに謝りなさい!」

「アンタ恥ずかしいと思わないの? 謝りなさい!」

「ほら! この場で謝りなさい! 早くしなさいよ!」


「う、うぅ……」


 め、メンタル攻撃は想定していなかった。容姿を否定されるのは普通に悲しい……ううっ、泣きそう……


「どうした!? 黙ってないでなんとか言ってみろ!」


 こ、このガキ共が……舐めやがって………僕がブスだと? ダサいだと? 謝れだと?


 馬鹿め! この僕がその程度の罵倒に負けてたまるか! 僕は父さんと母さんの子だ! 田中マモコだ!


「フフッ、騒がしい人達……何をそんなに焦っているの?」


「ハァ!? アンタ何を言って……」


「私はカワイイ!!」


「は、はあ!?」


「私は最高にカワイイ!!」


「アンタ頭おかしいんじゃ……」


「私は最強にカワイイ!!」


「あ、アナタは……」


「私は最強で最高にカワイイ!!」


「………………」


 ふぅ……私の勝ちね、お排泄物共が私のカワイイにびびってやがりますわ。




 そして妙な空気の流れる屋上、黙って睨み合う僕とイジワル四天王達。


 口喧嘩では僕の勝ちだが……来るか?


「くっ、田中マモコ! ソウルランナーを構えろ! 言葉で言っても分からないなら実力で分からせてやる!」


「フフッ、よくってよ?」


 ソウル体へと変化する四天王達、四人がかりで潰すつもりか? 4人なら確実に勝てると思ってるな? アホ共がぁ!! 甘いわ! 甘すぎるぞぉ!?


「行くぞ! サテライト……」

《b》「疾走れ!! プラチナ・ムーン!!」《/b》


 屋上に無数の光の線が走る。目にも留まらぬ高速の白金が四天王達の機体を起動すら許さずに一瞬で戦闘不能へと追い込む。


「きゃあ!?」

「えっ?」

「はあ!?」

「何が!?」

「そ、そんな……速すぎる……」


 ソウル体が一瞬で破壊されて驚きの声をあげる四天王達、後ろの鈴木Aさんも呆然としている……戦意喪失かな?


 くくっ、ソウルランナーが壊れないように加減はしてやった。優しい僕に感謝するといい。


「フフッ、これで実力の違いが理解出来た?」


「ば、馬鹿な……私達ウラヌスガーディアンズが一瞬で……」

「み、見えなかった…光しか……」

「私達は……Aクラス1位なのに……」

「無名でこんなに強いランナーが居るはずが……」


 フヒッ、さっきまでの威勢はどうした? 随分と元気が無くなっちまったなぁ!? 悔しいか!? 悔しいよなあ?


 はぁ〜格下を一瞬で屠るのは相変わらず最高だね。めちゃめちゃ気持ちいい。


 その悔しそうな顔がたまりませんなあ? 己の無力を思い知ったか? ん? んん!? 持たざる者の嘆きをもっと聞かせくれたまえ。


「ちっ、情けねえ奴等だ。四人がかりでその様かよ」


 この声、男の子の声だ。もう一人屋上にいる? 僕が察知出来ない程の手練か……あっ、上だ。階段室の屋根の上に誰かが立っている。


「情けねえよ、オレまで恥ずかしくなってくるぜ」


 ふ、不良だ……小学生の癖にグラサンかけて、肩が破けたGジャンに革パンの阿呆だ。そのトゲトゲした腕輪はどこで買うんだ? 恥ずかしくないの?


  コテコテの不良ルックの少年、いったい何者だ? 僕に気取らせなかったから強い事には間違いないだろうけど……なんだかなあ…… 


「レイキ、見ていたのか? そうだ! お前ならこの女に……」


 レイキ? ああ! クリスタルハーシェルのNo.2の冷泉レイキだ! 名前は知ってたけど初めて見る。凍咲君をストーキングして唯一姿を拝めなかったチームメイトだ。


「へぇ、次はアナタが相手? 仲間の敵討ちね」


「はっ、勘違いすんなよ、俺はそんなシャバい真似はしねえ。オイ、お前らはウラヌスガーディアンズ失格だよ」


「な、なにを……」


 あっ? コイツ!? 殺る気だぞ!?


「潰せ!! サテライト・ジュリエット!!」

「逆巻け!! シルバー・ムーン!!」


 四天王達のソウルランナーを破壊しようとする不良少年の青い機体、それをシルバー・ムーンの逆回転の力場で弾く。

 僕のソウルスピナーであるシルバー・ムーンの能力は引き寄せる力の引力、それを逆回転すれば引き離す力の斥力を作り出す事が出来るのを最近発見した。防御には非常に役立つ。


「……おい、テメェ、意味がわからねえぞ? なんでお前がコイツラを庇う? 人様の惚れた腫れたにケチを付けるこの馬鹿共を守る筋合いはお前にねえだろ。むしろ喜ぶべきじゃねえのか?」


 いやまあ、そうだけどさあ? このくそガキ共には腹立つし、人をブサイク呼ばわりしたのは許せないけど……


「ソウルギアに罪は無いわ、私はソウルギアが破壊されるのを見過ごしたりはしない」


 壊すのはやり過ぎだよね。クソガキでも雑魚戦闘員でも、ソウルギアは意外と操者の事を慕っている。ソウルギアの声が聞こえる僕はその事を知っている。どんな操者とソウルギアの間にもキズナは有り、ソウルギアのコアには確かに意思があるのだ。

 

 コアが砕かれたソウルギアの意思がどうなるか僕は知らない。

 けれど、それが彼らにとっての死の可能性があるなら許容出来ない。


 死ぬのは怖い、本当に恐ろしくて孤独で冷たい体験だ。僕はそれを知っているから不老不死を目指している。

 だから、家族や友達が、知らない赤の他人が、悪の組織の雑魚共でも、例え人ではなくとも意思ある者全てが、僕の目の前で死に行くのを許容したりはしない。


 僕は全ての死を忌避する。自分の物でなくともそれは変わらない。


 一番大事なのは自分だけどね! 二択なら自分の安全を優先します! 助けるのは余裕がある時限定だよ!


「へっ、おもしれー女だ。いいぜ、お前に免じてこの場は見逃してやるよ」


 そう言って屋上から飛び降りる不良少年。


 えぇ!? 普通に階段使えよ!?

 

 飛び降りんなよ……ソウルギア使いの身体能力が高いとはいえ、肝の冷える行動はやめてくれ。びっくりするだろ?


 あっ……おもしれー女って言われちゃった! 言われてみたいセリフベスト5が転校初日に実現したぜ! ベスト10をコンプリート出来るかな?


「な、なぜ私達を助けた!? 田中マモコ!」


 ん? 言わせんな恥ずかしい。


「フフッ、学校を案内してくれたお礼よ」


「なっ、お前は……」


 さて、田中マモコはクールに去るぜ。




 放課後の廊下を一人で歩く。もういい時間だな、オレンジの夕日が目に染みるぜ。


 転校初日は成功と失敗半々って所かな? 思ったより女の子って難しいな……僕が可愛いすぎるから嫉妬が酷かった、ヤレヤレだぜ。


「あっ、田中さん。まだ学校にいたの? 鈴木さんの案内はどうだった?」


「白神さん……そうね、なかなか興味深い案内だったわ」


 白神ヒカリちゃんが優しい笑顔で僕の方へ小走りでやって来る。さっき女の子の醜い所を見せられたからほっこりするなあ。


「興味深い? えーと、面白かったって事かな?」


 まあね、僕はおもしれー女ですし。


「そんなところね、ところで凍咲君と氷見君は一緒ではないの?」


 ストーキングしてる時は大体一緒に登下校してたんだけどな?


「うん、二人はトウカ様にお使いを頼まれたから先に帰ったよ。田中さんは今から帰るところかな? 良かったら途中まで一緒に帰らない?」


 うんうん、今日は優しい女の子と仲良く帰ろう。白神ちゃんの笑顔で癒やしてもらおう。


「ええ、一緒に帰りましょう」


「やった! あっ、そういえば生徒会室にタブレット忘れちゃった。ごめん田中さん、すぐそこだから付き合って貰ってもいいかな?」


 おっ、ドジっ子属性持ちかよ。いいね、トウヤ君は幸せ者だな、なかなかレアな幼馴染みだぞ? 大事にしなさい。


「もちろん、行きましょう」


 白神ちゃんと一緒に生徒会室へと向かう、そういえば小学校なのに生徒会? 

 まあ、この世界では普通なのかもしれん。もしかして教師よりも権力あったりして……ありがちだよね。


 生徒会室は本当にすぐそこにあった。教室の様な引き戸ではなく重厚な木製のドアは無駄に贅沢な作りだ。


「ここだよ田中さん。失礼しまーす」


 失礼する割にはノックもせずに部屋に入る白神ちゃん、あれ?


「ん、失礼……します?」


 生徒会室に誰か居るのか? いや、生徒会室に居るならその人は……


 部屋に入ると、生徒会室には予想通りの人が居た。


「やはり……天王トウカ!」


 生徒会室の中央で腕を組んで堂々と立つ長い青髪の女の子、クリスタルハーシェルのリーダーにして生徒会長の天王トウカだ。


 凍咲君をストーキングしていた時に遠目で確認した事があるから間違い無い。この舞車町のジュニアランナー達を取り纏めており、AランクトップチームのNo.1に立つランナーだ。

 つまり国内ジュニアランナー達の頂点に立つ女の子、天王家史上最高傑作とも噂されていた天才児。


 僕も遠くから一目見ただけで恐るべき実力が分かった。彼女が凍咲君の近くに居る時は気取られる危険性があるため、僕もユピテル君も近距離でのストーキングを諦めた。

 現に今も、生徒会室のドアを開いて中に入るまでソウルを感じ取れなかった。その事実が実力の高さを証明している。


 僕もソウルランナーのみで戦うなら勝てないかもしれない。なんでもありなら負けるつもりはないが、純粋なランナーとしての腕前は経験の分だけ彼女の方が上だろう。


 そんな彼女の横で白神ちゃんは静かに微笑んでいる……忘れ物は嘘か! くそ! また騙された! 


 女の子怖い……ホイホイ付いて行くと罠が待っている。もう誰も信じられない。


「ああ、私が――」

「トウカ様? 私が田中さんと喋るから黙っててくれます?」


 ん、んん!?


 何故か白神ちゃんの命令に大人しく従い黙る天王トウカ、白神ちゃんはまるで部屋の主の様に振る舞う。


「田中さん、そこのソファに座って? 色々とお話する事があるでしょう?」


「え、ええ、そうね」


 何だ? よく分からないけど……取り敢えず話を聞くか?


 促されるままにソファに座る。ふかふかの感触が何故か頼りなくて恐ろしく感じる。


「じゃあトウカ様、椅子をお願い」


「ああ、任せてくれ」


 そう言うと天王トウカは、僕からテーブル挟んだ対面の床によつん這いになった。その姿は体育の時間の組体操を連想させる。


「へっ?」


「よいしょっと。うん、それじゃあお話しよっか田中さん?」


 よつん這いになった天王トウカの背に、自然な動きで腰を下ろす白神ちゃん。あまりにも自然な流れで突っ込む隙もなかった。


 な、何なのだこれは……僕は何を見せられているんだ?


「あ、あの……天王さんは何をしているの?」


「何って椅子だよ? そうだよね? トウカ様」


「ああ、椅子だ」


 いや、椅子だ、じゃねーよ?


「な、何で天王さんは椅子をしているの? 何の意味が……」


「意味? 改めて問われると完全な言語化は難しいが……強いて言うなら気持ち良いからだな。妹の様に思っている年下の女の子に家具扱いされる。そこには背筋がゾクゾクする様な得も言われぬ感覚が……」


「悪い子だなあ、トウカ様。黙ってろって言ったよね?」


 ペシン、と高い音が生徒会室に響く。白神ちゃんが左手で天王トウカのお尻を勢い良く叩いた音だ。よつん這いの椅子がビクンと震えた。


「ひんっ!? あ、ありがとうございますぅ……」


 こ、怖い、女の子怖いよぉ、こいつら何なんだよぉ?


 これがクリスタルハーシェルの真の姿? 恐るべきチームだ……



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